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新たな肉体

--- 魔王ドラミスの視点 ---


 まぶたから光が差し込む。見たことがない景色が映りこむ。木板の天井、それだけで私の城ではないのが分かった。私は、見知らぬ寝床で横になっていた。


「ティオ、よかった目が覚めた?」


 魔法使いのプレシアが、私に笑みを浮かべている。


「ここはどこ?」

「ここは、ヂィフェルの街よ、あなたがなかなか意識を戻さなかったので、この街で休息することにしたのよ。魔王ドラミス討伐完了の直接報告を首都ゼチニアでしたかったけど、他にも懸念が残っていてね」


 討伐完了か、私、魔王ドラミスは生きているけどね。最後に使用した憑依魔法で女戦士ティオの肉体に憑依できたようだ。本来なら勇者カルに憑依したかったが、不幸中の幸いということにしよう。


「そういえば、カルは?」

「カルは、ここの領主グレイ=ディフェリア侯爵に魔王ドラミス討伐完了の報告に行ってるよ。ついでに、買い物もしてくるって」


 今は、プレシアがひとりだけか? いや、奥に重戦士ステファンがいる。全身鎧に身を包み、全く動いていないからオブジェクトかと思っていた。現状1対2で分が悪いな、現在の肉体も使いこなすには時間がかかりそうだ。ティオは女戦士の肉体のはずだが、憑依したばかりのせいか、力があまりでない。


「そういえば、私が料理したスープが残っているけど食べる?」

「"すーぷ"ってなに?」


 プレシアの顔がひきつるのが分かる。何か悪いことを聞いたのか?


「もしかして、頭を打って、記憶損失になっているの? これが、スープよ」


 プレシアは、テーブルの上に"すーぷ"を置いた。私は、それを口の中にいれる。


「なにこれ、おいしい!」


 おもわず、口から声がでた。いままでは適当に殺した生き物を丸ごとか、焼いて食べる程度だったが、それらとは比較にならないうまさだった。


「その反応、本当にスープを忘れているのね。いつも作っているものなのに、そんなに感動されると逆にうれしいわ」


 いつも作っているのか、人間は"すーぷ"をいつも飲んでいるのか。


「"すーぷ"、まだあるのか?」

「ごめんね、鍋の中もう空になっちゃった」


 残念である。しかし、この"すーぷ"というものに私は非常に興味が沸いた。これの分析ができるまでプレシアの始末は後にしよう。


「じゃあ風呂にしましょう」

「"ふろ"? なにそれ?」


 また、プレシアの顔がひきつる。これは繰り返すと危険そうだ。もう少し状況を見てから疑問を投げることにしよう。


「あなた1日も気を失っていて風呂に入ってなかったのよ。そんな状態だとカルに嫌われちゃうよ」


 カルとティオがどういう関係なのだ? 重要人物なのか? それならば好都合だ。


「ほら、こっちに来なさい」


 プレシアに強引に手を引かれて狭い部屋にいれられる。そして、私の着ているものを剥ぎだした。しまった疑われていたか。しかし、力がでず抵抗ができない。プレシアも自身の服を剥ぎだした。えっどういうこと?

 今度は別の部屋に入る。その部屋にはとても大きな釜のようなものがあった。私を茹でるつもりだろうか? プレシア、にこりと微笑み私に湯をかける。次に私を掴みながら釜のようなものに入れる。湯は熱いが、死ぬほどではない。


「しばらく、湯船につかったら背中を洗いっこしましょう」


 釜ではなく湯船というのか、私を茹でるつもりはないらしい。しかし、プレシアは私を注意深く見ている。


「あれ? ティオ、少し大きくなった」


 魔法使いが、私の胸を揉みはじめた。何が大きくなった? 胸が大きくなったのか? そういえば、プレシアの胸は異常にでかい。ティオの胸と、どうしてこんなに差があるのだ。


「んっ」


 その矢先、私は、電撃を受けたような感覚に襲われ、変な声がでる。


「ごめんなさい調子に乗っちゃったわね」


 プレシアは、あわてて手を放す。何、今の感覚は、プレシアが電撃魔法でも使ったのか?


