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11.エピローグ

 突然聞こえてきた声の主を探す為に、僕は首から上を動かした。するとベッドのそばで嬉しそうに小躍りしている人物の姿があった。

 その人物はベッドの白いシーツよりも明るい、けれども温かみのある白地に金色の装飾が施されたローブを身に(まと)っていた。顔はフードを目深(まぶか)(かぶ)っている為見えない。

 そこまで確認した直後、雷に打たれたような衝撃と共に先日見たおかしな夢の記憶が全て(よみがえ)った。


「なんであんたがここに!?」

「『なんで』ってそれはもちろん君が最終試験に合格したお祝いをする為に決まってるじゃないか~」


 ローブの男──神は嬉しそうな声色でそう答えた。まるで自分のことのように喜んでくれているが、神が僕の合格祝いのためだけに姿を現したとは思えない。何か他にも目的があるんじゃないかと僕は神を見る。

 神は僕の視線に気づくとこほんと軽く咳払いをした。


「も~。合格の喜びを一緒に分かち合ったっていいと思うのに、君は冷めてるなぁ~」

「僕がこういう性格だというのはあんたも知ってるだろう?」

「まぁね。それじゃ、君が知りたがっているボクがここに来たもう1つの目的を話そうか」


 そう言うと神は少し前までマクディス先生が座っていたベッドのそばにある椅子へ腰かけた。


「ボクが再び君の前に現れたのはね、君の合格祝いがてら君が疑問に思ったことに対して答えてあげようと思ったからなんだ」

「疑問?」

「君は記憶が全て戻っていない時に、先生から自分の学年の評価が“例年より平均レベルが高い”ということを聞いて疑問を抱いただろう?」

「ああ。……そうだ!」


 記憶が戻る前、先生からその話を聞いた時は理由も分からず疑問に思っていたが、記憶が戻った今は何故疑問に思ったのかを理解した。

 

「僕の能力は全て平均だから成績も学年の平均レベルのところになるというのは分かる。だがそもそも僕らの学年の評価が“例年より平均レベルが高い”となると、平均であるはずの僕の成績も必然的に高いということになってしまう。そしたら僕の能力は平均ではないということになるんじゃないか?」

「確かにそう疑問に思っちゃうよね。それを説明するにはまずは“君が持つ平均の能力”について説明しよう。

 君が持つ平均の能力というのは、上は歴史に名前を残すような偉人も含めての平均なんだよ。まぁ、その偉人の能力というのは普通の人からしたら桁外れ、規格外みたいなものだからさ、必然的に平均というものが普通の人からしたら高く感じるくらいがこの世界の平均となる訳なんだ」

「つまりそれが僕が持つ平均の能力ということか。だとしたら僕らの学年の平均レベルが高いのはどういうことなんだ? たまたま上下の差がそれほど開いていなかったから平均自体が高くなったということなのか?」

「まぁ、それも少しあるけど1番の要因は、君の学年に能力が突出して高い子が数人いたからだね」

「……それはもしかしてレグナート達のことか?」

「そうそう! 彼らは偉人レベルに匹敵するほどの素質を持っているからね。今はまだ発展途上だけど、それでも同年代と比べれば能力は突出しているからさ。能力を極めていけば歴史に名を残すかもしれない。……あっ、ボクがそんなことを言っていたって本人達に言っちゃダメだよ」


