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神装戦記ガルディアン・エスパーダ  作者: 旗戦士
第一章: いざ、新天地へ
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第十一伝: 最初の一歩前

転職や自分の精神状況など含め、リアルがバタバタしておりましたが執筆再開いたします。

よろしくお願いいたします。

<男子寮>


 その夜。イクセル達との会食から帰宅したフェイトは自室に戻り、身に纏っていた制服から予め持ち込んでいた部屋着に着替える。シャワーを浴びようと洗面用具を手に部屋を出ようとしたところ、同じタイミングで部屋を後にしていたレイフォスと偶然遭遇した。


「あ……」

「おや、フェイトか。さっきは済まなかったな、いきなり帰るような真似して」

「ああ大丈夫だよ。用事あったんだろ? 」

「まあな。入学生代表になってしまったから、色々式典の手伝いとかがあったんだ。全く、面倒な立場になったものだな」


 やれやれ、といった様子で彼は苦笑しつつも肩を竦める。今のレイフォスはフェイトと同じような自分の部屋着を身に纏ってはいるが、髪を結んではおらず美しい銀髪が身体を動かすたびに揺れていた。


「いきなり入学生代表だなんて凄いよな。元々推薦とかされたのか? 」

「なんでも元貴族の息子だから、とかいう理由で入学生の中から選ばれたらしい。別に今は貴族とか平民とか、身分なんて何の意味も持たないのだが……」

「へぇ~……ってレイフォスの家って貴族なんだ……」

「あぁ。父親が剣術指南の師範でもあってな、幼いころから剣を握らされていた」


 自嘲気味に放たれる彼の言葉は、よりフェイトのプレッシャーを強める。レイフォスの口調からして、彼の剣術の腕は明らかにフェイトより上回っていることは確かだ。対するフェイトは狩りの中で身に付けた護身用の剣術しか覚えていない。内心緊張しながらも、フェイトはレイフォスと共に寮に備え付けられている1階の浴室へと向かう。


「そういえばフェイトは? 実家はこの辺なのか? 」

「俺はディアテミスからちょっと離れた村だよ。孤児院出身でさ。14歳くらいの時にヴィシュティアから移ったんだ」

「……すまん、不躾な質問だった」

「いいっていいって。気にすんなよ」


 やがて二人は浴場の更衣室で部屋着を脱ぎ捨て、大浴場へと繋がる引き戸を開けた。そこにはタイル張りのシミ一つない綺麗な浴槽と幾つもの洗面台が並んでおり、思わずフェイトは感嘆の声を上げる。


「フェイトはこういう風呂は初めてか? 」

「雑誌とかでは知ってたけど実物を見るの初めてだよ。本当に広いな……」

「風呂上がりに飲む牛乳は格別だぞ。後でおごってやる」


 そんな会話を交わしながらフェイトとレイフォスはそれぞれ別の洗面台に座り、自身の身体を洗っていく。一通り洗い終わると、フェイトは一足早く大きな浴槽に浸かった。透明で温かいお湯が彼の身体をじんわりと包み込み、二回目の声をフェイトは上げる。


「ふぃ~……。なんかこう、疲れが一気に抜けてく……」

「今日は気を張った場面が多かったからな。俺も疲れた……」


 並んだ形で同じ浴槽に浸かるフェイトとレイフォス。入学式やクラスでの顔合わせを経て、二人の身体は精神的にも摩耗していたのだろう。何とも言えないだみ声を同時に発した。


「そういや、リゼットとレイフォスって幼馴染なんだよな? リゼットも貴族だったのか? 」

「いや、あいつは普通の家の出だ。元々父上が身分制には反対してて、俺もよく彼女と一緒に遊んでたんだ。思えば10年来の付き合いになるか」

「そんなにか……。なんだか羨ましいよ。俺は知り合いの女の子って言ったら孤児院の子たちしかいなかったからな」

「そうか? 想像するようなものでもないぞ。見ればわかるがあいつは随分とお転婆だからな、いつも俺が後始末させられてた」


 容易に想像できるその光景にフェイトは思わず噴き出す。


「はは、あんな登場のされ方しちゃ確かにな。でもリゼットいい奴だし、仲良くなりてえよ」

「ほう、初対面の人間からしたら割ときついものだと思っていたが」

「いやぁ、もっとお転婆な奴は孤児院にいたからリゼットみたいな性格だとちょうど気が合うんだよ。それよりもレイフォス、気になる子とかいないのかよ? お前の事かっこいいって言ってるやつ多かったぞ」

