第17章 奴隷 4
第17章
奴隷 4
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アルコーラル商国、立国祭闇オークションで購入した奴隷スーオングロッドと話した2日後、僕はモルツェンの師団を除く、S級A級代理官を円卓の間に集めた。
スーオングロッドの検査結果が悪い予想を的中させたからだ…………
「…………みんな、申し訳無い。
今回は完全に僕のミスだった。
キチンと調べてから、ルベスタリア王国に連れて来るべきだった…………」
「ノッディード様、お顔を上げて下さい。
私達は、皆、ノッディード様の優しさに救われたのです。
その優しさが裏目に出たとしても、ノッディード様のご決断に異を唱える者はおりません」
開口一番に頭を下げる僕に、ネイザーが慌てて応える。
ネイザーの慌てた声を聞くのはとても珍しい事だ。
僕はゆっくりと顔を上げて、全員を見回す。
みんな、ネイザーの言う通り非難する様な雰囲気は無い、寧ろ、同様に戸惑っている感じだ。
「ネイザー殿の言う通りです、ノッディード陛下。
では、私から陛下にご報告した内容をお伝えします。
先の奴隷の洗脳状態については皆さん情報を見られたと思いますが、検査の結果、陛下の予想通り体内から魔導具が出て来ました。
体内に埋め込まれていた魔導具は2つ。
1つは、“レゾナンスブレスレット”と云う魔導具のカケラです。
此れは、二対一式の魔導具で、互いに方角と距離感が分かると云う魔導具です。
但し、正確な居場所が分かると云うモノでは無く、ある程度の感覚で感じられると云うモノです。
もう1つは、“サイレントスピーカーピアス”です。
此れも、“サイレントマイクブレスレット”と云う魔導具と対になっている魔導具で、その“サイレントマイクブレスレット”に話し掛けると、その声を人間の耳には聞き取れない声として周囲に響かせ、“サイレントスピーカーピアス”を付けている者にだけ声を届けると云う魔導具です。
此方は、人間の耳には聞き取れないだけで、声を増幅しているモノなので、聞こえる範囲は本来は其処迄広いモノでは有りませんが、このルベスタリア王国は周囲を高い山脈に囲まれた盆地なので、最悪の場合、ワイドラック山脈の山頂から響かせる事が可能かも知れません」
アエルゲインの報告に各々難しい表情をする。
特に周辺警備を担当しているワルトルットゥ達にとってはイヤな情報だろう。
「……みんな、聞いての通りだ。
つまり、イジャラン・バダ帝国にワイドラック山脈の方角に僕達が居る可能性を気付かれたかもしれない事。
そして、“エヴィエイションクルーザー”の存在、超高速の移動手段を持っている可能性に気付かれたかもしれない事。
この2点が大いに問題だ。
現在、6人全員から魔導具を取り出して、所在が分からなくなる様に、諜報局の方であちこちに移動させている。
其れとは別にドラゴンが現れたと云う偽情報も撒くように手配している。
イジャラン・バダ帝国が運良くその情報から奴隷達がドラゴンに喰われて、腹の中の魔導具があちこちに移動したと勘違いしてくれれば良いが、もし、そうで無ければ調査に向かって来る可能性も十分に有り得る。
出来れば、その調査団も無闇に殺す様な選択はしたく無いけど、最悪、口封じの必要が有るかもしれない」
「…………メシャベチャンのメーチャ奴隷商会を潰して、魔導具を奪うか破壊すると云う選択はされないのですか?」
と、珍しくティヤーロが過激な発言をして来た。
どうやらティヤーロは、奴隷と云うモノ自体が気に入らないのだろう。
全ての国民の平等を伝える聖女らしいと言えば聖女らしい考え…………かな?
