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イラストコンテスト 3


コンビニでマンガ談議しているだけ。

マンガの話をして、笑っているだけ。

好きな話だけをして、嫌いな話は完全にないがしろにして、楽しいことだけを選ぶ日々。

楽しいだけの、日々。

そんなふうに楽しくて楽しくて―――たぶん、一生懸命生きてはいない---日々。


そんな何気ない私の日常は、ビビちゃんのおかげで変化していった。

ビビちゃんの完成が近づくにつれ、当初はまだ何か足りないと思っていたものでも、魅力を増していった。

自分が描いたものに、納得できるかどうかは別として、私は今までにない自分に、なっている実感が沸いた。


学校やコンビニでも、心なしか―――頬が緩む。

少しお馬鹿さんになったよーな気がします。

えっへへー。

表情がゆるゆる。

いつの間にかへらへらとしていて。

学校生活が奇妙に楽しくなっている。

高校一年生の私は、今までの人生で一番なんだか不思議な気持ち。


あったかい。

最近、体温がちょっぴり高くなった気がする。

通学路が、ポカポカする気がする。

あったかい。

日向(ひなた)

なんて言うんだろう、こういうの―――幸せ?

幸せ。

―――そうか、幸せっていうのかあ、これ。

ああ、そうなのか。


ひさしぶりだな。

こういうのを、幸せっていうのかな。

もしそうだとするなら、久しぶりだ。

っていうか、初めて知ったかも。



学校では授業を受けて勉強し、ガチャ子たちとくだらない話をして、主に私の発言が一番くだらなくて、放課後はコンビニでマンガの話をする。

あとは、夜はビビちゃんを可愛くしなければならない。


充実していた。

私の生活が砂糖菓子のように甘い幸福感で埋まっていって、充実するのは、今までに前例がない―――気がする。

なんていうことだ、私の毎日が充実するなど。


「なんだか、怖い」


口に出してから、気が付いた。

私は今、怖さを持っている。

すごく色んなことが―――充実しているけれど、安心はしていない。

心が追い付いていない。

慣れていない。

この状況に慣れていなくて、純粋な嬉しさというよりも、地に足ついていないようなふわふわ感が(まさ)った。


もちろん、今の毎日はとても輝いていて、全然悪くない。

多くの―――絵を描いている人間が、悪くない、いや理想的だと思い描くものに違いあるまい。

けど、こんなので、いいのかな。

これでいいのかな。

これを、なんていうか―――正解って呼べるんだろうか。

そう思う人は、この世界でどれだけいるのだろう。


高いところに、登った気分だった。

《《乗ってみる》》と―――怖いものだ。

乗っている―――ジェットコースターに。

ジェットコースターを得意とするか、苦手とするか。

苦手な人はいるだろう―――私はいま、もしかしたら無骨な金具で組まれたコースの一番高い部分に、ガタンゴトンとゆっくり上昇、空に向かって運ばれている状態なのかもしれなかった。


高い場所に対して恐れを抱くのは、ヒトの持つ正しさ―――というか、性質だと思う。

けれど今は進みたい、上がりたい。

幸せでいる、いるための心。

幸せになる勇気。

不幸に戻らない、気持ち。

不幸は、もういい―――苦労して頑張ることに終始した、あの時間は―――もう、いい。

もうやったし。

何もないって、知ったから。


―――――――――――――――――




「今週はどう?」


「俺ンなかではハズレが多い―――、と、言いたいが」


「言いたいが?」


「いや―――うん、最近わからなくなってな」


またマンガの話を二人でしている。

ただ今日のコンビニおとこの発言に、不穏なものが混じった。

私は、いつもの彼らしくない何かを感じ取った。

もともと、不穏な発言をする男子ではあったけれど―――。

あのな、と彼は前置きして、少し言い方を考えていたようだった。


「コンビニさんが、コンビニさんと話したせいで―――マンガがわからなくなった」


「………コン………えっ、私のせいで?」


「ああいや、別に悪い意味でなくてだな………」


彼はなんとか説明したのは、私の好みと自分の好みが違うという事ということだった。

今までとは違う作品も、食わず嫌いせずならぬ読まず嫌いをせずに読むようになった。


「俺は、つまらないマンガが多いって思うけれど―――でも、あんたの読んでるマンガの事とかを考えると―――」


「………」


私の好み、自分以外の趣味を認めるか。

そういう思考回路になったのなら、随分丸くなったものだ。

批評家染みた男だったが。

彼のマンガに関しての発言は、きつい表現や批判も多かったのだが。


「前にさ―――なんだったか、言っただろう―――俺、言っただろう。ギャグマンガがシリアスをやり始めることに違和感があったって」


「………うん、あったね」


それは、その話は確かにした覚えがある。そんな話をしたのは最初のころだったはずだ。

私と出会った初日。

ねえな、これは―――そう呟いた彼の顔。


「あの時は本当に、そういう展開が苦手だった―――感想だった。本当の気持ちだったんだ。でも今は―――あれがいいと思う」


彼は言葉を選ぶ。


「イヤ、いいというわけではないけれど―――そういうものだと、今は思う。どんな道だろうと―――真面目にやらなきゃあいけないんだよな、ギャグじゃない」


「真面目に」


マジメ、うん、それは。

それは、それは常識というものだ。

私はぎくりとした。

なんということだ。

私は、この男に、そんなことを言ってほしくなかった。

コンビニでは、聞きたくなかった。

常識や、真面目に勉強しろという風潮は、学校と、家―――両親から十分な圧力がかかっている。

六限まで授業をしてから帰ったら言われるのが、ちゃんと勉強をしているの?なのだ。

他のセリフは何かないかな。


コンビニ(ここ)ではそんなことがなかったはずなのに。

毎日―――とは言わないけれど、日々の、ほんの数十分の、大切な、くだらないマンガ談義の時間。

今まさに、そこに亀裂が入る音が聞こえてくる気がした。

私は内心脅えがあったけれど、

コンビニおとこは言葉を続ける。


「ギャグマンガ描いていても、時には、戦わなきゃあならない時があるよな」


「………それは………」


「ずっと笑っているだけっていう訳にも、いかないんだ、だから―――」


だから。


「俺もそろそろ、笑ってばかりもいられないんだよ………」


やらないといけないことは、ある。

彼は言った。

誰かにそう言った。

コンビニの外に向かって―――ガラスに向かって呟いたみたいだったけれど。

誰に向かって言った言葉なんだろう。


コンビニおとこの様子が、いつもと違うように見えた。

何かあるのだろうか。

何かを悩み、思いつめている―――のだろうか。


マンガのことしか考えていないようにすら見えたこの男子にも、なにか悩みはあるのかな―――成績、とか。

教室で起こるなにか。

色々なことを、だとか。


彼は最後まで、私の目を見なかった。

それからはしばらくの間、私はイラストコンテストのことで、神経をさらに張ることになった。

だからコンビニにいる時間は、出来る限り減らし、足が遠のいたのだった。



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