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箱庭の王様  作者: 山司
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第17章 奴隷 3

第17章

奴隷 3





▪️▪️▪️▪️





僕が部屋へと入ると、6人の男女が椅子の前に正座して、平伏していた…………


僕はとりあえず、何も言わずに、彼らの前の椅子に腰掛ける。

僕の後には、ペアクーレとネイザーの親衛局の2人と、ティニーマとティヤーロ親娘、アエルゲインとトーリカ、そして、いつものエルヴァの7人が並んで居る。



「……先ずは、顔を上げて椅子に座ってくれるかな?

そのままだと話し難いからね」


僕がそう言うと、6人はサッと顔を上げたが、僕を見た直後に、直ぐ後ろを見て声も無く凍り付く。


まあ、アエルゲインを見たからだ。


アエルゲインは、身長3m以上で額にツノが有るので、そりゃあ、初めて見たら驚くだろう。


しかし、オークショニアが言っていた通り、本当に奴隷としての厳しい教育とやらを受けて来たのだろう、全員、声を出さない。


「驚いたと思うけど、ちゃんと説明するから、とりあえず座ってくれるかな?」



僕がそう言うと、6人の男女は慌てて椅子に着いた。

恐らく、同じ事を2度言わせてはいけないとも教育されているんだろう。



「じゃあ、先ずは自己紹介からしよう。


僕は、ノッディード•ルベスタリア。

このルベスタリア王国の国王だ。


後ろのみんなは、後から紹介して行くとして、次はキミ達の事を聞きたい。


此れから、質問をして行くけど、分からない事は分からない、言いたく無い事は言いたく無いとキチンと答えて欲しい。


言いたく無い事までは聞かないけど、嘘や適当な答えはしないでね。


じゃあ、先ずは、1番端のキミから。

名前と年齢を教えてくれるかな?」



そう言って、僕が指したのは、両性具有の少女だ。

彼女は、サッと立ち上がって、


「はい、ご主人様。

私はスーロと申します、13歳です」



「じゃあ、スーロ。

キミの心の方は、男なの女なの?」


「…………分かりません、申し訳ありません」


「謝る必要は無いよ。

僕は別にキミを責めている訳じゃ無いんだ。


ただ、キミが何方の生き方が生きやすいのか知りたいだけでね。


因みに、誰かを好きになった事は?

相手は男?女?」


「……今迄、好きになった人はおりません」


「……そうか、じゃあ、服はどうしようかな?

まあ、良いか、ネイザー、服は好きに選んで貰える様に手配しといて」


「はい、畏まりました」


「じゃあ、スーロ、さっきも言ったけど、言いたく無い事は言わなくて良いから、生い立ちから、オークションの日迄の事を話してくれるかな?」


「はい、私は物心ついた時には、奴隷商のメシャベチャン様の元で、他の奴隷に育てられて居ました。


私を育ててくれた他の奴隷も売れて行くにつれて交代していましたので、記憶にあるだけで計12人に育てられ、家事全般は教育を受けており、夜伽のついても男女何方でも対応出来る様に教育を受けております。


