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その49

「巨人は新たに現れた巨人と交戦状態になりました。それにより侵攻は停止しております!」

「続報です! 新たに現れた巨人は神々しい光に包まれており、現場では天使ではないかと言われております!」


「南西部は教会の協力により安定しました! しかし、北東部は戦力が不足しております!」

「待機戦力はどうした?」

「すでに他方に派遣済みです。これ以上は住民に協力を求めるしか……」


 領主さんの館は作戦本部になっているようだ。状況報告や伝令に多数の兵士が出入りしている。

 しかし、領主さんや団長の顔色はあまり良くない。さすがにスライムたちの数が多く、対処がしきれていないようだ。


「失礼します」

 窓から中を覗き込んでいた私は、そのまま忍び込んで声をかける。急に現れた私に驚いた兵士の人たちがざわざわと声を上げた。


「き、貴様は魔法省の! なせ、貴様がここにいる」

 その中で団長さんが私を怒鳴りつけてくる。さて、どうにかこの人を説得しないといけない。


「戦力が不足していると思いまして、応援を連れてきました」

 私は転移でリナさんと数人の獣人を転移させる。それを見た団長さんは机を強く叩きながら大きな声を上げた。


「何が戦力だ! そいつらは獣人でないか!」

「そうですね。何か問題でも?」

 事前に話をしておいたリナさんは、団長さんの声にもひるまずまっすぐに睨み返す。その視線の鋭さにさすがの団長さんも少しひるんだようだ。


「相手が悪魔ならば、獣人だとか人間だとか言っている場合ではないでしょう? 今なら獣人30名があなた達の力になります。獣人が戦力としてどれほどのものか、あなたはよくご存じでは?」

 そう、団長さんは獣人の強さをその身をもって知っているはずだ。それが味方になればどれほど心強いかも分かるはずだ。


「だが! この街を守るのは我らの使命だ! 貴様らなぞに頼らずとも守り通して見せるわ!」

 頭では理解しているだろうに、プライドがそれを邪魔するのか団長さんはなお反対する。積み重ねてきた人生が今さら方向転換をすることを許さないのだろう。


「団長。そこまでにしろ」

「若!?」

 領主さんが立ち上がって団長さんを制する。しかし、団長さんも負けじとその巨体で領主さんに訴えかけた。


「何を言うのですか! このような者たちの力なぞ借りなくても……」

「黙れ! 団長!」

 領主さんが叫ぶように声を上げて団長さんを威圧した。その迫力に周りの兵士たちも思わず姿勢を正している。


「団長! お前が守るべきものはこの街か! プライドか! どっちだ!」

「それは……」

「考えるまでもないだろう? ならば我らはするべきことは一つだ」

 領主さんはそのままリナさんの前に進んで頭を下げた。


「すまなかった。どうか、貴殿の力をお貸しいただけないだろうか」

「そのようなことをする必要はありません。言ったでしょう、悪魔が相手ならば獣人も人間も関係ないと」

 リナさんが領主さんの肩に手を置く。そして、領主さんが顔を上げると、二人は少しの間見つめあった。


「私の名前はカロリーナ。どうぞリナとお呼びください」

「この街の領主のヴィルヘルムだ。よろしく頼む」

 二人は力強く握手をする。今の短い時間できっと二人の想いは通じたのだろう。二人が手を離すと領主さんは団長さんの方にさっと向き直った。


「団長! 私は彼らと共に前線に出る! 指揮は任せたぞ!」

「何と!? 若がそのようなことをする必要は……」


「そうすれば彼らが味方であると、皆が一目で分かるだろう? それに、指揮に関しては私よりお前の方が上なのは間違いない」

「若……分かりました。この場はお任せください」

 少しの不満はあるようだが団長さんも納得したようだ。やれやれ、うまくいって良かった。


「それでは私の転移で皆さんを前線にお送りします。準備はよろしいですか?」

「ああ、頼む」


 私は獣人の皆さんと領主さんを前線に転移させる。転移先にいた兵士さんたちは突然現れた獣人の集団に困惑したようだが、領主さんがいることが分かるとそれもすぐに落ち着いた。


