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第55話 作戦会議は長話で提案しよう

 真新しい戦闘服に身を包み、俺達は玄関先で集まっていた。


「さて、どっちから攻める?」


 もう1人の魔人の元へ行くか直接元凶を攻め落とすかの二択だ。俺としてはもう決まっている。


「僕はメディシーナ・リーベがいいと思うよ」

「俺も同じくだな〜」


 ムイとミケラは同意見のようだ。短期決戦が望ましいこの状況下では愚行と言えるかもしれないが敵が強大過ぎるのだろう。


「理由は?」

「俺は単純にリケラのこと絡みだな〜。私的で悪いな」

「いや、それで構わない。ムイは?」


 ミケラのそれは仕方ないことだろう。だからこそこれは分かっていた。


「僕は戦力を削る方が得策だと思ってね」


 確かに未知の敵に挑むのならそうするのが定石だ。わざわざ一気に突破なんて不可能に近いことをしたくはない。その考え方もよく分かる。


「私は元凶に挑む方がいいと思ってます。いつフレイ様やクロ様ヒカリ様が暴走するか分からないです」

「ん…………私も」

「私も同意見だ」


 ルナ、アスール、コウハは元凶派。優しいのが理由だな。うん、流石俺の嫁。


「私は……うーん……なるようにしかならない気がしてきた」

「私もね。どちらにしても両方叩かないといけないものね」


 順番じゃないというのも提案の1つだろう。どちらでも良いというのは優柔不断に思えるかもしれないが現実を直視するとどちらが最善かなど分かるはずもない。

 さて、残るは俺だけなのだから何やら全員から期待されたような目を向けられてるんだが?


「…………その目はなんだ?」

「いや、刀夜くんならみんなを納得させるようなこと言うんだろうなぁって思って」

「ま、刀夜だからなぁ〜」


 何その期待値の高まり方は。嫌なんだがこれ……。


「納得するしないなんて分かるかよ。まぁ俺の答えとしてはひとまず本陣に乗り込む、だな」


 なんだその理由を聞きたそうな顔は。まぁ話せばいいんだが……。


「ムイとミケラは知らないだろうが獣人殺しと俺達が呼んでいる……まぁ仮に魔物の細胞を身体に入れられた暴走状態とでも言うか。それらにはタイムリミットがある」

「タイムリミット?」


 ミケラには悪いが一情報として我慢してもらうとしよう。


「リケラとの戦闘中、途中で暴走状態が解けたことがある。その点から見ても時間制限付きだ。魔物の血が薄まるのか、人間の構造上唾液や汗として排出されるのかは不明だがな」


 だがこの情報はやはり生きてくる。向こうが隠そうとしていたのだから余計にな。


「リケラの持っていた薬は身体の変化を抑制するものだろう。だからクロがいたあの研究所で変質した研究員達は身体が大きく変化したんだ」


 ここまではまだまだ前置き段階だ。ここから仮説を組み立てる必要があったからな。


「時間制限は付きながらも恐らく暴走状態にするタイミングは奴らの自由だ。それは魔人の洗脳状態と酷似しているからな、首謀者の仕業だろう」


 全員が興味深そうに聞いている。何この羞恥プレイ。逆に質問してやるか……。


「じゃあとりあえずルナ、なら何故薬を打つ必要があると思う?」

「え? それは……人間の姿を保ちたい理由があったからじゃないですか?」

「それは確かに可能性としてはあるかもしれないが恐らくはノーだ。前回の研究所で遭遇したキマイラを見るに容姿そのものはあまり関係がないように見える」

「つまり人間として使用しないと機能しないから……?」


 ムイが核心を突いた言葉を告げる。


「俺はそう睨んでる。実験台としてエルフ族や獣人族はいただろうが成功したケースは人間だけだった。身体に変質はあったものの人間の容姿は完全に消え去ってはいなかったからな。恐らく人間以外に魔物の血に適合する奴はいないんだろう」


