第32話 ツンデレ美女は可愛い(確信)
翌日の早朝、何やらムニュッとした心地良い感触が手に伝わる。これは何なんだろうか? そういえば昨日はあのままマオと一緒に寝たんだっけか。ということはこれはマオの身体か。
しかしこんな感触がするのって胸くらいなんだよな? でも昨日は致してないからブラは付けてるはず……。
「んぅ……」
もっと揉んでいたいくらい気持ち良い感触なのだが今日はマオとデートの約束だ。起きて支度して朝ご飯の用意を……。
目を開けると眼前に迫るマオの真っ赤な顔。そして俺の手は見事にその胸を揉んでいるわけだが……しかも鷲掴み。
「まさか普段からかっていたことを実際にされるとは思わなかったわ」
確かにいつも胸を触るかどうかと誘ってくるな。しかし……はて?
「…………ブラは?」
「刀夜さんは柔らかい方が良いと思って取ったのよ。胸に顔を埋めて寝ていたからそちらの方が良いと思って」
マジですか。ということは俺は今ノーブラ状態のマオの胸を揉んでいるわけだ。
「…………夢ってことにして二度寝していいか?」
「えぇ、別にいいけれど。それにもっとおっぱいに甘えなくてもいいの?」
「それは是非」
魅力的な提案をされたのでつい頷いてしまう。胸から手を離すとマオは恥ずかしそうにしながらも俺を抱き締めてくれる。
柔らかい感触が頬いっぱいに広がる。加えてマオが優しく俺の頭を撫でるものだからより一層睡魔がやってくる。
「刀夜さん可愛いわね……」
「んー……」
生返事をしながらゆっくりと目を閉じる。気持ち良い……。癒される…………。
「ねぇ刀夜さん……」
「んー…………」
「今日はデートをやめて……このまま2人きりでイチャイチャしましょうか?」
デート……あ、そうだった。デートしないと。というか元々マオの気が晴れるようにということだったはずだ。
それに昨日あんなに恥ずかしそうにしながらも嬉しそうにしていた。俺がここで行かないと言うわけにはいかないだろう。
「いや……行こう」
「あら、もういいの?」
「あぁ……」
名残惜しいが仕方ない。マオの胸から顔を離して上体を起こすと身体を大きく伸ばす。
「おはよう刀夜さん」
「おはようマオ」
朝の挨拶を交わすマオは少し嬉しそうだ。そんなにデート行きたいのにあんな提案してくるなんてな。素直じゃないのがちょっと可愛い。
朝食を終えるとマオと一緒に家を出る。ルナが出迎えに来てくれたのだがその顔は不満そうだ。
「きょ、今日だけですから! 今日だけは譲りますけど明日からは私も一緒に行きますから!」
昨日のマオのことを考えて今日は譲ってくれるということだろう。ルナもマオのことは心配していたのだろう。
「あら、そんな余裕を見せていいの? 今日のこの間に私が刀夜さんを奪っちゃうわよ♡」
「なっ!?」
いきなり腕を絡めてくるマオにルナは驚いた表情を浮かべた。
「それじゃあ行きましょうか」
「むぅ…………!」
「えっと……い、いってきます……」
頬を膨らませてえらく不満そうなルナ先生。しかし今はマオのことが優先だ。ルナもそれが分かっているのだろうが本当に不機嫌そうだった。
家を出るなりマオはクスクスと笑う。笑い事じゃないんだが?
「ルナちゃんも可愛いわね」
「それはそうだが……」
だからといって関係性を危うくさせるのはやめて欲しいものだ。まぁ今更こんなので引き裂けるほど容易い関係でもないんだが。
「さて、どこに行きましょうか?」
「買いたい物があるんじゃないのか?」
そういう話だったはず……。むしろデートだと提案したのは俺だよな? 元々買いたいものがあるからとかだったはずだが……。
「そ、そんなの……」
「ん?」
頬を赤く染めてモジモジしているマオ。何か言いたいことがあるのか?
