第16章 賢者の弟子の末裔 5
第16章
賢者の弟子の末裔 5
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全員招集緊急会議から、1ヶ月余り、僕はアルコーラル商国へは再訪問せず、アエルゲインとナエラークと共に、ビレジンから購入した品々を調べていたのだが、毎日が興奮の連続だった。
先ずは1番簡単な事から始めた。
『伝説の勇者』の仲間、戦士店長 トレナガーの残した地図を解析して、僕の“アーカイブ”と、S級A級代理官へ、情報の共有を行った。
元々、ルベスタリア王国に情報として有った地図は、古代魔導文明時代の中期と後期のモノだった。
僕が受け継いだ、賢者 ウィーセマーの遺産の図書室のモノと、アエルゲインが持っていた“アーカイブ”の情報だ。
しかし、やはりと云うべきか、世界地図は大きく変わっていた。
『伝説の勇者』は、世界各地を回っているが、もちろん、隅から隅まで行く事が出来ている訳では無い。
其れでも、“サードストライク”の前後での世界の形は全く違っていた。
海に沈んだ大地も有れば、新たに生まれた大地も有る。
更に山脈が高くなった所もあれば、山脈が消し飛んだ所も有る。
元々在った街は、全て遺跡都市となって、何も無かった土地に街が出来ていた。
この情報は非常に有り難い。
500年くらい前の情報なので、街の情報は不足するモノが多いだろうが、其れでも近隣の国の王都や首都なんかの元となった街は、知っている限りは重なった。
更にトレナガーが訪れた土地に関しては、街の中や古代遺跡都市の中、6大魔王の玉座の間まで、詳細に情報が有った。
此れにより、『伝説の勇者』が使った“伝説の空飛ぶ船”の隠し場所は、モルツェンの予想通り、魔物街 アコウツウの可能性が高い事が分かった。
勇者の冒険の中には、アコウツウに行った記述は無いが、アコウツウの地図はとても詳細だったからだ。
次に手を付けたのは2本の短剣だ。
見た目は全く同じで、特に何の装飾も無い短剣だった。
1本は、僕の“ジーニアスグラス”で、斬れ味向上効果の魔導具だと判明していたが、もう1本が不明だった。
此れもアエルゲインの“ラーニング•プラクティス”で、直ぐに解析出来るだろうと2番目に手を付けたのだが……………
「…………“絶対切断”の魔法?」
「はい、『必ず切る』と云う、“絶対切断”の魔法効果の魔導具でした」
「…………其れって、もしかして、“イモータルウォール”が切れちゃったり?」
「いいえ、残念ながら、“イモータルウォール”は切れませんでした」
「なぁんだ、“絶対切断”じゃ無いじゃないか…………」
「はい、ですが、此れは“イモータルウォール”を切る為の魔導具でした」
「え?…………もしかして、もう1本の?」
「はい、“絶対切断”だけでは、“イモータルウォール”の“絶対不可侵”と、相殺されてしまいますが、もう1本の“斬れ味向上効果”を追加する事で、“イモータルウォール”を切る事が出来るのだと思います。
此れは恐らく、ノッディード陛下の持つ“天地鳴動”の複数の魔法を同時に使う能力と併用する事を前提として作られたモノだと思われます」
「!!つまり…………」
「はい、“ラーニング•プラクティス”で、“イモータルウォール”を切れる魔導具が作り出せます。
ナエラーク様をあの牢獄からお救い出来ると云う事です」
「………………やっっっっっっっったぁぁぁぁぁ!!!!
いやいや、まだだ、まだ喜ぶのは早い!!
アエルゲイン、最優先でお願い。
出来るだけ早く、実際に切れるか試してみたい!!」
「はっはっは…………
もちろん、そう仰ると思っておりました。
なので、昨夜の内に製造を始めています。
もう、暫くすれば、完成品をお見せ出来ますよ」
「さすが、アエルゲイン!!
