第23話 組織の人間って見た目だけで案外弱いもの
木の上を伝うように移動して下の様子を確認する。なんというか、俺も若干人間離れしてきた気がする。普通木を伝って移動なんかしない。
まぁそれはそれとして洞窟から少し離れた場所。見張りは2人か。1人は斬り殺して……と思ったが気絶させるだけにしておこう。流石に連れ出した時にあの男の子に死体を見せるわけにもいかないだろう。
ガサガサとわざと音を立て、そして視認出来ない速度でその場から離れる。
「な、何だ?」
2人が上を向いた瞬間に後ろから回り込んで1人の男の顔面を蹴り飛ばした。壮絶な威力で蹴り飛ばされた男は眼前の木に顔面をぶつけてそのまま気絶する。
「なにも…の……」
慌てて振り返る男。しかし既に首元に刀を突き付けていた。男は両腕を上に上げて無抵抗を示した。
「色々聞かせろ。まず第一にお前らの戦力を教えろ」
「か、カイル・レイル様がリーダーです! 幹部が4人! 下っ端は色々なところに散っていてこの辺りにはいません!」
あっさりと吐いたなこいつ……。ということはまぁその程度の組織ということだろう。
「ひっ、い、命だけは!」
「そう言った奴らをお前らは遠慮なく殺したんじゃなかったのか?」
「そ、それは……」
自分自身がそれをしていて自分はされたくないなどふざけている。そんな覚悟で人を殺しているのかこいつは?
「まぁいい。質問に答えりゃ命までは取らない」
「ほ、本当ですか!?」
「あぁ。お前、魔人っていう種族に聞き覚えはあるか?」
「ま、魔人……?」
キョトンとされた。まぁこんな下っ端に情報は期待していない。だからそちらは正直どうでもいいわけだが。
「質問を変える。黒い目を持つ角の生えた奴に見覚えは?」
「ま、魔物じゃなくてですか?」
「あぁ。姿は人だ」
全力で首を横に振られた。こちらも残念ながら駄目か。さて、ここからが本題だ。
「次の質問。お前らの中で情報に通じた奴がいるだろ。そいつの名前と特徴を教えろ」
「し、下っ端に情報は渡されないので……」
こいつの言うことが信用出来るか出来ないかはちょっと考えないといけないな。そうなると1人目を気絶させたのは失敗だったか。
他の奴らが別の場所に出払ってるとなると聞くべきは幹部とやらだな。4人いるのかは知らんが。
「そうか。ならもうお前に用はないな」
「ひぃぃ!? ここ、殺さないでください!?」
「だから殺さねぇって……」
言いながらも腹部を蹴り飛ばして背中を木に強打させる。その痛みなのかあまりの恐怖になのか男は気絶してしまった。
さて、洞窟の入り口にいるわけだがどうやって侵入したものか。間違いなく入れば警戒されるわけだ。
最低限の戦闘で済ませたいのだが……まぁもう無理か。まだバレてはいないだろうが時間の問題だろうし。
しかしライジンはきちんと通用する。まぁライジンの速度に付いて来られる人間のほうが希少というか少ないのだが。
視認出来ない速度で駆け抜ければバレずに最奥まで到着するかもしれない。ちょっと試してみるのもいいだろう。
軽くその場で跳ねて準備運動。ライジンを使用しながら一気に駆け出した。
雷の閃光が周囲を明るくする。高速で動いているせいで風が発生してしまい壁に掛けられた松明の炎が消えてしまうのだ。
元々視認魔法で周囲は見えているのでこれは完全に俺のミスである。まさか明かりが松明だと思ってなかった。
駆け抜けるとかなり広い部屋へとやってくる。まだ先は続いているので最奥ではないのだろうが……。
広場には沢山の人がいた。しかし監視員やらそういう感じではなく一般人というのがしっくりくるだろう。
ボロボロの服を着て鉄球の付いた鎖に繋がれていてこれは明らかに奴隷じゃないだろうか?
