第2章 — 「死後の世界で、女神に会った」
第2章 — 「死後の世界で、女神に会った」
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朔継は言葉を発しなかった。
ただ見つめていた。
目の前に立つ女——存在——は、自らを世界の創造主と名乗り、穏やかに微笑んでいる。その顔に焦りはない。迷いもない。ただ、完璧なまでの確信がある。それがあまりに完璧すぎて、朔継は笑いそうになった。
お前が世界を創っただと?
言おうと思った。
しかし言葉は出てこなかった。
怖いからではない。
信じていないからでもない。
だが——この場所で、この境界のない白い空間で——すべてが異質に感じられた。地球の論理はここでは通用しない。
朔継は息を吐いた。
長く。
ゆっくりと。
うつむき、自分の手を見つめる。指——自分のものだが、自分のものではない。小さな傷跡はまだある。皮膚のひとつひとつの皺は見慣れている。しかし彼は知っていた。心の奥底で、この身体は新しいのだと。
新しい。
純粋。
生まれたばかりの赤ん坊のように、しかしすでに十八年の時を刻んでいるかのように。
「……この身体。」
ようやく声が出た。
自分の声だった。
変わっていない。
違和感がない。
十八年間、聞き慣れた声。
女はうなずいた。
「はい。新しい身体です。」
彼は自分の胸に触れた。
胸。
心臓が鼓動している。
肺が膨らみ、縮む。
すべてが機能している。
あまりに正常だ。
「前の身体は……」
「残念ながら、戻れません。」
女が一歩近づく。
その足音はなかった。
雲の上を歩くように。
無の上を歩くように。
彼女は朔継から数メートルのところで立ち止まった。十分に近く、細部が見える距離——淡く輝く金色の瞳、生きている絹のように流れる銀白色の髪、風もないのに揺れる淡い青のドレス。
「あなたの身体は、あの時——大きく損傷しました。」
朔継は思い出した。
車のライト。
クラクション。
回転する世界。
アスファルトの血。
冷たさ。
痛み。
痛みはなかった。
何も感じなかった。
瞬きをした。
「俺は……死んだのか?」
女は優しく見つめた。
「はい。」
ひとこと。
飾りはない。
婉曲もない。
朔継は死んだ。
それが事実だった。
彼はしばし目を閉じた。
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涙は出なかった。
悲しくないからではない。
しかしその悲しみはまだ遠くにある——あまりに深い湖の水面に浮かぶ何かのように、手が届かないところにある。
死んだのか。
ああ。
これがそういう感覚か。
他人から、自分が死んだと聞く感覚。
目を開けた。
「……じゃあ、なぜ俺はここにいる?」
女は微笑んだ。
憐れみに満ちた同情の微笑みではない。
誠実な微笑み——まるでこの質問を待っていたかのように。
「あなたの魂が、消える前に私が拾ったからです。」
朔継は眉をひそめた。
「魂?」
「はい。人間には魂があります。あなたの世界では証明されていませんが、それは事実です。」
彼女は手を上げた。
そして、その掌の間で——一筋の光が輝いた。
柔らかな光。
温かい光。
朝日がカーテンを透過するように。
「これが、あなたの魂の残りです。」
朔継はその光を見つめた。
自分の魂。
自分のもの。
説明できない感覚だった。
見えるはずのないものを見ている。
光はきらめいた。
瞬いた。
まるで、彼の視線に応えるかのように。
「……俺は、消えかけてたのか?」
「あと数秒遅れていたら、完全に消えていました。」
女は手を閉じた。
光が消える。
彼女は真剣なまなざしで朔継を見た。
「あなたの世界では、死んだ魂はやがて散逸します。それが自然の摂理です。」
「しかし、私はあなたの魂を保存しました。」
朔継は沈黙した。
理解できなかった。
完全には。
しかし、ひとつだけ理解できることがあった。
この存在は、自分を救ったのだ。
完全な死から。
無から。
「……ありがとう。」
女は瞬きをした。
初めて、その表情が変わった。
わずかに驚いた。
こんなに早く礼を言われるとは思わなかったかのように。
そして微笑んだ。
先ほどよりも温かい微笑みを。
「どういたしまして。」
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沈黙が流れた。
気まずい沈黙ではない。
心地よい沈黙だ。
誰かと一緒に公園のベンチに座り、言葉を交わす必要のない時間のように。
朔継は周囲を見渡した。
白い空間。
壁はない。
明確な床もない。
天井もない。
手を上げて——空気を確かめる。
風はない。
温度もない。
自分はどこにいる?
