第57話 変人の集まりは良い奴らだからこそ
更に奥へと進む。思ったよりもこの組織の敵は弱いな。魔人なんてものを作るくらいだ、相当ヤバイのを想像していたがそんなことはなさそうだ。
腕を突き出して引き金を引くとどんどんと目の前の敵が焼失されていく。ただの単純作業だ。
分かれ道に出た。三方向で右から左か正面か。さてどうしたものか。
「っ! 刀夜さ」
マオが言い終わる前に銃口を左に向けると引き金を引く。いつかに飛んできた見えない針の攻撃を掻き消して延長線上にいた化け物を焼失させる。
「な、何ですか!?」
「今何か聞こえた気がしたが……刀夜殿が何かしたのか?」
「ルナとマオは知ってるだろうが見えない針が飛んできててな。ついでに化け物も射殺しておいただけだ」
流石に2回目となれば警戒はする。見分けかたもあるしな。
「どうして分かったのよ? 私も目視では分からないわよ?」
「視認魔法で空気中の魔力の流れが見えるだろ? 何かが通るとその衝撃で少し魔力が散る。俺が見てるのは針本体じゃなく魔力の方だ」
見えないものはどう足掻いても見えない。だから別の方向性を模索したまでのことだ。
「そ、そう……相変わらずね」
「……?」
何がだろうか? 全員微妙そうな表情を浮かべているが。
「刀夜の規格外は今に始まったことじゃないだろ〜。で、どっち行くんだ?」
「そうだな……正直道さえ分かればどこでもって感じだけどな」
この先に何が待ち受けているのか分からない以上は結局は運次第なわけだが。後手に回るのは嫌いだがこれはもう仕方ないだろう。地の利は向こうにある。
「アスール、どっちがいい? 適当に選んでいいぞ」
「…………何で私?」
「いや、たまたま目が合ったからだが」
アスールは少し顎に手を当てて思案すると右側の通路を指差した。
「…………何となくこっち」
「んじゃ右で」
「本当に適当に決めたね……」
こんなことをいつまでも考えても仕方ないだろう。俺達はどんどんと先に進むと大部屋が出て来る。
「このパターンは……」
「パターンって言ったら駄目よ」
「知っているか?」
キョトンとするコウハが可愛い。とりあえずこのパターンだと多分あれだな。
ガシャンと出入り口が閉められて天井がパカリと開く。現れたのはやはりというか案の定というかキマイラだった。
「な、なんだこの感じは……ゾクリとしたぞ……」
「人間と魔物、それに獣人にエルフと色々と混合した生物よ。気を付けなさい、相当強い戦闘力があるわ!」
「そうなのか……!」
キッ! とコウハの目付きが鋭くなる。色々な生物の実験結果という点に怒っているのか同族であるエルフ族を犠牲にされたからなのか。
コウハはまだエルフ族に未練とかあるのか? そんなことを考えながら引き金を引いた。
「…………ねぇ刀夜さん」
「何だ?」
「終わったのだけれど」
「そうだな」
氷魔法で防御しようとしたみたいだが貫通力に優れた銃はそれをいとも容易く穴を空け、キマイラを焼失させてしまう。苦戦したのは前回であって今回は別段問題はない。
「マオ殿、相当強いんだよな……?」
「え、えぇ……そのはず……」
マオもちょっと自信無くしたっぽい。
「銃の性能が凄過ぎるのよね」
「そうだな……」
なんか2人して遠い目をし始めたんだが。え、何? 俺そんなに悪いことしたか?
「後衛って必要なのかしら……」
「あれがあれば前衛もいらないだろう……」
「…………回復はもっと必要ない」
増えた!?
「いや、流石に銃だけでやっていける程甘い世界じゃないだろ!?」
「そうかしら……」
「刀夜殿は1人でも何でも出来そうだし……」
「ん…………完全に私達いらない子」
ど、どど、どうする!? 何とかこいつらのモチベーションを上げる何かを!
「刀夜くんがオロオロしてるね……」
「色々すげーのになんでこういうとこだけポンコツなんだろーな」
「それがご主人様の魅力ですよ♪ オロオロしてるご主人様とても可愛らしいです♪」
「うん……保護欲がそそられるね!」
ルナもアリシアも微笑ましげに見てないで何とかして欲しい。
「ガウガウガウ!」
「どうしたリルフェン?」
「ガウガウガウガウ」
「えっと……マオヘルプ!」
早速マオに頼ってしまう。マオは落ち込んだ様子でリルフェンの言葉を聞いていた。
「…………進まなくていいの? っ言ってるわね……」
「そ、そうだな! 進もう。早く。そして早く終わらせて今日はエロいことするんだろ!?」
「限りなく駄目なフォローだね」
ムイに指摘されて心にトゲが刺さったかのように痛んだ。
「…………いいですよ。どうせ鈍感ですし」
「うわぁ!? 刀夜くんまで落ち込んだ!?」
「繊細だなお前らは……」
心が折れるような事件はあったもののとりあえず閉じられた檻を鍛冶魔法で破壊して大部屋から出る。
「はぁぁぁぁ…………」
「ご、ごめん。そんなに気にしていたの?」
「だって……事あるごとに鈍感鈍感って」
なんでこんなにも言われるんだろうか。いや、俺が人の気持ちに鈍いのなんて自分でも分かっていることだが。
「確かにご主人様は鈍感ですがそれを大きく超えてしまうくらいに魅力が詰まっております! むしろ鈍感なところも可愛らしくて私は大好きです」
「ルナ……」
「…………流石。……一瞬で刀夜の表情が変わった」
本当にルナは俺の扱いを心得ているな。うん、心折れたけどルナがそれを魅力に感じてくれているなら問題ないな!
