第17章 奴隷 1
第17章
奴隷 1
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『親愛なる我が優秀な弟子達。
私は此処に懺悔する。
私が作ってしまった、偽りの平和と非道なる実験を。
“セカンドストライク”以降、世界は魔導士の支配下となった。
では、魔導士とは一体何なのか?
この探求が、私の非道なる実験の始まりだった…………
魔導士とは、脳内に、“魔法陣蓄積器官”、“魔法陣形成器官”、“魔素操作器官”の3つを有した人間である事が分かった。
“魔法陣蓄積器官”が優秀な者ほど多くの魔法が使え、“魔法陣形成器官”が優秀な者ほど素早く魔法が使え、“魔素操作器官”が優秀な者ほど高い威力の魔法が使える。
此処までの事を知る間に、私は既に犠牲者の人数を数える事を辞めてしまった。
そして、更なる犠牲者の果てに、私は皆の知る、誰もが使える魔導具の基礎、魔導核を生み出した。
この研究の最中に、私は、私とは逆の親子に出会った。
いや、私とは逆の親子も実験材料にした。
その親子は、魔導士の両親から、魔導士では無い娘が生まれていた。
しかし、その娘には特別な力が有った。
“声を大きくする力”だ。
呟く様に話しても、周囲に響かせる力を持っていた。
魔導士達の間で、オリジナル魔法や固有魔法と言われるモノだ。
この娘は、その力を魔法陣の展開無しに使う事が出来ていた。
研究の結果、この娘は、“魔法陣蓄積器官”にたった1つの魔法陣しか持たず、“魔法陣形成器官”もその魔法陣しか形成出来ず、“魔素操作器官”を持っていない事が分かった。
この娘は、旧時代で云うところの、超能力や異能、スキルやギフトなどと呼ばれる、特定の力のみの魔法を使える者だったのだ。
私の研究対象は、魔導士から、所謂、普通の人間へと移った。
この娘と同じ様に、魔導士では無い特別な力を持つ者を探す為だ。
もう、分かっただろう…………
私が生み出した、多くの今迄に無い魔導具の数々は、そういった特別な力から多くの犠牲の下に生み出された魔導具。
そして、私が世界を巡って集めた弟子の多くは、その特別な力の片鱗を持った実験材料だったのだ…………
しかし、私が殆どの弟子に手を出さなかったのは、2つの理由がある。
1つは、この特別な力、便宜上、“固有魔法”とするが、この“固有魔法”は、普通の人間の殆どの者が持っていると云う事が分かったからだ。
故に、研究材料は、誰の死体でも構わない事が分かった。
もう、敢えて人を殺す必要は無くなった。
2つ目の理由は、私の求めていた3つの“固有魔法”が全て手に入ったからだ。
“魂を見る魔法”、“前世の記憶を蘇らせる魔法”、そして、“魂の転生の魔法”だ。
皆も薄々気付いていただろう。
私が魔導士達との戦争を始めたのは、亡き妻の復讐の為、そして、多くの犠牲を出して行って来た研究は、全ては妻との再会の為だ。
世界の平和や平等など、亡き妻との再会の後の暮らしが平穏なモノであって欲しかったと云う自分の為のモノでしか無い。
我が優秀な弟子達よ、この正義の仮面を被った悪しき師が再び蘇ったならば、悲劇が繰り返されぬ為、私を討伐する様、子々孫々へと伝えて貰いたい。
私は最早、自ら止まる事は出来ない。
邪悪な師の最後の願いだ…………
愚かなる賢者 ラノイツロバー 』
「…………と、云う内容でした」
「え?なにそれ?」
ハンジーズ率いる参謀部に、賢者 ラノイツロバーの遺産から見つかった、暗号解読シートを預けた翌日の夜、ハンジーズから伝えられた解読結果が此れだった…………
「……つまり、賢者 ラノイツロバーが、酷い実験をいっぱいした自分を弟子の子孫に殺しに来て欲しいって云う手紙って事?」
「はい、そうですね。
重要な情報も入っていましたが、そう云う手紙でした」
「…………重要な情報か…………
確かに、殆どの人が何かしらの“固有魔法”を持ってるって云うのは、今後の世界の情勢にも関わって来るかもね…………」
「はい、ディティカさん、イデティカさんの“心の会話”や、キルシュシュさんの“予知夢”なんかが分かり易いですけど、例えば、ペアクーレさんの剣の才能も何かしらの“固有魔法”を持っているからとか、ノッド様の強運も、何かの“固有魔法”の可能性も有るかもしれません」
「ああ、僕の運の良さは“固有魔法”じゃ無いよ、僕は“不老不死の解明”の為にアエルゲインに既に調べて貰ってるからね。
特別な力じゃ無い事は分かってるんだ。
でも、分類状、ディティカとイデティカの“心の会話”は、“固有魔法”なんだろうね、魔導具にする事も出来た訳だし。
他の国民も全員調べたら、すっごい魔法が出て来たりしてね」
「でも、ノッド様。どちらか云うと、危険が増したのでは無いですか?
