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第20話 人と人は分かり合えない、でも寄り添うことは出来る

「…………人付き合いは難しい」

「そうだよな……気持ちはよく分かる」


 俺も苦手だしな。そういうのはルナが得意そうだ。いつの間にかギルドの受付のお姉さんとも仲良くなってるしな。


「…………刀夜も?」

「あぁ、俺も人付き合いは苦手だ」


 正直に言ったのに意外そうな顔をされた。何故だろうか?


「…………そんな風には見えない」

「見えないだけで内心では色々考えてんだぞ?」


 それが人間というものだ。アスールも内心で色々と考えて行動しているだろう。それと何も変わらない。

 

「今はご主人様もそんなことはございませんよ。ふふ……みんなからも慕われる素敵なご主人様です」

「…………どうやったらなれるの?」


 どうやったらと言われてもな。そもそも俺が慕われているとか初耳なんだが。ルナの妄想じゃないだろうな?


「そんなこと言われてもな……」

「ふふ、ご主人様は自覚していないところがとても素敵ですよ」

「ん?」


 どういうことだ?


「…………刀夜は天然?」

「それはルナだな」

「そんな!?」


 間違いないだろう。俺よりも天然だ。そもそも俺は天然じゃない。まぁ天然は自分のことを天然とは思わないか。


「それを聞くってことは誰かと仲良くなりたいのか?」

「ん…………」


 どうやら誰かと仲良くなりたいらしい。それは人間……なんだろうか。人であればまだ俺達もそこに入れてもらえる可能性はあるが。


「それって他の有翼種か?」

「…………人間」


 これで俺達の付け入る隙があることが分かった。もちろん嘘かもしれないがとりあえずこれを頼りに様子を見るという点では一歩前に進んだだろう。


「人間と仲良くなりたいか。難しいかもしれんな」

「ちょ、ご主人様!?」

「…………知ってる」


 だろうな。そんなことは俺よりもアスールの方がよく分かっていることだろう。


「人間ってのは真に誰かのことを理解することは出来ない。俺とルナでもな」

「そんなこと……」

「あるんだよ。そもそも複雑な感情を共有しようっていうのが間違いだ」


 そんなことは出来ない。出来なかった。多種多様な心の動きがあるというのにそれが全く同じになることなんてあり得ない。


「人間にとって一番怖いことは知らないこと。そして自分とは違うものに対しては恐怖を覚える。精霊であるルナは外見的にはそう変わらないからこそ人と話しても誰も抵抗がない。でもその翼を見て畏怖する、蔑む奴ってのは絶対にいる。むしろそっちの方が多い。それは紛れも無い事実だ」


 俺が言い切るとアスールは悲しげに目を伏せた。初めて見せた表情の変化が悲しげな顔ってのはちょっとアレだな……。

 でも事実だ。こいつが誰と仲良くなりたいか、そんなことは分からないし俺にとっては関係のない話だろう。


「ご主人様酷いです」

「事実を言ったまでだ」

「それじゃあ私のことも本当はお嫌いなんですか?」


 ん? 何故そうなる?


「ちょっと待ってルナ?」

「私……ご主人様に……グスッ……嫌われて……」


 え、嘘ガチ泣き?


「ルナさーん? 俺の話聞いて?」

「うぅ……」

「…………泣かした」


 違う違う違う! 待って! 本当に待って!


「俺がルナのこと嫌いなわけないだろ!?」

「で、ですが自分とは違うものに恐怖するって……」

「俺はまた別だ。あくまでも一般的な話で俺は多分例外の方に入る」


 恐らくだけどな。自分が他人と違うことは分かっている。いや、誰もが自分とは違う。人とはそういう世界で生きているものだ。


「まぁ俺は死ぬことすら怖くないからな……」


 死ぬ瞬間驚く程に冷静になる。慌てたりといった感情が俺の中では既に死んでいるのかもしれない。

 あの時もそうだ。ゴブリンキングに殺される直前、俺は冷静だった。それどころか笑みすら浮かべていたわけだが。


「…………」


 ルナが真剣な眼差しで見つめてくる。俺も真摯に見つめ返した。


「嘘じゃないですね」

「そりゃあな」


 もうルナに嘘を吐きたくはない。だからこそ俺は……。


「ご主人様……」

「ルナ……」

「…………甘い」


 おっと、そうでした。アスールの前ではイチャイチャするのは控えるんだった。


「それで、何の話だったか」

「…………人と有翼種は仲良くは出来ない」

「あぁ、それだな。でも別に仲良く出来ないことはないだろ? 大多数がお前を否定するだろうが俺みたく肯定する奴もいる。世の中は色々な価値観があるからな」


 だからこそ有翼種という種族が生まれたのだろう。それは奇跡に近い偶然かもしれないがそれでもそういう人がいて今に繋がっているのだから。


「…………嫌われてたらどうすればいい?」

「諦めるしかないだろうな」

「ご、ご主人様……そんな夢も希望もないような言い方……」

「実際ないだろ?」


 夢や希望なんて持つだけ無駄だ。確かに人が生きる為に目標がある方が良い。しかし現実はそう簡単ではないのだ。


「コミュニケーションってのは話し合って、同じ時間を共有して、そうして初めて築かれるものだ。そもそも畏怖して話し合いも時間の共有も全て否定している相手に対して仲良くなれという方が無理だろ」