ヴィアルト、直ぐに、リティラとハンジーズを呼んで。
あと、手が空いてる人は出来るだけ来る様に言ってくれる?」
「了解、しました」
「ああ…………
ノッディード…………
こうして、ノッディードを抱き締められるなんて…………」
「僕もキミを抱き締める事が出来て嬉しいよ、ナエラーク。
でも、僕以外はやめてあげてね、優しくしてくれてるのは分かるんだけど、多分、みんなだと死んじゃうから」
「おお、すまない。
痛かったか、ノッディード。
嬉しさの余り、ついつい、力が入ってしまったようだ。
アエルゲインも礼を言う。
其方のお陰で、諦めていたこの牢獄から出る事が出来た」
「勿体無いお言葉です、ナエラーク様。
貴方様をお救い出来た私こそ、大変な栄誉を頂きました」
「リティラもハンジーズも、そして、皆も、心より感謝する。
ありがとう」
輝く大きな黄金の瞳に涙を湛えて、ナエラークはゆっくりと優雅に頭を下げた。
リティラとハンジーズが泣きながらナエラークの足に抱き着き、他のみんなも心から祝福している。
特に、初期の頃から居る面々は、ナエラークと共に過ごした時間も長く、色々と相談にのって貰ったりしていた者も居る。
そんなメンバーは、ナエラークの解放を心から願っていたし、喜びも一入だろう。
みんなが一通りナエラークと言葉を交わし終わって落ち着いてから、今後の話しをした。
とりあえず、ナエラークにはもう少し、このエアポートタワーの地下に居て貰う事にした。
と、云うのも現在、このエアポートタワーには、C級代理官も多く働いているので、いきなり出て行ったら大騒ぎだ。
そして、其れは、王城内で暮らす人々も同じなので、大々的なお披露目を行う事にしたのだ。
直近でその催しを行う事も考えたが、僕がもう少ししたらアルコーラル商国に向かうのと、ナエラークの新しい住居も考えないといけないので、ナエラークのお披露目は秋の建国祭まで待って貰う事にした。
“イモータルウォール”も切れる魔導具は、“イモータルデマイス”と命名されて、S級A級代理官にのみ、個人使用セキュリティを掛けて配布する事になった。
ハッキリ言って、こんな危険物が出回ったら、ルベスタリア王国の安全性が一気に下がってしまう。
取り扱い注意だ。
因みに、僕の分は、“千変万化”に組み込んで、一度も実際に使わないまま、“千変万化”は“千変万化改”へと生まれ変わった。
次に手をつけたのは、2つの“アーカイブ”だ。
予想通り、1つは賢者 ラノイツロバーが高弟達に残したモノで、もう1つが、最初期のツロバー商会が行なっていた魔導具研究の資料だった。
何方もパスワードセキュリティが掛かっていた為、解読に時間が掛かるかと思われたが、余りにも単純なパスワードに拍子抜けだった。
ラノイツロバーの方は、妻の『ディアサ』で、ツロバー商会の方は始祖たる『プレンテス』だったのだ。
解読初日に直ぐ正解した。
まあ、当てたのは、例によって、親衛局長ペアクーレだが…………
ツロバー商会のアーカイブの方は、今後、実際に作れるモノは作ってみてから実証して行く事になったが、ラノイツロバーの方は直ぐに役に立った。
ラノイツロバーの方も多くの研究資料が有り、此方は実際に作ってみる事になったのだが、其れ以外に、ラノイツロバーの日記が入っていたのだ。
ラノイツロバーは非常に筆マメだった様で、日々の出来事を詳細に残していたのだが、この中には、弟子達との出会いも書かれていたのだ。
此れによって、10人の高弟達の出身地が分かった。
もちろん、出身地が分かったからといって、高弟達が出身地に帰って行ったとは限らないが、何も手掛かりが無い状態から、僅かながらも可能性の有る場所が特定出来たのは大きい。
“賢者 ラノイツロバーの10人の高弟”は全員が魔導士では無い。
魔導士達に奴隷の様に扱われていた普通の人間だ。
なので、出身地も古代遺跡都市以外の場所で、偶然か必然か、戦士店長 トレナガーの残した地図に全て同名の街が存在していた。
その中で2ヶ所、目を引く場所が有った。
1つは、イカルツウィン、デンツウィン兄弟の出身国に在る、シンアンの街。
もう1つは、僕の生まれ故郷、デラトリの街、現在の王都デラトリだ…………
僕は、デラトリ王国では既に死んでいる身だ。
そして、アフィスターウィン侯爵家には絶対に僕の生存とルベスタリア王国の存在を知られる訳にはいかない。
しかし、手掛かりは無駄に出来ないので、諜報局に丸投げした。
此処については資金の準備も拠点作りも丸投げだ。
と、云う濃密な1ヶ月を過ごして、今日は例のエルヴァが欲しがって僕にくれた謎の箱の解析結果を聞きに来た…………
「…………ええっと、つまり?」
「はい、此れはただの箱です。
オリハルコンで出来ていますが、何の魔法効果も無い、魔導具では無い、ただの箱です」
「そっか。
まあ、もしかしたら、此れは思い出の品とかで、特別なのは気持ち的なモノだったのかもしれないね」
「そうかもしれませんな。
モノの価値とは性能だけではありませんからな」
ちょっと、残念ではあったが、まあ、此れもビレジンの家に伝わる大事な家宝だ。
魔導具では無かった様だが、大切にしよう…………
そう、思いつつ、アエルゲインから箱を受け取る…………
「…………なんで、魔導具だと思ったんだ?」
「どうかされましたか?」
「いや、僕は此れを僕の知らない、“アーカイブ”に情報が無い魔導具だと思って、アエルゲインに預けたんだけど、どうして、魔導具だと思ったんだろう?って…………
エルヴァが欲しがったから?…………違う。
オリハルコンで出来てたから?…………いや、魔導具じゃ無いオリハルコンで出来たモノもある。
…………!!!!
重さ!!そうだ、この箱が見た目に対して、軽過ぎるからだ!!
だから、内部に魔導具としての機能が有ると思ったんだ!!」
「!!軽過ぎる?!
もう一度、お貸し頂けますか?