オークションの日迄は、メシャベチャン様のお屋敷から出た事は無く、お屋敷の中だけで生活しておりました。


以上で御座います」




…………思った以上に深刻だな、この子…………


この子の話しは殆ど嘘だ。

年齢と家事、夜伽の教育を受けているって云う部分以外、自分の名前も奴隷商人の名前も生い立ちも全部が嘘だ。


僕が国王だって名乗ったのに、其れでも当然の様に、用意されていたであろう嘘の情報をツラツラと淀み無く話すとは、本当に教育が行き届いている様だ…………



「……分かった。

ありがとう、スーロ、座って良いよ。


じゃあ、他の5人も殆ど同じ経歴だよね?」


そう言って、図星を突かれても、全員が一切表情に出さない。

しかし、嘘が見抜かれた事に動揺している事は僕には分かる。


「ペアクーレ、ネクジェーかモルツェンが、奴隷商人 メシャベチャンって名乗ってるヤツの情報を持ってないか聞いてみて」


「はい、少々お待ちください」



ペアクーレが“スピリットコミュニケーションデバイス”で、連絡を取っている間、僕は笑顔で、目の前の6人の顔を見ていた。


この状況ですら、一切表情を変えずに全員がじっとしている。

1人くらいは動揺するかと思ったが、其れも無い。


教育や洗脳と云うよりも、精神を壊しているのでは無いかと云うレベルだ。



そう思っていると、ペアクーレから、「モルツェンです」と、“スピリット”を渡された。


『ノッディード陛下、モルツェンです。


奴隷商人 メシャベチャンについてですが、イジャラン・バダ帝国で最大手の奴隷商人です。


皇帝との繋がりも噂されており、メシャベチャンのメーチャ奴隷商会からは、一切の徴兵がされていないと言われています。


其れと、メーチャ奴隷商会の奴隷は、非常に従順で裏社会ではかなり重宝されており、奴隷でありながら、重要なポジションに就く者まで居る様です』


「なるほどね。

ところで、メシャベチャンって正体不明で、極一部の幹部しか会った事が無くて、ついでに、“洗脳の魔導具”を持ってるって云う噂とかは無い?」


『……さすがです、ノッディード陛下。

何方も仰る通りです。


メシャベチャンに会った事が有る者は、メーチャ奴隷商会の4大幹部と言われる者達だけで、メーチャ奴隷商会の奴隷は、その余りの従順さから、洗脳を受けているのでは無いかと言われています』


「そっか。

因みに、メシャベチャンが実はイジャラン・バダ帝国の皇帝の裏の顔って噂は全く無いよね?」


『?ええ、そう言った噂は無いですね…………

まさか、皇帝がメシャベチャンで、皇帝がメシャベチャンだと云う噂だけを徹底して潰しているとお考えですか?』


「まあ、そう云う可能性も有るかなって程度だよ。

何方にせよ、深く関わる気は無いしね。


ありがとう、モルツェン。

とっても助かったよ」


『いいえ、滅相も御座いません。

必要とあらば、直ぐにお呼び下さい』



モルツェンとの通信を切って、僕はゆっくりと目の前の6人の顔を見る。

表情には出ていないが、先程までよりも明らかに動揺が有ると感じた。



「……ねぇ、キミ達、此れはあくまでも僕の推理だけどね。


キミ達は、奴隷教育を受ける中で、絶対的な主人を教え込まれているんじゃないかい?

其れは、奴隷商人 メシャベチャン。

そして、その正体は、イジャラン・バダ帝国の皇帝だ。


なんで、この推理をしたか分からないと、自分達の失敗に気付けないよね?


だから、教えてあげるよ。


キミ達は、僕が国王だって言っても一切動揺しなかった。

此れは失敗だったね。


僕は、その事で2つの可能性を考えた。

1つは、キミ達が、最初から王族に買われる事を前提に育てられた可能性。

もう1つは、キミ達が、既に国王に会った事が有る可能性だ。


そして、キミ達は、まんまと僕とモルツェンの会話で、僕がメシャベチャン、イコール、皇帝って言葉を聞いて、動揺してしまった訳だ。


まあ、多分、2つの可能性はどっちも正解だろうけどね。



と、云うわけで、みんな、ちょっと、この子達には眠って貰ってくれ」



そう言って、僕が手を上げると、エルヴァを除く6人が、一瞬にして、首筋に手刀を入れたり、後頭部を殴ったりして、目の前の6人の意識を刈り取った…………





「…………ねぇ、アエルゲイン、洗脳って、状態異常回復ポーションで治るの?」


「難しいですな。

洗脳の魔導具や洗脳の魔法の攻撃を受けたならば、元に戻りますが、長期の洗脳を受けて、その洗脳されている状態が本人にとって、通常の状態となってしまったら、状態異常では無くなりますから」


