表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/87

良い街中華がありますよ

藤堂の運転するワゴン車が、首都高を抜けて一般道に入った頃。

助手席の灰原遥が、資料をめくりながらふと思い出したように顔を上げた。

「そういえば司くん、親戚の女の子が京都本部に配属になったって本当?」

運転席の藤堂司が、眼鏡の奥で目を細めて少し振り返った。

「ええ、御堂さんです。御堂家の……まあ、遠めの親戚ですが。

まだ小さい頃から才能がすごいって聞いてましたよ」

灰原は目を輝かせて身を乗り出した。

「牛鬼の本霊と契約した天才少女でしょ!

10歳くらいで契約したって聞いて、すごいなって思ったよ!」

後部座席の黒崎は、腕を組んだままぼそりと呟いた。

「八岐大蛇に牛鬼に……京都は化け物揃いだな」

灰原がすぐに笑って振り返る。

「零さんだってその1人じゃないですか!

あの人も昔は相当ヤバかったって噂ですよ?」

黒崎の表情がわずかに強張った。

「あんまあの人の話題は出すなよ。

噂してると面倒ごとに巻き込まれるぞ」


灰原がすぐに笑って振り返る。

「零さんだってその1人じゃないですか!

あの人も昔は相当ヤバかったって噂ですよ?」

黒崎の表情がわずかに強張った。

夢だとわかっているのに、灰原の明るい声が妙に生々しく響く。

この夢は、過去をなぞらせるだけでなく、黒崎が一番触れたくない部分を、わざわざ抉ってくるように感じられた。

「……あんまあの人の話題は出すなよ。

噂してると面倒ごとに巻き込まれるぞ」

藤堂と灰原が同時に不思議そうな顔をして振り返った。

「え……?」

「零さんって、そんなに怖い人なんですか?」

灰原は素直に首を傾げ、灰原らしい無邪気な口調で続ける。

「僕、零さんとは直接会ったことないですけど……

なんか、特対室の古株の人たちが零さんの話になると、急に口を閉ざすんですよね。

一体どんな人なんですか?」

黒崎はため息をつきながら、ぼそぼそと続けた。

「あの人もあれで丸くなったが、昔は尖ってたんだよ。

全国の大きい事件を嗅ぎつけては首突っ込んで、本部はそれを嫌ってこっちに寄越したんだよ。

……まあ、今はだいぶ大人しくなったみたいだがな」

藤堂が少し興味深そうに聞き返した。

「昔は相当、問題児扱いされていたんですね……」

黒崎は後部座席で腕を組み直し、窓の外に視線をやった。

(……問題児、か。

お前がいた頃は、まだマシだったよ、遥)

灰原が少し申し訳なさそうに笑った。

「ごめんごめん、僕が変なこと聞いて。

でも、零さんって今でも伝説級に強いって話ですよね?

……なんか、蓮さんより怖いかも」

黒崎は小さく鼻で笑った。

「ったく、余計なこと言うなよ。

とにかく、あの人の話はほどほどにしとけ。

面倒ごとに巻き込まれたくないだろ?」

「はーい、わかりました」

灰原は素直に頷き、にこっと笑った。


そうこうしているうちに、車はあきる野の郊外に到着した。

周囲には、春の柔らかな陽光が降り注いでいた。

少し風が強く、郊外特有の土と草の匂いが混じり、遠くから軽い埃が舞い上がっている。

まだ午前中だというのに、車を降りた途端に空気が変わり、どこか現実味を帯びた空気が黒崎の肌を撫でた。

ぐうう……

春の風が誘ったように誰ともなく腹の虫が鳴った。

灰原が嬉しそうに笑顔を弾ませた。

「あきる野に良い街中華があるんですよ!

特製天津飯が最高で、ふわふわの卵と甘酸っぱいあんが絶品なんです!」

藤堂は呆れながらも苦笑した。

「これから調査を始めようって言うのに、少し呑気では……?」

灰原は一切動じず、胸を張って言った。

「何言ってるの司くん!

いつ死ぬかもわからないんだから、食える時に食っとかないと!

それに、最後の飯ならとびっくり美味しい物じゃないと!」

藤堂は納得が行ったようないかないような、複雑な表情を浮かべた。

黒崎は後部座席から黙って二人のやり取りを聞いていた。

夢だとわかっているはずなのに、灰原の明るい声が、妙に胸に染みてくる。

この声は、毎夜のように夢の中で聞いているはずなのに、今日は妙に生々しく、胸の奥にじんわりと染み込んでくる。

(……この夢、いつもより長く続いている。

まるで、俺にまだ何か見せたいことがあるみたいだ……)

灰原の笑顔を見ていると、まるで本当に生きているかのように感じてしまう瞬間があった。

そのたびに、黒崎の胸の奥で小さな棘がざわつく。

夢だとわかっていながら、灰原の明るさに触れて一瞬でも心が緩んでしまう自分が、情けなくて仕方なかった。

風が吹き、黒崎の髪を少し乱した。

その冷たい感触が、夢の中であることをわずかに思い出させる。

しかし、それでも灰原の笑顔は、黒崎の視界から離れようとしなかった。

胸の奥で、わずかに違和感が芽生え始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