第28話:『綻びの紋章』
1. (起)
【深夜のテラス。月明かりの下、アランが独り、静かにハルを呼び出す。】
アラン 「ハル、夜分にすまない。……少し、話せるか?」
ハル 「はい。旦那様。……何か、緊急の事態でしょうか」
【アランの手のひらには、鈍く光る銀色のボタンが握られていた。】
2. (承)
【アランがそのボタンをハルに差し出す。そこにはエヴァンス邸の意匠が刻まれている。】
アラン 「香織が誘拐された現場……君に倒されたマフィアの傍らに、これが落ちていたんだ。我が家の紋章が入った、使用人のボタンだ」
ハル 「まさか……お屋敷の中に内通者が!? ……いえ、申し訳ありません、滅相もないことを……」
アラン 「いや、いいんだ。私も彼らを信じたい。だが……情けないことに、私の心は疑心暗鬼に蝕まれている」
3. (転)
【アランがハルの目を見つめる。その瞳には、主としての孤独が宿っている。】
アラン 「こんな話を打ち明けられるのは、同じ会津の血に縁を持つ君しかいない。ハル、確認したいことがある。『新政府』に潜り込んだ旧会津藩の動向だ。内通者は、我々の身内ではなく、かつての同胞かもしれない」
ハル 「……なるほど。誇りを捨て、新政府に魂を売った者たち……その線は、十分に考えられます」
4. (結)
【ハルは深く頭を下げる。背後の闇では、バトラーの執務室の灯りだけが、まだ消えずに残っている。】
アラン 「私に代わって、その闇を探ってくれるか?」
ハル 「承知いたしました。旦那様の影となり、真実を暴いてみせます」
【二人の密談を、窓越しに無言で見つめる影。それは、バトラーか、それともヴァレットか――。】