「やっぱり、そうか…………

なんか、こう、“ラッキーフィールド”が、バシュっと洗脳も弾き出してくれないかなぁ〜……」


「…………“ラッキーフィールド”ですか…………


ノッディード陛下、もしかしたら、効果が有るかもしれません。


先ず、“ラッキーフィールドリング”を装備させて、その後で、状態異常回復ポーションを飲ませるのです。


そうすれば、直近で受けた洗脳は、状態異常回復ポーションで治るでしょうから、其処に、対して“ラッキーフィールド”が、洗脳を不快なモノと認識すれば、今までに受けた洗脳も払い退けるかもしれません」


「なるほどね、試してみようか」



6人の奴隷は、念の為、エアポートタワーの使って無いフロアの個室に其々運んで、“ラッキーフィールド”テストを行う事にした。


一応、このテストが失敗に終わっても、他の方法を模索するつもりだが、最悪、彼らは記憶の全消去も検討する必要があるので、一般の国民との接点を持たせない為だ。


そして、先ずは、自称スーロに、“ラッキーフィールド”テストを行った…………





▪️▪️▪️▪️





「……………………こ、此処は…………


……………………う、あ、あ、ああああああああああああああああああ!!!!」


「ティニーマ!!」


「はい!!」


目を覚ました瞬間、頭を抱えて大声で叫び出した、スーロに、ティニーマが直ぐに鎮静効果の有るポーションをぶっ掛ける。


洗脳の解除が出来た場合、こうなる可能性も考えて色々と用意しておいて正解だった。

洗脳によって、当然だと思っていた記憶が、一気に最悪の記憶としてやって来るのだ、まともに受け止めるのは難しいのではないかとは思っていた。



其れに、意識の無いスーロに“ラッキーフィールドリング”を付けて、状態異常回復ポーションを飲ませたところ、体内から、魔力の様な何かが出て来た様に感じられたので、“ラッキーフィールド”テストは成功しているんじゃないかとも思っていたからだ。




少しの間、叫んでいたスーロも、徐々に落ち着いて来たので、鎮静効果ポーションを手渡す。


「……もしも、今みたいに、怖くて仕方なくなったら少しづつ飲むんだ、気持ちを落ち着かせてくれるからね。

ただ、一気に飲んだら意識が無くなっちゃうから、ゆっくり、少しづつ飲むのを忘れないでね」



僕の言葉に少し虚な目でゆっくりと頷いたので、僕は頷き返すと、スーロのベッドの横に椅子を持って来て腰掛ける。

ティニーマがポーションで濡れた身体を優しく拭いて上げているが、もしかしたら、また発狂してしまう可能性もあるので、ゆっくり待って上げる訳にも行かない。



「……先ずは、僕の事は覚えているかい?」


僕が、そう聞くと、虚だった目が、だんだんと見開かれて、慌てて、ベッドから起きあがろうとするので、ティニーマが優しく力付くで、抑え付けた。


「大丈夫、そのままで良いよ。

其れで、覚えてるんだね?」


「は、はい。国王陛下」


「うん、じゃあ、最初にした質問をもう一回するけど、キミの名前と年齢は?」


「は、はい。スーオングロッドと申します、13歳です」


「そうか、じゃあ、僕にスーロと名乗ったのは、誰かの指示かい?」


「は、はい。メシャベチャン様の指示です。

あ、その、う、嘘を吐いて申し訳ありません!!」


「いや、良いよ。

キミは洗脳されていたみたいだしね。


因みに、洗脳は魔導具だよね?

どんな、魔導具だった?」


「た、多分、兜みたいなモノを何度も被せられていたので、其れでは無いかと、お、思います」


「…………兜みたいな魔導具か…………

アエルゲイン、思い当たるモノってある?」


「そうですな…………

使い方は異なりますが、“アソートソルジャーヘルム”ではないでしょうか?


