第30話 研究所の調査は終わり、その結果に謎は深まるばかり
先に進むと俺たちを待ち受けていたのは大部屋だった。まるで実技試験だとでも言わんばかりの大きな部屋で上空には観察出来るようにかガラス張りの部屋が見える。
あそこまで行ってみるか? いや、仮にここがその実技試験場であればあのガラスは残念ながら破れない強度をしているだろう。
「なんだか見世物みたいで嫌ね」
「そうだな」
しかしその通りになるようだ。いきなり入口出口がガシャンと音を立てた。金属音に振り返ると見事に檻で閉じ込められた。
檻が金属製であれば問題ない。鍛錬魔法を使用すれば抜けられる。問題はその際に天井が開いたことだろうか。何か降ってくるっぽい。
「と、刀夜さん……」
マオが怯えた様子で俺の服の裾を掴んだ。こいつが怯えるということは魔人の類か。
降ってきたのは魔物だった。いや、人工的に造られた魔物と言うべきだろう。
ライオンと山羊の頭に蛇の尾を持ついかにもキマイラという感じの魔物だ。体長は10m程でかなり大型だな。
「あの魔物、物凄く色々なものが混ざってるわ……。人だけじゃなくて獣人族やエルフ族まで……」
「全部を?」
魔物をベースにしているだけでその実魔物ではなく本当に合成獣というわけか。リアルキマイラが目の前にいるわけだが。いや、キメラとも呼ぶのか?
問題はマオが怯える程に強いということだろうか。俺達も出し惜しんでいる場合じゃないようだ。
「まぁあんなのを野放しには出来ない。仕留めるぞ」
「え、えぇ」
「はい!」
上を見ると研究員が現れた。なるほど、本当に見世物だなこれは。
俺達を見たいのかキマイラを見たいのかそれとも両方か。とにかく俺達の手の内を見せるわけにもいかないんだが。
そうとも言ってられない相手だな。どうする? 温存は出来ないが手の内を見せたくはない。ならば……。
答えは簡単だ。認識出来ない速度で動けばいい。今までも研究員は俺達の動きにまるで付いて行けていない。観察したところで無駄だろう。
「紫電の矢!」
まずは手始めにマオが紫の雷を纏った矢を放った。ライジンにより超高速で放たれたそれだがいきなりキマイラの山羊の口が開いた。
展開された青い魔法陣から氷が放たれる。氷はマオの矢を見事に凍らせて動きを止めてしまう。
こいつはライジンの速度について行けている。なら本当に手の内を見せるしかないようだ。
「ちっ……!」
軽く舌打ちしながら俺は一気に距離を詰める。俺の動きを的確に捉える蛇の尾。ギラリと牙を見せて威嚇してくる。その牙から滴り落ちた紫の液体は予想通り毒のようだ。床が溶けて白い煙を発生させていた。
回り込むように走りながら側面から刀で斬り掛かる。
「おっと……!」
しかし蛇が大きく口を開けて威嚇。その際に飛んできた牙の毒が俺の前進を妨げる。
「グオォ!」
ライオンの首がこちらを向くと口を開く。赤い魔法陣が展開されて炎が噴き出してくる。
俺は咄嗟に短剣を創り出すと核目掛けて投げ込む。
「なっ!」
しかしその短剣が核に到達することはなかった。教え返された炎に俺はギリギリ身体を半身にした。
「うっ……!」
「ご主人様!」
「刀夜さん!」
これは思いの他痛いな。俺の半身が火傷で酷いことになっている。咄嗟に上級水属性魔法を挟んだのでなんとかこの程度で済んだ。
アスールがいないのだ、あまり怪我をして魔力を無駄に消費するのは避けたいな。
バックステップで距離を取ると山羊の口が開いた青色の魔法陣が展開される。
