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箱庭の王様  作者: 山司
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第5章 ルベスタリア国民 1

第5章

ルベスタリア国民 1





▪️▪️▪️▪️





ティニーマの手術をしてから、3日経った。

ティニーマは既に普通の食事が出来る様になり、自分で歩ける様になった。


ティニーマもティヤーロも最初はこのトレジャノ砦の設備の充実さに驚き、食事もかなり遠慮がちだったが、食料庫の中の大量の魔獣の肉を見せ、個人ランクAランクのハンターギルド証書を見せ、残高2億の貯金通帳を見せて、コレすら一部だと言って、超金持ちアピールをしてから、遠慮する必要が無いと力説した結果、この環境を受け入れて、しっかりと食べる様になった。



「……じゃあ、僕はまたアルアックスの王都に行って来るから、2人共ちゃんとしっかりご飯を食べて、無理の無い程度に運動して、体力を付けとくんだよ。


一応、予定では1週間くらいでまた戻って来るから、万が一、誰か来ても絶対に入れないでね」


2人にそう伝えると、僕は相棒の“エアーバイク”、“ウィフィー”に乗って、朝の森へと飛び立った。




夕方には王国アルアックスに着いて、僕は忘れない内に調味料を大量に買い込んだ。

店の調味料を買い占める勢いだったので店員に驚かれたが、『ティニーマフーズ商会』と云う、飲食業っぽい偽名の領収書を切って貰って誤魔化した。


今後も食料の大量買をする可能性があるので、変な噂が立つ前に一応のペーパーカンパニーくらいは作っておいた方が良いかもしれない。


と、云う訳で、その日の夜は、またカジノで資産運用をしてから、行き付けの娼館で満喫して、翌朝、不動産屋に向かった。



買ったのは、築17年の一軒家だ。

ハンターの男が結婚と同時に建てた家だそうで、1階は小さな食堂で2階が住居になっている。

何でも、そのハンターの男は娘が産まれて暫くして亡くなったそうで、その後、母と娘が2人で切り盛りしていたそうだが、2、3年前に母親が病気で倒れて、生活が出来なくなって家を売ったそうだ。


なんだか、何処かで聞いた様な感じの話しだが、場所が貧困エリアにギリギリ入らない様な奥まった所で僕にとっては都合が良かったので、其処を購入した。


その後は、リフォーム業者に行って、その家のリフォームを依頼した。


別に住む訳ではないが、今後の移民を集めたりする時に使おうと思っている。

しかし、基本は空き家状態になるので、建物のセキュリティーをしっかりしておこうと思ったのだ。


3段ロックに外壁の補強、窓は全て強化ガラス。ハッキリ言って、貧困エリアの建物のセキュリティーレベルでは無いが、身分証明にギルド証を見せてAランクをアピールしたので、何となく納得して貰えた。


工事に2週間掛かるそうなので、鍵を預けて、家具の受け取りも頼んだ。


その後は、家具屋と魔導具屋に行って、一通りのモノを買ってから、頼んでいるリフォーム業者を伝えて、2週間後には住めるだろう状態になる様にした。


トータルで2億アルも掛かったが、僕は昨日資産運用を頑張ったので余裕だ。

昨日は元手が2億アルも有ったのだ、100億アルを超えさせる事など造作も無い。


まあ、周囲をムキムキのおっさん達に囲まれて、カードやルーレットをやった訳だが、僕のギャンブルの強さは天性のモノで、何のイカサマも無い。

どれだけ見張られようと何とも無いのだ。



と、1日かけて、『ティニーマフーズ商会』の偽装用の店舗兼家を準備してから、その夜も、いつものオプション増し増しプランで宿泊した…………





▪️▪️▪️▪️





王都アルアックスに戻って来てから1週間。


結局、新たな移民候補者が見つからないまま、今夜トレジャノ砦に戻ろうかと、野菜類を購入し終わって街を“ウィフィー”と共に進んでいると、なんだか、見覚えのある光景が目に入った…………




「お願いします!!お金はいつか必ず払います!!