本来は、戦場や魔獣との戦いで、新兵や徴収兵の恐怖心を無くして、上官の命令に従わせるモノですが、定期的に使い続けると洗脳状態になってしまう事から廃止された魔導具です。


恐らく、此れを幼少期に大きなトラウマを持つ者に使い続けて、完全な洗脳状態にしたのでは無いでしょうか?」


「幼少期に大きなトラウマを持つ者?」


「はい、“アソートソルジャーヘルム”は廃止されましたが、其処迄強い洗脳状態が続いたから廃止になった訳ではありません。


寧ろ、魔導具を外した後で、中途半端な洗脳状態だった為に、使った者達からの強い反発で廃止になったのです。


しかし、洗脳に限らず、精神攻撃系統の魔法は、トラウマを抱える者、特に幼少期のトラウマが強い者ほど影響を強く受ける事は立証されています。


ですから、あそこ迄の洗脳状態となっていたのが、“アソートソルジャーヘルム”での効果ならば、幼少期に大きなトラウマを持ち、尚且つ、かなりの精神的な摩耗をさせて、繰り返し使用し続けていたのではないかと考えられます」



「…………なるほどね、その線は濃厚そうだな。

スーオングロッド、辛いかもしれないけど、キミの生い立ちを聞かせてくれるかい?」


「はぃ…………」





スーオングロッドはイジャラン・バダ帝国の帝都イジャランの宿屋の息子として生まれた。


両親にとっても最初の子供、そして、一緒に暮らす祖父母にとっても最初の孫であった為に、とても可愛がられて育った。


しかし、その幸せな日々は彼が8歳の誕生日を迎えた翌日に崩れ去った…………


その日迄に、彼には2人の弟が出来ていた。

8歳の誕生日も、母と祖母がいつもよりも、ちょっとだけ豪勢な夕食を作ってくれて、両親と祖父母、2人の弟と7人で楽しく過ごした。


そして翌日、その幸せな日々を壊したのは、朝目覚めた時に自らが上げた悲鳴から始まった…………


スーオングロッドの大きな悲鳴を聞き付けた両親が駆け込んで来て何事か尋ねる。

スーオングロッドは母に抱き付いて、血だらけのベッドを指差した。


両親とも驚いていたが、母がスーオングロッドの太ももから更に垂れて来る血を見て、慌てて下着を下ろして、そのまま、崩れ落ちた。


何が何やら分からない、スーオングロッドは、父親に無理矢理着替えさせられて、そのまま、病院に連れて行かれた…………



「…………生理ですね、息子さんは、両性具有の様です」


医者のその言葉の意味はその時には分からなかったが今でもハッキリと覚えている。

そして、その言葉を聞いて、頭を抱える父の姿もハッキリと覚えている…………




その日から、スーオングロッドは、家族から居ないモノとして扱われ、命令される事はあっても、会話をする事は無くなった…………


優しかった両親も、可愛がってくれた祖父母も、まともに目を合わせる事も無く、ただ、エサの様に器に入れられた食事を部屋に置いて行くだけの存在となり、弟達とは会う事すら出来なかった…………




しかし、そんな孤独な日々も長くは続かなかった。

もちろん、良い意味では無い。

更なる地獄が待っていたのだ…………



3ヶ月後、彼は両親に奴隷商へと売られた…………




地獄の日々は、優しい言葉によるお勉強から始まった。

男とは女とはどう云うモノか、懇切丁寧に教えられて、自分が何方も有る、そして、何方でも無い、異常な存在だと優しい声で繰り返し繰り返し教えられ、その所為で、自分が両親から、家族から、「バケモノだから」と言われて売られた事を繰り返し繰り返し説明された…………


その言葉から逃げ出そうとすると、殴られ蹴られ、また、椅子に座らされて、同じ話しを繰り返される。


涙を流しながらも、聴き続けるしか無いスーオングロッドに、満面の笑みと優しい声で、毎日毎日、何時間も同じ話しをされ続けた…………



そんな日々が暫く続き、スーオングロッドが涙を流す事も悲しむ事もしなくなった頃、次の地獄がやって来た。


奴隷商人 メシャベチャンがやって来たのだ。

メシャベチャンは、拳で足で鞭で、スーオングロッドが意識を失うまで徹底的に痛め付けた。

泣こうが喚こうが許しを乞おうが殴り続け、血を流そうが骨が折れようが踏み付け、腫れ上がった身体に更に鞭を打った…………


意識が戻るとベッドの上、怪我が治り掛けるとメシャベチャンがやって来て意識が無くなる迄、暴力が続き、また意識が戻るとベッドの上と云う生活の日々が続いた…………


暫くすると、暴力の合間に兜を被せられる様になり、其処から、徐々に、暴力を振るう者がメシャベチャンの部下になって行き、暴力を受けながら家事をさせられ、暴力を受けながら勉強もさせられて行った…………