魂に干渉したり、前世の記憶すら呼び戻せる程の魔法が有るなら、記憶を読み取ったり、密かに追跡したりする魔法を持っている人もいると思います。
そうなったら、ルベスタリア王国の秘密の漏洩の可能性が有ると思います」
「……ネクジェーの言う通りだね。
裏切り者が居なければ良いって話しじゃあなくなるね…………
かと言って、放置も出来ない。
この情報はあと9つ有って、オリジナルの賢者 ラノイツロバー本人が転生している可能性も有る訳だからね…………
情報収集の継続はしないといけないけど、情報漏洩対策かぁ〜……」
僕とネクジェー、ハンジーズが顔を突き合わせて悩み始めると、ティニーマが軽い感じで、混ざって来た。
「そもそも、そんなに深く考える必要は無いんじゃ無いですか?」
「……と、言うと?」
「だって、元々そう云う未知の魔導具は存在しているかもしれなかった訳ですよね?
だったら、その“固有魔法”だけを警戒しても仕方ないと思いますよ?
其れよりは、そういった危険への対策が新たに生まれる可能性を求めた方が良いと思います」
「何か良いアイディアが有りそうだね」
「はい。
先ず、アエルゲインさんの“ラーニング•プラクティス”の解析機能だけを取り出した魔導具を複数作って貰います。
で、その魔導具で、ルベスタリア王国の人全員を解析して、ピッタリの“固有魔法”を持っている人を探すんです。
見つかるかどうかは、運次第ですが、ノッド様は運が良いのできっと見つかると思いますよ」
「…………なるほど、国民全員を調べるのは良いアイディアだけど、最終的には僕の運次第か…………」
「なら、問題無いですね」
「そうですね、既に見つかったも同然ですね」
「…………ええっと、僕への期待、半端無いね。
まあ、でもティニーマの言う通り、今の手札で無理なら手札を増やすのが良さそうだ」
すると、そこにサウシーズが混ざって来る。
「殆どの人に“固有魔法”があるなら、私達にはどんな魔法があるのかしら?」
『……其れは、飽く無き性欲の魔法では?』と、僕が思っていると、
「ママは、間違いなく“おっぱい強化魔法”だよ」
と、言った。ハッキリと!!
なるほど、確かにその線も有り得る。
「もう、ハンジーズったら。
ママも、ハンジーズくらいの頃は…………
今みたいに大きく無かったわよ?」
…………なんだろう、今の間は…………
もしかして、サウシーズは7歳で既に大きくなり始めていたのか?
其れなら、ハンジーズの言う“おっぱい強化魔法”の線が濃厚だ。
ハンジーズからのジト目を受けつつも笑顔で頭を撫でて誤魔化す母。
そこへ今度はグレーヴェが入って来た。
「でも、殆どの人が“固有魔法”を持っていると云う割には、そう云う実感も無いですし、使っているところを見る事も無いですよね?」
「其処が多分、魔導士と普通の人の大きな違いなんじゃないかな?
さっきの懺悔の手紙に有ったけど、魔導士は、“魔素操作器官”が有るって事だから、其れを使って魔法陣を生み出せるから、“固有魔法”を持ってるって分かるけど普通の人には其れが出来ない。
だから、自分の“固有魔法”がどんなモノかは分からない。
分からないから使おうともしないし、もし、使っても自分が魔法を使ったって思わないんじゃないかな?
例えば、“前世の記憶を蘇らせる魔法”が使えても、普通に生きてて、誰かの前世の記憶なんて蘇らせようとは思わないよね?
逆に、“身体強化魔法”が使えたとして、普段から使ってても、其れって普通に自分が強いって思って終わっちゃうんじゃないかな?
だから、変わった“固有魔法”は使わないまま一生終えて、使い易い“固有魔法”は、才能とかって事で終わっちゃうんだと思うよ」
「じゃあ、逆に“固有魔法”の判別が出来たら、“固有魔法”を使う人がいっぱい現れてしまうって事ですか?」
「其れについては、そうかもしれないし、そうじゃ無いかもしれない。
“魔法陣蓄積器官”と、“魔法陣形成器官”が脳内に有るなら、間違い無くとっても小さい魔法陣しか無いよね?
