第32話:『密語の行方』
1.(起)
【地下通路の暗がり。ヴァレットが、不審な物音の正体を確かめるため闇の奥へと消える。その姿を見届けたキヨシがハルに寄り添い、声を潜めて耳打ちする。】
キヨシ 「ハル、少しいいか。……ヴァレットさんのことだ。元軍人としての勘だが、あの人は何かを隠している気がする」
【ハルは目を見開く。そして……神妙に頷いた。】
ハル 「……私も同感だわ。あの資料、保管を名乗り出た彼に預けたけれど……。怪しい……でも何も証拠がないし、憶測の域を超えていない。……ただ私の直感が『彼に気を許すな!』……そう言ってるの」
2. (承)
【前方を歩くアランたちの背中を見据えながら、葛藤するキヨシ。】
キヨシ 「冷静に考えれば、彼と軍の繋がりなんてどこにもない。さっきだって殿を買って出てくれた。……仲間を疑うなんて、俺はどうかしているのか」
ハル 「いいえ。私も独自に調べたけれど、一つだけ引っかかることがあるの」
3. (転)
【ハルがさらに声を潜め、確信に近い推測を口にする。】
ハル 「あの密輸船の時の将校……彼が最後に言ったわ。『タダで済むと思うなよ』と。もし彼が軍という組織ではなく、個人としてヴァレットさんに接触していたとしたら?」
【キヨシ、静かに息を呑む。】
キヨシ 「組織ではなく、個人としての接触か……!」
4. (結)
【ハルの瞳に鋭い光が宿る。】
ハル 「ええ。あまりに直近の、個人的な繋がりであれば……私の情報網でも、まだ網の目に掛かっていない可能性があるわ」
【通路の先を見据える二人。その疑念の正しさを証明するかのように、背後の闇から冷たい風が吹き抜ける。】
(信じるべきは、仲間か。それとも「違和感」か――。)




