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その39

 私、ふっかーつ!

 魔女さんを吸収してからちょうど一週間。やっと記憶の整理が終わりました。


「おはよう、リコ。お疲れさま」

「ロイー! うん、疲れたー! 癒してー!」

 私は起き抜けにロイに抱きつく。あー、癒されるわー。これだけでも頑張ったかいがあるわー。


「よしよし、とりあえずお茶を淹れるね。その後はご飯する? お風呂にでも入る?」

「ごはーん! それからお風呂ー!」 

「うんうん。いつも通りだねリコは」


 ロイは私をベッドに戻して部屋から出ていく。しばらくするとお茶の準備を持って来た。そして、そのままお茶を淹れてくれる。

 あれ、ロイが淹れてくれるの? 何だかロイの女子力がアップしてる気がする。


「はい、どうぞ。熱いから気をつけてね」

「ありがとー」

 ロイはティーカップにソーサーを付けて渡してくれる。ずいぶんと本格的だ。それに、お茶から凄く良い香りがする。


「あ、美味しい」

 一口飲んで、つい口から感想がでた。ロイったらいつの間に紅茶の淹れ方なんて覚えたんだろ?


「良かった。これは、ハンナさんに淹れ方を教わったんだ」

 なんと、私が寝ている間にそんなことまで。

「素敵! 本当に嬉しいわ!」

 私がにっこりと笑うと、ロイも笑顔を返してくれる。

 そうそう、これこれ。あー、やっと普段の生活に戻ってきた感じがする。


「お楽しみの所に悪いけど、私たちのことも忘れないでね」

 おっと、ロイに夢中で忘れた。アリスが私の体から出てくる。

 ……あれ? 魔女さんは出てこないの?


 そう思っていたら、私の体から大きな蝶が飛び出した。それは部屋の真ん中に降りると、大量の煙と共に魔女さんの姿をとる。


「ふっふっふ。かかったな! これで私は全盛期の力を取り戻すことができた! まったくご苦労だったな!」

 煙が魔女さんの元に集まり、悪役のような真っ黒のマントとローブを形成する。そして、それを翻すように大きく腕を振った。


「はーはっはっはっは! ……あれ? みんなノリ悪くない?」

 いや、そんなこと言われましても、魔女さんの記憶を知っているので冗談なのは分かってますし。

 ロイも私たちが反応しないことから状況を察してるし。


「ぶー。つまんないのー」

 魔女さんは腕を振るといつもの格好に戻る。ロイと違って肉体の使い方は分かっているから、練習しなくてもこれくらいはできるようだ。


「マスター。御復活おめでとうございます。いま、『全盛期の力を取り戻した』とおっしゃいましたね?」

 いつの間にかハンナさんが部屋にいた。魔女さんの後ろに立ち、しっかりとその両肩を掴んでいる。


「あー、ハンナ? えっと、その、実はこの体はガワだけで中身はスカスカなんだ。だから、食事をしてゆっくりと肉体を戻さないといけないんだよ」

 魔女さんは母親に叱られた子供の様に、おどおどと弁解を始めた。


「それでしたらホムンクルス生成用の溶液を注入いたしましょう。突然に一週間も不在にされたので、色々と仕事が溜まっております。すぐに取り掛かって下さい」

「いや、あれは食べ物じゃ無……あーれー」

 ハンナさんは荷物のように魔術師さんを脇に抱える。


「皆様、恐れ入りますが少々外させていただきます。お食事はキッチンに準備しておりますのでお召し上がりください。また、お風呂の準備も整っておりますので、ごゆっくりどうぞ。それでは失礼します」


 そのまま魔女さんを連れ去ってしまった。まぁ、こうなることは復活前に予想済みである。

 すでにこれからやることは相談済みなので、あっちはあっちで動いてくれるだろう。



 キッチンにはサラダにスープ、それにサンドイッチなどの食事が準備されていた。それを食べながら、ロイに今後のことを説明する。


「つまり、魔女さんのお父さんの悪巧みを止めるんだね」

「そうそう。あ、あと魔女さんのことはこれから『ニーナ』って呼んでね。ニーナさんのお父さんは『あいつ』ね。お父さんだと認識したくないそうだから」

 