「入学初日だからそんな暇もなかったさ。気になると言っても他の生徒の事はお前たちくらいしか知らないよ。まあ、なるようになるだろう」

「リゼットは? 」

「………………何故あいつが出てくる」


 髪が湯船に入らないように結った銀髪を揺らしつつ、レイフォスがフェイトを訝し気な視線で見やった。頬が僅かばかり紅潮しているのは、きっと風呂の所為なのであろう。意外な様子を見せるレイフォスにフェイトは内心驚きを覚えつつも、ようやく見せた感情に笑みを浮かべる。


「だってよぉ? それだけリゼットの事話すんだし、そう思われてもしょうがないんじゃねえの? 」

「むぅ……そういうお前はどうなんだ。いや、聞くまでもないな。紫音の事、気になってるだろう」


 自分ではあまり表に出さないつもりでいたのにも関わらず、こうして見抜かれてしまった事によりフェイトは更にレイフォスへの警戒心を強めた。


「な、何のことだよ? お、俺別に紫音は気になってないけど……」

「そういう態度が余計に怪しいんだ。まあいい、俺とお前だけの秘密にしておいてやる」

「ひ、秘密にする必要なんかないぜ? べ、別に俺紫音の事なんか…………」


 言葉ではそう口にしているが、フェイトの脳裏には初めて紫音と出会った時や制服姿の彼女が呼び起こされる。不敵に笑みを浮かべるレイフォスとは反面、フェイトの顔はどんどん真っ赤になっていった。


「…………手に取るくらい分かりやすいなお前」

「う、うるせえ! のぼせただけだ! 」

「はは、そういう事にしておいてやる」


 その場から逃げるかのように浴槽を上がると、フェイトはそそくさと脱衣所へと向かう。そんな彼の後ろ姿を見つめながら、わずかに笑みを浮かべた。


「全く……俄然、楽しみになってきたな」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

<ヴァルメール都立士官学校・特務科教室>


 翌日。フェイトは実力テストでの不安を抱えながら登校し、朝の座学授業を受けていた。渡された教科書には重要なところが分かりやすいように幾つもの線が引いてあるが、教壇に立つフィルの言葉には一つもピンと来ていない。


「魔法を発動する一連の流れは、大気中に存在する魔力素(マナ)を吸収し、体内で実体化させてから魔法を発動する。本来、人間であれば大幅な体力を消耗するんだけど、エルフにはそのデメリットがない。その理由がどうしてか、皆は分かるかな? 」

「魔術血管(アルテーリア)をエルフは生まれながらにして持ってるからです」

「その通り。故にエルフという種族は魔導士になりやすい傾向にある。では魔法を発動する際、ある二つのマナ言語が必要になる。それじゃあ……フェイトに答えて貰おう」


 さっきから一体何を話しているのか、と言った様子でノートを必死にとっていたフェイトは茫然としながら顔を上げる。


「フェイト君、起動語(アンスタン)と動作語(アルツァルシ)だよ」

「お、おう……起動語と動作語の二つの言語が必要になります」

「その通り。彼が答えてくれたこの二つが、魔法を唱える際に最も重要な要素となる。攻撃、回復、補助……様々な魔法の種類が存在するが、起動語と動作語がなければマナにも反応しない」


