第10章 — 「異世界で初めてのエンジン音」
第10章 — 「異世界で初めてのエンジン音」
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朔継はトヨタ・ハイラックスの運転席に座っていた。
手はステアリングを握っている——黒い革の感触が手のひらに馴染む。目の前のダッシュボードには、まだ空白のナビゲーション画面、ゆっくりと動くスピードメーター、満タンを示す燃料計が灯っている。
彼はアクセルを踏んだ。
ブルルルルルルル——!
重低音のディーゼルエンジンが周囲に響き渡る。聞き慣れた音。前世で何千回も聞いた音——日本の高速道路で、大学の駐車場で、テレビのコマーシャルで。
しかしここでは——
この世界では——
その音は違って聞こえた。
より大きく。
より轟々と。
まるで長い眠りから覚めたばかりの巨人のように。
朔継は微笑んだ。
死んで以来初めて、心からの笑顔だった。
「……これだ。」
アクセルをさらに深く踏み込む。
ハイラックスが疾走する。
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草原が脇を流れていく。
高い緑の草が風に煽られて後方へ飛んでいく。遠くには、午後の日差しに輝く雪を頂いた山々がそびえている。
朔継はゆったりと運転した。
急がなかった。
一瞬一瞬を楽しんだ。
サスペンションが地面の振動を完璧に吸収するのを感じる。巨大なタイヤが地面をしっかりと掴む。手の中のステアリングが応答よく動く。
これがハイラックスだ。
これが自分をどこへでも連れて行ってくれる車両だ。
彼は左に曲がり、遠くに見えた川へ向かった。
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川の幅は約二十メートル。水は勢いよく流れ、川底には大きな岩が点在している。
朔継は止まらなかった。
アクセルを踏み込む。
ハイラックスが川に突入する。
水しぶきが高く舞い上がる——巨大な噴水が空に向かって吹き上げるかのように。大きなタイヤが川底の岩を掴み、車両を安定させて前に進める。水はタイヤの半分ほどの高さまで達したが、キャビン内には入ってこない。
朔継はタイヤの下の岩の感触を感じた。見覚えのある感触だ。
これがオフロードだ。
これがハイラックスのために作られた道だ。
彼は対岸に到達した。
タイヤが再び乾いた地面を掴む。
ハイラックスが前に進む。
ブルルルルルルル——!
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草原は森へと変わった。
銀色の幹と濃い緑の葉を持つ大きな木々が、道の両側に立っている——道と言っても、実際には道ではない。ただ、まだ人間の手が触れていない土地だ。
朔継は木々の間を運転した。
大きな幹を避けて。
地表に張り出した根を乗り越えて。
茂みをかき分けて。
ハイラックスは機敏に動いた——自分の縄張りを駆け抜ける野獣のように。
朔継はダッシュボードのボタンを押した。
ルーフのLEDライトが点灯する。
明るい白い光が前方の道を照らす——鬱蒼とした木々の canopy の下でも、はっきりと見える。
これは探検に完璧な車両だ。
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彼は森の中の開けた場所で止まった。
ハイラックスを駐車する。
降りる。
足元の地面に触れる。
森の土。湿っている。落ち葉と苔で覆われている。
目の前のハイラックスを見つめる。
白いボディに黒のアクセント。
大きなタイヤ。
LEDライト。
フロントのウインチ。
ボンネット横のスノーケル。
キャビン後部のラック。
この車両は、自分の古い人生の象徴だ。
しかし今、それは新しい人生の一部になる。
彼はハイラックスのボンネットに触れた。
冷たい金属。
エンジンはまだ温かい。
「……遠くへ行くぞ。」
どこへ行くのかはわからなかった。
まだ目的地はなかった。
しかし——車両はある。
そしてその車両があれば、どこへでも行ける。
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彼は再び運転席に戻った。
ドアを閉める。
再びエンジンをかける。
ブルルルルルルル——!
彼は運転した。
森を抜けて。
川を渡って。
草原を駆け抜けて。
太陽が遠くに沈み始め、美しい橙色の空を作り出している。
朔継はゆったりと運転し、景色を楽しんだ。
これが人生だ。
これが自由だ。
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彼は小さな丘の上で止まった。
目の前には、どこまでも続く草原が広がっている。遠くには山々がそびえる。眼下には、銀色のリボンのように輝く川が流れている。
朔継は降りた。
丘の上に立つ。
夕日が沈む。
橙色の空。
風が吹く。
深く息を吸い込んだ。
「……これなら慣れられそうだ。」
彼は微笑んだ。
そして初めて、未来について考えた。
どこに住もう?
どこに家を建てよう?
どこで新しい人生を始めよう?
わからなかった。
しかし時間はある。
車両はある。
能力はある。
自由はある。
それで十分だった。
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【次章 第11章 — 「文明がない場所では、まず水」へ続く】
ハイラックスのエンジン音が森にこだまする。
朔継は車を走らせ、一夜を過ごすのに適した場所を探す。
しかし遠くのどこかで——
その音が聞こえていた。
車両の音ではない。
風の音ではない。
動物の音でもない。
違う音だ。
この世界がかつて聞いたことのない音。
そして何か——大きな何か——がそれに耳を傾けている。
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【第11章へ続く……】




