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箱庭の王様  作者: 山司
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第5章 ルベスタリア国民 2

第5章

ルベスタリア国民 2





▪️▪️▪️▪️





「…………たすけて…………だれか、たすけて…………」



王都アルアックスに到着し、ティニーマと別れた後、薄暗くなり始めた街を娼館に向かっていると、助けを求める微かな声が耳に入った。


僕は正義の味方では決して無いが、少女の悲鳴を無視する程ダメな男では無いつもりだ。

まあ、助けるか、助けられるかは別だが…………



其処は、貧困エリアのボロボロの廃屋だった。

途中で、明らかに悲鳴が聞こえているであろう聞かない振りをする人々を眺めながら、突入した僕の目に入ったのは、それなりの身形の服をビリビリに破かれた、幼いながらも誰もが認めるであろう美少女が床に組み伏せられ、ズボンを下ろした男に既に始められてしまっている姿と、其れを下衆な笑みで見ている2人の男だった。



「な?!だれ……ぐわっ!!」

「なんだ、テメェ……ガッ!!」

「おい、どうし……ンガ!!」


正直言って、完全なる予想でしか無いが、きっと強姦だろう。

もしかしたら、そう云うオプションのプレイである可能性もゼロでは無いが、まあ、強姦だろう。


僕は振り向く男達を刀の鞘でぶん殴って、一気に昏倒させた。

一応プレイの可能性が一瞬過ぎったので殺しはしなかったのだ。



僕は着ていたコートを少女に掛けてあげながら、「大丈夫?」と短く聞いた。

既に始まってしまっていたので、もちろん大丈夫では無いだろうが、他に言葉が思い付かなかったのだ。


少女はコートで身体を隠しながらも、ガタガタ震えて、呆然としていた。



「とりあえず、此処から出ようか。立てるかい?」


小さく頷いた少女は僕の出した手を取らずに自分で立ち上がって、倒れる男達の方を見ながら、小さく「殺しちゃったの?」と聞いて来た。


「いや、気絶させただけだから、起きる前に離れた方が良い」


頷いた少女は、そのまま僕の後ろを着いて来た。


“ウィフィー”を押して歩き、比較的大きな通りの洋服屋に入った。

店員に、「この子が悪漢に襲われて服を破られたから適当に見繕ってくれ」と言って少女を預け、少女とは結局会話も無いまま、洋服屋に金を払って入口で分かれた。


まあ、泣き寝入るのも、憲兵に訴えるのも本人か親が決めるだろう。

その時はそう思っていた…………





少女と出会って2日後、明日は『ティニーマフーズ商会』本店のリフォーム後の引き渡し日なので、朝から小物類を買って回っていた。

一応、住んでる風の装いは必要だからだ。


因みに、本店というのは、昨日、別の場所に倉庫も買ったからだ。

今のところ、倉庫は空っぽのまま放置の予定だ。



そうして街をいつも通り相棒と走っていると、見た事のある後ろ姿が目に入った。


其れは僕が2日前に少女に買ってあげた水色のワンピースと、雪の様な白銀の長い髪だった。


…………但し、たった2日で服はあちこち破れていた…………

そして、少女は路地裏のゴミ箱を漁っていたのだ…………


僕が近付くと少女は一瞬逃げようとして、僕の顔に気付いて駆け寄って来ると、


「う、う、うわぁぁぁぁ…………ん…………」


と、縋り付いて大声で泣き出した…………




また洋服屋に行って、服を買ってあげた。

2日前とは別の店だったのだが、またも、同じ水色のワンピースを着ていた。

今回は少女が自分で希望して同じ水色の服を選んだそうだ。


少女の服があちこち破れており、明らかに殴られた様に顔が腫れていたので、店員から怪しむ視線を受けたので、Aランクのギルド証を見せて、「言っておくけど、助けたんだ」と、言うとペコペコして少しまけてくれた。