 何とかその場を凌ぎ切ったフェイトは安堵のため息を吐いた後、隣に座っていたイクセルへ視線を向けた。


「サンキュ、助かった」

「へへ、良いって事よ」


 フェイトが席に着いたのを見やると、フィルは手にしていた教科書を閉じて教壇の上に置く。


「さて、座学はこの辺にして実践に移ろう。そろそろ眠気が来る頃だろうしね」


 寝ぼけ眼をこすりながら我に返ったリゼットやフェイトを見やりながらフィルは笑顔を浮かべた。彼は6人全員を立ち上がらせ、教壇の前に来させる。


「今からみんなには簡単な魔法を唱えてもらう。そうだな……。起動語は灯せ(ケルツェ)、動作語は星の明かり(リヒトソンブル)で行こう。簡単な光魔法さ。君たちにもできるはず」

「俺、一回も魔法なんか唱えたことないんだけど……」

「大丈夫、簡単だよ。掌に意識を集中させてそこに血を注ぎ込むイメージだ。ほら、やってみて」


 フィルの言葉に感化され恐る恐るフェイトは虚空に手を伸ばす。目を閉じ、全意識を右手の掌に集中させると、徐々に腕が暖かくなっていくのが感じ取れた。


「詠唱してみて」

「灯せ(ケルツェ)……星の明かり(リヒトソンブル)! 」


 そうフェイトが言葉を口にした瞬間、僅かな光が彼の掌の上に現れる……はずだったのだが彼の眼には何も映らない。思わず呆気に取られていると、隣に立っていたシエルやレイフォスはいとも簡単に掌に光を出現させた。

 

「え”っ」

「ちょっとアンタ大丈夫? もう一度やってみなよ」


 シエルにそう諭されて再度挑戦するも、彼の身体へ魔力素が吸収されることもなく、微妙な空気のみ作り上げる。思わずフェイトはその場でがっくりと膝を着いた。


「えぇ……? 俺ってこんなに魔法適正なかったの……? 」

「あはは、大丈夫だよフェイト。最初から適正がない人の方が多いからね」

「……先生、慰めはいらないっす」

「いやそんな卑屈にならなくても……」


 そんなフェイトを助けるかのように終業を告げるチャイムが教室中に鳴り響く。さてこの辺にしようか、とフィルが口にしたところで授業は終わりを告げた。既に時刻は夕暮れ時。フィルの座学で今日の授業は全て終了となり、茫然とした表情のままフェイトは教室を出る。


「おいおいフェイト君、そんな顔すんなよ。魔法が使えないなんて今日日珍しくないって」

「で、でもよぉ……俺こんなんで本当にレイフォスと戦えんのかなぁ……」


 落ち込んだ様子のフェイトの肩をイクセルは慰めるように叩いた。その隣に紫音も姿を現し、刀袋を肩に担ぎながらフェイトに近づく。


「大丈夫さ、私も会得したのは遅かった。それよりもフェイト、この後空いていたりするだろうか? 」

「へっ? お、俺……」

「空いてるもなにもずっと暇だよ! な!フェイト君? 」

「なんでお前が答えんだよ……」

「ふふ、空いてるなら良いさ。私の稽古に付き合ってほしいんだ。それに、君の訓練にもなるし……どうかな? 」

「も、勿論だ! 俺でいいならぜひ! 」

「そうか、良かった。ならあとで稽古場に来てくれ。それとイクセルも来てくれるとありがたい」

「は~い、可愛い子のお願いならどこでも付いてくよぉ~」


 ではな、とイクセルの言葉を一瞥しながら紫音は先に廊下の奥へと消えて行った。彼女の後ろ姿を見つめながら、フェイトとイクセルは顔を見合わせる。


「……なんでお前も来るんだよ」

「べっつにぃ~? 可愛い子のお誘いだしぃ~? 紫音ちゃんの道着姿を独り占めなんてさせるわけにはいかないしぃ~? 」

「ばっ、そんなんじゃねえよお前! 」

「でも紫音ちゃんのポニテのうなじは? 」

「気になるに決まってんだろ」

「紫音ちゃんに言ったろ」

「待てやコラァ!! 」

 

 かくして二人は先に消えて行った紫音の後を追うように、廊下を駆けていくのだった。

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