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第31話 ツンデレ美女は可愛い

 施設を破壊した翌日。マオの浮かない顔が気になって武器を作る作業にも全く集中出来なかった。

 獣人殺しのことはマオも気にしていたことだろう。俺も色々と気になることはあった。

 マオが初めて俺達に依頼を出した時に言った言葉だ。あいつは確かにこう言っていた。

 こちらの攻撃が全て何かによって防がれてしまうのよ、と。

 これはつまるところ魔人の能力なのではないだろうか? 何らかの形で魔人が獣人殺しを補助していたのだと。

 そうでなければ俺が戦った時にも同じようなことが起こっているはずだ。しかし俺達が戦っている時には防御魔法のようなものは一切使われなかった。

 研究所の資料を読む限りでは魔人と獣人殺しのそれは若干似ている。そしてフレイの話を思い出すとある仮説が立てられる。

 獣人殺しというのは操られていたのではないか、と。

 薬が原因だと考えていたが逆。薬は抗体ではないのかと。そして抑制しながらも身体能力を向上させて操っていた。

 研究員達は逆にその薬がないからこそ身体がどんどんと膨張したりしていたわけだ。そうなるとあの薬はむしろ打っておくべき代物だったのかもしれない。

 それに加えて時間を戻す薬。あれも能力の一環だと考えれば……納得が出来ないこともない。

 確かポーションなどのアイテムはそういったものから作られている。そのポーションも考えれば俺の鍛冶魔法と同じように製薬魔法によって作られている。

 その一次元上の魔法。その魔人特有の能力によるものであれば納得はいく話だ。

 もちろん全て仮説であり検証は行えない。ひとまずは武器を作ってクロとかいう魔人を迎え撃たなければならないわけだが。


「あー、集中出来ん」


 やはりマオの顔がチラつく。俺が何か出来ることはあるだろうか?

 居間に戻るもののマオの姿はない。もしかして部屋か?

 マオの部屋に向かうとノックする。流石にいきなり開けて入ったりはしない。


「どうぞ」


 マオの許可が入ったのでドアを開ける。すると思いっきり着替え中だった。


「え、何故……」


 俺ちゃんとノックしたよな? それにどうぞって声掛けられてから入ったよな? 何で着替え中!?


「ふふ、顔真っ赤ね♡」


 言いながらマオはジャージのような緑の部屋着に袖を通す。し、下はちゃんと履いてるからいいんだけどな? く、黒いブラが見えてるんだが。


「……ふふ、開けておきましょうか?」

「は?」

「見ていたいでしょう?」


 言いながらマオはチャックを上げて腹を隠した。でも胸隠れてませんよ! 開けておくってそういうことかい!


「顔真っ赤にして視線釘付け♡ やっぱり刀夜さんも男の子ね♡」


 こ、これは誘っているのだろうか。というかそうだよな? もうゴーサインだよなこれ。

 俺はマオのそばまで寄ると頬に手を添える。ここで勘違いなどしない。これは虚勢だ。確かに魅力的だが無理してまで別のことで頭を埋めようとしないで欲しい。

 片手でチャックを掴むとゆっくりと上げる。マオは目を大きく見開いてキョトンとしていた。


「刀夜さん?」


 指で頬を優しく撫でるとマオをベッドに押し倒す。目を閉じたので俺は優しく唇を合わせた。


「ん……」


 抵抗することなく受け入れてくれることが嬉しい。マオもこうされることを望んでいたのかもしれない。


「今日は随分と積極的ね。でもまだお昼よ?」

「そうだな……。流石にこれ以上はしないぞ?」

「そうなの? 私としては抱いて欲しいのだけれど」


 やっぱり誘ってたっぽい。でも俺は愛し合いたいのであって現実逃避の為にしたいわけではない。


「今のお前とはしたくないな」

「え……?」


 マオが目を大きく見開いて固まると次第に目尻に涙を溜め始める。え、な、何?


「もしかして……私のこと……嫌いになった……?」

「は? いや、何でそうなるんだ!?」

「だ、だって……」


 ちょ、何この勘違い!? あ、俺の言葉足らずのせいじゃねぇか!