「ティヤーロ、其れは現段階ではするつもりは無いんだ。
奴隷制度もイジャラン・バダ帝国では合法だし、其れ自体が完全に悪いとは僕は考えていない。
確かに今回の6人の扱いは酷いモノでは有ったけど、中には、奴隷として売られる事で死なずに済んでいる者も居る。
特に戦争を続けているイジャラン・バダ帝国では、戦争奴隷が居なくなれば、敵国の兵士は皆殺しになりかねないからね。
僕個人としては奴隷制度は嫌いだし、あの6人の仕打ちに腹も立つけど、だからって潰せば良いってモノでも無いんだ」
「そう、ですね。
申し訳ありません、短慮な考えでした」
ティヤーロがそう言って頭を下げるが、結構何人も、『ダメなのか……』と、言いたげな顔をしているので、みんなかなり奴隷制度がお気に召さない様だ。
「しかし、帝国がドラゴンが原因だと考えるでしょうか?
もしも、帝国の調査でドラゴンの仕業だと断定されればその可能性もあるでしょうが、噂だけで納得する国では無い様に思うのですが…………」
僕の指示でドラゴンの仕業に見せ掛ける偽装工作を行っているネクジェーから疑問の声が上がる。
其れには、副局長のイカルツウィンとデンツウィンも同意の様だ。
正直言って僕も自分で消極的な作戦だとは思っている…………
「……うん、僕も正直自信の有る作戦じゃあ無いんだよね。
素直に信じる様な国じゃあ無い気が僕もするからね…………」
「だったら、獲物を用意してやれば良いんじゃないっスか?」
と、此処で珍しく元勇者パーティーのサンティデルテが意見を出した。
みんなも若干驚いて、「結婚したからか?」とか、「嫁さんの前で格好付けてんのか?」とか、ちょっと失礼な言葉が聞こえて来る。
「サンティデルテ、どう云う事?」
「えっとっですね。オレら狩人は、狩りで放った矢が見つからなかったら、徹底して周囲を警戒します。
獲物を取り逃したのか、矢が刺さっても効かないくらいの獲物か、ハッキリさせないと安心出来ないからです。
イジャラン・バダ帝国の連中も、何にも見つからないと躍起になって、どんどん探すでしょうけど、何かが見つかったら、其処迄本気で探さなくなると思います。
だから、首都アルコーラルの北西の方に洞窟でも掘って、其処に強力な魔獣でも入れといたら、多分、発見し次第満足すると思うんですよね」
「…………なるほど、ついでに其処に“レゾナンスブレスレット”と“サイレントスピーカーピアス”を捨てておいて、その魔獣に喰われた事にするって事か…………」
「まあ、其処は無理にそいつに喰わせなくても、トレジャノスピング大森林に適当に捨てておいても良いと思いますよ、1体の魔獣が6人も綺麗に残さず食べるとは限りませんから」
「なるほどね…………
謎のままよりも、都合の良い偽の真実を用意するって事か…………」
「…………ノッド様、其れならば、こう云う案は如何でしょう」
サンティデルテのアドバイスで、閃いたのか、我がルベスタリア王国最高の頭脳とも云える参謀長、天才少女ハンジーズがとんでもないプランを出して来た。
僕は正直言って、今回の件は自分のミスだと思っているので、ハンジーズの大規模な計画に対してみんなが反対しなかった事が、嬉しい様な、申し訳無い様な複雑な心持ちだった。
ハンジーズの立てた作戦は、首都アルコーラルと帝都イジャランから王都ルベスタリアを結んだ直接上の中間辺りに、洞窟を掘る。
まあ、此処迄はサンティデルテのアイディアと同じだ。
しかし、サンティデルテの提案が魔獣の巣になるくらいの洞窟だったのに対して、ハンジーズの作戦は、そのまま延々と、延々と洞窟を掘って行くモノだった。
そして、その洞窟は、ワイドラック山脈をルベスタリア王国の有る北西では無く、北東へと進み続けて、ワイドラック山脈を貫通するトンネルにすると云うモノだ。
ルベスタリア王国に対して、首都アルコーラルは南東、帝都イジャランは東南東に位置し、ルベスタリア王国の東に続くワイドラック山脈は、イジャラン・バダ帝国の東の端の方で途切れる。