「分かった。ニーナというのは本名なのかな?」

「うん。私たちとはもう家族みたいなものだし、遠慮しないで呼んで欲しいって」

 そう言われても歳上なので、ある程度の敬意は必要だけどね。


 あとはロイに今後の計画を説明する。

 まずは、あいつを見つけないことには話が始まらない。


 あいつの言葉を信じるなら、「人一人分の大きさしかない異世界」にいるようだ。

 残念ながら、ニーナさんでもそれだけで異世界を見つけることはできない。


 あの時に私の所へ来れたのは、私にマーカーが付いていたからであり、あいつがいる所を暴けたのは、私に魔法を使っていたからだ。

 何かその世界に関わる物でもければ、目的の世界を見つけることはできない。


 ただ、あいつはそれができるようだ。

 実際に私だけでなく、異世界でドラゴンさんなどの特殊な動物を見つけて、この世界に送り込んでいる。

 ニーナさんや皆で研究すれば出来るようになると思うけど、年単位はかかりそうなので却下。


 しかし、あいつはそれが出来るのに、何故かこの世界と繋がりを維持している。

 ならば、この世界にはあいつに必要な何かがあるということであり、それは恐らく魔力だ。


 魔力と言っても、世界ごとに質が同じとは限らない。もし、あいつが異世界でこの世界と同じ魔力を見つけているなら、わざわざこの世界との繋がりを残す必要は無い。


 もう一つ根拠がある。それは、あいつが私に持たせた能力「この世界の力によらない魔力操作」だ。

 この世界の魔術師は魔力を感知して、操作する能力を持っている。


 それなのにわざわざこんな能力を。しかも、他の能力を応用しなければ使えない能力を用意したのは、異世界の魔力が使えなかったからだろう。

 

 私たちの体なら魔力を再現することも可能だけれど、効率は良くない。異世界の魔力が利用出来るなら、それに越したことはない。 

 