「ふ〜んふふ〜んふ〜ん。あ、邪魔」
鼻歌を歌いながら壁から突き出てきたムカデみたいな魔物を銃殺する。そういやダンジョンだったな。普通の魔物も存在するのだろう。
こいつらは普通の魔物すら操ることが出来るだろう。魔人よりも強力な魔物なんて早々いないからな。
「鼻歌歌ってる奴のする行動とは思えねーな……」
「う、うん。怒らせると怖いです……」
ムイとミケラが少し俺を見て怯えていた。何だよ、そんなに悪いことしてるのか?
「また何か鈍感とか言うんじゃないだろうな?」
「いや……異常者ってこういうやつなのかなーと思ってな」
「酷いこと言わないでください! ご主人様は異常とは程遠い素敵な方です!」
「そうよ! 勝手なこと言わないで頂戴!」
「ん…………訂正を要求」
「そうだよ! ミケラさん酷いよ!」
「あぁ! 刀夜殿に謝るんだ!」
うお、全員から総攻撃掛けられてるんだが。
「いや、俺が異常者なのは自覚してるからいいんだけどな?」
「どうして鈍感の方で落ち込むのに異常者だと平気なんだろうね……」
「やっぱり変わってるなお前……」
そうだろうな。俺は世間一般が取るだろう行動を取らない。その点からしてもう変わっているのだろう。
「でもそれはお前らには言われたくないんだが? ここにいる全員変人の塊だろ?」
「あれ、ルナさん達も入ってるの?」
俺がルナ達を含めたことが意外だったのかキョトンとするムイである。
「ルナ達含めてな。まぁだから好きなんだが……」
多分他の奴らに魅力を感じないのだと思う。その醜さを知ってしまっているから。
「そしてお前らも否定はしねーと」
「ご主人様が好きだとおっしゃってくださるなら変人でも構いません」
「ん…………問題なし」
「うん。刀夜くんが気に入ってくれてるからね」
「刀夜殿が気に入ってくれているんだ。何も問題はない」
「否定する意味なんてないでしょう? 刀夜さんが私たちの好きなところだもの」
「ガウガウガウガウ!」
本当に否定しない。それどころか肯定されてしまった。
「刀夜くんのこと本当に好きなんだね……」
「刀夜はよく心配してるけど浮気の心配とかねーんじゃねーか?」
「こいつらにその気はなくても向こうは惚れるに決まってんだろ。何があるか分かったもんじゃねぇよ」
「あ、決まってるんだ……」
当たり前だ。むしろこいつらを見て惚れない男の方がどうかしている。同性にもファンがいるくらいなんだぞ?
なんて無駄話をしているうちに大きな広間へと出てしまう。中央には見慣れた魔人、浅野が立っている。
「萩くん、久しぶりだね」
「…………浅野」
話している分には普通だ。だがなんだろうが、違和感はある。
久しぶりの再会で浅野はこんな反応をするだろうか? 学生時代から変わっていないとすれば大騒ぎするように喜ぶはずだ。
「…………キミのおかげで僕はこんなにも強くなれたよ」
「…………」
こいつは浅野じゃねぇな。浅野はこんなにも醜く嗤うような奴じゃなかった。成長するにつれて心の変化はあれど浅野は自殺しようとするくらいまでに追い詰められてもその本人達を恨みこそすれやり返そうとはしなかった。そんな簡単にその感情は変わらない。
和やかな空気が一転して張り詰めたものになる。チクチクと刺さるくらいの殺気が肌を刺激する。
その一瞬、瞬きも許さないような一瞬に浅野の姿はそこにはなかった。
「っ!」
空間制御魔法で虚空に出来た亀裂。そこから伸びてきた腕をなんとか掴む。
「ふっ!」
浅野を引っ張り出すように力を込める。上半身を引きずり出された浅野だったがもう片方の腕が突き出される。
俺は咄嗟に腕を離してしゃがんでそれを躱す。腹に力を込め、右足を軸にかなり強引に身体を回転させると回し蹴りで浅野の頬を蹴り上げる。
浅野は蹴られた衝撃をなんとかすることもなく新たに展開した虚空の亀裂に入ってその姿を消してしまった。
「…………」
二手に分かれるならこのタイミングか。出来れば向こうの研究所で分かれたかったが仕方ないだろう。
「二手に分かれる。適当に戦力が分散するように分かれてくれ」
「ん…………」
俺の元へ残ったのはアスール、コウハ、ミケラだった。残りの全員は研究所へと向かわせる。
浅野が出てきたということは戦力の移動が完了した可能性が高い。しかし厄介なメディシーナ・リーベの方へ戦力は傾けたい。丁度良いバランスだろう。
「ふぅ……」
アスールは補助として、コウハは大剣で浅野の角を切断出来るように、ミケラは援護という流れだ。
後衛がいないのは痛いところだがマオしかいない点を考えると向こうにいてもらった方が安心だ。敵の殲滅には銃が扱えるルナとアリシアもいるしな。
「さて……やるか」
亀裂から姿を現した浅野の顔は酷く無感情だった。やはり操られていたのだろう、心の変動が激し過ぎる。油断させる為だったのかもしれないな。
「うむ、絶対に解放してみせる!」
「まず動きを止めねーとな」
「ん…………防御魔法もいつでも準備完了」
全員浅野を殺すという選択肢を取らない。ミケラは予想外だった。しかし俺の意を汲んでくれているのだろう。本当に変人だが良い仲間達だ。




