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48/61

その48

9/10 誤字を修正しました。

 巨人がこちらに腕を伸ばし、炎や電気、氷の剣を飛ばしてきた。私は同じ能力を使ってそれらを消去しようとする。


「えっ!?」

 無効化できない!? その巨人の方が能力が強いのか、攻撃は少し威力を落としただけで私たちに迫ってきた。


「リコ! フィオナ!」

 ロイは私とフィオナの腰を掴んで横に飛ぶ。何とか避けきると攻撃はそのまま後ろの壁を破壊した。

 巨人の方を見れば指の先端が消滅している。まさか、指を肉が無くなるくらいエネルギーを使って能力を使った?

 

 それならばと、ニーナさんの得意技である黒い球の魔法を発動する。これは、接触したものを消滅させる無の魔法だ。しかし、魔法陣を展開した瞬間、魔力の流れが乱されて魔法陣は霧散してしまった。

「んひゃ!? 何で!?」

 ひょっとして、巨人が魔法陣に干渉してきたのか?


「うんうん、完璧だ。これで検証は十分だね。あ、そいつはもう特異点だから精神操作は無駄だよ。精神操作した後に特異点にするって完璧だよね。さぁ、どうする?」


 巨人の能力に満足したのか、あいつはフードを縦に揺らし頷いている。間違いない、この巨人は私と同じ能力と、特異点としての性質を兼ね備えている。

 さらに、精神支配によって自らの肉体の欠損も気にせず、全力で能力を扱えるのだ。


 それならこっちも出し惜しみは無しだ。

「行くわよ! ロイ!」

「分かった!」

 私はロイの体内に入って同化する。そう、以前ロイの村で行った合体だ。圧縮した肉体も開放すれば二人だけでも三メートルくらいの大きさになれる。


 フィオナを後ろに置いたら巨人に突撃する。

 巨人はまたこちらに手を向けると、様々な能力を放ってきた。だが、ロイはそれを紙一重の動きで避けてさらに前に進む。

 私が能力の威力や方向を探知してロイに伝えているのだ。いくら威力が高くても当たらなければ意味がない。


 そして、ロイの爪が巨人を切り裂く。その爪には私の能力で炎が燃え盛っていおり、巨人の肉が灰になり吹き飛とぶ。

 これで少しずつでも巨人の肉体を削っていけばいい。いつかは奴の肉も尽きるはずだ。


「ふむふむ、なかなか面白いことをするね。なら、こちらも戦力を追加しようか」

 あいつが教会中に魔法陣を展開すると、そこから黒いスライムが沸きだしてきた。そいつらはただがむしゃらに触手を伸ばして私たちの方に向かってくる。


 うげ、面倒くさい。こいつらに接触されたら浸食に対応しないといけない。私は光を放ってそれに対処してくが、あまりの数に対応しきれず一部がこちらに迫ってくる。

 しかし、そこに強い光が照り付けられ、触手が灰になって落ちた。


「理子! ロイ! スライムは私にお任せ下さい!」

 フィオナがスライムに切りつけながら、逆の手で魔法陣を構えて光を放っている。

 おお、助かった。フィオナも多数のスライムに囲まれているが、その動きに危なげは無く対処できている。よし、これなら本気で任せてみよう。


 巨人がその肉体で私たちを押しつぶそうとすれば、ロイはそれよりも早く動き懐に潜り込むと、その腹を大きく切り裂く。

