↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『地球を召喚できるスマホを持って異世界に来たので、誰もいない大地で文明を始めます』  作者: MagnusOps


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/56

第10章 — 「異世界で初めてのエンジン音」

第10章 — 「異世界で初めてのエンジン音」


---


朔継はトヨタ・ハイラックスの運転席に座っていた。


手はステアリングを握っている——黒い革の感触が手のひらに馴染む。目の前のダッシュボードには、まだ空白のナビゲーション画面、ゆっくりと動くスピードメーター、満タンを示す燃料計が灯っている。


彼はアクセルを踏んだ。


ブルルルルルルル——!


重低音のディーゼルエンジンが周囲に響き渡る。聞き慣れた音。前世で何千回も聞いた音——日本の高速道路で、大学の駐車場で、テレビのコマーシャルで。


しかしここでは——


この世界では——


その音は違って聞こえた。


より大きく。


より轟々と。


まるで長い眠りから覚めたばかりの巨人のように。


朔継は微笑んだ。


死んで以来初めて、心からの笑顔だった。


「……これだ。」


アクセルをさらに深く踏み込む。


ハイラックスが疾走する。


---


草原が脇を流れていく。


高い緑の草が風に煽られて後方へ飛んでいく。遠くには、午後の日差しに輝く雪を頂いた山々がそびえている。


朔継はゆったりと運転した。


急がなかった。


一瞬一瞬を楽しんだ。


サスペンションが地面の振動を完璧に吸収するのを感じる。巨大なタイヤが地面をしっかりと掴む。手の中のステアリングが応答よく動く。


これがハイラックスだ。


これが自分をどこへでも連れて行ってくれる車両だ。


彼は左に曲がり、遠くに見えた川へ向かった。


---


川の幅は約二十メートル。水は勢いよく流れ、川底には大きな岩が点在している。


朔継は止まらなかった。


アクセルを踏み込む。


ハイラックスが川に突入する。


水しぶきが高く舞い上がる——巨大な噴水が空に向かって吹き上げるかのように。大きなタイヤが川底の岩を掴み、車両を安定させて前に進める。水はタイヤの半分ほどの高さまで達したが、キャビン内には入ってこない。


朔継はタイヤの下の岩の感触を感じた。見覚えのある感触だ。


これがオフロードだ。


これがハイラックスのために作られた道だ。


彼は対岸に到達した。


タイヤが再び乾いた地面を掴む。


ハイラックスが前に進む。


ブルルルルルルル——!


---


草原は森へと変わった。


銀色の幹と濃い緑の葉を持つ大きな木々が、道の両側に立っている——道と言っても、実際には道ではない。ただ、まだ人間の手が触れていない土地だ。


朔継は木々の間を運転した。


大きな幹を避けて。


地表に張り出した根を乗り越えて。


茂みをかき分けて。


ハイラックスは機敏に動いた——自分の縄張りを駆け抜ける野獣のように。


朔継はダッシュボードのボタンを押した。


ルーフのLEDライトが点灯する。


明るい白い光が前方の道を照らす——鬱蒼とした木々の canopy の下でも、はっきりと見える。


これは探検に完璧な車両だ。


---


彼は森の中の開けた場所で止まった。


ハイラックスを駐車する。


降りる。


足元の地面に触れる。


森の土。湿っている。落ち葉と苔で覆われている。


目の前のハイラックスを見つめる。


白いボディに黒のアクセント。


大きなタイヤ。


LEDライト。


フロントのウインチ。


ボンネット横のスノーケル。


キャビン後部のラック。


この車両は、自分の古い人生の象徴だ。


しかし今、それは新しい人生の一部になる。


彼はハイラックスのボンネットに触れた。


冷たい金属。


エンジンはまだ温かい。


「……遠くへ行くぞ。」


どこへ行くのかはわからなかった。


まだ目的地はなかった。


しかし——車両はある。


そしてその車両があれば、どこへでも行ける。


---


彼は再び運転席に戻った。


ドアを閉める。


再びエンジンをかける。


ブルルルルルルル——!


彼は運転した。


森を抜けて。


川を渡って。


草原を駆け抜けて。


太陽が遠くに沈み始め、美しい橙色の空を作り出している。


朔継はゆったりと運転し、景色を楽しんだ。


これが人生だ。


これが自由だ。


---


彼は小さな丘の上で止まった。


目の前には、どこまでも続く草原が広がっている。遠くには山々がそびえる。眼下には、銀色のリボンのように輝く川が流れている。


朔継は降りた。


丘の上に立つ。


夕日が沈む。


橙色の空。


風が吹く。


深く息を吸い込んだ。


「……これなら慣れられそうだ。」


彼は微笑んだ。


そして初めて、未来について考えた。


どこに住もう?


どこに家を建てよう?


どこで新しい人生を始めよう?


わからなかった。


しかし時間はある。


車両はある。


能力はある。


自由はある。


それで十分だった。


---


【次章 第11章 — 「文明がない場所では、まず水」へ続く】


ハイラックスのエンジン音が森にこだまする。


朔継は車を走らせ、一夜を過ごすのに適した場所を探す。


しかし遠くのどこかで——


その音が聞こえていた。


車両の音ではない。


風の音ではない。


動物の音でもない。


違う音だ。


この世界がかつて聞いたことのない音。


そして何か——大きな何か——がそれに耳を傾けている。


---


【第11章へ続く……】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。