そして、この1年程は、次の地獄だった。

今迄の暴力はそのままに、男女問わずの性行為と、其れに伴う新たな暴力が追加されたのだ…………


昼間は殴られながら家事をさせられ、夜は蹴られながら男に女に犯され続け、まともに眠る事も出来ない日々だった…………




其れが唐突に終わったのが1週間程前だった。

例の兜を被せられて、床に平伏したスーオングロッドの前にメシャベチャンがやって来た。


メシャベチャンは、スーオングロッドの前に置かれた椅子に座ると、兜の上から踏み付けてこう言った。



「メシャベチャンとは、余の仮の名、余はこのイジャラン・バダ帝国の皇帝、ダトプラー・ヴァー・イジャランである。


貴様は余の奴隷、余の道具だ。


貴様は此れより、奴隷として出荷される。

出荷先では、全ての命令に従い、命を賭して最善を尽くせ。


しかし、貴様の真の支配者は、余であり、余が命令を下した時には、何をおいても必ず従え。

そして、新たな飼い主が余を害そうと企てていた場合には、その者を殺し自害しろ」



其れだけ言うと、メシャベチャンは出て行き、代わりにやって来た部下に、出荷された後の、新たな飼い主への受け答えや、スーオングロッド改めスーロとしての設定などを教え込まれて、全身の怪我を癒す治療をされて、オークションへと連れて来られたと云う話しだった…………





「…………スーオングロッド、辛かったね。

でも、もう大丈夫だ。


このルベスタリア王国には、キミに理不尽な暴力を振るう者も、キミの体質を差別する者も居ない。


本当は其れを伝えたくて、あの面談の場に、このメンバーを連れていたんだ」


「…………は、はぃ…………」



スーオングロッドは、辛く苦しい記憶を思い出しながら話した事で、鎮静効果ポーションの影響が有っても僅かに震えていて、僕の言葉も余り頭に入ってはいない様だ。


まあ、其れも仕方が無いと割り切って、続きを話す事にした。



「先ず、このティニーマは、そっちのティヤーロの母親だ」


「……え?」


「言っておくが、養子とかでは無く、本当にティニーマが産んだ娘って云う意味での親娘だ。

そして、こっちのトリーカは、もう40代だ」


「……は?」


「で、こっちのアエルゲインの事は気になってたと思うけど、キミと一緒に居た他の奴隷の者達とは全く違う。


アエルゲインは、正真正銘の魔物だ。

知っているか分からないけど、ジャッジメントオーガだ」


「!!オ、オーガ?!」


「そう、特別な魔導具で、今は人間っぽい感じになってるけど、元々は他のオーガと同じ見た目だった。


そして、このペアクーレは、キミと同じ様に親に酷い扱いを受けて、娼館に売られた。

アルアックス王国には、奴隷商は無いからね」


「……そう、なんですね…………」


「で、こっちのエルヴァは、奴隷として売られた後に、何度も何度も死に掛ける程の拷問を受けた所為で記憶を失って、何度も手術をして身体は何とか元に戻ったけど、心が壊れてしまっていて、ずっと、2、3歳くらいのままだ」


「……………………」


「ネイザーも辛い経験をしているけど、キミとの共感部分は無いだろうから、省くけど、まあ、このルベスタリア王国には色んな辛い経験をしている者が多いって事だ。


そして、見た目や生まれでは差別されない国だって事だね」


「…………何故、そんな人ばかり居るんですか?

国王陛下も辛い経験をしているんですか?


