第21話 誰かを頼ることで解決する糸口を見つけることもある
「…………刀夜は私のことどう思ってる?」
「どうってのは?」
「…………好き?」
「恋愛的な意味じゃないが、友達としては良いかもとは思ってるな」
いきなり好きですなんて言えない。それに俺にはルナがいるしな。まぁルナのことだから俺のハーレムを普通に応援しそうだしむしろ手伝ってくれそうだが。
「…………そう」
「アスール様嬉しそうです。流石ご主人様です」
「お、おう……」
嬉しそうか? 全く感情が読み取れんが。くそ、こういうのはリアが得意そうなんだけどな。協力を仰ぐべきか?
「…………似てる」
「俺とお前がか?」
「ん…………」
確かに似てるのかもしれない。社会というルールからはみ出したという点では。でも俺とこいつは根本的に違う。
「…………俺からすればお前は凄いと思う。種族なんて関係なく過ごせるお前は」
「…………そう?」
俺は社会のルールから逃げた。怯えて停滞して、何もせずに傍観していただけだ。
現状をどうやって乗り越えようか、そしてどうすればいいのかを必死になって考えているアスールは俺よりも眩しいものがある。
いつからだろうか。俺はそういうものに諦めてしまったのは。仲良くしたくないわけじゃない。ただ方法が分からないからと全て投げてしまった。
ルナと出会って、一緒にいたいと思って、その心を知ろうとした。それが今の俺だ。ただそれでも足りない。何も成せないかもしれない。
「友達としてでなく自分の為にもお前の行動の結果は見たくなったな」
せっかく出来た縁だ。大切にするくらいしてもいいだろう。
図書館を出ると昨日同様アスールに出迎えられる。本当に昨日今日と客は俺達以外いないんだな。大丈夫かこの図書館。
「…………また来て」
「あぁ、またな」
「お疲れ様でした」
アスールと別れるとお馴染みとなったルナと手を繋ぎながら歩く。
「ご主人様、今日のアスール様はどうでしたか?」
「どうって言われてもな……。まぁちょっと感情が見れた程度だな」
昨日よりかはだけどな。俺があんな話をしたからだろうか?
「ご主人様のお陰です」
「ん?」
「ご主人様のお話にとても興味津々でした」
それは多分俺がアスールを納得させるだけの何かを話したからだろう。そして同時にそれはアスールのこれからの人生の糧となるのかもしれない。
「俺は俺の意見を言っただけなんだけどな」
「それが大変心に刺さったのかもしれません」
そうだといいんだけどな。
「私もご主人様の気持ちは分かりませんが……。それでもずっと寄り添って生きていたいです」
「ルナ……」
俺の腕に抱き付いてきたルナ。その表情はとても嬉しそうだった。
「でも多分……アスールが幸せになれる日は遠いんだろうな……」
「そ、そんなこと……」
多分だけどな。今回の件は俺の予想では上手くいかない。
いや、予想を立てるまでもなく大抵アスールの場合は上手くいかないのだろう。そんな悲しいことがあってもいいのかと恨むくらいに。
「…………なぁルナ」
「は、はい」
「アスールは多分これからも頑張るだろう。でも努力は必ずしも結果と結びつくとは限らない」
「はい……」
世の中は残酷だ。どれだけ頑張ったところで上には上がいる。大した努力もしていない奴が努力をしている奴を見下す。
「そんなのあんまりだと思わないか?」
「はい」
頑張っているのに報われない。それは自分のせいじゃなく相手のせいだった場合は余計にやり切れないものがあるだろう。
今もアスールは1人であの図書館で待ち続けているのだろうか? 誰とも話せず、誰とも時を共有出来ずに。
「…………」
「ご主人様はお優しいです」
「え?」
突然の脈略のない褒め言葉にキョトンとしてしまう。
「誰かの努力を肯定して……色々なことを考えていて。ですが……」
ルナに腕を引っ張られて抱き寄せられる。何をされたのか全く理解出来なくて抵抗も出来なかったぞ。あ、胸柔らか。
「一人で何でも抱え込まないでください。相談して欲しいです。私はご主人様のメイドで……そ、その……恋人、なんですから」
本当だ。俺はいつも一人でなんとかしようとしている。いや、いつも一人でなんとかしてきたから他人を頼るのに抵抗があったのだろう。
俺はルナと協力して何とかしようとする素振りすら見せなかった。そもそもそんなことすら頭から抜け落ちていたのだから当然だ。
「…………ごめん」
「い、いえ……私はあまり頭も良くないのでご主人様のお役に立てるか分からないのに失礼なことを言ってしまって申し訳ありません」
そんなことはない。ルナが謝る必要もなければ俺が不甲斐ないばかりにいつも心配や苦労を掛けてしまっている。
俺ももっと自分を見つめ直さないと。これ以上ルナに心配を掛けて愛想を尽かされるものなら自殺もあり得るくらいに心に傷を残してしまうことだろう。
「俺が悪い。本当にごめん」
俺はルナに抱き付いて謝罪していた。酷く不格好だが仕方ない。
「い、いえ、あの、その……あぅ……」
ルナは恥ずかしそうに頬を赤く染めていた。ウチの嫁は可愛い。お持ち帰りしたい。だからしてるっての。
「あ、ママ! あっちでお兄ちゃんがお姉ちゃんのおっぱいに顔を突っ込んでるよ!」
「こら! 見ちゃいけません!」
…………何でいるんだよガキ。というかあのガキ前もキスの時邪魔してくれたな? こんな時間にうろついてんじゃねぇよ!