「あ、あなたを連れ出す為の方便に決まってるでしょう……」
「そ、そうなのか?」
俺を連れ出す為の方便? ということはやはり2人きりになりたかったということなんだろう。
マオはポケットから俺の手を無理やり引き出すとギュッと握り締める。
「ほら、早く行きましょう!」
「お、おい、引っ張るなよ……!」
誤魔化したな。恥ずかしがっているマオは可愛いな。
「な、何ニヤニヤしてるのよあなた!?」
「いや、別に」
「嘘でしょう!? 絶対何か思ってるでしょう!?」
相当ニヤニヤしてしまっていたらしい。というかマオが可愛過ぎて仕方ないんだが? 何こいつ、昨日とは全然違うんだが。
俺もちょっと顔赤くなって来たかもしれない。俺の表情を見てかマオは目を大きく見開いた。
「な、何? どうかしたの? か、風邪?」
「いや、風邪じゃないから」
マオのツンデレは天然なのだろう。心臓に悪い。というか色々とドキドキさせられてしんどいな。今日1日持つだろうか?
住宅街にやってくるなり俺とマオはげんなりする。人多い。多過ぎる。
「こいつら全員の股打ち抜いてやろうかしら」
「え」
マオのとんでも発言は周囲の男にも聞こえてしまったらしい。全員顔を真っ青にして振り向いた。
「はぁ……刀夜さんさっさと行きましょう」
「そうだな」
マオが欲しそうなものとかあるか? せっかく行きたくもないショッピングモールに行くんだ、ついでなら欲しいものなんでも買おう。どうせ俺の金だしな。
他の人を無視してショッピングモールへ。ふと目についたヘアブラシを発見して確認する。
「刀夜さんブラシなんて欲しいの?」
「ん? まぁそうだな。5本」
「どうして? って聞くまでもないでしょうけれど」
マオはブラシを手に取ってじっくりと眺める。
「聞くまでもなく分かっちゃうのか」
「えぇ。晴れの時用、雨の時用、それに湿気が凄かったりした時なんかに使い分けるんでしょ?」
「え、そうなのか?」
そんな話聞いたことないんだが。マジか、ということはもしかして5本じゃ足りないのか?
「え、違うの!?」
「あぁ。お前は用だったんだがそうか……5本じゃ足りんのか」
「お前ら用って……ああ、ルナちゃん達のこと?」
「あぁ。もちろんお前にもな」
こういうのってどういう風に選べばいいんだろうか? やっぱり髪質から考えた方がいいんだろうか?
「これはクッションが付いてんだな」
「えぇ。そういうので髪にダメージを与えないようにしてるのね」
「へぇ……」
そうなのか。余計に選びにくくなったぞ……。
いや、無理に今買う必要がないよな? それじゃあマオの分だけでも選ぶか。
「マオはどういうのがいいんだ?」
「え、私?」
「俺はどういうのがいいのかよく分からん」
こういうのはなんというか……俺とは無縁のものなんだろう。自分のヘアブラシとかないしな。男だからあれだが。
「私は髪質から猪毛ね。猫っ毛なのよ」
「…………まぁ半分猫だからな?」
何当たり前のこと言ってんだ?
「そういうことじゃないわよ。細い髪の毛のことを猫っ毛というのよ」
「そうなのか」
知らなかった……。やっぱり色々とあるんだな。
「髪が傷みやすいからケアが大切なのだけれどね」
「そんな悩みがあるのか。流石女の子って感じだな」
「刀夜さんは気にした様子がないわね」
「まぁそうだな。長くも短くもなけりゃいいって感じだ」
マオは俺の髪に触れるとクスリと微笑む。
「長くても短くても似合いそうだけれどね」
「お、おう?」
そうなのかな。というかそもそもそんなこと気にしたこともないというか気にしたこともないというか。
まぁ自分で適当に切ってるからな。最近は刃物の扱いに慣れたせいかピッシリ揃ってしまったりするんだよな。
「……そういえば刀夜さんって髪長くならないわよね? もしかして異世界人って髪が伸びないのかしら……」
「いや、自分で切ってるだけなんだが」
「そ、そうなの!?」
まぁ金がなかったからな。散髪屋とか行くのが嫌だっただけだ。店員に話し掛けられるのも嫌いだしな。
「へぇ……綺麗に仕上がってるわね」
「そうか?」
「えぇ。私も刀夜さんに切ってもらおうかしら?」
うーん……それは全然いいんだが。とにかく俺が不安だ。
「マオはどうしてるんだ?」