世界と世界の間か?
別の次元か?
女神の腹の中か?
首を振った。
どうでもいい。
重要なのは——自分はまだ存在していることだ。
まだ考えている。
まだ呼吸している。
この身体は——どういうわけか——機能している。
「お前は、世界を創ったと言ったな。」
「はい。」
「そして、俺を救った。」
「はい。」
「なぜだ?」
単純な質問だった。
しかし女は再び微笑んだ。
まるで、子供がなぜ空は青いのかと尋ねたときに大人が浮かべるような微笑みだった。
「なぜ、あなたは人を助けようとしたのですか?」
朔継は黙った。
あの夜を思い出した。
黒いジャケットの男。
老婆。
奪われたバッグ。
自分は踏み出した。
考えなかった。
ただ踏み出した。
「……わからん。」
「それと同じです。」
女が近づく。
さらに一歩。
今や距離は一メートルだった。
「私は、あなたの魂を見ました。」
「あなたは、他人のために自分の命を差し出そうとした。」
「それが、私があなたを救う理由です。」
朔継は口を開けた。
閉じた。
何と言えばいいのかわからなかった。
それが普通のことではないのか?
普通の人間なら、同じことをするのではないか?
しかし、それを口にはしなかった。
なぜなら——すべての人間がそうするわけではないと、自分が知っていたからだ。
彼はただ視線をそらした。
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「つまり、お前は……俺が人を助けたから、救ったのか?」
「それがきっかけです。しかし、それだけが理由ではありません。」
女は手を上げた。
そしてその掌の上に——再びミニチュアの世界が現れた。
大陸。
海洋。
雲。
小さな街々。
森。
山。
川。
すべてが動いている。
巨大な時計のように、生命の鼓動を刻みながら。
「私は、この世界を創りました。ですが、私は直接干渉しません。」
「私は、生命が自らの力で進むことを望んでいます。」
彼女は朔継を見つめた。
金色の瞳が輝く。
「しかし、時には──」
掌を閉じる。
ミニチュアの世界が消える。
「──運命が理不尽な方法で人を奪うことがあります。」
「あなたの死は、その一つでした。」
朔継は眉をひそめた。
「理不尽?」
「あなたは死ぬべきではなかった。」
女は静かに語った。
しかしその声には確信があった。
「あなたの死は、事故でした。偶然でした。誰の策略でもありませんでした。」
「しかし、だからこそ──私はあなたにチャンスを与えたいと思いました。」
「二度目の人生のチャンスを。」
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朔継は沈黙した。
世界が止まったかのようだった。
二度目の人生。
その言葉は陳腐に聞こえた。
書店の安い小説のタイトルのように。
決して叶わない夢のように。
しかしここで、この白い空間で、自らを創造主と名乗る存在の前で——
それは陳腐ではなかった。
それは現実だった。
「……二度目の人生。」
「はい。」
「この世界で?」
「はい。」
朔継は再び自分の手を見つめた。
新しい身体。
新しい世界。
新しい人生。
狂っている。
あまりに急すぎる。
自分はさっきまで死んでいたのだ。
しかし彼の思考は冷静だった。
叫ばなかった。
泣かなかった。
ただ、境界のない白い空間に座り、女神を見つめ、問うた。
「何をすればいい?」
女は微笑んだ。
同じ微笑み。
優しさに満ちた微笑み。
「何も。」
朔継は眉をひそめた。
「何だ?」
「あなたは何もする必要はありません。」
彼女は手を差し伸べた。
開かれた掌。
その上に——見知らぬ世界の地図があった。
大陸。
海洋。
山。
森。
街。
王国。
すべてが驚くべき詳細で描かれている。
「私はあなたに、この世界を与えます。」
「しかし、私はあなたに使命を与えません。」
「魔王を倒せとは言いません。」