「させません!」
ルナも青い魔法陣を展開する。互いに発生した氷の礫がぶつかり合って相殺しあう。
ルナの魔法と同等、ということはこいつのそれは魔法使いのそれと何も変わらない威力を有しているということに他ならない。
厄介な相手だ……。こいつの魔法は展開速度も無駄に早いのが腹立つ。
ルナの魔法を目くらましに俺は背後に回り込む。前や側面は魔法を放たれる。しかも炎は俺の短剣を押し返す威力であり氷は礫の形状をしており短剣がそもそも届かない。
なら俺が攻略すべきは前の顔2つではなくこいつだ。
「シャー!」
蛇。一番危険ながら一番攻略が簡単な相手でもある。だからこそ俺は突っ込んだ。多少の魔力消費はやむを得ない。むしろ長期戦になる方が面倒だ。
「シャツ!」
伸びてきた首が俺に迫る。やはりライジンの速度にこいつは付いて来られる。しかしだ、だからなんだという話だ。俺が今までも俺はそういう相手しかして来なかったからな。
蛇の口をあえて右腕に噛ませる。毒が回ったせいか一気に紫色に染まる。しかしその腕は既に俺の身体には繋がっていなかった。
「シャァ!?」
「隙だらけだ」
体勢を低く、身体を捻りながら斬り上げる。腕を一本犠牲にしたのだ、このまま仕留めさせてもらう。
蛇の胴体を斬り裂き、更にその勢いのまま跳躍。身体を捻って回転しながら刀を振り下ろす。
「ケツから死ね化け物」
風魔法が纏った刀で斬り裂いて殺す。流石にここまですりゃ死ぬだろ。
「ご、ごご、ご主人様!」
「と、とと、刀夜さん!」
慌てた様子でルナとマオが駆け寄ってくる。その顔はとても青ざめていた。
「う、腕が! ご主人様の腕が!」
「あー、そうだな。ひとまずマオ、回復魔法で治して欲しいんだが」
先のない腕から大量の血が吹き出ていてとてもじゃないが大丈夫とは言えない。いずれ出血多量で死ぬんだが……。
「す、すぐ治すわ!」
マオが回復魔法を掛けてくれてなんとか元に戻る。風邪が治らない回復魔法も毒は治るのな。
斬り離した腕をくっ付けてもらうと軽く握ったり開いたりを繰り返す。完全に元通りだ。
「ありがとな」
「え、えぇ」
「さて、あいつらも殺しとくか」
流石にこちらの手の内を見せておいて生かして返す気はない。見たところ壁は金属だしな。
俺はライジンを使用しながら跳躍、風邪魔法でガラス窓の横の壁へとくるとその壁に刀を打ち付けた。
柔らかくなった壁を蹴りながら中に入ると研究員を睨み付ける。
「ひっ!」
「高みの見物決め込んでるところ悪いが色々吐いてもらおうか?」
バレてしまっているのなら瞬殺する意味もない。情報を吐かせて終わらせるだけだ。
「ご主人様!」
「いきなり走らないでよ、もう」
2人も追い付いてくると壁際に研究員を追いやる。見たところ全員本気で怯えている。対抗する手段は持っていないように見える。
「お前らの戦力、魔人に関しての情報、この施設の規模、お前らの目的を言え」
「ひぃ!」
「はぁ……」
怯えて会話になりそうにない。こういう時は拷問とかすりゃいいんだろうか?
「早く話してください、時間がないんです」
ルナが水魔法で研究員の身体を凍らせる。それ逆効果じゃないか? 余計に怖がらせてないか?
「刀夜さんは疲れてるのよ。早く話しなさい」
恐ろしいくらい冷たい声音でマオは矢を直接研究員の首元に突き付ける。怖っ! この2人怖っ!
普段俺といる時はあんなに天使なのにな。どうしてこういう時はこんなにも怖いんだろうか?