「…………確かに」


 納得したらしい。同時に悲しい表情を浮かべていた。


「ただでさえ有翼種ってだけで生きづらい世の中だ。俺個人の意見としては諦める方が賢明だな」

「ご主人様……」


 ルナには申し訳ないが事実だ。そこを否定されても俺は反論出来るし逆に肯定出来る要素が見当たらない。

 人は1人では生きれない。それは当たり前の話だ。食材を作る、電気を作る、機械を作る。そういうものが繋がりあって世の中は出来ている。

 しかし人と思いを共有することは不可能だ。だからこそ人間という種族は自分のコミュニティという狭い世界でしか生きれない。自分の思いと似通った者、真逆の者、嫌悪感を抱かない者、そういった集まりで構成するしかない。


「…………なら諦めるしかない?」

「まぁ俺はそれを推奨するな。でも世の中は本当に色々だ。例えば嫌いな相手だって好きになる可能性もある。要は自分の気持ち次第じゃないか?」


 諦めなければ好かれる可能性もある。その辺りが読めないのが人間というもので今の話は基本大多数の人間の話しかしていない。


「ほれ、俺みたく例外もあるしな。ちなみに俺は全く嫌悪感を抱いていなければむしろその翼は触りたい派だ!」

「ん…………それは駄目」


 ですよね。


「…………ルナのおっぱいなら良し」

「ふぇ!?」

「それは昨日揉んだから翼も触りたい」

「…………手が早い」


 いや、むしろ遅かったよ? 主に俺が逃げたせいだったけどな。童貞には厳しいものがあったんだよ、色々と。


「ご、ご主人様! そういったことはご内密にしてください!」

「悪い悪い。それでお前はどうするんだ?」

「…………仲良くしたい」


 どうにも諦める気にはなれないらしい。これは仕方ない。それがアスールの気持ちなのだから。


「そうか。アドバイスがいるならいつでも聞いてくれ。もちろん俺の意見は捻くれ者の意見だけどな?」

「…………納得出来たから多分真実」


 俺の意見を肯定されたのは初めてだな。日本ではどんな奴でも取り繕って生きていただろうからな。

 そういう意味では暴走族や不良といったものの方が縛られずに自由に生きていたんじゃないだろうか。


「…………刀夜は頭が良い」

「頭が良い、か……。それは違うな」

「え? ご主人様は凄く頭が良いじゃないですか。回転も早くて理解も早くて」

「違うな。そもそも俺はお前らと見ているものが違う。色々な目線で目を向けてみろ。あいつならどう考えるか、こいつならどう考えるか。そういった別視点で気付くことってのは多々ある」


 要は見方の問題だ。先入観に囚われずに客観的に物事を見ろというのはそういうことなのだろう。


「ご主人様……」


 やめてルナさん。尊敬の眼差しを向けないで。俺そんなに凄くないから!


「…………人の気持ちは理解出来ないのに人の気持ちを考えるの?」

「そうだな。矛盾してるだろ?」

「ん…………」


 その矛盾に気付けるというのもまた大事な視点だ。


「俺達のいる世界に正解なんて1つもない。考えても考えても誤差は出るし計算し尽くしても感情は読めない。だから分かった気にっても分かっていない。気持ちは永遠に通じ合えないものだからな」

「…………でも刀夜はルナのことよく分かってる」

「それは好きだからだろうな。言ったろ? コミュニケーションってのは話し合って、同じ時間の共有をして初めてなされるものだって。その過程で一緒にいたい、そばにいたいってお互いが思ったからこそこうして特別な関係になってるわけだ」

「ご主人様…………」


 だからルナ、感動しないで。


「…………難しい」

「ようするに難しく考えず直感で動けばいい。心ってのはそういうものだ」


 読めないのだから自分が思ったことをすればいい。他人がどうするかなど考えるだけ無駄なのだ。


「でも好き同士ってのはかなり稀だと思うぞ? 特にお前の場合はな」


 まずは自分とは違う、理解出来ないという先入観を取り除くことが大切だ。


「…………どうして?」

「まぁコミュニケーションが取れないってのは分かったな? で、その中でも更にお前と一緒にいたいと思ってくれる人間がどのくらいいると思う? 同じ人間の俺ですらそう思ってくれる人は貴重なんだ、お前はもっと確率的には低いだろ?」

「…………そうかも」


 実際そうだろう。そう考えると俺達には選択肢はあれどかの低確率で出会っていることになる。それは数ある人間の中でも希少、まさしく奇跡と呼ぶに相応しいものだろう。


「ま、まぁ偉そうに色々言ってるが全部俺の勝手な見解だからな? 人と人は分かり合えない。でも寄り添って……好きな人と同じ時間を共有することは出来ると思う」

「感動致しました。まさかご主人様がそこまで考えておられて私のことも大切に想ってくださっていたなんて……」

「あの、ルナさん? 恥ずかしいからあんまり言わないでね?」


 そんなに大層なものじゃない。俺は俺なりの考え方を持っていて、これが他人と完璧に共有されるとは思っていない。

 限りなく近く、そして妥協出来る点をお互いに探していくことが大切なのことなんだと思う。

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