 たまらず巨人が後ろに下がると、地面から影の刃が、左右から氷の刃が、前後から電気の渦が、上からは炎の雨が降り注ぐ。

 全方位からの攻撃で逃げ道をふさいだようだが、この程度で私たちは止められない。いくら相手の能力が強くても、少し方向をそらすくらいなら私でもできる。


 能力の方向を察知し、ほんの少しの隙間を広げればロイがそこに飛び込んですべての攻撃を避ける。その勢いで巨人に突き進んで両足を切断した。


 巨人は腕をつくと両足をつないで起き上がろうとするが、体を支えている腕を切り飛ばし、さらに体制を崩す。

 今がチャンスだ、私は直接黒い球を飛ばして巨人の体を削っていく。だが、巨人が発した強風で後ろに弾き飛ばされてしまった。


 しかし、今の攻撃はかなりこたえたようだ、穴だらけになった巨人が肉をつないでいくが、その大きさはかなり小さくなっている。

 よし、このままいけば私たちの勝利だ。


「うーん。やはり特異点になっても経験不足は補えないか。でも、これならどうだい?」

 あいつが巨人の上に魔法陣を展開すると、そのからどさどさとマネキンのようなものが落ちてきた。

 真っ白い姿をしたそれらは巨人の体に溶け込んでいくと、巨人の体がみるみる大きくなっていく。


 しまった。あいつはまだ同じような存在を作っていたようだ。転移でそれらをここに連れてきたのだろう。


「このまま根競べといこうか。君たちも永遠に能力は使えないだろう?」

 あいつの言うとおりだ。この体はエネルギーを使った分だけ減少している。普段の動きなら問題は無いが、こんなに激しい戦闘をしていればいつかは体を維持できなくなってしまう。


 巨人がまたしてもこちらに向かってくる。それを問題なく回避してその体を削っていくが、あいつがさらに転移で肉体を補充してく

 まずいな、このままではこちらの限界の方が速そうだ。


 ところが、魔法陣から急にマネキンが出てこなくなった。巨人の肉体は修復が終わっていないようだがどうしたのだろう。肉体が尽きたのだろうか?

「ん? これはまさか……」

 いや、あいつも想定外のようだ。いったい何が起きたんだ?


「無駄よ。あなたの研究施設は潰したわ。もう、そいつを修復することはできない」

「そう、諦めてさっさと消え去りな」

 この声はアリスとニーナさん? 私の後ろで転移が発動され、そこからフクロウ姿のアリスを肩に乗せたニーナさんが現れた。


 ニーナさんはそのまま右手に魔法陣を展開すると、黒い球を複数あいつに向かって撃つ。しかし、あいつは自分の前に魔法陣を出すと、その球を相殺して消してしまった。


「ニーナに試作品か。僕の施設を潰したって?」

「すでにあなたが魔力を得ている方法は解析済みよ。それで、この世界に隠されていた施設を破壊させてもらったの」


「そうか……意外と早かったね。凡人にしてはやるもんだ」

 あいつはまだ余裕があるのか、特に焦りは感じられない。まだ、何か隠していることがあるのだろうか。


「なら、少し趣向を変えようか」

 あいつが大きめの魔法陣を発動する。ろくなことではないのは間違いないだろう、ならそれを妨害して……あれ? 魔法陣に介入できない?


「無駄だよ。君たちの魔法陣への介入方法は知っている。対策も完璧さ」

 魔法陣が完成して強く光ると、巨人と周りにいたスライムたちが姿を消す。いったい何をしたんだ?