娘を助けて下さい!!お願いします!!」


「いい加減にしろ!!此処はお前みたいな貧乏人の来るところじゃない!!

お前なんかじゃ、100年掛かっても買えない様な薬しか取り扱ってないんだよ!!」



見た事のある男が、初めて見る女性にそう言っていた。

今回は女性は20歳前後で、男に縋り付いてはおらず、男も女性を蹴ってはいないが…………



「あのぉ〜……すいません……」


「あ!!アンタは!!」


「その節はどうも。

あの、今回も僕が引き取りましょうか?」


「いや、その、引き取るとか……。えっと……」


「ああ、大丈夫です。ご遠慮なく。


あの、貴女、事情は何となく想像出来ますが、此処ではお店の迷惑になるので、場所を変えて僕に事情を聞かせてくれませんか?


僕は此れでもAランクのハンターなので、お力になれると思いますよ?」


「「Aランクハンター?!」」



おっと、女性だけじゃなくて店員さんも驚かしてしまった。



「ええ。なので、先ずは話しを聞かせて下さい。

此処で無理難題を言い続けるよりは意味があると思いますよ?」


「…………はい。分かり、ました…………」





女性の名前は、サウシーズ。

ちょっと……いや、かなり疲れた顔をしているが、少し垂れ目のマリンブルーの瞳が印象的なゆるふわの金髪で結構美人だ。


そして、何処とは言わないが、娼館の娘達よりも大きい。

何処とは言わないが凄く大きい!!