あ!!いえ、申し訳ありません、何でもありません!!」


「はは……

スーオングロッド、大丈夫、言いたい事は言って良いし、聞きたい事は聞いて良いよ。


先ず言っておくと、ティニーマとトリーカの若さはね、魔導具の力なんだ。

だから、この国には見た目と年齢の差が大きい者が多い。

要は見た目で判断しないよって事が伝えたかったんだ。


で、キミの質問についてだけど、辛い経験をした者が多いのは、僕が僕を裏切らない国民を集めようとしたからだ。


この人は、助けたら僕を裏切らないだろうって思う人を助けて国民にしたから、助けが必要だった人が多く居るんだよ。



で、僕が辛い経験をしてるかって質問だけど、答えは『微妙』だ。

良い境遇とは良い難かったけど、自分でどうにかしたし、普通なら死んじゃう経験もしたけど、僕は“不老不死”だしね」


「“不老不死”?ですか?え?!」


「まあ、いきなり“不老不死”って言われても意味が分からないだろうけど、その内分かるよ。


ところで、次は僕からの話しだ。


今言った様に、このルベスタリア王国ではキミも差別されない。

だから、普通に生活して行けるんだけど、キミが望むなら、幾つか選択肢が有る。


1つ目は、キミの辛かった日々の記憶を消す事が出来る。

此れは、キミの希望に沿って、生まれた直後でも、家族と幸せに暮らしていた頃でも、奴隷になった直後でもある程度の自由が効く。

但し、1度消したら2度と戻らないし、記憶は知識ごと全部消える。


そして、記憶を消すならルベスタリア王国で暮らさなくても、イジャラン・バダ帝国に帰る事も出来る。



2つ目は、キミが望むなら、男性か女性、何方かにしてあげる事も出来る。

但し、此れも1度行ったら2度と戻れない。


何方かを選んでも良いし、両方ともを選んでも良い。

もちろん、何方も選ばなくても良い。


キミが望む様にして上げるよ」


「…………あの、何でそんな事をしてくれるんですか?」


「キミは辛い経験をして来ただろうけど、何一つ悪い事なんてしていない、だからだよ」


「え?其れは、どう云う…………」


「ノッド様、私がこの子と話す。

多分、私が1番近い境遇だから」



そう言って、ペアクーレがスーオングロッドと話し始めた。


ペアクーレは、両親と髪と瞳の色が違うと云うだけで、両親からも住んでいた村中からも迫害され続けて生きて来た。


ペアクーレはスーオングロッドへと自分がどんな生活をさせられていたか、誰からどんな言葉を浴びせられていたかを色々と話し、その後、自分が娼館に売られて、どんな仕打ちを受けて来たかを話して行った。


スーオングロッドもペアクーレの生い立ちに同情し共感して、時には自身の事を思い出したのか、震えながら、涙を流しながらも聞いていた。


そして、最後は僕との出逢いの話しで締め括られた。

スーオングロッドは、僕とペアクーレのやり取りの話しに目を輝かせて聞いていたが、僕としては、ちょっと恥ずかしい感じだ。

言っていた時は良いが後で改めて人に説明されると、セリフの1つ1つがちょっと格好つけ過ぎの様な…………



「…………つまり、ノッド様は、他の人とは全く違う、本当に優しい人。

だから、ノッド様は、貴方の為に、貴方を救ってくれる。


私には、帰る場所も、帰りたい場所も無かったし、ノッド様と一緒に居られるなら他には何も要らなかったから、他の選択肢なんて考える必要無かったけど、貴方には全て忘れて、男か女になって家族のところに帰るって云う選択肢も有る。