だったら、効果範囲がとても狭いと思う。
そうなったら、多分、身体強化系統の魔法以外は、余り使えないモノが多いんじゃないかと思うんだ。
だから、魔法陣がとっても小さくても役立つ魔法を使える人がどれくらい居るかによると思うんだよね」
僕の言葉に、「確かに……」と、頷くグレーヴェの横で、レアストマーセが少し悲しそうな顔をしているのが目に入った。
「…………レアストマーセ、もしかして、身体の事を魔法の影響かと思ってるのかい?」
「あ、はい…………」
レアストマーセは、自身の体格の良さが、何かしらの“身体強化魔法”によるモノかと考えている様だ。
まあ、その可能性も有る。
辛い扱いを受けていた日々を思い出したのだろう。
「レアストマーセ。
レアストマーセが辛かった日々は、簡単には忘れられないかもしれないけど、でも、其れが無ければ僕とレアストマーセは出会う事が出来なかった。
僕は其れが魔法の所為でも、そうじゃ無かったとしても、レアストマーセに出合わせてくれた事に感謝してるよ?」
「も、もちろん、私もノッド様と出会えた事に感謝してます。
そうですね、こんな私だから、ノッド様に拾って貰えたんですから…………」
『…………レアストマーセ、いつにも増してネガティブだな、マタニティブルーと云うヤツだろうか?』と、僕が思っていると、ルベスタリア国立総合病院 統括院長 ティニーマが、バッサリと切って捨てた。
「レアストマーセ、何度も言っているでしょう?
貴方の言葉は、一番近くで赤ちゃんが聞いてるの。
貴方の不安は、全部一緒に居る赤ちゃんに伝わってるの。
だから、ネガティブな考えを持つ前に、ノッド様に抱き着きなさいって言ったわよね?
良い?私は、お医者さんとして言ってるんですからね?」
「は、はい!!申し訳ありません、先生!!」
…………どうやら、ティニーマは厳しいお医者さんの様だ。
レアストマーセは、思わず敬礼してしまっている…………
そして、僕の隣に座っていたティヤーロがレアストマーセの為にスッと席を空ける。
多分、怒った母が怖いと知っているからだろう。
僕は、ティヤーロに「ありがとう」と、声を掛けて、レアストマーセに「おいで」と手で示した。
レアストマーセもティヤーロにお礼を言うと、僕の隣に来て、腕に抱き付く。
其れと同時に、レアストマーセから、フッと緊張が抜けた様に感じたので、きっと、初めての出産を目前にして、色々と不安だったのだろう。
みんなもそんなレアストマーセの様子を温かく見守ってくれている。
しかし、もう少し伝えておく事も有るし、話し合う必要がある事も有る。
抱き付くレアストマーセを優しく撫でてから、僕は気持ちを切り替えた。
「…………ねぇ、ネクジェー、ちょっと確認なんだけど、デラトリ王国は今、どんな感じ?」
「はい、現在は、魔導具類の売却が終了して、拠点の選定を行っているところです。
来週には、私とエニットもアルコーラル商国の状況を確認をしてから、現地に向かう予定です」
「そうか、ネクジェーもエニットも、もちろん他の諜報局のみんなもだけど、“教会”に気を付けて欲しい」
「“教会”…………」
「ですか…………」
「そう、“エタヒシーガム教会”。
デラトリ王国を含む、ラレジャーヤ山脈より南の国々では、“教会”って言ったら、この“エタヒシーガム教会”の事なんだけど、この“教会”は、魔獣と魔物の根絶を唱えるゴリゴリの武闘派組織なんだけど、完全に行き過ぎちゃってて、魔法そのものを根絶しようと、魔導具すら禁じちゃってるんだ。
まあ、魔導具に関しては自分達が使わないだけで、使ってる人を襲ったりまではしてないんだけど、もしも、連中に魔導具が人体実験の末に作られたモノだって事が知られたら、魔導具を使う人すら襲って来かねない。
万が一、さっき言っていた様な記憶を読み取る能力者が居て、其処から情報を売られたら、連中は、どんな事をしてでもキミ達から情報を引き出させて、魔導具すら根絶しようとすると思う。
ハッキリ言ってアイツらは、盗賊なんかよりもよっぽどタチが悪い。
唯一の救いは、信者が凄く多い訳じゃなくて、社会的な影響力が強い訳じゃないから、街中が敵になる事は無いけど、それでも連中の目は、結構至るところに有るらしいから、十分に注意して欲しいんだ」
「…………なるほど、分かりました」
「ところで、ノッド様、その“エタヒシーガム教会”の信者を見分ける方法は無いのですか?」
と、聞いて来たエニットに、僕は視線を逸らせて、
「……………………あるよ。
男は右、女は左の尻に星形の刺青を入れてる」
と、答えた…………
「なるほど、では、捕らえた時には、其処を確認すれば良いですね」
そう云うエニットに、僕はゆっくりと視線を戻す…………
「……………………いいや、捕らえた時じゃ無くても直ぐに分かるよ」
「え?他にも分かる特徴があるんですか?」
「……………………いいや、その特徴だけだよ。
でも、“エタヒシーガム教会”の連中は、必ず尻が見える格好をしてるんだ…………
男女問わずね…………」
「……………………え?」
「「「……………………え?」」」
「其れ以外の格好は普通だよ、だから、前から見たら分からない。
でも、前から見たら、スーツ姿だろうが、長スカートだろうが、なんなら鎧やフルプレートすら、アイツらは切り取って、尻だけ出すんだ…………」
「!!ノッド様!!」
「なんだい、ペアクーレ?」
「お尻に穴が空いている鎧は、フルプレートと呼べるの?」
「…………じゃあ、今日からアレは、“ほぼフルプレート”と言おうか」
「ノッド様、その“エタヒシーガム教会”の信者が少ない理由は、その服装のせいなんじゃ?」
「うん、ティヤーロ。
言うまでもなく、其れが大きな理由の一つだと思うよ」
「では、何故そんな格好を?
