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第21話 交わらない道の先、望むものに向かって

 目を開けるものの視界は真っ暗だった。あと物凄く柔らかい。良い匂いもするしまさしく天国な状態だ。

 そういえばマオに抱き締めてもらってそのまま寝たんだったか。ということはこれはマオの胸の感触なわけだが。

 うん、騒がないで二度寝しよ。何もなかった。そう、何も。俺は起きてないからこの感触をもっと堪能したい。

 そんなくだらないことを考えてしまうほどに安心するマオの包容力に驚きつつも上を見上げる。

 流石にここまでしてくれてるのに申し訳ない。それに心配してやってくれているのだからこれ以上心配を掛ける訳にもいかない。


「あら、起きたの?」

「……起きてたのか」


 マオは俺の顔を見るなりくすりと微笑む。そのまま優しく頭を撫でられてしまう。


「丁度良いわ。お腹空いてる?」

「あぁ……まぁそれなりに」


 時刻を見ると昼前。朝方起きたのだから結構寝ていたことになる。流石に腹も減るか。


「それじゃあアリシアちゃんと代わるわね。お粥も温めて持って来てもらうわね」

「お、おう」


 マオがもう普通だ。流石にもう色々と慣れたのだろう。

 マオが部屋を出ていくと急にこの閑散とした空気に心細くなる。居間に行く方がいいのだろうか?

 誰かがそばにいてくれるというのがこんなにも心温まるものだったとは。俺はそれを再確認した。

 しばらく待っているとアリシアがやってくる。といっても待っていたのは10分ほど。それなのにやたらと長く感じた。


「刀夜くん、大丈夫?」

「あぁ……色々大丈夫じゃないが大丈夫だ」

「それ大丈夫じゃないよね!?」


 そうとも言うかもしれない。主に俺のメンタル的な面で。


「お粥持ってきたから食べようね」

「あぁ、助かる」


 俺が手を伸ばしてお椀を受け取ろうとするものの、何故かいきなりアリシアがスプーンを手に取ってお粥を掬う。これはまさか……?


「ふぅー、ふぅー、熱いから気を付けてね」


 そのまま笑顔で俺の口元にスプーンを持っていく。


「あーん」

「…………流石に自分で食えるからな?」

「病人は大人しくしていないと駄目だよ? ほら、あーん」


 どうやら俺に拒否権はないようだ。それにいつものように強く言えないのは先程寂しいと思ってしまっていたからだろう。アリシアが来て安心してしまって甘えたくなる。


「あ、あーん……」


 お粥を口に運ぶと塩が効いているのかかなり美味い。それに暖かいからか寒気がする今の状態ではかなり効く。お腹からポカポカしてくる。


「どうかな?」

「かなり美味い」

「本当? あんまり作ったことないから心配だったんだよね」

「アリシアの手作りなのか?」


 てっきりルナかと思ったんだが。アリシアの料理の腕も相当上がってるんだな。


「うん。といってもルナさんが手伝ってくれてるから大丈夫だとは思ってたけどね」

「それでもお前の手作りだろ」


 それにルナのことだ、気を遣って重要な部分は全てアリシアに任せているに違いない。


「そ、そうかな?」

「あぁ。本当に美味い」


 風邪で若干味覚はおかしくなっているが間違いなく美味い。どうせならもっと元気な時に味わいたかったな。


「刀夜くんが体調崩すなんて珍しいよね。不規則な生活してると思ってたんだけど体調管理にはきちんと気を付けていたよね?」

「そうだな。でもまぁ体調を崩すことだってあるだろ? 今回のはまぁそんな感じだろ」

「本当? 何か考え込んだりしてない?」


 アリシアは鋭い。ルナなら今ので騙されてくれただろうに。


「してない。そもそも悩むようなことがない」

「そんなことないよね。浅野くんのこととかずっと悩んでるよね?」

「…………」


 見事に見抜かれていた。しかしその詳しい内容を聞いてこないのはアリシアなりの優しさなのだろう。


「最近思うんだよね」

「ん?」

「刀夜くんは確かに凄いけど色々と失敗もするし悩んだり後悔したりもするって」

「当たり前のことだろ?」


 未来が見えるなら別だ。しかし結果が自分の望んだものとは違うことなどよくあることだろう。


「うん……当たり前だよね。刀夜くんもいつも言ってたもんね」


 人間は完璧じゃない。だから必ず何かが欠けており失敗する。


「そんな当たり前のことを私達は失念してたんだよ……。刀夜くんが凄くて……刀夜くんなら何でも出来るからって」

「そんなわけ……」

「うん……そうだね」


 お椀をテーブルに置いたアリシアは俺の手に自身の手を重ねる。


「刀夜くんだってたくさん間違いをするし失敗もする。そうやって積み重ねてきたから私のことも助けてくれたんだよね」


 過去の経験が今に活かされている。ただそれだけのことなのかもしれない。

 しかしそれだけだと結論付けるのは早計なのだ。失敗したからこそ学ぶこともある。成功したからこそ学ぶこともある。

 人は何かを学んで時を過ごしている。だからこそ同じようなことにも対応が早い。


「私が今こうして刀夜くんのそばで女の子を出来るのは全部刀夜くんのおかげだよ。だから……今度は私が刀夜くんを助けたい」

「アリシア……」


 決してそんなつもりはなかった。俺はしたことに対しての対価をもらうのが普通だと思っている。しかしだ。アリシアは仲間だったから助けたいと思った。普通の、他の一般人で俺とは何も関係がないのなら俺は助ける気もなかっただろう。