もしかしたら、其処に貴方の幸せな生活があるかもしれない」


「…………ペアクーレ様は、どうしてそんなに辛い人生を送って来られたのに記憶を消さなかったのですか?」


「記憶は新しい方から消える。

だから、イヤな記憶を消す為には、ノッド様と出会った記憶を消さないといけない。


私にとって、過去のイヤな記憶なんてどうでも良い、ノッド様と出会った時の記憶の方が大切。


私はノッド様が、『今迄、よく頑張ったね。もう、安心だ。此れからは、僕が居る』って言ってくれた事は、何があっても忘れたく無い。


其れに、辛かったからこそ、救ってくれたノッド様にとても感謝してる。

みんな、其れが分かってるから、私以外にも辛い人生の人はいっぱい居るけど、ルベスタリア王国には自分から記憶を消した人は居ない」


「…………私は…………

私が記憶を消して、家族のところに帰ったとして、本当に幸せになれるでしょうか?」


「…………私は、正直に言って可能性は低いと思う。


私の母親は、間違い無く自分で産んだ自分の娘の私を、父親や村の人から迫害される原因だと忌み嫌って居た。

私を育てて居たのも、自分が人殺しだって言われたく無かっただけ。


今の私にはノッド様や家族だって思える人達が居るからこそ分かる。

血の繋がっている人でも信じられるとは限らない。

逆に、血の繋がりなんて無くても信じられる人も居る。



私は、スーオングロッドが両性具有だって知った直後に奴隷として売った両親は、信じられない人達だと思う。


其れに、スーオングロッドの記憶が無くても、家族にはスーオングロッドを奴隷として売った記憶は有る。

だから、記憶を消して帰っても逃げて来たと思って、また、奴隷として売ると思う」


「…………そうですよね…………

ペアクーレ様の仰る通りだと、私も思います…………


でも…………


国王陛下、私は、もしも、メシャベチャン様から命令されたら逆らう自信が有りません…………

もしかしたら、国王陛下を裏切ってしまうかもしれません、其れでもこの国に居ても良いんでしょうか?」


「もちろん、キミが自分から裏切る訳じゃ無いなら問題無いよ。

脅されて裏切ってしまうのは普通だしね。


但し、ルベスタリア王国にはルベスタリア王国の法律が有る。

ルベスタリア王国民は全員、学校に通ってその法律を学ぶんだけど、その法律を学んだ上でキミがこの国で生きて行く事が出来ないと思ったら言って欲しい、その時は僕と出会った時からの記憶を消してキミの希望する国で解放するから」


「はい、分かりました。

ありがとうございます。


其れと、男か女か何方かになれると云うお話しは少し考えさせて頂いても宜しいでしょうか?


私が初めて好きになった相手は男の子でした。

でも、小さい頃でしたし、当時は自分が男だと疑って居なかったので、其れが女性として男性を好きになったモノか良く分からないんです。


なので、自分が男か女か判断出来るまで待って頂いても宜しいでしょうか?」


「ああ、其れはもちろん構わないよ。

其れに、別に今のままでもルベスタリア王国で生きて行く分にはきっと何の問題も無いしね。


じゃあ、暫くは此処で過ごして、検査を受けて貰うから。

其れで、鎮静剤無しでも大丈夫になったら、さっき言った学校でこの国の事も学んで欲しい」



スーオングロッドの「ありがとうございます」と云う言葉に軽く手を上げて応え、僕は部屋を出た…………






「アエルゲイン、スーオングロッドの体内に何か魔導具が仕込まれていないか確認して欲しい。

スーオングロッドが受けた命令、ちょっと引っ掛かる」


「畏まりました。

確かに、違和感が有りますな。


奴隷として送り込んだ者に、どうやって命令をするのか…………」



本来は、次の子の部屋へと向かい“ラッキーフィールド”での洗脳解除をする予定だったが、僕は先ずスーオングロッドの検査を行ってから得た情報の共有と対策を行う事にした。


ハッキリ言って、今回の奴隷の購入は失敗だった可能性が高い。


僕は常に他国に対して警戒をしていたつもりだったが、正直言って、他国の魔導具運用を舐めていた。

スーオングロッドに使われた可能性のある“アソートソルジャーヘルム”も恐らく長い実験の成果で洗脳用の魔導具として有用だと判明してから使い方の模索をし、今の奴隷商としての活用に至ったのだろう。


僕は自分でルベスタリア王国の存在を他国、イジャラン・バダ帝国に教えてしまったかもしれない…………






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