「や、宿屋へ戻りましょうか……」
「そうだな……」
俺達は逃げるように宿屋へと戻る。その後に俺はベッドでルナに抱き付いた。
「ご、ご主人様?」
「少しこうさせてくれ……」
「は、はい!」
ルナの抱き心地は良い。良質な抱き枕? そんなものを軽く凌駕している。もうこれ無しでは眠れないくらいの安心感がある。
「…………アスールのこと、どうすりゃいいと思う?」
「そうですね……。ご主人様のお話を総合すると恐らく仲良くなるのは不可能であると」
「あぁ……多分だけどな」
そもそもコミュニケーションを取ることそのものを拒絶される可能性が高い。そうなればその時点で詰みだ。
「そうですね……。確かに打つ手がないように思えますが……。ですがご主人様の言う通り色々な視点で色々と考えてみましょう」
「そうだな」
ルナもその辺りを納得しているらしい。俺の捻くれただけの思考回路なのにな、こうまで人に影響を及ぼすのか。
「と、ところでルナさん? あの、何で俺背中撫でられてるの?」
「え? あ、す、すみません。抱き付いてくださる姿が可愛らしくてつい」
そ、そうだろうか? そもそも可愛いとか言われても困る。
「あの……ご主人様がよろしければこのままで良いですか?」
「お、おう」
俺としては胸に顔を埋められて嬉しいんだけどな。今の状況じゃ欲情もしない。むしろ安心感のせいか余計に頭が冷えて冷静になってくる。
「それでアスール様の話に戻りますが。まずはアスール様はお相手の方の特徴をお話いただけるほど私達のことを信用しておりません」
「そうだな。だから対策の立てようもないんだけどな」
相手がどんな奴か分かればまだ何とかなるかもしれないが。いや、そんなことはないか? まぁそれはどんな奴か会ってみないと分からないだろうな。
「んー……」
「うーん……」
2人で頭を悩ませる。何で俺は恋人の胸に顔を埋めながら他の女性のことを考えてるんだろうか。まぁいいか。
「…………人が喜ぶことをするってのが一番手っ取り早いんじゃないか?」
「人が喜ぶこと……ですか?」
喜ぶことをされて嫌がる人間はいないだろう。人間とは欲深い生き物だ。そういうことをされる人間は逆に好かれる傾向にある。
「例えばどのようなことでしょうか?」
「えっと……金?」
「いきなり大金を渡されても困惑するだけだと思いますが」
確かに。むしろどこの金を盗んできたのかと疑ってしまいそうだ。
「喜ぶことですか。確かに考え方としてはとても良いと思います。流石ご主人様です!」
「うん、ルナはそろそろ俺を褒めまくるのやめようか。流石に俺も恥ずかしいんだぞ?」
今もこの格好とかな。人に見られるとヤバイ。あのクソガキに見られたのも恥ずかしいし腹立つ。からかわれたしな。
「よ、喜ぶことを言っているのに駄目なんですか!?」
あ、確かにこういう感じだと嬉しいことをされても素直に喜べない。なるほど、こういうパターンがあるわけか。
ふむ、やはり人の感情とは読めるものではないらしい。もちろん喜怒哀楽という分かりやすい感情ならいいんだがそんなに簡単ならば既に電脳化もされているだろう。
「いや、まぁ俺のは恥ずかしいだけだが。とりあえず喜ぶことっていう線は悪くないと思う。何かあるか?」
「そうですね……。あ!」
「思い付いたのか?」
「は、はい……その…………」
ん? 何でいきなり頬を赤らめる?
「ご主人様に触れていただけるだけで嬉しいです……」
「お、おう……」
いきなり何恥ずかしいこと言ってんだ。くそ、俺も顔赤くなってきた。
「た、多分あいつは俺に触られても嫌悪感しかないような気がするが」
「あ、そ、そうですよね。わ、私だけですよね……」
少なくともルナは嬉しいと思ってくれているようだ。ヤバイ、これは俺も嬉しい。
「お、俺も確かにルナに触ってもらうのは好きだが。ひ、ひとまず駄目だ。こういうのは多分好き同士じゃないと駄目だ」
「は、はい!」
結論は出ないだろうか。ん? いや、もっと単純に考えればあるんじゃないか?
「功績を立てるってのはどうだ?」
テレビなどで活躍しているアイドル達がもてはやされるようにこの世界でも冒険者としての位が上がればそれなりに見てもらえる可能性はある。
最初は有翼種であることを批判されるだろうがそれも活躍次第では無くなっていくはずだ。
幸いにも俺達はゴブリンキングを倒したことで知名度が少し高めだ。それを利用しない手はないだろう。
「1つ案を思い浮かんだ。もちろんアスールが完全に俺達に気を許してくれることが最低条件だが。聞いてもらえるか?」
「っ! はい!」
ここでルナに相談したところ色々な指摘があり色々と見つめ直した。やはり2人というのは大きいようだ。
今の俺にはルナがいる。頼れる仲間で恋人が。だからこれからのことも色々と出来そうだ。
それでも、あまり良い未来は想像出来なかった。それが現実の厳しいところなのかもしれない。