「ぼ、冒険者か!?」
「あぁ。まさか奴隷がいるとは思わなかったが……」
「た、助けてくれ!」
すぐ様助けを求められてしまった。とりあえず女性は前を隠せ。ちょっと胸が見えてるだろうが。
「…………ちょっと待て。助けるのは後回しにしてくれ」
「な、何でだ!?」
「ま、まさか見捨てるの!?」
「違うっての」
必死になる気持ちは分かるがもっと冷静に考えて欲しい。とりあえずきちんと説明はしておかないと。
「お前らを転移魔法で移動させるにしてもカイル・レイルを潰さなきゃ二の舞になるだけだ。その分の魔力を残す為にもお前らを転移させるのは最後にした方が良い」
ついでにここにいる幹部連中含む全員を転移させるとなると相当な魔力消費だな……。やべぇ、もう詰まった感があるんだが?
「そ、そう……ですね」
「お前がカイル・レイルに勝てる保証なんてあるのかよ!?」
「そんなもん、やってみなきゃ分からねぇだろ」
まだ会ったことすらないんだぞ。それなのに判断など出来るはずもない。
「このクソガキ……!」
「お前助けられる立場なの分かってるよな……?」
なんでそんなに強気になれるんだ。そうなれるならここの連中にも強気で立ち向かえばいいのに。
「ん?」
いきなり何やら洞窟の奥から発光した何かが飛んでくる。これは炎魔法か。
中級属性魔法だろう火の玉を刀で斬り裂いて破壊する。すると次々に初球属性魔法が飛んできた。
俺はそれら全てを刀で斬り裂きながら奴隷達を守るように前に立つ。先程まで騒いでいた男も今では急に黙ってしまった。
「どうした? さっきみたく強気に出ないのか?」
「ぐっ……」
「俺が年下のガキだからと調子に乗ったのなら改めろ。俺はお前みたいなタイプが一番嫌いだ」
人を見た目で判断し対応を変えてくる。そういう大人が一番嫌いであり一番数が多いのが腹立つ。
「お見事ですねぇ。まさか私の魔法を全て斬り裂くとは」
広場へと入ってきたのは何やら執事服を着た男だった。金髪でくるりと回転するような癖毛を持つ長身の男だ。
もしかしてこいつが幹部か? まさか今の程度で褒められると思わなかった。ルナがいたら間違いなく苦笑いしてるぞ。
「奴隷達、丁度良いです。そこにいる男を捕らえなさ」
言い終わる前に側面に回り込んだ俺はその男の腹部を蹴り飛ばした。隙だらけな上にここまで弱いと話にもならない。
「ぐぼえ!?」
男は妙な声を上げて広場の壁に全身を強打してズルズルと落ちるように地面に伏した。そのままピクピクと痙攣した様子で動かなくなる。
「しまった、情報を聞く前に仕留めちまった」
次の獲物を探す必要が出て来たな。というか流石にこいつが幹部とかないだろ。雑魚過ぎる上に隙だらけでやる気あんのかよって話だ。
「うおぉぉぉぉ、すげぇ!」
「あの幹部のヒイロを一瞬でやっちまった!」
「す、凄いわ!」
えー……まさかのやっぱり幹部? ということはもしかしてここの組織って案外ポンコツなんじゃ。何でこんなに指名手配とかされてるんだ。
「とりあえず黙っててくれ。あとさっきの話、納得いってないなら全て聞いてやるが?」
「い、いえ、反論ありません」
男も大人しくなったみたいだ。俺のことを見直したのかぐうの音も出ないのか。まぁいい、ひとまず先を急ぐとしよう。
ライジンを使用して再び駆け抜ける。しかし流石は組織の人間、奴隷である人間をあっさりと使う下劣な手段も問わないようだ。
「ん? 何かあっちからひかっぐげぇ!?」
ライジンの光に気付いた瞬間だったのだろう男。しかしその光を目視する頃には俺はすぐそばにいるわけだが。
男が不審に思ったその瞬間に立ち止まりながら首を掴んで持ち上げる。一瞬首が絞まってしまったのだろう。男から妙な声が漏れた。
「お前、奴隷じゃねぇな」
「ひぃぃ!? 冒険者!?」
こいつもあの下っ端と同じ反応。しかしその下っ端の言葉を信じるなら他の下っ端は周囲に散っていていないという。
ということはこいつも幹部か? それにしては情けない気がするが。