でも理由が俺が疲れてるっていうことなんだよな。なんか心温まるな。でも流石に腕斬り離したのはまずったかな。
「せ、せせ、戦力はもうありません!」
「本当かよ?」
まだきちんとした獣人族とエルフ族の実験体を見ていない。戦力がないということは流石にないだろう。
「あ、あなた方のお連れの方々が全部終わらせましたから!」
「は?」
あいつらが? ということは無事ということなんだが。
ふと隣を見ると何やらモニターのようなものがある。もしかして監視カメラみたいなものか?
俺はその機械を確認する。なるほど、そういう感じなんだな。社会人舐めんな。こういう機械の扱いは得意な方だ。
適当にいじると画面が切り替わる。大量の水槽の部屋が見えるのだがその全てが割られていたり別の場所に切り替えると大部屋で大量の死体があったりしていた。
もしや本当に終わった? マジで?
「さっきのが最終兵器だったんですよ!」
「あっさり殺すとか酷いっす!」
散々人の命を無駄に扱ってきたこいつらにそれを言われたくないんだがな?
とにかくこの施設の規模は大体分かった。あ、奴隷がまだ生きてる。こいつらは救出するか。
「魔人に関しては何か分かりますか?」
「魔人って……あ、あの……何が目的なんですか?」
「あなた達に質問する権利なんてないわよ。いいからさっさと話しなさい」
マオさん怖いっての。でも俺も早く話を進めて欲しい。
「クロ様という魔人がこの施設を仕切っています! い、今はどこかへ行かれておりますが……」
「ふーん……」
ということはここがそのクロとかいう魔人の管轄というわけか。確かもう反対側の施設は浅野が管轄のはずだ。あいつが教育担当をしていたんだからな。ということはここで待っていれば来るわけか。
「戻って来る日時は分かるか?」
「20日程空けるとしか聞いてません! 今日で2日目です!」
なるほど。昨日出て行ったということは大体どういう状況が分かった。
あちらの施設が潰されたからそれを確認しに行っているのだろう。フレイとソルティアは良いタイミングで抜け出してくれた。お陰で魔人に気付かれずにこの施設を襲撃出来た。
「目的に関しては何か分からないのかよ?」
「世界を征服するとかなんとか」
「ガキかよ……」
そんな不可能なこと考えてるのかよ。まぁ確かに魔人の力は凄まじいからな。分からなくもないが。現実を知らな過ぎるんじゃないか?
「で、お前らの目的は?」
「目的というか……」
ん? 何やらいきなり口ごもった。此の期に及んで黙る気か?
「脅されてそのま……ま……」
「あ?」
いきなり研究員達の動きが鈍くなる。ルナとマオも少し不審に思ったのか距離を取った。
「がが……あがぁぁぁぁ!!!!」
「え、な、何!?」
「どうしたんですか!?」
苦しみ始める研究員達。ちょっと待て……これってもしかして?
研究員達の身体がいきなり膨れ上がる。白目を剥いて……こいつらは!
「もしかして獣人殺しと同じ……!」
俺は即座にライジンを使用すると氷魔法で動けなくなっているうちに研究員達の首を刎ねる。
この魔人事件。どうやら色々と獣人殺しにも繋がっていそうだ。
「…………」
俺は画面のモニターに近付くと適当に弄る。そこには様々な研究データなどがあった。
今覚える前にあいつらと合流してからの方がいいか。何が起こるか分からないしな。
監視カメラのようなものでアスール達を探すとなんとか見つけた。向かってる方向からこの施設の地図を出して見比べる。
「このまま進めばあいつらと合流出来る。まずはそっち優先だ」
「はい!」
「えぇ!」
俺達はドアを蹴破って部屋を脱出すると走り出す。
それから何事もなくあっさりとアスール達と合流した俺達はモニター室へと戻って来ると研究資料などを手頃な紙に書き写した。
写す作業は時間が掛かったもののやはり何事もなく無事に終わったのはあの研究員が言った通り戦力がもうなかったのだろう。