 神は慌てて口止めをしてきた。もちろん言うつもりはないから(うなず)いて答えた。

 まぁ、もし仮に僕の口から神がそんなことを言っていたなんて本人達に教えたとしても、信じてもらえる可能は限りなく低いと思うが。

 神のお陰で疑問は解決したが、それによって新たな疑問が浮かんできた。


「なぁ、さっき僕の能力は普通の人からしたら少し上になるということだが、それは全ての能力に当てはまるのか?」

「うん、そうだよ」


 神は今さらそれがどうしたの? と言わんばかりにキョトンとした顔で僕を見た。


「だとしたらそれってかなり一個人に対して優遇し過ぎになるんじゃないか?」


 全ての能力が普通の人からしたら少し上のレベルだということは、(おと)ったものがないということだ。それはつまり何でも普通以上にできてしまうことになる。


「確かに優遇し過ぎって思っちゃうよね。でもね、全ての能力が普通の人より少し上のレベルで使えるといっても万能ではないんだよ。

 あくまで能力は『平均』であって、何かに特化したスキルを持つ相手に同じスキルで勝負を挑んでも勝つことは限りなく0に近い。つまり何か1つに(ひい)でることができないということなんだ。……でもね、だからこそ“今”の君にはたくさんの選択肢が、いろんな可能性があるんだ」

「たくさんの選択肢、可能性……」

「平均という制限があるけど、君は様々な能力を持っているわけだ。その能力の使い方次第で君の未来はいかようにでも変わる」

「能力の使い方次第、か」

「そう、だから君は1つの物事に集中するのではなく広い視野を持つことが大切だね。……君がどのような未来に進むのか、見守っているよ」


 そう言うと神はゆっくりと立ち上がった。


「もう行くのか?」

「うん、目的を果たせたからね。そろそろ仕事に戻らせてもらうよ」

「仕事? ……そうだ! 最後に1つ聞きたいことがあるんだ」

「聞きたいこと? なんだい?」


 神は不思議そうに少し首を傾げながら僕を見た。


「ここに来たのは僕の合格祝いと説明の為と言っていたが、2度も会うなんて一個人に対してやはり過干渉なんじゃないか?」

「う~ん、一応ギリギリセーフのラインだから大丈夫なんだよねー。でもまぁ、君になら話しても大丈夫かな」


 そう言うと神は再び椅子に腰かけた。


「まずボクが1回目の時に『乗り越えることが難しい壁』があると言ったのを覚えてるかな?」

「ああ。それはもしかして誘拐未遂事件のことか?」

「そう、そのことなんだ。実はね、今回のように無事に切り抜けることができる可能性と、その事件によって君は仲間を失い、自分の無力さに絶望して自ら命を絶つ道を選んでしまう可能性があったんだ」

「なっ……! だから何か1つ秀でたものを持っていた方がいいと勧めてきたのか」

「そう。でも君は変わらないことを選んだ。その時はとても焦ったよ。悲しい未来が現実になってしまうんじゃないかと思ってね」

「それなら本人の意思に関係なく力を与えてしまえば良かったんじゃないのか?」

「もちろん、そうしたい気持ちは山々だったよ! でもね、神は本人の意思を尊重しないといけない決まりがあるんだ。そうしないとこの世界を生きる者達は皆、神の(あやつ)る操り人形になってしまうからね。そんな世界なんて間違っている。だからボクは君が無事に切り抜けることができるよう見守ることしかできなかったんだ」

「そうなのか。心配をかけてしまってすまなかった」

「いやいや、謝らなくていんだよ。こうして君が絶望せずに生きていてくれることが本当に嬉しいんだから」


 そう言うと神はローブの袖で目元の辺りを(ぬぐ)った。


「さて、2回目に姿を現した理由だけども、合格祝いと説明の為と言ったけど、実は君が本当に絶望を抱いていないか確認するためでもあったんだ。少し話が長くなるけどいいかい?」