「俺の質問に答えろ。さもなくば殺す」
「は、はいぃ……」
例によって同じ質問を繰り返す。ようやくこの組織の全貌が明らかになった。
まず下っ端は散っているが幹部直属の部下はいるという点だ。幹部には20人程の部下がいるようでこいつは先程気絶させたヒイロとかいう幹部の部下だ。
つまり単純計算、80人の部下がいるわけだ。面倒なことこの上ない。しかしそれだけ大きな組織ならば統括しているカイル・レイルの懸賞金が上がるのも頷ける。
しかしここに来て思ったのは全員弱過ぎる。俺が魔人などを間近で見ている影響もあるのだろうが数だけで質は悪いという感じだ。
この世界の人間は普通の人間とは違う。強さに違いがあり過ぎるのだ。例えば5、6人の兵士対戦車という構図にもなり得るわけだ。それくらいに差が出てくる。もちろん逆に戦車対5、6人の戦車という構図にもなるから数の有利と例えたのだ。
男を腹パンして壁に叩きつけて気絶させると再び進む。さて、次は何が出てくるのやら。
何度か部下から情報を聞き出しながらどんどんと奥地へと進む。流石にそろそろ部下からの情報も望めないものになっていく。
流石に情報共有はされているだろう。総合的に戦力やらは知れた。とりあえずあのヒイロという幹部は戦闘というよりも戦略家であるということが分かった。それにしては弱かった気がするが……。
「いたぞ!」
どうやら俺の侵入がバレたらしい。複数の男達が俺に向かって腕を突き出した。魔法を使うにしても遅過ぎないか? ルナなら既に上級属性魔法を3回は撃ってるだろうに。
俺は即座に近付くと軽く跳躍しながら膝蹴りで男の顔面を蹴り飛ばす。そのまま空中で回転、回し蹴りで2人の男を蹴り飛ばした。
「なっ!?」
「硬直するな、死ぬぞ」
着地すると同時に驚いて固まる男を足払いで体勢を崩させると腹部を殴り上げて天井へと吹き飛ばす。
ついに飛んできた魔法は中級属性魔法。大したことねぇな……。
刀で斬り裂いて魔法を破壊すると同時に一気に距離を詰め、男を峰打ちで斬り裂く。
あらかた片付くと再びライジンで駆ける。再び大きな広場へとやってきたわけだが。
広場には既に3人の男が待ち構えていた。これは……幹部なのだろうか?
全く何の威圧感も感じなければ強さも下っ端のそれと何が違うのだろうかというくらいだと思うんだが。
強い奴というのはある程度気配を漂わせているもの。もしくはムイのように全く何も感じないかという感じだ。こいつらからは何も感じない。
「ヒイロを倒したってのはこいつか」
黒髪ロングのごついがたいをした男は俺を睨みつける。うん、やっぱり怖くない。というか強くもない気がする。
「奴は俺達幹部の中でも最弱だ」
そんな四天王みたいなことを言うのは赤髪短髪の男だ。こちらは本当にその手の人間みたいな感じで顔が怖い。身長もなかなかに高いしな。やっぱり何も強いと感じないが。
「僕達には敵わないさ」
青髪ロングをさらりとかき上げた美男子という言葉が似合う男だった。全員身長が高い。ちょっと羨ましい。
もちろん俺も小さくはない。170程だ。しかしこの世界の人間は2m近くいく奴もいるし女性も平均身長が高い。俺より高い人が多いのはそういうわけだったりするが。
「はぁ……面倒な」
なんか話を付き合うのも疲れそうだ。俺は即座にライジンで側面に回り込むと美男子風の男の顔面を歪ませる勢いで殴り飛ばした。
「ぎゅぶぇ!?」
「な、何ぃぃぃぃ!?」
情報はもう全てカイル・レイルからいただくとしよう。俺は続いて赤髪の男の頭を軽く跳躍しながらかかと落としで蹴り下ろした。
「ぶへぇ!?」
本当に幹部なのかと疑いたくなるくらいに弱いんだが。カイル・レイルも実は大したことないんじゃないか?
そんな不安をよぎらせながら残りの大男の顎を殴り上げ、更に腹部を回し蹴りで蹴り飛ばして気絶させる。
こいつら全員弱っ! 何これ。何かの罰ゲームかよ?
まぁいいや。危険が少ないならそれに越したことはない。さっさと先へと進むか。