「世界を救えとは言いません。」
「王国を築けとも言いません。」
彼女は掌を閉じた。
地図が消える。
そして彼女は、輝く瞳で朔継を見つめた。
「私は、あなたに自由を与えます。」
「好きなように生きなさい。」
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朔継は動かなかった。
ただ目の前の女——創造主の女神——を見つめ、奇妙な感覚を覚えた。
感謝ではない。
恐怖ではない。
幸福ではない。
しかし——
安堵だった。
「……世界を救わなくていいのか?」
「いいえ。」
「敵を倒さなくていいのか?」
「いいえ。」
「英雄にならなくていいのか?」
「いいえ。」
朔継は息を吐いた。
長く。
とても長く。
死んで以来初めて——肩の力が少し抜けたのを感じた。
「……良かった。」
女は瞬きをした。
「『良かった』ですか?」
朔継はうなずいた。
「俺は英雄じゃない。」
自分の手を見つめる。
「俺はただの普通の人間だ。あの人を助けたのは、年寄りが盗られるのを見るのが嫌だったからだ。英雄になりたかったわけじゃない。」
顔を上げる。
目の前の金色の瞳を見つめる。
「世界を救いたくない。悪魔と戦いたくもない。ただ——」
言葉を止めた。
考える。
「ただ生きたいんだ。」
「静かに生きたい。」
「美味い飯を食って。」
「快適な場所で寝て。」
「いつか家族を持てたらいいなと思う。」
「それだけだ。」
女は沈黙した。
そして——
笑った。
嘲るような笑いではない。
見下すような笑いでもない。
誠実な笑い——まるで、お気に入りのジョークを聞いたばかりの人のように。
「ふふっ……」
手で口を覆う。
「すみません。つい。」
朔継は眉を上げた。
「何かおかしいか?」
「いえ。あなたがとても、人間らしいと思って。」
手を下ろす。
微笑みはまだ消えていない。
「あなたは、私が知っているほとんどの人間よりも、自分をよく理解しています。」
朔継は何と答えればいいのかわからなかった。
ただ肩をすくめた。
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「じゃあ、これからどうなるんだ?」
「これから、あなたを新しい世界に送ります。」
「身体も準備しました。能力もいくつか与えました。」
朔継は眉をひそめた。
「能力?」
「はい。」
女が手を上げる。
そして朔継の前に——
一枚の透明な画面が現れた。
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【ステータス】
名前:榊宮 朔継
年齢:18
種族:人間?
レベル:1
HP:∞
MP:∞
STR:─
VIT:─
AGI:─
INT:─
MND:─
LUK:─
称号:
・ゲネシスヴァの祝福
スキル:
・鑑定+
・収納
・創造
・無限魔力
・全属性適性
・概念魔法
加護:
・ゲネシスヴァの加護
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朔継はその画面を見つめた。
目は一行ずつを追う。
HP:∞。
MP:∞。
全属性適性。
概念魔法。
無限魔力。
「……これは、おかしいだろ。」
女は微笑んだ。
「あなたの世界で言うところの『チート』でしょうか?」
朔継はゆっくりとうなずいた。
「チートどころじゃない。これは——」
言葉が出なかった。
「やりすぎだ。」
女は首を振った。
「あなたは死にかけました。そして、私はあなたを救いました。」
「しかし、あなたの新しい人生が、ただの普通の人生では面白くないでしょう?」
朔継は反論しようとした。
しかしできなかった。
なぜなら——女の言う通りだったからだ。
自分は死んだ。
消えるはずだった。
しかし今、自分はここにいる。新しい身体で。女神の前に。
ならば、少し特別であっても構わないのではないか?