その後、少女を連れて食堂に入った。

中途半端な時間だったせいか、店内はガラガラで、他の客の居ない隅の方に座って適当に注文した。


少女は大泣きした後は、ずっと無言だ。


向かい合っている間も無言で、料理が届いて「食べて良いよ」と言うと何日も食べて居なかったかの様に食べ続けた。もちろん、その間も無言だ。


僕は自分の分を食べて、少女が食べ終わるのをじっと待った…………




「…………ありがとうございます……」


食べ終わった少女が小さな声でそう言った。


「ずっと食べて無かったの?」


頷く少女。


「親は?」


「…………居ない…………居なくなった…………」


「何があったんだ?」


「……………………」


暫く待ったが、少女は俯いたままだった。

仕方なく、僕が立ちあがろうとすると、少女がバッと顔を上げ、潤んだ深紅の瞳と目が合った。


まるで、親に捨てられた仔猫の様に、縋る様な、助けを求める様な瞳で…………



僕は店員に飲み物を頼み、座り直すともう一度少女を見た。

少女も顔を上げたまま、此方を見ていた。



「……僕はノッド。キミは?」


「リティラ……です」


「じゃあ、リティラ。キミの親は何処に行っの?」


「分からない……です。軍人さんに連れて行かれて…………」


その時、ちょうど飲み物を店員が持って来た。

店員の表情は完全に同情だ。


『軍人に連れて行かれた』と云う言葉に僕も思い当たる事が有る。

このアルアックス王国のもう1つの街、アルランスの街の惨状が頭に浮かんだ。


アルランスの街では、この国の富の象徴とも言える“人工魔導具”が作られている。

そして、その工場では、軍人に囲まれて管理された奴隷の様な人々が、命懸けの労働をさせられ、消耗部品の様に扱われ、魔物や魔獣のエサにされている。


店員の表情を見ても、リティラの親は、その奴隷の様な目に遭っているのだろう。





リティラの親が軍人に連れて行かれたのは6ヶ月前、両親共に連れて行かれて、理由は分からないそうだ。


彼女の両親は比較的大きな商会で働いていて、それなりに裕福だった様だが両親の失踪後、残っていた現金だけでは直ぐに底をついてしまったらしい。


貯金は有っても引き出す事が出来ず、家にあった物を売っての生活も限界がやって来た。


仕方なく、ゴミ箱を漁って食べ始めたのが僕と出会ったあの日だった。

そして、翌日もゴミを漁っていて、同じ目に遭う。

しかし、今回は誰も助けてはくれなかった…………


昨日は1日中、痛みに苦しんだが、空腹に耐え兼ねて、今日、またゴミ箱を漁っていた所で、僕とまた、出会った…………





スラムにはスラムの組織が有り、ルールが有る。

ゴミ漁りにはゴミ漁りの縄張りが有り、法が有る。


しかし、普通の暮らしから一気に転落してしまった子供にそんな事が分かる訳が無い。


だが、そのルールを法を侵す者は、暴力と云う教育と躾が成されてしまう。

其れが、まだ幼さが残る成人前とは云え、絶世の美少女ならば、そう云う暴力になるだろう。


そして、このままでは彼女は、そう云う暴力に晒され続けるだろう…………





「…………そうか……」


涙を流しながら、ゆっくりと辿々しく、時に嗚咽で声を失いながらリティラが語り終わった時には、かなり時間が経っていた。


盗み聞いていた店員も涙を浮かべている。


彼女が泣き止むまで、暫く待ってから優しく声を掛ける。



「リティラ。今のキミには2つの選択肢がある。

両親が帰って来る事を信じて今の家に住み続けるか、両親の事を諦めて僕に着いて来るかだ」



僕の言葉にリティラは目を見開く。

ついでに店員も驚いている。


「ハッキリ言うが、両親が帰って来る可能性はとても低いだろう。

そして、キミが一人で生きて行くのはとても厳しく、長くは続かない。

其れは分かってるね?」


「…………はい…………」


「僕に着いて来るなら、悪い様にはしない。

キミの嫌がる事はしないし、食べる事には困らせない。

但し、もう、両親に会う事は出来なくなる。


そして、僕に着いて来るには、たった1つの条件がある」


「……条件?……」


「僕を絶対に裏切らない事だ!!」


急に強い言葉を言った事でリティラはビクッとするが目は逸らさなかった。


「僕がキミを助けて上げた事で、キミは僕の事を“良い人”だと思っているかもしれない。


でも、其れは違う。


僕は敵や裏切り者には容赦しない。

ハッキリ言うなら、裏切り者は絶対に殺す。


洋服店で聞いたかもしれないけど、僕は此れでもAランクのハンターだ。

僕の殺すと云う言葉は脅しでは無く事実だ。


両親から旅立つ覚悟と、僕を絶対に裏切らないと誓えるなら、僕がキミを守ってあげよう。


どうする?」


「…………守ってくれる……

私……着いて行きます、ノッドさんに……」



涙を拭いて、そう答えたリティラは、先程までよりほんの少し大人びて見えた…………





▪️▪️▪️▪️





リティラはティニーマに一旦預けた。

その際に、「ノッドさんの奥さんですか?」と聞かれてティニーマは上機嫌だったが、取り敢えず濁しておいた。


ティニーマ、ティヤーロ、サウシーズに関しては奥さん的な扱いをしようとは思っているけど、王妃と云うポジションは作りたく無い。

僕にはそもそも後継者が必要無いからだ。


其れに僕だけがずっと若いままだ。

もちろん、奥さん的な女性は、おばあちゃんになっても大切にする所存だけど、そう云う事をする相手は新たに必要だから、王妃が何十人も出来てしまいかねない。


なので、あくまで奥さん的な女性なのだ。



ティニーマの買い物は既に終わったとの事だったので、リティラの荷物の準備を手伝って貰う様にして、僕はいつもの様に宿泊して、翌日『ティニーマフーズ商会』本店の引き渡しを受けた。