「そろそろ、温まったし今度は体を洗いましょう」


 彼女は白い個体を手に持ち布につける、そして湯をかけると泡がでてきた。


「えっ、なにこの泡」

「口に入れては駄目よ」


 駄目なのか、彼女は泡のついた布で私の体をごしごし拭きはじめた。

 毒か? いや、毒にしては匂いがよすぎる。


「今度は、頭を洗うわよ」

「ぎゃあああああ」


 目に泡が入り、激痛が走る。


「目を開いていたの?! 閉じてないと駄目よ」


 顔に湯をかけられ、目の痛みはおさまった。プレシアの意図が読めない。再度、湯船の中に引きこまれる。


「今度は、5百秒ぐらい数えたらでましょうね」


 5百秒長くない?


「いーち、にー」


 数えるのも長くない?


 *


 私は、テーブルでぐったりしていた。あやうく茹で上がるところであった。


「ただいま、帰ってきたよ」


 あれは、勇者カルの声だ。


「おかえりカル、ティアが目を覚ましたよ。ただし、ティアが記憶損失みたいです」

「ティオが記憶損失?! それは困ったな。実は、俺にも困ったことがある」

「カルにも困ったこと?」


 カルは、鞄からカードをとりだし、シャッフルしてテーブルにばらまいた。


「このトランプカード、俺が適当に1枚をめくった後に、プレシアも適当に1枚めくってくれ。数が大きい方が勝ちだよ。」

「うん? わかった」


 2人はカードをめくったが、プレシアがカルより大きい数字のカードになった。プレシアの勝ちだ。


「もう1回」


 何回やってもプレシアが勝った。


「カル、これはいったい?」

「ああ、俺の運がかなり悪くなっている」


 ――気付いたか。


「今日、外で行動していたときに、運が悪くなったとしか思えない出来事が何度もあった。露店市場の買い物でもらった福引券10枚が全て外れ。野良犬に足を噛まれる。街角でよそ見していた馬車にひかれる等々」


「そういえば、魔王ドラミスが使った魔法、落運(フェイタルラック)とやらが、魔法使いの私でも聞いたことありませんが、運が悪くなる呪いの効果があるのかもしれません。ただし、魔法を詠唱した本人が死んだ後でも効果があるとしたら厄介ですね」


 プレシアの推測は正解だ。落運(フェイタルラック)の効果で、対象者の運を低下させることができる。本来は、憑依魔法の成功率を上げるために使ったのだが、勇者に憑依するのは失敗してしまった。

 しかし、詠唱した本人は、ここに生きているよ。これから運の悪さで苦しむカルが見られると笑いがこみあげてくる。私は、笑いながらカードを1枚めくった。


 ――引いたカードの数字は「1」


 私の表情が凍った。


「カル、私ともカード勝負して」

「ティオと? わかった」


 結果は、私の連戦連敗。そういうことか、昨日の戦いでティオがカルを庇ったことによってカル以上にティオの運が低下してしまった。その後の憑依魔法でティオに憑依してしまうのは当然なのだ。


「つまり、カルだけではなくティオも運が悪いと。この状態で街外にでたら魔物に奇襲されたりや、軽い攻撃で致命傷になることもありますね」

「ああ、本当は魔王ドラミスを倒した勢いで、魔王残党の特に3魔将を片付けたかったのだが、今の状態だと危険すぎる」


 3魔将は、私に次ぐ強さの魔物3匹である。そういえば、昨日の戦いで、あいつらは何をしていたのだろうか?

 プレシアは、少し考えた後、口を開いた。


「私自身は、この魔法を解除することはできませんが、師のブリンクマン=コンスルート先生なら何とかできるかもしれません。彼は、様々な魔法を研究し、特に運命に関する魔法を研究されています」

「なるほど、ではブリンクマンに会いにいこう」


 プレシアは、首を横に振った。


「ブリンクマン先生に会うには運に左右される部分があります。運が悪くなっているカルとティオは、ここに残った方が良いかもしれません。明日から私とステファンが、ブリンクマン先生を探しに行って連れて戻ることにします。もし、見つからなくても2週間後に戻ってくることにします」

「わかった。よろしく頼む」


 プレシアが、私の頭を軽くなでる。


「あと、ティオの記憶損失もブリンクマン先生なら何とかしてくれるかもしれません。カル、私達が不在の間に、ティオに変な事はしないでくださいね」

「なっ、俺が何をするんだよ!?」


 変な事とは何の事だろうか?

 しかし、明日から家内では、私とカルの2人だけになるということか。カルを始末するには良い機会であろう。

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