「ち、違うって。ほ、ほら! 何か悩み事があるんだろ!? それを忘れる為のエッチはしたくないっていうかな!?」

「あ、そ、そういうことなのね……」


 安心したように息を吐いたマオは焦った俺の顔を見て少し嬉しそうに笑みを浮かべた。


「鈍いくせにそういうとこには気付くんだから……」

「え」


 マオは俺の頬に手を添えると上体を起こしてキスしてくる。長く、長く。時間的にはあっという間だったのかもしれないがそれでもかなり長く感じるくらいに長いキスだった。

 唇を離したマオは頬を赤く染めて幸せそうに笑みを浮かべる。俺はそういう表情に弱いのだろう。つい目を奪われてしまう。


「少し甘えてもいいかしら?」

「お、おう……」


 マオの方から甘えてくるのは珍しい。もちろん俺はいつでもどこでも大丈夫だが。

 ということで現在膝枕状態なわけだが……。


「なぁマオ」

「何かしら?」

「……お前直前に自分で何言ったか覚えてるか?」


 改めて聞いてみる。というか聞かなければならないだろう。


「刀夜さんは素敵ねって言ったわね」

「そうだな。でもその前は?」

「膝枕って言ったわね」

「そうだな。でももう少し前だ」


 マオは少し考える素ぶりを見せると思い出したように口を開いた。


「甘えてもいいかしらって言ったわね」

「そうだな。それで今の状況はおかしいと思わんか?」


 何故……俺が膝枕されてるのだろうか!? むしろ今の話の流れ的に俺が膝枕する流れだよな!?


「いいじゃない、別に。もしかして嫌だった?」

「そんなわけないが……やっぱり何かおかしい気がする」


 幾らマオが年上だろうとこれはやはりおかしい。確かにマオはあまり甘えないけどな? こういう時だからこそ甘えて欲しいのだが。


「私はこっちの方が嬉しいからいいのよ」


 そう言われてしまうと何も言えなくなってしまう。まぁ元々世話好きだからなこいつ。

 思えば過保護なのもこいつだ。俺の風邪を真っ先に心配してくれたりしていた。

 本人はこう言われるのを嫌がるのだがやはり姉御だな。頼りになるし甘えてるつもりが甘やかしているというのは姉御ならではだ。


「…………刀夜さんが気にするほど悩んでいないのよ」

「そ、そうなのか?」


 いきなり真剣な表情になんなよ……。もしかすれば心の準備をしていたのかもしれないが。

 マオは少し寂しそうな笑みを浮かべる。その表情はあまり見たくないな。心が痛むというのはこういう感覚なのだろう。


「ただあの獣人殺しも自分の意思のは関係なく巻き込まれた被害者だって思うとね」


 マオが相当恨んでいたそいつだが残念ながらそういうわけではないという点が浮上してしまったのだ。確かに悩むなという方が無理な話だ。

 大したことじゃないと言いつつもやはり気にしてしまうのはマオが優しいからだ。別の道を模索しているのかもしれない。

 しかし過ぎ去ってしまった過去のことを今更掘り返しても仕方がない。だから大したことない……か。


「……自分の意思に関係なく自分のことには常に責任が付きまとうものだと俺は思ってる」

「え? え、えぇ」


 無意識に、ついカッとなって、酔っていたから。そんなものが理由にはならないのだ。それが理由になるなら世の中から犯罪という数は極端に減ることだろう。

 俺が地球の考え方をしているから、と取れるがそれだけじゃないのだ。

 今回のケースもそれだ。例え誰かに操られていたりしたとしても自分がしたことに変わりはないのだ。その責任を取るべきは自分。そうでなければ例えばマオは誰を恨めば良くなるんだ? そういう話になってくる。

 恨む対象はどう転ぼうともそいつ自身になるのだ。直接手を下す意思はなくともそういう状況に追い込まれたそいつが悪い。

 もちろん不可抗力というのは存在してどこかで折り合いは付けなければいけないだろう。しかし罪自体は消え去るのかと言われれば違うと思う。


「だからお前があいつを恨むことは間違ってないと俺は思ってる。それにそんなこと気にするなんてお前は本当に……」

「その呆れたような顔はやめて欲しいのだけれど……」

「だって気にするだけ無駄だろ?」


 やれやれとわざとらしく肩をすくめるとマオは怪訝な目を向けてきた。


「あなたは私に対しては酷いことを言っていいと思ってないかしら?」

「…………痛いんだが」


 頬をつねられる。確かにそうかもしれないが普段からお前がそうなんだから俺もちょっとは言い返してもいいと思うんだが?


「ば、罰として明日私に付き合いなさい!」

「…………付き合う?」


 これはもしやデートのお誘いだろうか? ふむ……まぁ今武器を作ろうとしてもマオの事が気になってそれどころじゃないだろうしな。


「それは構わないが……何するんだ?」

「買い物に付き合いなさい」

「買い物ね……。何買うんだ?」


 目的くらいあるんだろうけど何があるんだろうか?


「そうね……色々と買い直したいものがあるのよ」


 実は何もないんじゃないか? デートしたいって言ってくれりゃ喜んでするんだがな。まぁ俺から言えばいいか。


「なら明日デートするか」

「そ、そうね」


 マオは少し頬を染めて頷いた。これが俗にいうツンデレというやつなのだろうか? ちょっと可愛いな。

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