 人間は全ての種族の中で一番中途半端な種族と言えるのだろう。いや、エルフ族や獣人族の血が拒否反応が強いということかもしれない。


「キマイラは完全に支配下に置いていたわけじゃない。だからこそ俺達と戦わせて実験としたと考える方が自然だ。わざわざあんな実験場まで用意したんだからな」

「それと本陣が何か関係あるのか〜?」


 若干不機嫌そうなミケラ。確かにこの情報はリケラの犠牲を元に成り立っているからな。申し訳ないことをしているとは思う。


「ここまではただの前置きだ。まず魔人の能力に関してだが恐らくマオが最初にリケラに挑んだ時にあったっていう特殊な防御魔法ってのは浅野の空間制御魔法のことだろう。空間を分断してしまえば攻撃全てを無効化することが出来るからな」

「確かにそうかもしれないわね。それなら刀夜さんの姿を確認して助力を取り消したとしても不思議ではないわね」


 その通りだ。あの時に操られていたのはリケラのみだと仮定すればそれも納得は出来る。


「そしてもう1人の魔人の能力は薬の製造。戦闘向きじゃないと言っていたが恐らく一番脅威なのはこいつだろう」

「あえて危険を避けるってことかな? 確かにその方が安全だね」

「いや、そうじゃない。まぁ最後まで聞いてくれ」


 確かに安全なのはどちらかと言われればぶつからない方が安心だろうが恐らくそれは無理だろう。むしろ野放しにする方が面倒な可能性が高い。


「さっきも言ったがメディシーナ・リーベが一番脅威なのは確実だがこいつは戦闘や補助の要であり一番厄介なのは別にある」

「…………そうなの?」

「あぁ。浅野 ユキ。あいつの空間制御魔法の方がこの状況下では厄介だ」


 全員キョトンとしてるんだが……。


「フレイくんの話では浅野くんが一番弱いんだよね?」

「あぁ。恐らく浅野の空間制御魔法は一面にしか作用しない。多角的な攻撃は有効だろうからな」


 つまりは特に複数人との戦闘が一番苦手なはずだ。もちろん能力はそれだけじゃないがな。


「加えてあいつは気配を完全に遮断することが出来る。感覚的に身体が勝手に動く俺達からすれば面倒な相手だろうな」


 意図的に気配を囮に空間制御魔法で攻撃などをされると厄介だ。もちろんクロの瞬間移動と魔力装備生成魔法の方が厄介だったが。


「でも俺が厄介だと言ってるのは何も戦闘面の話じゃない。あいつは距離の概念ってのがない。メディシーナ・リーベって奴の研究所と本陣を自由に行き来出来る」

「つまり浅野くんとは必ずぶつかるってこと?」

「そういうことだ」


 とりあえず一息吐く。浅野が確定で出て来るならば厄介なことこの上ないだろう。魔人が最低1人は相手をする必要があるからな。

 だからこそあえてその道に突き進む。いや、隙を突くという言い方の方が正しいか。


「リケラの時に情報を隠そうとしたのはメディシーナ・リーベの方だ。わざわざ時間が戻る薬まで仕込んでいたくらいだからな。メディシーナ・リーベは用心深い性格で頭が切れるだろう。だが首謀者は別だ。あんなに情報を残したり、獣人族の罠に引っ掛かったりと明らかに警戒心が薄い。この事から攻めやすいのは首謀者の方だと判断出来る」