一応、住んでいる風に色々とセッティングしてから、ティニーマ達と合流して、夜には2人を連れて砦に戻った。

リティラもやっぱり絶叫した。




トレジャノ砦に戻ってから、リティラを紹介して、リティラの事はそのままティニーマに任せて、一泊してから今度はティヤーロを連れて王都アルアックスに向かった。


僕が出掛ける事を知ってリティラが泣きそうになっていたが、秋になったら春まではずっと一緒に居られるからと言って宥めた。

冬の間は余り働かない仕事も多い。


多分そんな感じの勘違いをしたのだろうが、一応納得してくれた。

本当は僕は年中働いて居ないが…………



ティヤーロともティニーマと同様に王都に入ってからは別行動だ。

僕は移民探しをしているが、ティヤーロ達に買い出しを大量に繰り返して貰っているのは、来年の準備の為だ。


因みに、次回はサウシーズとハンジーズを連れて来る予定だ。

今回、リティラは欲しいものをティニーマと買いに行かせてから連れて行ったが、他の4人は夜逃げ同然で連れ出したので、足りないモノが色々と有った。

化粧品なんかは僕には分からないし、女性モノの下着を僕が買いに行くと、店員に色々と違う勘違いをされる恐れがある。


準備物資と一緒に自分の買い物もして貰っている訳だ。




1週間が経って、結局その間はなんの収穫も無いまま、ティヤーロと共に戻って、サウシーズ親子と王都に向かって、1週間が経って、またなんの収穫も無いまま戻った。


戻ってみると、トレジャノ砦の周囲は完全に畑になっていて、芋類の植え付けも終わってしまっていた。


なので、4人には剣の型を覚えて貰う訓練をさせる様にした。

本格的な訓練は、ポーションが幾らでも使えるルベスタリア王国に戻ってからの予定だが、単に暇そうだったからだ。



そうして、今回は1人で王都アルアックスに向かった。

今回は新しいメンバーを見出す迄は戻らない予定だった。


…………まあ、そう云う時程、直ぐに見つかるモノだ…………





「…………失礼、貴殿がノッディード•ルベスタリア殿で合っているだろうか?」


王都アルアックスの大通り、ハンターギルドの目の前で、トレジャノ砦からやって来て早々に、そう声を掛けられた。


かなり大柄な女性で、170cmしか無い僕よりも大きい。

ローブで隠れているが、鎧を着込んでいる様で体格もガッチリしていそうだ。

リティラと同じ長い銀髪に深紅の瞳、比較的美人だと思うけど、見下ろされる圧迫感と、歴戦の戦士のオーラが台無しにしている感じだ。


一瞬、「いいえ、違います」と、言おうかと思ったが、偶々、ハンターギルドの目の前だったので、大切な用事だと困ると思って、


「ええ、そうですけど?」


と、正直に答えてしまった…………



「やはり!!私は、Aランクパーティー所属のレアストマーセと云う。

宜しければ、私と手合わせ頂けないだろうか?」


「宜しく無いので、お断りします。

其れでは……」


「んな?!ちょっと、ちょっと待って頂きたい。

私自身もAランクだ!!」


「……………………ええっと、其れで?」


「いや、私自身もAランクなのだから、相手にとって不足は無いだろう?」


「不足はありますけど、其れ以前にそんな事をしても、僕には何もメリットが有りません」


「な!!私では力不足だと言うのか?!

だが、メリットなら、私が負けたらこの剣を差し出す、此れでどうだろうか」


「その剣を貰ってもメリットがありません。剣には困って無いので」


「!!ならば、どうすれば立ち合って貰えるだろうか?」


「…………なんで、そんなに僕と戦いたがるんですか?

既にAランクなら、僕に勝っても別に大して名誉な事でもありませんよね?」


「そ、其れは……その……。………………………………たいんだ……」


「え?すいません、聞き取れなかったんですが?」


「自分よりも強い男と結婚して、家庭に入りたいんだ!!」


「……………………は?」


「何度も言わせるな!!自分よりも強い男と結婚して、家庭に入りたいと言ったんだ!!」


「…………場所を変えましょうか…………」


「?!あ、ああ。そうだな!!」


僕とレアストマーセのやり取りに何時の間にか、野次馬が結構集まっていたのだが、レアストマーセの魂の叫びに、全員が口をあんぐりと開けていた…………


僕達は、野次馬が追って来ない様に、高級なレストランの個室に入った…………






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