凛とした少女
那覇空港の到着ロビーは、湿度の高い南国の空気に満ちていた。
白峰澪と御堂奏がゲートを抜けると、すぐに待ち構えていた人物の姿が見えた。
「白峰さん、御堂さん。お疲れ様です」
穏やかで柔らかい声とともに、眼鏡をかけた長身の男性が軽く頭を下げた。
几帳面に整えられた髪、優しい目元、いつも丁寧で落ち着いた物腰——
間違いない、仙台で一緒に戦った藤堂司だった。
白峰の顔がぱっと明るくなった。
「藤堂さん!」
彼女は思わず小走りで駆け寄った。
「今回は久しぶりに一緒の任務ですね!」
藤堂は眼鏡の奥の目を細め、いつもの温和な笑みを浮かべながら頷いた。
「ええ、そうですね。
仙台以来です。北海道ではお留守番でしたから、久しぶりで嬉しいです。よろしくお願いします」
そのやり取りを少し後ろから見ていた御堂が、ゆっくりと歩み寄りながら言った。
「相変わらずシャキッとしないわね、司くん」
その言葉に藤堂は苦笑いを浮かべ、眼鏡を軽く押し上げながら返した。
「御堂さんは相変わらず手厳しいですね……」
御堂は優雅に肩をすくめ、わずかに口元を緩めた。
「親戚だからこそ、甘やかさないだけですわ」
藤堂の隣には、見知らぬ少女が立っていた。
白峰より少し小柄で、垢抜けない印象の顔立ち。
幼さの残る丸い頰と、大きな瞳が印象的だった。
少女は白峰の視線に気づくと、見た目とは裏腹に背筋をピンと伸ばし、両手をきゅっと握って快活に自己紹介をした。
「安倍 凛です!
いつも兄がお世話になっております!
奏さんもお久しぶりです!」
一生懸命に声を張り上げたその様子は、あどけなくも全力で、幼さ故の可愛らしさが溢れていた。
可愛らしい笑顔に、白峰は思わず頰を緩めた。
(……かわいい……)
車が那覇空港を離れ、藤堂の運転する車で那覇市内にある沖縄支部へと向かう道中。
白峰は後部座席で、さっきから気になっていたことを凛に尋ねた。
「さっき『兄がお世話に』って言ってましたけど……」
凛はにこっと笑って答えた。
「敬語は大丈夫です、澪さん!
はい、兄の零がお世話になっていると聞いております」
その答えに、白峰は想定はしていたものの、やはり驚いた。
御堂が静かに口を挟んだ。
「零さんがあんなだからか、妹の凛は昔からしっかりしていたわ」
珍しく人を呼び捨てにする御堂を見て、白峰は二人の関係の深さを改めて感じた。
どうやら幼い頃から面識があるようで、御堂の声にはどこか姉のような親しみが込められている。
凛は明るく続けた。
「兄から澪さんのお話はよく聞いています!
本部でもすごい新人さんが入って来たって持ちきりですよ!
今回ご一緒させて貰えて嬉しいです!」
屈託のない笑顔で全力で褒められて、白峰は思わず頰を赤らめた。
過大評価だと言えず、気まずそうに視線を逸らしながらお茶を濁す。
「え、えへへ……ありがとう……
そんな、大したあれじゃないけど……」
白峰は少し照れながらも、気まずさを紛らわせるように話題を変えた。
「凛ちゃんも妖封士なの?」
凛はキリッと背筋を伸ばし、目を輝かせて真正面から答えた。
「はいっ!
幼少の頃より精進して参りました!
今回は初陣です!及ばない所もあると思いますが、精一杯頑張りますのでよろしくお願いします!」
その真っ直ぐで一生懸命な姿に、白峰は胸がじんわりと温かくなった。
初めて出来る年下の妖封士に、なんだか妹ができたような感覚になり、
(……私が守ってあげなきゃ……)
という姉心のようなものが自然と芽生えた。
すると、頭の中に面白くなさそうな声が響いた。
(……おねえちゃんは、きみどりのおねえちゃんなのに……)
白峰は思わず小さく肩を震わせた。
(きみどり……?)
そんな会話をしているうちに、車はビルの地下駐車場へと停まった。
三人が車を降りると、そこに長身痩躯の男が立っていた。
張り付けたような笑顔を浮かべ、男はゆっくりと一同を品定めするような、ねっとりとした視線を這わせた。
特に白峰と凛の姿をじっくりと舐めるように見つめた後、口角を不自然に上げて言った。
「案内ありがとうなぁ、凛ちゃん。
奏ちゃんも久しぶりやねぇ」
蛇のように絡みつくような関西弁で、甘く粘つく声が地下駐車場に響いた。
その笑顔の奥に潜む冷たい光に、白峰は思わず背筋がぞくりと震えた。
一同は、決して温かいとは言えない「歓迎」を受けた。