………………確かに、恐らくこの板面の中が空洞になっている可能性があります」
「斬ってみようか?」
「いえ、念の為、正しく分解すべきでしょう。
万が一、中のモノを斬ってしまっては取り返しが付かない可能性が有ります」
「そうか、そうだね。
…………どうやって、分解するの?
見た限り、此処の蝶番以外はネジどころか、継ぎ目も無いよね?」
「恐らく、特殊な組み方で組んであるのだと思います。
蝶番にだけネジを使っているのは、一見して、この箱が鋳造をされている様に見せ掛けているのでしょう。
恐らく、何かしらの解析よりも、パズルなどが得意な者に頼むのが良いのではないかと思います」
「なるほど…………
となると、誰が良いかな?」
と、僕が呟くと、エルヴァが手を出した。
「ん?エルヴァがやりたいのかい?」
しかし、僕がそう聞くと、エルヴァは首を横に振るが、また手を出した。
「…………もしかして、誰か適任者が思いついたのかな?
とりあえず、アエルゲイン、この箱は一旦持ち帰るよ。
分解出来たら、また、何かの解析を依頼すると思うけど」
「畏まりました。
では、最後に1つ。
“重力操作ユニット”についてですが、恐らく、“飛行ユニット”と同じく、効果範囲が魔法陣の大きさに影響されるモノと予想されます。
ですので、作成時の大きさを決める為に、“空中要塞”の大まかな設計をお願い致します。
そのサイズに合わせた実験用を作成しますので」
「…………遂に、来たね。
了解、出来次第直ぐに持って来るよ」
こうして、アエルゲインから箱を受け取って、その後、エアポートタワーの視察をして、ナエラークとも会ってから、帰った。
そして、僕はまた、運命の出会いへの幸運を実感した…………
その日の夕食後、僕は、例の箱を、エルヴァに手渡した。
「エルヴァ、この箱は誰かに渡すのかな?」
箱を受け取ったエルヴァは、その箱を持って、誰も居ないリビングの隅の方に歩いて行く。
そして、そのまま、箱を棚に置いた。
僕は、『大切に飾っておきたかったのかな?』と、考えたのだが、エルヴァは、箱を置いても戻って来ない。
エルヴァは、この40階の僕の私室階では、僕が視界に居れば僕を掴んでいなくても大丈夫ではあるが、意味も無く僕から離れた場所に長時間居ようとはしない。
そのエルヴァが、箱を置いたまま、じっとしているので、僕だけで無く、みんなも顔を見合わせて首を捻った。
そして、僕達は揃って、そのエルヴァの元に行く。
すると、エルヴァは例の箱を棚に元々置いてある箱の上に置いて其れを見ていたのだ。
棚に元々置いてある箱、其れはアルコーラル商国でバドロウトから買ったオルゴールの1つ、ぱっと見ただの箱にしか見えないオルゴールだった。
「此れは!!
そうか、エルヴァはこの箱をバドロウトに見せろって言いたいのか!!
確かに、この箱と、バドロウトのこのオルゴールは、似た様な設計の可能性が高い。
バドロウトなら、この箱を分解出来るかもしれない。
凄いぞ、エルヴァ。
この箱の謎がとうとう解けるかもしれない!!」
僕はエルヴァを抱き締めて、撫で回す。
エルヴァはくすぐったそうにしながらも、嬉しそうにしていた。
翌朝、早速バドロウトの下を訪れて、謎の箱を渡してみる。
現在、バドロウトは、アルコーラル商国で保護した孤児達と共に、学校に通って貰っている。
とは言え、バドロウトとビレジン家族は斡旋した商会同様に、作業無しの一日中授業の形だ。
なので、バドロウトとビレジン家族に事情を簡単に話して、ちょっと授業は中断して貰って、箱の分解を頼んだ。
バドロウト本人も驚いていた。
謎の箱は、オルゴールと全く同じ手法で、分解出来てしまったのだ…………
構造は実はシンプルで、蝶番の裏に留め具が隠してあり、其れを外すとその板面が外れて後は順番に板がバラせて行ける仕組みだった。
どちらかと言えば、継ぎ目の分からない程の丁寧な仕上げの方が大変そうなギミックだ。
僕は、もしやと思ってバドロウトにオルゴールの製造方法の入手先を聞いてみたが、なんと、バドロウトの父親のオリジナルだと言う。
一本気な父親が自慢していたそうなので、間違い無いだろうとの事だった。
つまり、バドロウトの父親は、偶然、同じギミックを思いついて、僕は偶然、その手法を伝授されたバドロウトと出会ったと云う事だ。
本当に僕の強運は、自分でも驚くレベルだ。
そして、肝心のギミックの中に隠されて居たモノは、紙の様に薄いオリハルコンのシートが3枚。
大きさは“エヴィエイションクルーザー”の操作パネルと同じで、全てのシートのバラバラの場所に穴が空いている。
此れは恐らく、暗号解読シートだろうと思われる。
そして恐らく、対象は賢者 ラノイツロバーの日記だろう。
僕はそのまま、参謀部へと向かって解読の依頼をした。
此れによって、僕達は、魔導具の真実と新たな脅威を知る事となった……………