この東の端から北に向かうと、かつて『伝説の勇者』が倒した魔王の内の1体、死の魔王 マラが治めていた古代遺跡都市 死都 プルトバトールが在るのだが、トンネルの出口はこの古代遺跡都市 死都 プルトバトールの西側だ。
距離にして、1,300kmくらい有る…………
ハンジーズが何故、此処迄大規模な計画を提案して来たかと云うと、洞窟を発見したら間違い無く探索される。
そして、どれ程の犠牲が出ようと、イジャラン・バダ帝国は洞窟を踏破しようとするだろう。
しかし、探索の結果、その洞窟が自国の其れも最も辺鄙な場所に繋がっているとなれば、余りにも無駄な労力だ。
更に、その洞窟では、もしもイジャラン・バダ帝国がアルコーラル商国やアルアックス王国を攻めるとしても、帝都イジャランから真反対に向かって進み、危険な森や死都を経由するルートには全く需要が無い。
かと言って、イジャラン・バダ帝国は、アルコーラル商国やアルアックス王国からの侵入を放置は出来ない。
侵入を防ぐ為に、この洞窟を自分達で防衛するだろう。
そうなれば、今以上にワイドラック山脈に近付く者が減るだろうとハンジーズは言った。
確かに、凄まじく大変な工事だ。
しかし、その労力で、今後、無償でワイドラック山脈を警備し続けてくれるなら悪くない。
さすがルベスタリア王国の参謀長ハンジーズ、どうせやるなら徹底的に、更に労力すらも今後の安全性向上に役立てる無駄の無さだ。
僕のミスなど、お釣りが返って来るくらいのフォローをしてくれる。
トンネル掘り計画はもちろん採用して、その後、トンネルの大きさや形状、掘り進めて行く手段などが話し合われた。
トンネルの形状は縦横3mの正方形で、全周を“イモータルウォール”で固めて行く、このサイズにしたのは、“エアーバイク”がスムーズにすれ違える様にだ。
本来なら、此処迄の大規模工事なので、もっと大きくして、“エアーバス”などで、どんどん掘り出した土を運ぶ方が早いのだが、其れだと掘り出した土を持って帰るのに苦労する。
掘り出した土は、全てルベスタリア王国に持って帰らなければならないからだ。
このトンネルはあくまで、古代魔導文明の遺産として、放置されていたトンネルが発見された様に見せ掛ける必要がある。
1,300kmものトンネルと其れを支える大量の“イモータルウォール”を使える建築技術が現代に有る事を知られてはいけない。
このトンネルは古代魔導文明時代の人々が、死都 プルトバトールから魔都 ウニウンへの直通道路として使っていたトンネルと云うイメージで発見して貰う必要があるのだ。
掘り進め方としては、非常に単純にバケツリレーで行う事になった。
先ず、“ゼログラヴィティボックス”付きの荷台を3連結した“エアーバイク”に“イモータルウォール”を積んだ部隊が穴掘り魔導具“ディガップピックル”で、3m四方深さ1mの穴を掘っては、“イモータルウォール”で固めて、土を持って、拠点に戻る事を繰り返す。
次の拠点防衛部隊は、その戻って来た“エアーバイク”から土を“エヴィエイションクルーザー”“ミグレーション”に積み込む。
最後に“エヴィエイションクルーザー”部隊が王都ルベスタリアの北側に運んで下ろしてはまた、“イモータルウォール”を含む物資を持って土を取りに戻る。
穴掘り部隊は、深くなる程に人員を増やして行き、拠点防衛部隊は土の積み込みの合間に、周囲の魔獣を掃討して、“エヴィエイションクルーザー”部隊は、物資の運搬だけで無く、穴掘り部隊や拠点防衛部隊の炊事も行う。
此れをトンネルの北東と南西双方向から進めて行き、約1ヵ月の工程で計画した。
1,700万〜2,000万トンもの土を掘り出す大工事だ。
最大時には800人もの代理官を動員する予定で、現状ルベスタリア王国軍の代理官だけでは足りないので、各部署からも増員しての工事となる。
そう言った人員の調整や、“イモータルウォール”や“ディガップピックル”の追加製造の準備など、会議が終わった瞬間から、即時動き始め、トンネル掘りは翌週の6月7日には開始されたのだった…………