 ニーナさんの推測によると、私の魔力操作は、能力と言うフィルターを世界に通して魔力を見つけるが、その過程で魔力の純化が行われているらしい。

 道理で操作中はあんな簡単に私の意思を反映して固まったりしたのか。


 さらに、この能力を発展させれば、大抵の世界の魔力もこの世界の魔力に変換できるというのだ。


 とりあえず、あいつが異世界の魔力を利用出来ないのはほぼ確定だろう。なら、今でもこの世界から魔力を得ているはず。私たちはそれを見つければいい。

 ただし、あいつもずっと同じ場所から魔力を取っているわけは無いしだろうし、いつ取っているかも分からない。


 ならば、専用の魔力を追跡する魔道具を作って世界中に設置しましょう、と言う計画である。

 材料はニーナさんに調達してもらい、分担して魔道具の作成や設置を行う予定だ。


「世界中に魔道具の設置か……、ずいぶんと大仕事だね」

「うん。でも、ニーナさんの記憶でどこでも転移出来るから、人に見られないように注意するくらいかな?」

 他の国でそんな事をしたら、侵攻の準備と取られかねない。もちろん、魔道具は偽装して分からないようにするので、設置の時だけ気をつければいい。


「魔道具の準備までは予定が空くから、しばらくはロイとゆっくりできるよ」

「うん、分かった。そう言えば外に出てないし、この街を見て回ろうか」

 そうだった。うむうむ、ニーナさんも下町辺りはあまり行ったこと無いみたいだし、そこを中心に行ってみよう。



 魔法省の周辺は学校や国の施設が集まっている。元の世界で言う官庁街のようなものだろうか。

 そのため、通勤や通学用の馬車が走っているので、それに乗せてもらう。お金はロイがハンナさんから受け取っていた。

 ちなみにロイは、念ため耳としっぽを隠している。


「そう言えば、私は馬車に乗るの初めてだわ」

「僕もそうだね。結構振動があると聞いてたけど、そうでもないね」

 確かに。地面は舗装されているし、馬車にも色々と工夫がされているようだ。さすが都会である。


 適当な所で降りて街をぶらつく。

 お店がある辺りも石畳が敷かれており、道も直線的だ。事前に計画を立てて整備を行ったことがうかがえる。


「僕の国の首都よりずいぶんと整然としてるね」

「そうね。朝市みたいなのも無くて、基本はお店で買い物をするそうよ」

 まぁ、この辺はどっちが良い悪いと言うより、文化の違いだろう。魔術師が集まって出来た国なので、インテリな人が多いみたいだし。


 それでも下町の方に行けば、親しみやすい街並みが広がっていた。

 適当にぶらぶらしていると、お菓子を売っている小さいお店があったので少し買ってみる。


 私とロイの関係を冷やかしてながらも、少しおまけしてくれたおっちゃんにお礼を言って、歩きながら二人で食べる。

 通りにはちらほらと人が歩いており、子供も道端で追いかけっこをしていた。


「何と言うか平和ね。一週間前のあの時は死ぬかと思ったたけど」

「うん。でも、この人たちはそんな事は関係無いんだ。あいつがそれを壊そうとするなら、僕たちが止めないと」

 ニーナさんの予想では、あいつが私の能力を得たら、この世界の全てを吸収するらしい。そんな事を放っておくわけにはいかない。


「頑張らないといけないわね」

 目の前の光景を見て、改めて心に誓う。まったく、それがなければ心行くまでロイとイチャイチャ出来るのに。



 そんな感じで数日ほど、ロイとデートしたり、部屋でゴロゴロして過ごしていた。


「そう言えば、リコは魔法が使いたいんじゃ無かったの? 使ってるのを見たことが無いけど」

 ああ、そういえば前にそんな事を言ったなぁ。お風呂から出てベッドで横になってしていた私は、むくっと上半身を起こす。


「あー。うん、憧れたのは確かなんだけど」

「歯切れが悪いね。何かあったの?」

 んー、何と言ったものか。ポリポリと頭をかきながら考えをまとめる。


「正直なところ、この世界の魔法って面倒なのよね。例えば、光を放つ魔法はこんな魔法陣なんだけど」

 私は右手を上げて魔法陣を形成する。ニーナさんの記憶を使えば構築は一瞬だ。


「これは魔法の設計図みたいなもので、ここが魔力を受け入れるところね。で、ここが魔力を光に変換するところで、ここが光に方向性を持たせるところ」

 魔法陣の色々な部位を指して解説する。ロイは興味深そうにそれを聞いていた。


「とまぁ、こんな感じで、光を出すだけでもやることが多いのよ。それなら、炎を出して光操作する方がよっぽど簡単なの」

 左手を上げて手のひらに火を灯す。その光を操作すれば、光はミラーボールのようにキラキラと部屋を照らした。


「これと同じ事を魔法でやるとかなり面倒になるわ。魔法陣も大きくなるし。それに、光がどう動くかも事前に決めとかないといけないしね」

「なるほど、魔法陣が魔法の設計図なら当然だね」

 そうそう、アリスは「パソコンのプログラム」と表現していたな。


「だから、ものすごく細かい設定をするときとか、事前に準備ができるときなら魔法が良いんだけど。とっさに使うなら普段の能力の方が簡単ね」

 我ながら贅沢な事を言っていると思う。でーもー、面倒なものは面倒なんだからしょうがないよね。

 勉強して知識を身につけても、わざわざテストは受けたくない。そんな感じだ。


「はっはっは。うちの魔術師が聞いたら卒倒しそうだねぇ」

「あ、ニーナさん。仕事はもう大丈夫なんですか?」

「うん。魔道具の材料も手配は終わったよ。近日中にそろう予定さ」

 ニーナさんはぐぐっと伸びをして肩を回す。この体ならそんな必要は無いはずだが、癖になっているのだろう。


「しかし、理子ちゃんの世界には魔法が無いんだよね? なんで憧れてたの?」

「ええ、魔法は創作の中にしか存在しませんから、誰も使うことができません。だから、逆に使えたらいいなぁと思うんですよ」


「そうなんだ。例えばどんなの?」

「うーんと。子供向けなら、杖を振ったらお菓子が出てきたり、お姫様みたいな服に変身したりとかかな。創作によっては、呪文を唱えて魔法を放ったり、集中するだけで魔法が使えるものもありましたね」


「あっはっはっは。そんなことができるなら、私も魔法を使ってみたいねぇ」

 一応、この世界の魔法でもできないことはないと思う。


 しかし、ケーキを作る魔法陣を作ろうとしたら、まず生クリーム作る魔法陣を作らないといけない。

 それには牛乳と砂糖と作る魔法陣を作って、生クリームに空気が混ざるよう調整して、それを適切な位置に出現するようにして……と、最終的に魔法陣はとんでもなく巨大になることだろう。


「マスター、こんなところにおりましたか。休憩時間は終わりです。早く仕事に戻って下さい」

 またもや前触れも無くハンナさんが現れた。

 あぁ、終わったと言っていたが、実際には仕事から逃げてきたのか。


 そのままニーナさんは連行されていく。すでに何回も見ている恒例行事だ。

 しかし、ハンナさんも忙しそうなのに、私たちのこともちゃんと対応してくれる。うーん、ホムンクルスとは聞いたけど凄い人だ。


 私もだらだらしてるだけじゃなくて何かしようかな?

 せっかく魔法が使えるようになったのに、このままじゃもったいない気もする。


 うーん、でも能力で出来ないことで、魔法で出来ることかー。

 さっき言ったように規模が大きくても、細かく調整できるのが魔法のウリなんだかよなぁ。


「リコ。ハンナさんが騒がしくしたお詫びだってお花を持って来てくれたよ。この辺に飾っておくね」

「分かったー。うーん、いつも綺麗ねー」

 私はなんとなく花瓶に活けられた花を眺める。ハンナさんはセンスも良く、この部屋あった花を色々と持って来てくれる。


 花……あ、そうだ。あれが良いかも。

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