表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/12

外伝:白銀の庭の追憶 ― 獣の誓いと光の揺り籠 ―

かつて光の界アステリオスは、神々の傲慢さが生み出した「沈黙の楽園」だった。


若き騎神アモルは、その巨躯と、一振りで大地を割る剛腕ゆえに、他の神々から恐れられていた。


彼の歩く場所には常にひびが入り、彼が触れる花は、その力に耐えきれず枯れ落ちる。


「……私は、壊すことしかできぬのか」


ある日、創造神ゼウスは、戦場を血で染め上げたばかりのアモルを呼び出した。


「アモルよ。お前の力は、今の平和には過ぎたるものだ。

今日より、西の果てにある『白銀の庭』の番人を命ずる。

そこには、私の娘アスティシアがおる。

……指一本触れることは許さぬぞ」


それは事実上の追放だった。


戦うことしか知らぬ獣に、最も壊れやすい「光」の守護を命じる。

それはゼウスなりの残酷な試練だったのかもしれない。


アモルが辿り着いた白銀の庭は、息を呑むほどに静かで、脆かった。


そこで彼は、一人の少女に出会う。


まだ幼く、神としての自覚も薄い、透き通るような銀髪の姫――アスティシア。


アモルは自らの巨大な影が、彼女の足元の花を隠してしまうのを恐れ、庭の入り口で立ち尽くした。


「……近寄るな、姫。私は呪われた騎神。

触れれば、貴女のその白い指も、容易く折れてしまうだろう」


アモルは背を向け、庭の外壁に座り込んだ。


それから数ヶ月、彼は一度も庭の中へは入らなかった。

ただ、門番のように座り続け、迫りくる魔物や荒ぶる風を、人知れずその背中で受け止めた。


だがある嵐の夜、結界を抜けた影の獣が庭に侵入した。


アモルは咆哮し、庭を蹂躙しようとする獣を素手で引き裂いた。

返り血を浴び、我を忘れて戦うその姿は、まさに破壊の化身。


戦いが終わり、荒い息をつくアモルの背後に、小さな足音が響いた。


「……来ないでくれ!」


アモルは叫んだ。返り血で汚れた己の手が、恐ろしかった。


「私は獣だ。破壊することしか、護る術を知らない……!」


だが、背中に触れたのは、驚くほど小さく、温かな掌だった。


アスティシアは、怯えることもなく、アモルの血に濡れた鉄の籠手にそっと頬を寄せた。


「……温かいわ。アモル」


「何を……馬鹿なことを。私は、貴女の庭を血で汚したのだぞ」


「いいえ。あなたは、私を独りにしなかった。

……外の風が吹くたび、あなたが背中で守ってくれている音が聞こえていたわ。

この手は、壊すための手じゃない。私を、抱きとめてくれるための手よ」


アモルは、生まれて初めて震えた。


神々の賞賛よりも、戦場の勝利よりも、その小さな一言が、彼の魂の核を震わせた。


彼はゆっくりと振り返り、膝をついた。

アスティシアの目線に合わせて、その大きな、無骨な手を砂の上に置く。


「……姫様。私は、誓います。

この手が、いつか貴女の未来を切り拓く盾となることを。

たとえこの命が尽き果て、肉体が砕け散ろうとも、貴女の祈りが途切れることだけは、断じて許しはしない」


アスティシアは微笑み、アモルの指先に一輪の花を置いた。


今度は、花は枯れなかった。


それが、後にラザールを救う「最強の騎士」が誕生した瞬間。


白銀の庭に、初めて二人だけの「絆」という名の火が灯った夜のことだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