息を吐いた。
「……わかった。受け入れよう。」
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女は満足そうに微笑んだ。
「良かった。」
彼女は手を差し伸べた。
その掌の上に——見慣れたものが現れた。
iPhone 17 Pro Max 5G。
チタニウムブラック。
傷ひとつない画面。
自分のものとまったく同じ。
だが——
何かが違う。
朔継はその電話を手に取った。
重さは同じだった。
ボタンも同じだった。
触れると画面が点灯した。
しかしその画面に——
見たことのないアイコンがあった。
【EARTH ARCHIVE】
「……これは何だ?」
女は微笑んだ。
「あなたの世界からの贈り物です。」
近づく。
画面を指す。
「このシステムを使えば、あなたは地球のあらゆるものを召喚できます。」
「食べ物。車。機械。本。薬。道具。家。そして——」
神秘的な微笑みを浮かべる。
「──インフラまで。」
朔継は自分の電話を見つめた。
次に女を見つめた。
再び電話を見つめた。
「……冗談だろ?」
「いいえ。現実です。」
アイコンを押した。
画面が変わる。
シンプルで、見やすく、非常に使いやすいインターフェースが現れた。
【EARTH ARCHIVE】
カテゴリー:
・車両
・食料
・衣類
・道具
・機械
・書籍
・医薬品
・インフラ
・設計図
・技術
・日用品
検索:
[ ]
朔継は入力した。
「水」
画面が変わる。
【結果】
アイテム:水
数量:1
【召喚】
ボタンを押した。
そして目の前に——
一本のペットボトルの水が現れた。
空中から。
無から。
朔継はそれを受け止めた。
水は冷たい。
ボトルは普通のペットボトルのように感じられた。
ラベルは——日本語で書かれている。
天然水。
山の湧水。
キャップを開けた。
飲んだ。
水は新鮮だった。
普通だ。
ごく普通だ。
彼は手の中の空のボトルを見つめた。
そして女を見つめた。
「……本物だ。」
女はうなずいた。
「もちろんです。」
朔継は再び電話を見つめた。
アースアーカイブ。
召喚。
地球。
新しい世界。
新しい身体。
新しい能力。
すべてが——
あまりに多い。
しかし彼は慌てなかった。
ただ電話の画面を見つめ、問うた。
「本当に、使命はないのか?」
「いいえ。」
「本当に自由なのか?」
「はい。」
「本当に、好きなことをしていいのか?」
「はい。」
朔継は息を吐いた。
そして——
微笑んだ。
死んで以来、初めて。
「……わかった。」
「なら、生きる。」
「俺のやり方で生きる。」
女は微笑んだ。
最も温かい微笑みを。
「それが、私の望みです。」
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彼女は手を上げた。
朔継の背後に——ポータルが開いた。
金色の光が内部から溢れ出ている。
その向こうに——
朔継は見えた。
青い空。
白い雲。
緑の草。
高い木々。
遠くの山。
新しい世界。
「さあ。」
女は彼を見つめた。
金色の瞳が輝く。
「好きなように生きなさい。」
朔継はそのポータルを見つめた。
そして電話を見つめた。
そしてもう一度、女を見つめた。
「……名前を聞いていなかった。」
女は瞬きをした。
まるで、自分が名乗っていなかったことに気づいたかのように。
「ああ、そうでした。」
微笑んだ。
そして初めて——優雅にお辞儀をした。
「私は、ゲネシスヴァ。」
「この世界の創造主です。」
朔継はうなずいた。
「ゲネシスヴァ。」
繰り返す。
奇妙な名前。
知らない名前。
しかし、永遠に忘れない名前だろう。
「ありがとう、ゲネシスヴァ。」
彼はポータルへと歩みを進めた。
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【次章 第3章 — 「俺専用の身体」へ続く】
ポータルの向こうで、新しい世界が待っている。
朔継はゲネシスヴァの白い空間を後にして、一歩を踏み出す。
そして人生で初めて——異世界の空気を吸う。
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【第3章へ続く……】