 優しさというのは自己満足だから。俺が他者に介入して誰かの人生を変えてしまうのは怖い。

 それでも何とかしたいと思った時にしか俺は動かない。浅野のこともある。俺は浅野を何とかしたいと思っていた。しかしそれは遅過ぎたのだ。だから俺は早期決断を心掛けるようになった。

 こいつを助けたのも俺の自己満足。こいつが暗い顔するのが耐えられなくて。自分を偽っているのが嫌でしただけだ。俺が見ていられないから。

 いつか、アスールに言われたな。例え自己満足で助けてもその人が喜んでいるのならそれでいいと。

 アリシアは確かに喜んでくれているのだろう。いつも笑って過ごしてくれる。俺にはそれだけで対価として充分なのだ。もともとそれが見たくてしたことなのだから。


「…………俺は」


 浅野のことをどうすればいいのか。そしてどうすればよかったのか。何も分かっていない。


「……俺は」


 俺は……誰かに甘えたいのだろうか? 違う。そんなことじゃない。今の気持ちを慰めて欲しいわけじゃない。

 俺がしたいのは浅野を何とかしたかったと。今の浅野が何をしているのかを知りたいのだ。

 同じ過ちを繰り返したくなくて。俺が浅野に出来なかったことを今度こそしたいと思っている。


「刀夜くん……」

「アリシア……」


 アリシアが優しく抱き締めてくれる。それだけで涙が出そうになってくる。

 泣きつきたくない。情けない姿を見せたくない。失望もされたくない。


「大丈夫だよ」

「……何がだよ」

「刀夜くんなら大丈夫だよ」


 にっこりと微笑むアリシアに色々なものが込み上げてくる。無理だとか無駄だとか。どうせ理解出来ない。今回も助けることなんて出来ない。そんな負の感情ばかりが心を支配していく。

 アリシアにも俺の気持ちなんて分からないだろう。大丈夫だという根拠もないのだろう。


「刀夜くんが凄いのは知ってるよ? 1人で最強だもんね。でも……私達7人ならもっと最強だよね? だから大丈夫だよ」


 ルナもアスールもアリシアもコウハもマオもリルフェンも。俺の仲間達は全員が何かを失敗している。

 師匠の気持ちを知りたいというルナも、育ての親と仲良くなりたいと願ったアスールも、女でありたいと思っていたアリシアも、同族の枠組みに入れないコウハも、人を恨むことしか出来ないマオも、誰かとの繋がりを求めて単身街にやって来ていたリルフェンも。

 全員が何かを抱えて生きていた。今も何かを抱えている。

 アリシアも実家のことで苦労が絶えないだろう。今現在も実は女の子だったという事実で周囲の貴族から色々と言われていると聞く。

 結局は解決していても永遠に付きまとってくるのかもしれない。俺達の問題はそういう根強いものだ。

 だからこそ俺達全員でやれば怖くはない。色々なものを知って色々なことを経験しているからこそ今度こそ間違えないようにしたい。

 最善の結果など存在しない。誰かが誰かと道を合わせることなど出来ない。でも……隣には歩いていてくれるかもしれないから。

 もしこの道を人生だと仮定するならば物凄く悲しいなのかもしれない。しかしそれが事実であり現実だ。

 望んだものに手を伸ばそうとも届かない。何故ならその人生の道とそれは繋がっていないのだから。

 手を伸ばしても届かないのなら……走るしかない。それに向かってまっすぐに。道を踏み間違えているかもしれない。回り道をしなければいけないかもしれない。一見不合理に見えるかもしれない。でもそうしないと一生届きもしないのだろう。


「アリシア」

「何かな?」


 きちんと顔を見たくて少し離れる。アリシアはにっこりと笑みを浮かべていた。


「ありがとな」

「…………ううん。お礼じゃなくてこういう時は」


 そうだな。お礼なんて今更だ。こいつらに対して言うべき言葉はお礼なんかじゃないのだろう。

 今まで散々言ったんだ、今更そんなお礼ごときの為に頑張る気は俺達にはない。


「頑張ろうな」

「うん!」


 互いに拳を合わせる。

 望んだものに手を伸ばしても決して届かない。だからこちらから行くしかないのだろう。向こうからは決して来てはくれないのだから。

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