彼女は2年前、夫を亡くして女手一つで3歳の娘を育てている。

元々、病気がちの娘だったが、3ヶ月前から足が痛いと毎日泣き出した。


医者に見せると、「成長痛だろう」と言われて、暫く様子を見る様に言われた。

しかし、毎日痛がる娘を見て居られず、他の医者に見せた。

すると、今度は骨の病気かもしれないと言われて、注射を打たれて、痛み止めを出された。


痛み止めを飲んでいれば大丈夫だったが、薬が切れるとまた泣き出す。

通院を繰り返す日々で仕事にも行けない。


貯金を切り崩しながら何とか生活しても、娘は一向に良くならない。

其れどころか身体中にアザが出来始め、どんどん広がって増えて行く。

娘は立ち上がる事も出来なくなってしまった。


そして、先週、とうとう娘の足が黒く腐り始めた…………


病院に連れて行っても原因不明。

他の病院に連れて行っても原因不明。

次もその次もまた原因不明…………


しかし、昨日の病院で、「もしかしたら、どんな病気も治せるポーションなら治るかもしれない」と、言われた。


ポーションなんて、一般人が買える様なモノでは無い。

貴族や大商人ですら、おいそれと買う事が出来ない様な代物だ。


其れでも、その足で薬屋に向かった。

しかし、娘の症状を見た薬屋は、「腐った足を治せるポーションなど無い」と、言った。


絶望し、娘と共に泣き続け、其れでも最後の希望に縋って、朝から王都の反対側にある先程の薬屋までやって来たらしい。


王都アルアックスにポーションを扱う薬屋は2店舗だけ。

本当に最後の最後の希望だったが、娘の症状すら聞いて貰えず、追い出されたところに僕がやって来たと、云う話しだった…………





「…………なるほど。

先ず言っておくと、昨日の薬屋の言った様に、腐った足を治せるポーションは売っていません。


でも、僕なら治してあげる事が出来ます」


「!!本当ですか?!」


「ええ、本当です。僕はその症状を治した事があります。

でも、治す事が出来ても、必ず助かるとは限りません。


僕が行う治療は手術です。

小さな娘さんの体力では、耐え切れずに命を落とす可能性があります。

そうなれば、逆に命を縮める結果になるかもしれません。


其れでも治療を希望しますか?」


「…………でも、このままだとハンジーズは……」


「腐った部分が身体に達した時点で確実に亡くなります。

その前に、体力がそこまで持つか分かりませんが……」


「……治療をお願いします」


「いえ、まだです。治療を希望する事は分かりました。

ですが、僕が治療するかどうかは、貴女が報酬を支払う覚悟があるかどうかです。


僕の望む報酬は、貴女が僕に絶対の忠誠を誓い、今後の人生を全て捧げる事です」


「あ、あの、私はどうなっても構いません。でも、そうなったら娘は…………」


「娘さんももちろん連れて来て構いません。

何もかもとは言いませんが、かなり不自由の無い生活を保証します。


それと、もしも、また同じ病気や別の病気に掛かったとしても僕が治療します。もちろん無償で。


ただ、一点。『自分がどうなっても構わない』と云う捨て鉢な考えでは無く、貴女自身の強い意志で、僕に忠誠を誓って覚悟を持って全て僕に捧げてくれる事が報酬の条件です」


ゆっくりと息を吐いたサウシーズは、まるで祈る様に、僕の前に膝を着いた。

ゆっくりと顔を上げたサウシーズは、少し垂れ目な瞳にしっかりと意志を込めて言った。


「…………ふぅ〜………


はい!!私、サウシーズは、ノッド様に絶対の忠誠と心身の全てを捧げる事を誓います。

娘を、ハンジーズを宜しくお願いします」






▪️▪️▪️▪️





「「おかえりなさいなさいませ、ノッド様!!」」


「え?…………だれ?」



僕は間抜けな表情で、思わずアホっぽい声を出してしまった…………

もちろん、直ぐに思い当たって誰かは分かった。


そもそも、このトレジャノ砦には、ティニーマ、ティヤーロ親娘しか居ないし、彼女達と同じエメラルドグリーンの瞳に金色の髪だ。


でも、2人は凄い美人に大変身していたのだ。


いや、もしかしたら僕が見抜けなかっただけで、本当は最初から美人要素を持っていたのかもしれないが、ボサボサで燻んでいた髪が艶やかな輝く金髪になり、窪んで濃い隈の浮かんでいた目はエメラルドグリーンの瞳を際立たせる様に大きくパッチリとしていて、カサカサだった肌は珠の様にすべすべになり、ガリガリだった身体は出る所は出て引っ込む所は引っ込んだ女性らしい扇状的なプロポーションになっていたのだ!!!!


そんな2人がダボダボのワイシャツ1枚と満面の笑顔で出迎えてくれたのだ。


思わずアホっぽい声が出てしまおうと云うモノだ。


「ああ、ごめん。ただいま2人とも。

2人が凄く綺麗になってたから驚いた、見違えたよ」


「ありがとうございます、ノッド様」

「え、そんな……綺麗だなんて…………」



余裕の笑顔で応える母と恥ずかしそうに俯く娘。

並んでいると姉妹にしか見えない。


ヤツれていたティニーマは、とても老け込んで見えたが、健康的になった彼女は年齢よりもとても若く見える。


完全に予想外な2人の美しさだ。

僕の強運はギャンブル以外でも発揮された!!



おっと、そんな場合では無かった。



「帰ってそうそう悪いけど、2人とも手伝ってくれ。

この娘の治療をする。ティニーマと同じ病気だ」


そう言って、背中に背負った女の子を見せる。

「「はい!!」」と勢いよく応えた2人に指示を出すと、2人は直ぐに動きだした。


ティニーマの看病の間に準備していた未使用の部屋で、ハンジーズを寝かせると、サウシーズを残して僕も準備を始めた。


戻って来るとティヤーロは既にハンジーズの服を脱がせて身体を拭いていて、ティニーマは泣いているサウシーズを抱き締めて、「私も治ったのだから、ハンジーズちゃんもきっと大丈夫よ」と、優しく宥めてくれていた。