「私も自分でよ。けれど刀夜さん程上手くはないわよ」
「そうか?」
俺もマオの髪に触れる。普通に綺麗だし違和感もない。
「お前も上手いと思うけどな。むしろ俺がお前に髪切って欲しいくらいだ」
「本当? ならしてあげましょうか?」
何でそんなに嬉しそうなんだ。いや、こいつが世話好きなのは分かってるというか。世話好きというより姉御肌なだけなんだが。
マオを喜ばせるならこういう方向性の方がいいのか? ルナやアリシアも世話好きだがあいつらは甘える方も好きだ。マオだけなんだよな、甘えさせたいっていうのは。
「なら頼もうかな」
「あら、随分と素直なのね?」
素直なんかじゃないんだがな。ひとまず嬉しそうだしこういうのを繰り返して気晴らしになってもらおう。
「それでマオはどれがいいんだ?」
「そうね……あら、これなんて可愛いわね」
マオがピンク色に白い花の柄が付いたヘアブラシを手に取った。随分と可愛らしいな。
「けれどわたしには似合わないわね」
「そうか?」
「えぇ。こういうのはどちらかというとルナちゃんやアリシアちゃんのイメージがあるわね」
確かにあの2人は可愛いもの好きだからな。そういうのも好きなのだろう。特にアリシアはぬいぐるみとか抱き付いちゃうくらい可愛いもの好きだしな。
でも別にマオがそういう物を持っていたとしても不思議じゃない。
「俺はこういうのあってもいいと思うけどな」
「そ、そう?」
「あぁ。可愛いし、マオが持っていてもいいと思うんだがな」
マオは目を大きく見開いてキョトンとする。
「姉御の私が持っていても仕方ないでしょう?」
「自虐に走んなよ……。いや、実際姉御だと思ってるが。でもいいんじゃないか?」
「は、はあ……」
全く納得しとらんな。はっきり言わないといけないみたいだが恥ずかしいな。
「いや、あの……」
「な、何よ?」
「マオも可愛いんだからそういうの持ってても変じゃない。むしろ似合う」
「ほ、本当?」
不安そうに聞いてくるマオに俺は少し微笑んで頷いた。コウハみたいだな。女の子らしいっていうのを求めるというか。
「なぁ姉御」
「な、何よ……?」
姉御という言葉に反応してマオがムッとする。やっぱりお姉さんは良いのに姉御は駄目なのな。
というか自分で姉御って言ったのになんで不機嫌そうになるんだよ。まぁあんまり納得がいっていない評価ながらも自覚はしてるってことか。
「可愛いんだから自信持てばいいんじゃないか?」
「…………はぁ、他の人がどう思おうが関係ないわよ」
マオは盛大に溜息を吐いた。しかし勘違いしてるようだ。
「そうだな。だから他の人じゃなくてだな」
「え?」
「俺が、可愛いと思ってるから自信持て」
「な、なな!?」
マオは顔を真っ赤にした。それはもう盛大に。しかし尻尾がピーンッと立っている。猫の反応だと尻尾が立っている時は甘えてたり嬉しかったりする時の反応のはず。
今のだけでも嬉しそうだ。恥ずかしいが言って良かった。
「な、何いきなり恥ずかしいこと言ってるのよ。デートに浮かれ過ぎよ」
「…………お前さては照れてるな?」
「なっ!? ちょ、調子に乗るんじゃないわよ!? 最近ちょっとからかうのが上手くなったからって私にはまだまだ遠いんだからね!」
「そうだな」
本当に今日のマオは可愛い。それにツンデレだ。ツンが妙に割り増しされている。いつもと違うからだろうけどな。
でもこうして同じ時間を重ねて気が晴れるのならそれでもいい。いや、その方が良い。
「ねぇ刀夜さん」
「ん?」
「これ、買ってもいいかしら?」
マオがヘアブラシを持ち上げる。しかしそれは容認出来ないな。
「駄目だ」
「え……?」
目を大きく見開くマオ。その隙にヘアブラシを奪ってレジへ向かう。キョトンとしたまま固まってしまっているマオに手渡した。
ヘアブラシと俺を交互に見ていた。まだ状況を理解していないようだ。
「デートなんだから男に見栄を張らせろよ」
「あ、な、あ、あぅ……」
あぅってなんだ。しかも顔を真っ赤して俯いてしまって。も、もしかして俺何か間違えたか?
「…………早く行こ」
「お、おう?」
顔を真っ赤にしたマオは控えめに俺の手を握る。やっべぇ、さっきの照れ隠しもあってかめちゃくちゃ可愛い。これがツンデレの力というものか。