「皆の者! 彼らは我らに力を貸してくれる仲間である! さぁ! 共に悪魔どもを駆逐するぞ!」

 領主さんが剣を掲げて宣言すると、兵士たちも声を上げてそれに答えた。押されぎみで下がっていた士気も大きく上がったようだ。


 さらに、獣人の皆がそれぞれ槍や弓を持ち兵士と共にスライムを撃退してく。これならもう、心配は無いだろう。


「領主さん。すみませんが魔力切れのため下がらせてもらいます。後は頼みますね」

「そうか。……すまない、本当にありがとう」

「後は無事にことが終わってからにしましょう、それでは」

 転移でロイたちの方に向かう。よし、これで後は巨人を撃退するだけだ。


 ◆


 ロイは予定通り、被害が出ないように巨人を街のはずれの方に移動させていた。

 しかし、巨人は街の破壊を主に命令されているのか、ロイそっちのけで建物や人々を狙おうとする。

 被害を減らすためにその攻撃に対処せざるを得ないロイは、街の人々から見ると自分たちの為に苦戦しているように見えただろう。


 私はまず姿を変える。ロイが犬の獣人を模した天使なら、私は普通の人間を模した天使だ。さらに、手には杖を持って魔術師のような雰囲気を出す。

 大きくなった分中身はスカスカになるが、格闘をするわけではないので問題ないだろう。


『ロイ! お待たせ!』

 私は上空から巨人に光の魔法で攻撃を加える。すると、巨人はこちらを向いて魔法陣の妨害を行ってきた。しかし、それはこちらに気がそれたということだ。


『ありがとう! リコ!』

 その隙にロイが巨人に接近してその両足を切り裂いた。バランスを崩したところに両腕を切り裂いて巨人を動けなくする。


 そして、私はロイの近くに移動すると、杖を両腕で持ち魔力を集中させるよう高く掲げ、魔法陣を展開する。さらに、二人の体から発する光をさらに強めた。

 きっと、周りからは大魔法を使うために二人の天使が協力しているように見えるはすだ。


 実際に協力しているのは私とアリスとニーナさんである。巨人は自分の体を修復しながらも魔法陣に介入しようとしているが、それを逆に妨害し返しているのだ。


 魔法の準備は整った。ロイは気合を込めて大きな咆哮をあげる。私も歌うように大きな声を上げて、魔法陣から強力な光を発し巨人にぶつけた。

 光は巨人の体を表面から消滅させていく。威力と対象はしっかりと調整しているので、巨人以外に被害を出すことは無い。


 さらにちょっとした演出の追加だ。巨人の周りに幻覚を発生させて、表面が崩れた巨人の中身は真っ黒だったよう見せる。さすがに真っ白な巨人では悪魔だったと認識しづらいと思ったからだ。