「彼らはここに送らせてもらったよ」

 あいつが別の魔法陣を展開すると、そこにクヴェーレの姿が映し出された。その中では巨人が街を破壊し、スライムが人々を襲っている。


「なっ! あなたはなんてことを!」

「じゃ、頑張ってねー」

 あいつはそれだけ言うと転移で消えてしまう。今回も魔法陣に細工をしているのか、妨害することができなった。


「いけません! すぐに町に戻らないと」

「そうね! ニーナさんとアリスも……ってどうしたの!?」

 振り返ればニーナさんが座り込んでしまっている。アリスもその肩で横になっていた。


「あー、ごめん。解析とあいつの施設の破壊で力を使いすぎてね。立つのもぎりぎりなくらい肉が減ってるんだ」

 ニーナさんの体を探ってみればほとんどスカスカの状態だった。アリスがフクロウになっているのも肉が足りないせいだろう。


「分かりました、では二人はここで休憩してて下さい」

「ちょっと待って、闇雲に対応しても仕方がない。戦力を投入するべき場所を確認しよう。理子ちゃん、クヴェーレを映してくれ」


 私は魔法でクヴェーレの街を映す。相変わらず巨人が暴れまわり、スライムたちに兵士が立ち向かっているのが分かった。

 しかし、今は昼間で太陽も照っているので兵士たちも劣勢ではない。



「……ふむ、あのスライムなら兵士でも対応可能の様ですね。なら、私たちは巨人の対応に集中しましょうか」

 確かに。兵士たちは意外とスライムに渡り合えている。どうやらあのスライムたちはそこまで強い能力は持っていないようだ。

 いや、でもスライムの数が多いからこのままではまずいか? あ、それなら……。


「ねぇリコ。ちょっと考えたんだけど」

「そうね、ロイ。多分私も同じこと考えてるわ」

 とりあえずロイと分離する。こんな状況であるが、利用できるものは利用させてもらおう。


「皆、少し話を聞いてくれる?」



「それじゃフィオナ、教会の方はよろしく」

「分かりましたわ。皆様もお気をつけて」

 まずはフィオナを転移で教会に戻す。彼女には教会の騎士たちの指揮を執ってもらい、兵士と協力してスライムと退治してもらうことにした。


「じゃぁ、理子。私たちも行ってくるわ」

 ニーナさんとアリスはロイと合体している。そして、ロイはいつもの戦闘モードを少し変更して、犬耳を生やした光る巨人になっていた。彼らの役割は巨人の対処だ。

 さらに、並行して街全体の状況把握や、兵士のフォローも行ってもらう。


「頼んだわよ」

「うん、リコも頑張ってね」

 ロイたちが街に転移する。さて、私も自分の仕事をすることにしよう。私は転移でリナさんの村に向かった。


 リナさんは村の集会場にいるようだ。どうやらあの子がいなくなった理由や、助け出された経緯などを村の皆に説明せいているようだ。

 こんな時だが人が集まっているのはちょうどいい。私はその集会場のドアを力強く開けた。


「何だお前は!」

「理子さん!?」

 村の人が見知らぬ私を見てがやがやと騒がしくなる。さて、ここからが正念場だ。


「私は魔法省から来た理子と言います! 今、クヴェーレが悪魔の大群に襲われているのです! 皆さんの力を貸してもらえませんか!」

 突然の話に騒ぎは大きくなるばかりだ。しかし、そこにリナさんの声が上がった。


「皆さん! 彼女がこの子を救いだしてくれた魔術師です。つまり、この村の大切な恩人なのです。どうか、力を貸してあげませんか!」

 騒ぎは収まってきたが、皆がひそひそと周りの人と相談をしているようで、あまりいい雰囲気を感じない。そこに村長さんが立ち上がって話を始めた。


「クヴェーレだと? なぜ人間の村をわしらが助けなければならん?」

「クヴェーレが落とされたらその次はこの村かもしれません! いま、人間と力を合わせれば、きっと悪魔を撃退することができます!」


「なら、この村で悪魔を迎え撃った方が……」

 村長さんがなお反論しようとしたところ、リナさんがそれを遮った。


「おじいちゃん! 昔、私に言ったよね? 戦士には強さだけではなく優しさも必要だって。いま、人間を見捨てるのが優しさなの? 私たち獣人はそんな存在なの?」

 リナさんの反論に村長さんは答えられずにいる。そこに、別の獣人が立ち上がった。かなり歳をとったおばあちゃんだ。


「理子さんと言ったね。私は協力しよう」

「何を言っとるんだ⁉」

 そのおばあちゃんが賛成したことに村長さんが驚きの声を上げる。私も、年寄りの人が賛成してくれるとは思ってなかった。


「私の孫を助けてくれたんだろう? なら、理由はそれで十分だ。わたしゃこれでも弓の腕前はかなりのもんなんだよ」

「あ、ありがとうございます!」

 私は思わず頭を下げる。すると、おばあちゃんの周りから次々と声が上がった。


「俺も協力する!」「悪魔が相手ならだまっちゃおれん!」「俺も!」「俺も!」

 その声はどんどん大きくなった。私は何度もお礼を言って頭を下げる。ついには村長さんも折れたのか「勝手にせい!」とだけ言って座り込んでしまった。


「リナさん、ありがとうございます」

「とんでもない。悪魔が来たのなら人間とか獣人とか言っている場合じゃないわ」

 リナさんにお礼を言うと、あの時の子供の獣人を連れたおばあちゃんが私の近くにやって来た。


「本当に、この子を救っていただきありがとうございました」

 おばあちゃんは私の手を握って涙を流す。確かのその顔はすこしやつれているように見えた。よっぽどこの子が心配だったのだろう。


「とんでもない。こちらこそ声を上げてくださりありがとうございます」

「いんや、私もさっきこの子に言われて気が付いたんだよ。人間だって良い人はいるってね」


 そういってその子の頭を撫でる。その子は恥ずかしいのかうつむいて私に頭を下げた。そういえば、この子のおばあちゃんも人間が嫌いなはずだったな。

 でも、この子に言われて少し考えを変えたようだ。


 よし。作戦の第一段階は成功だ。しかしまだ難敵は残っている。私は状況をリナさんたちに説明すると、深呼吸してからクヴェーレに転移した。

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