「ああ、だが仕事の方は大丈夫なのか?」

「まぁ、今回ほどの重要な案件はしばらくないから大丈夫だよ。それに、ボクだってたまには『神』以外の誰かとこうしてお(しゃべ)りもしたいしさ」

「えっ、神以外にも『神』がいるのか?」

「もちろんいるよ! 君達のいる世界以外にもたくさんの世界があってね、1つの世界に『神』が1人ついているんだ。おっと、話が逸れてしまったから戻すよ。

 他者に命を奪われた魂というのは自分だけの世界に閉じこもりやすい傾向があって、自分で自分を苦しめてしまいやすく、自ら命を断ってしまう者が多いんだ。

 前に“魂の仕分け”のことを話したよね? その仕分けの決まりで自ら命を絶った魂はすぐに転生させてはいけない決まりがあるんだ」

「そうなのか。だが、どうしてすぐに転生させてはダメなんだ?」

「それはね、自ら命を絶った魂というのは深い絶望に染まっているから、そのまま転生させてしまうとすぐにまた自ら命を絶ってしまいやすいんだ。だからとてつもなく長い年月をかけて絶望を取り除いてからでないと転生させれないんだよ」

「なるほど。だからそういう者を減らすために神が直接干渉してくることがあるというわけか」

「うん、そうなんだ。そうしないと自ら命を絶つ者が増えていった場合、この世界で生きる人という種がなくなり文明が滅びて世界の死が訪れてしまう可能性があるからね。

 ……だけどそれを防ぐために動いても、全ての者を救うことはできない。本人の意思を無視して手を加えてしまうことはできないから」

「それは、すごく(つら)いな……」


 神は今までに何百、何千人、いやもっとたくさんのそんな魂を見てきたのだろう。悲しい未来を変えれるだけの力を持っていても、本人の意思を尊重しないといけない決まりがあるために、ただ見守ることしかできないのはとても歯がゆく(つら)いことだと思う。

 神から2度も人としての新たな人生をもらい願いを聞いてもらっている僕がこんなことを思うのはおこがましいかもしれないが、何か力になれることはないだろうか……。全ての能力が平均レベルという僕でもできることは……。

 何かできることはないか考えていると、ふとヴェルクが僕に「先生になった方がいいんじゃないか?」と言ってくれたことを思い出した。そうだ、これならもしかしたら──!


「おこがましいし必ず果たすと約束できることではないんだが、僕が教師になれた少しでも神の力になれるよう頑張るよ。生徒が何かにつまずいてしまった時、それをきっかけに絶望に染まり始めないよう、この全ての能力の平均を持っている特性を活かしてサポートし、希望に導いていきたいと思う」

「アレイス君……! おこがましいだなんてとんでもない。そんな風に言ってくれるなんてとても嬉しいし心強いよ!」


 そう言うと神は再びローブの袖で目元の辺りを押さえた。


「ぐすっ。こんな風に言ってくれるのは君が初めてだよ。でもね、教師という道は相手を思うあまりに自分を犠牲にしてしまって悲しい結末を迎えてしまう人もいたりするんだ。だからくれぐれも無理はしないでくれよ」

「分かった。神も無理はしないでくれよ。神がこうして見守ってくれているからこそ今のこの世界があるんだから」

「うん、ありがとう。それじゃ、今度こそお別れだ。──君の未来に光あれ!」


 神はそう言うと白く輝きだし、やがて光の粒子となって消えた。僕は神がいなくなった空間を見つめながらふと、前世の僕が何故『平均的な能力』を願ったのかについて1つの考えが浮かんだ。もしかしたら前世の僕は2度の人生経験から自分自身が目立って何かをするよりも、誰かの為に自分の力を使ってサポートしていきたいと思ったからなのかもしれない。

 頭の良かった前世なら平均的な能力というものが、神が言っていた通り偉人を含めての平均だと分かっていたのかもしれない。だからこそ、普通の人の平均よりも上の能力を持っているのでれば少しは余裕をもってサポートに回れると思ったのかもしれない。

 だったら僕はそれを実現できるよう、自分自身が持つ全ての能力をもっていろんな人の力になれるよう頑張ろう。

 僕は改めて教師になる決意を固めた。

読んで下さりありがとうございます!

これにて「アベレージ ~全て平均な少年の3度目の人生~」は完結となります。

最後までお読みいただき本当にありがとうございました!

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