 巨人が消滅するとともに光を消して杖を下ろす。私とロイは背中から大きな翼を出すと空高く飛び上がった。


 街の人々から歓喜の声が聞こえてくる。私たちはそれに応えるように強く光って街の上空を一周し、スライムたちを消滅させてく。

 最後に二人で手をつなぐと、空のかなた、太陽に帰っていくかのように飛び立っていった。



「この街は獣人に助けられ、獣人の天使は人の姿をした天使に助けられた。神はずいぶんとこの街の事情に詳しいようだな」

「まったくね。おかげで私がこの街にいても、ほとんど何も言われないけど」


 あの後、私たちはしれっと街に戻ってけが人の治療などを手伝っていた。特に、スライムに攻撃をされた人は悪魔に感染しないようにしっかりと治療を施してある。

 すでに、初期の感染なら治療できる方法をアリスとニーナさんが編み出していた。


 そして、数日後に領主さんに呼び出されて館までやってきた。表向きは協力に対する御礼という事になっている。

 今、部屋の中には私とロイ、フィオナに領主さん、そしてリナさんしかいない。団長さんは街の復旧に動き回っているそうだ。


 しかし、領主さんとリナさんはばっちり事情を理解しているようだ。まぁ、ここまで露骨なことをやれば、さすがに感づかれるよねぇ。


「……その、君たちはひょっとして本当に天使なのか?」

「んひゃ!? 違います! あれは、その、特殊な魔法です!」

 それでごまかせるものではないと思っているが、二人ともそれ以上は何も聞いてこなかった。


「本当にありがとう。君たちがいなければこの街は終わっていただろう」

 領主さんは深々と頭を下げる。確かにそうかもしれないが、それだけではないだろう。


「とんでもない。この街を守ったのは皆さんと、そこにいるリナさんたちです。私たちはそのお手伝いをしただけですよ」

「ふふ、そうか。天使殿はずいぶんと謙虚なのだな」


 私の言葉に領主さんは、冗談と共に微笑みを返す。ここ数日は忙しくて疲れているだろうに、初めて会ったときよりも気力が満ちているように見えた。


「しかし、礼は尽くさねばならない。何かお礼をしたいのだが……」

「いいですよ、この街の復旧にもお金が必要でしょう? 私は魔法省の仕事をしただけですから」


「そうか……すまないが助かる。確かにけが人の保証や、街の修復にかなりかかりそうでな」

「あ、それでした良いお話が」

 フィオナが手を叩いて領主さんに話し始める。


「教会で義援金を集めましょう。それから、無利子でお金をお貸しできますよ」

「ふむ、ありがたいが、無利子でよいのか?」


「こんな状況ですからね、人道的な援助も兼ねているとすれば問題ありません。もちろん、条件はありますが」

「条件?」


「そうですね、今度の財政状況が良くなるような口出しでしょうか。たとえば、兵士の早期退職を奨励してもらうとか」

「……はっはっは! なるほど! そうきたか!」

 領主さんは声を上げて笑い出す。ああ、私にもフィオナの意図が読めてきた。


「それから、一部兵力の外部委託も行っていただきましょうか。ちょうど、近隣に優秀な方々がいるようですし」

 そこでフィオナはリナさんの方を見る。ふむふむ、確かに獣人ならば人間よりも少ない人数でも兵力を維持することが可能だろう。


「そうだな。彼らの強さは今回の件で多くの兵士が目の当たりにした。それを敵ではなく味方にできるならば、反発が少ないかもしれん」


「それからリナさん。兵士だけではなく知識が欲しい方も一緒に連れてくるのはいかがですか? 牧畜の技術などもこの街にあると思いますよ?」

「なるほど、それは素晴らしい考えね」

 なんだがトントン拍子に話が進んで行く。もちろん、フィオナの提案に問題が無い訳でない。


 退職させた兵士の雇用先はどうするのか、獣人がこの街になじめるのか、リナさんの村の人たちはどうやって説得するか、それらが解決できたとしても時間はかかるだろう。


 しかし、話を進めている領主さんとリナさんの明るい顔を見れば、この街で人間と獣人が寄り添って生きる。そんな日が来るのはそう遠くない気がしてきた。


「どうやら、うまくいったみたいだね」

「そうね、後はみんなに任せましょう」

 私もロイはその光景に頬がゆるんでいる。うんうん、頑張ったかいがあるというものだ。


「そう! そして最後はお二人の馴れ初めから結婚までのストーリーを物語にするのです! まずは運命の出会い! しかし種族の違いから、惹かれながらも会うことすらできなない二人! そこに現れるは街を襲う悪魔! 愛のため人のため村を説得し駆けつける乙女! 悪習や偏見に立ち向かう若き領主! その気持ちは神に通じ天使がこの街を救った! これはいけます!」


 あ、フィオナが暴走した。二人も顔を真っ赤にしてうつむいてしまっている。うーん、恋愛要素に戦闘要素、さらに教会も喜ぶような要素も入っているとすれば、意外とヒットするかもしれない。


「いや、それはさすがに……」

「何を言っているのですか! お二人には獣人と人間の新たな架け橋として、頑張ってもらわなければなりません! ご安心ください! 教会には戯曲でもオペラでも専門の者がおりますので、素晴らしい物語にしてみせましょう!」


 へー、教会ってそういうこともやってるんだ。まぁ、神話とかは舞台でやるには格好のネタだし、専門の人がいるのも当たり前か。


「ねぇ、リコ。フィオナって僕の村に来る予定なんだよね」

「そうね、どうしたの? ……あっ」

 そういえば、ロイのお兄さんも物語を作りたいとか言ってたなぁ。


「ふふ。ロイ、あなたの物語も世界中に広まるかもしれないわね」

「うーん、やっぱりそうなるのかなぁ……。なんだか恥ずかしいな」

「いいじゃない、あなたの頑張りがみんなに伝わるんだから。私もどこかに出してもらおうかしら」


 ロイの場合は家族愛がメインの物語になるのだろうか。ふむ、今度こっちからフィオナに相談してみよう。

 とりあえず、もう、この街に私たちがいる必要は無いだろう。魔法省に帰りましょうか。

今回の更新はここまでとなります。

1ヵ月後に書けた分の更新を行いますので、しばらくお待ちください。


また、誤字報告、ブックマーク、評価をいただきありがとうございます。

「面白かった」と思われた方は、下にある評価を押していただくと嬉しいです。

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