深い意味が有るんですか?」
「当然、そう考えるよね?
でもね、信者に聞いたら、『そう云うモノだ』って言って理由を知らなかったんだ。
だから、もちろん、調べたよ。
“エタヒシーガム教会”は、大司教が一番偉いんだけど、初代から5代目迄はずっと子供に継がせていたんだ。
其れで、2代目の大司教が、凄い尻好きのオッさんだったみたいで、信者の女性の服装を尻穴空きの格好にしたらしいんだよね。
で、次の3代目が、美少年好きのオバさんだったみたいで、男の服装も尻穴空きにしちゃったらしいんだ。
で、5代目の時に、『なんで無意味に尻を出すのか!!』って、信者からクレームが殺到したらしくて、『だったら意味が有る形にしよう』って事で、男女、左右に分けて尻に星形の刺青を入れる様になったみたいなんだよね…………」
「「「……………………え?」」」
「…………ええっと…………
刺青を見せる為に、穴を空けたんじゃ無くて、穴に意味を持たせる為に刺青を入れたんですか?」
「そうみたいだよ、歴史書によると…………」
「…………そんな宗教に信者が居るんですか?」
「リティラ、其れは、信者では無い人、みんなが思ってると思うよ」
「…………あの、ノッド様、その“教会”を本当に警戒した方が良いんですか?」
「ネクジェー、こんな“教会”だから、警戒が必要なんだよ。
連中は、魔獣と魔物の根絶って云う教義の為だったら、本当に何でもするって事なんだから」
「…………そう言われると、そうかもしれませんが…………」
「でも、良かったです。
ナノマガン王国にその宗教が無くて。
もしも、その宗教で聖女認定なんてされてたら、私もお尻を丸出しで、ハンターをしないといけないところでした」
そう言いながら、キルシュシュが洗い物を片付け終わって、やって来た。
「あの、其れでですね、話しが戻っちゃうんですけど、“固有魔法”って、1人に1つだけなんですか?
もしも、複数有る場合も有るなら、私の4つの能力は、全部“固有魔法”かもしれませんよね?
其れで、私の“ラッキーフィールド”も“固有魔法”だったら、多分、記憶の読み取りや追跡なんかも、“ラッキーフィールド”は防げると思いますよ?
まあ、私に直接行って来た場合だけですけど」
「其れは、敵意が有ったら直接触れる事が出来ないからって事?」
「いいえ、そもそも、“ラッキーフィールド”は、私がされてイヤな事を防いでくれるみたいなんですよね。
だから、ワルトルットゥなんかは、私を慰めてくれようとした時にも触れませんでしたし。
其れで、記憶の読み取りも防げる根拠なんですけど、私には同い年の従兄弟の王子がいるのですが、彼は子供の頃、私の事が好きだったそうで、貴族院の初等部の時に席替えの私の番号を覗こうとしたらしいんです。
でも、どれだけ回り込んでも見えなかったらしくて、次の席替えも、その次の席替えも挑戦したらしいのですが、結局は見えなかったそうです。
何故見えないのかが分からなかったと言っていましたから、恐らく、“ラッキーフィールド”の影響だと思うんですよね。
なので、多分、直接触れ無くても記憶を見る事が出来る魔法でも防いでくれると思いますよ。
因みに、直接だったらって言ったのは、机の上に置きっぱなしにしていた私の“将来の夢の作文”は、読まれてしまったので、“過去にその場所で起こった出来事の記憶を読み取る魔法”とかだと防げないと思ってです」
「さすがノッド様の強運ですね。
対策探しを実行する前から、対策がやって来るなんて…………」
「そうね、せっかく私の作戦が褒めて貰えると思ったのに…………」