ハンジーズの症状はティニーマに比べれば軽く、足首から先だけだった。

前回の経験のあるティヤーロを助手にして手術を行い、前回の教訓からか、ティヤーロがスムーズに怪我回復ポーションを飲ませてくれて、無事に成功した。


サウシーズと順番に風呂に入って、その間にティニーマ達に食事の準備を頼んで、先ずは遅めの朝食を採った。


因みに、3人ともサウシーズの持って来た普通の服を着ている。

今回もサウシーズに「二度と戻って来れないつもりで準備をする様に」と言って荷物を纏めさせたのだが、その時に、ついでに持っていた衣服は全て“ゼログラビティバック”に詰め込ませたのだ。

そして、食事を終えた所で、ティニーマが今後の事を聞いて来た。



「ところで、ノッド様。私の体調も戻りましたし、これからはどうすれば良いでしょうか?」


「……そうだな……3人にはして貰いたい事が有るんだけど……」


「そんな……娘の前で……」

「して…………貰いたい事…………」

「……はい、心の準備は出来ています…………」



不意に三者三様で、恥ずかしそうにする…………

此れは僕の勿体振った言い方が良く無かった。


その思わずグッとくる表情を見て沸き立つ気持ちをグッと堪える。

今はまだ我慢だ。この3人とは、ちゃんとお城に帰ってからだ。


此れは人心掌握の上で必要な事だからだ。

既に僕に対する恩義と共に、契約に伴う忠誠心も持っているだろう。


しかし、其処に、お城を見せる事で僕の力を示して屈服させて、お城の状況を知る事で僕しか居ないと思い込ませる。


安易に身体を重ねてしまうと、この2つの印象が薄れる。

なので、上辺では無く、深層心理に上下関係を植え付けてからでなければばらない。



なので、僕は努めて余裕のある笑顔を浮かべて、続きを話した。



「ごめん、勘違いさせたみたいで。


もちろん、キミ達3人にはそういう事も求めてはいるけど、今の話しはそうじゃないんだ。

して貰いたい事って云うのは、教育係だ」


「「「教育係?」」」


「そう、教育係。

と、言っても先ずはキミ達に学んで貰って、其れから他の人に教えて行って欲しいんだ」


「あの、学校の先生みたいな事をするんですか?」


「まあ、最初はそう云う事もして貰うだろうけど、1番は僕の考え……いや、僕の教えを伝えて貰いたいんだ。

とりあえずは、ピンと来ないかもしれないけど、どんな事をどんな風に教えるかも勉強して貰うつもりだから安心して。


と、云う訳だから、これから先連れて来る人は、高齢の人だったり子供だったりするかもしれないけど、みんながみんな、キミ達みたいな事を求めてって訳じゃないから、変な勘違いはしないでね。

一応、10人くらいになる予定だから」



3人ともイマイチ分からない感じではあったが、一応は飲み込んで込んでくれた。

其れからは、直近の事について話した。


サウシーズにはもちろんハンジーズのリハビリの為にトレジャノ砦に残って貰う。

ティヤーロもサウシーズの付き添いとして残って貰い、空いた時間には、砦の防壁内を適当に耕して貰う事にした。

ティニーマは、僕に着いて来て買い物をして貰う事にした。

と、言っても、幾つかの合流場所や連絡手段を決めておいて、王都アルアックスに入ってからは別行動だ。


因みに、僕が娼館に寝泊まりするからでは無い。

まだ、大丈夫だと思うが僕を狙うヤツが現れて人質とかにされたら困るからだ。

毎晩娼館に寝泊まりするからでは決して無い!!



念の為、ハンジーズの状態を確認する為に2日間は砦で過ごして、その翌朝に相棒“ウィフィー”に乗って出発した。

“ウィフィー”のスピードにティニーマが大絶叫したのはご愛嬌だ。





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