世間知らず
--- カルの視点 ---
朝食をすませた後、プレシアとステファンは、ブリンクマンを探す旅にでかけた。
2週間以内にブリンクマンが見つけても見つからなくても、この家に戻る約束をした。
その間、俺とティオは別の方法で呪いを解除方法はあるか試みるのと、次の旅に向けての支度をすることにした。
しかし、ティオが記憶損失になったそうだが、どの程度の記憶が失われたのだろうか? 明らかに雰囲気が違う。
前は許可なしに1m以内に近づくと装備品を切り裂かれたが、今のティオは俺の1m以内に余裕で入ってきていろいろ興味深そうに見てくる。
今日は食料の買い出しをしに露店市場へ行った。前のティオは、決められたものをさっさと買って帰っていたのに、今のティオは、瞳を輝かせ露店の売り物を指差しては、「あれは何?」と聞いてくる。どうやら、"にんじん"や"じゃがいも"も知らないようで、かなりの重症である。
「あれ、ティオ?!」
少し目を離した先にティオが姿を消した。
「こら、お嬢さん何をしている!」
怒鳴り声が聞こえた。見ればティオが果物露店屋の店主に腕をつかまれていた。
「すみません、その子は俺の仲間です。何かあったのです?」
店主は不機嫌そうな声で俺を見て言った。
「何もかにも、あんたんとこの嬢さんが、勝手に商品のリンゴを食べたんだよ。しかも、金も払う気なさそうだ」
「それは、すいませんどうかこれで勘弁してください」
俺は、店主に商品の倍の値段の金を渡した。
「何で、勝手に商品を食べた?」
「何で、勝手に食べてはいけないの?」
ティオは首をかしげて答えた。お金の概念も忘れてしまっているのか、これはいろいろ教え直さないといけないようである。
家に帰り、夕飯の支度をするティオが興味ぶかそうに俺の方をじっと見ている。俺が見返すと目線を変えられてしまう。まるで、猫だ。
パンとスープの用意ができた。
「まずい」
スープを飲んだティオが即座に答えた。
「別にいいだろ、お腹に入れば十分だ」
「何で、プレシアはおいしい料理を作れたのにカルの料理は、まずいの?」
前のティオは、こんなこと言わなかった。
「プレシアは料理にこだわるからな、それより飯を食べたら先にお風呂に入ってくれ」
「一緒に入らないの?」
俺はスープを吹き出した。いや、一緒に入りたいが、もしティオの記憶が完全に戻ったらどうなるだろう? おそらく、身体を切り裂かれてしまうだろう。
「女と男は、一緒にお風呂にはいってはいけないんだよ」
ティオは、まだ不思議そうな顔をしていたが、一人でお風呂に入っていった。俺はその間、風呂の湯加減調整のため薪をくべる。ティオが風呂をでた後、俺が風呂に入る。
何か、今日は冒険していないのにやけに疲れてベッドで横になるとすぐに眠りに襲われた。
――魔王ドラミスがぬっと俺の前に出現する。
「うおっ」
俺が拳を伸ばした先には、ティオがいた。拳には、ぎりぎり彼女にあたらなかったが、彼女は突然の事に理解ができず不安そうな顔で俺を見ていた。
「いやっすまん、変な夢を見てしまい、つい手がでてしまった」
ティオは、少し俺を見ていたが横に寝返った。
魔王ドラミスは、倒したのに厄介な魔法を俺たちに残していった。しかも、夢にまででてきて迷惑すぎる。
どうこう考えているうちに俺は再び眠りの中に沈んでいった。
--- 同日 魔王ドラミスの視点 ---
朝食をすませた後、プレシアとステファンは、ブリンクマンとやらを探す旅にでて行った。長くて2週間戻らない、その間の家の中は、私とカルだけである。いい機会だ、隙を見てカルを始末しよう。
何やら、カルが私の方を時折見てくる。警戒しているのかもしれない。できるだけ怪しまれないように行動しよう。
カルが露店市場とやらで、買い出しに行くそうなので、同行した先には小屋が連なる人通りの多い場所があった。
小屋の前には様々な物が置かれている。発する匂いも様々だが、どれも良い匂いで嗅げば嗅ぐほどよだれがでてくる。カルに置いてあるものを聞きまくる。ときおり、カルが悲しげな顔をするが怪しんではいないだろう。
様々な匂いの中で、特に甘い匂いを感じる。私は、匂いの正体を探るため駆け出した。すると、ある小屋の前に置いてある食料が非常に甘い匂いをはなっている。私は、それを手にとって口の中に含むと甘味が広がり私は幸福感に包まれた。
「こら、お嬢さん何をしている!」
小屋の前にいた男が、私に対して怒鳴った。
「うちの商品を食べるなら金を先にはらってくれないと困るよ」
金? そんなものは持っていない。面倒だし、こいつを焼くか。
「我が障害を焼き払え、焼炎弾」
手から、わずかな火がでてすぐ消えた。これは、一体どういうことだ。
「金がないのなら治安兵につきだすよ」
男に腕を掴まれる。
「すみません、その子は俺の仲間です。何かあったのです?」
カルが隣にいた。カルは男と話し合い何かを渡すと、カルは私をにらんだ。
「何で、勝手に商品を食べた?」
「何で、勝手に食べてはいけないの?」
素直に思ったことを口にだした。カルは、また私を悲しい目で見ているのが分かる。
家に戻ってきた。カルが食事の支度を始めた。うまい料理がまた食べられると、胸が躍る。
どうせなら私も料理を覚えるためカルを観察するか、ときおりカルが、こちらを見るので目線をあわさないようそらした。
料理の用意ができたようだ。私は、用意されたものを口の中に入れる。
「まずい」
正直な、感想が口からでてきた。
「別にいいだろ、お腹に入れば十分だ」
「何で、プレシアはおいしい料理を作れたのにカルの料理はまずいの?」
カルは返答しない。人間全てがおいしい料理を作れるとはかぎらないのか、人間を始末する基準は、おいしい料理を作れるか作れないかを考慮に入れよう。
「飯を食べたら先にお風呂に入ってくれ」
「一緒に入らないの?」
カルは食べていたものを吹き出した。
「女と男は、一緒にお風呂にはいってはいけないんだよ」
そうなのか、別にどうでもいいが。私が風呂に入っている間、カルが外で薪をくべていた。もしや、私を煮ようとしているのではと警戒していたが湯加減はちょうど良かった。
私が風呂からあがり、カルが風呂に入る。
その間、呪文詠唱を試してみたが、魔法が全然発動しない事に気付いた。このティオの肉体は、魔力が全然無いのだ。過去にティオは、私との戦いで魔法を使ってきた。剣先から炎や氷をだして苦戦させられたものだ。もし、その時の戦闘で魔力を使い果たしても一晩たてば、ある程度は回復するはずだ。
カルが風呂からあがってきた。彼は寝床で横になるとすぐに眠りについた。
――始末するには、良い機会だ。
だが、なぜか私に魔力が無いので、魔法で始末することはできない。視線を動かすと包丁が目に止まった。今なら眠っているカルに包丁でも始末できるかもしれない。
私は、包丁を手に持ちカルに近づいた。
「うおっ」
気付けば、カルの拳が私の前に止まっていた。
「いやっすまん、変な夢を見てしまい、つい手がでてしまった」
私は、あわてて横に寝返るふりをして包丁をふところに隠した。接近して、カルを始末しようとするのは危険かもしれない。仮に始末できたとして、魔法が使えないと後の行動に支障がでる。
まずは、魔法を使えるようにならないと……