「それが理由か〜。確かに納得出来るなぁ〜」


 あれ、なんか勝手に納得されたんだが。


「待て待て。まだ話には続きがある」

「そうなのか〜?」

「あぁ。つまり攻めやすいのは首謀者だ。だが結局はメディシーナ・リーベも潰す必要性がある」

「そうだね」


 こいつは生かしておくには危険過ぎる。これ以上リケラのような奴を排出させるわけにはいかない。


「だが浅野には距離感の制限がなく、加えていつでもメディシーナ・リーベの研究所から暴走状態の人間を連れて来られるわけだ」

「確かにそうですね……あれ? では結局どちらを選んでも変わらないんですか?」

「あぁ。今の所は相手にする規模としては同じと考えた方がいいだろう。魔人の魔力量はほぼ無尽蔵。正直現状ではキツイ」


 つまりは現在ではどちらを選んでも結果は変わらずキツイということだ。だからこその攻略法である。


「警戒心の薄い首謀者といえど馬鹿じゃないはずだ。俺達が本陣へ乗り込めば間違いなく迎撃に出るだろう。当然研究所からも戦力を浅野に派遣させるはずだ」


 ここまで来ればあとは結論だけだ。俺の立てた作戦に何やら全員既に納得顔だが。


「だから俺達は一旦本陣へ向かう。ダンジョンである向こうでは転移魔法が使えないだろう。向こうの戦力を揃えるのを待ってからすぐ様離脱、戦力を整わない間に研究所を潰す。薬が切れた人間は暴走状態を維持出来なくなり結果として本陣の戦力もダウンする」


 リケラを参考にすれば暴走状態の人間はライジンの速度程度。俺達は更に改良を重ねていることから速度では簡単に優っている。

 ダンジョン内で転移魔法を使えない。そして逆に浅野は使えるだろうが分散して配置した戦力をすぐにまた集めて研究所へ送り込むのには時間が掛かるだろう。その隙を突いて手薄の研究所を潰して脅威であるメディシーナ・リーベから潰す。


「以上だ。異論反論あれば論破してくれていいぞ?」

「1ついいか?」

「ん?」

「それだと俺達が今日攻め込むのが分かってるはずだろ〜?」


 確かにその通りである。気付いていなければ戦力を揃える必要がない。故にその前提がなければ俺の作戦は成り立っていない。


「言ったろ? クロの研究所へ行った時に情報漏洩を防ぐ為に研究員を暴走状態にしたと。これはメディシーナ・リーベである可能性は高い。そしてメディシーナ・リーベは暴走状態の人間や魔人を介して情報を得ている可能性も高いだろう。じゃないと絶妙なタイミングで暴走なんて出来ない上に絶妙なタイミングでクロが帰ってきたからな」

「確かにそうだな〜。あ、俺達クロとヒカリに5日後って話してるな」

「そういうことだ」


 あれ、なんか俺が論破してしまった。


「といってもスピードが命。途中で二手に分かれる可能性も大いにあり得る危険なものだ。嫌なら普通に言ってくれていいぞ」

「二手に分かれるんですか?」

「あぁ。浅野が単体で向かってきた場合にな。メディシーナ・リーベは放置出来ないが浅野も放置しちまうと戦力増強される可能性は大いにあり得る」


 メディシーナ・リーベを潰す役割と浅野の時間稼ぎの役割が必要だ。個人的には前衛職が2人、あとは魔法が優れるルナかミケラ、サポートにアスールとリルフェンが望ましい。


「やっぱり凄いね刀夜くん。異論はないよ」

「危険なのも今更だものね」

「ん…………流石刀夜」


 お、おう、ベタ褒めだなおい。ひとまず話がまとまったところでさっさと向かうとしよう。


「アスール、マオ、夜の約束忘れてないよな?」

「えぇ、もちろんよ」

「ん……当然」


 緊迫した空気というのは思考を鈍らせる。あえて俺は至って普通の声で、しかし全員に聞こえるように言い放つ。


「エッチするために1日で終わらせる」

「えぇ!」

「ん……!」

「わぁ……理由が凄く不純だね……」


 全員から微妙な表情をされてしまった。空気を緩和させるためとはいえ若干恥ずかしいなおい。


「いいから早く行くぞ……」

「…………刀夜照れた。……マオも顔真っ赤」

「う、うるさいわね。早く行くわよ……」


 赤面するマオにニヤニヤしてしまう。アスールは無理か。ちょっと残念。

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