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神装戦記ガルディアン・エスパーダ  作者: 旗戦士
第一章: いざ、新天地へ
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第九伝: 志と共に

<花の都・ヴィシュティア>



 翌朝。部屋のベッドで掛け布団をはだけさなせながら寝息を立てているフェイトはふとした拍子に目を開いた。寝ぼけ眼をこすりながらベッドのそばに置いていた導話媒体に視線を傾け、おもむろに電源をつける。画面に表示された時間を目にした瞬間、彼は血の気が引いていく感覚を覚えた。


「うっわぁっ!?!?! 」


 絶叫と共にベッドから飛び起き、すぐさま寝間着を脱ぎ捨てるとクローゼットの扉を開ける。ヴァルメール都立士官学校の制服である灰色のスラックスに真っ白なシャツ、深紅のネクタイに群青色のブレザーをしわも整えずに一気に身に纏うと、フェイトは玄関のすぐそばに置いてあった学生バッグと愛剣の仕舞われた布のケースを手に取った。


「あっおはよーフェイト君、今日も元気そうね」

「カミラさん! おはようございます! ちょっと急いでるのでまたあとでーっ! 」

「ん、そんな時間だったっけ……? ってあっ、行っちゃった」


 男子寮の寮長であるカミラに挨拶だけ済ますと、そのままフェイトは学生寮を飛び出す。


「やっべぇ遅刻だ! 初日から遅刻するなんてきっと……きっと……」


 器用にも走りながら遅刻した後の光景が彼の脳裏に浮かんだ。引きつりながらも何とか笑顔を浮かべながら怒りを露わにするフィルに、嘲笑を向ける紫音と他の学生たち。そんな光景が容易に想像できる。そんな考え事をしながら走っていると、角から現れた金髪の青年とぶつかってしまい、盛大に尻餅をつくことになった。


「いってて……あっ、ご、ごめんな! 俺急いでたからつい……」

「あ、あぁ……。ったく、気を付けて――」


 フェイトがぶつかった青年に手を差し伸べた瞬間、銀縁の眼鏡を掛けた彼はフェイトの顔を見るなり驚きの表情を浮かべている。そんな彼の表情を、フェイトはじっと見つめていた。この顔、どこかで……。


「フェイト君、フェイト君……だよな? 」

「えっ? どうして俺の名前……? まさか……イクセルか? 」

「やっぱりフェイト君か! ははっ、まさかこんなとこで会うとはな! 」


 金髪の青年――イクセルは喜びと驚きが入り混じった表情で差し出されたフェイトの手を握り、そのまま肩を組んだ。


「うおっ⁉ 何すんだよイクセル⁉ 」

「何するも何も、久しぶりに会った友達と再会できて嬉しいんだよ! いやぁ、2年ぶりくらいか! あっという間だったな! 」

「あぁ、もうそんなに前か……ってやべっ! イクセル、俺急いでるんだった! 行かないと! 」

「ん? あぁ、フェイト君もヴァルメール士官学校の生徒なのか。安心しろよ、まだ1時間以上もあるぞ」

「…………へ? 」


 そんな言葉がイクセルから放たれた拍子に、彼の身に付けていた腕時計に視線を落とす。入学式が開かれる時間よりも遥かに余裕があった。何故だが今の状況が瞬時に理解でき、フェイトは導話媒体を制服のポケットから取りだす。


『お前が遅刻するだろうと思っていたからな。我がこの端末の時間を1時間だけ早めておいたのだ』

「………………」

「ふ、フェイト君? どした? 」

「あ、あぁ、いやあ何でもないよ。それよりも一緒に行こうぜ」

『ふん、礼もなしか。全く、恩知らずな奴――』

(あとで絶対ぶん殴ってやるからな)

『ッ⁉ 』


さすがのディルグリウスもフェイトの怒りに恐怖を覚えたのか、導話媒体の中に引っ込んだ。そんなフェイトの様子に僅かに眉を顰めるイクセルだが、気にせずに二人は歩き始める。


「しっかしフェイト君も相変わらずだよなぁ、時間間違えて早起きするなんてよ。久しぶりに会っても変わってなくて安心したよ」

「なんだよ、文句でもあんのか? それにお前の方もそんな変わった方に思えないぞ」

「何言ってんだ、髪型だって変えたし雰囲気も変わっただろ? 」


 そんな会話を繰り広げているとやがて二人は通学路となる大通りへと差し掛かった。商店街へ入ろうとした途中、フェイトは見覚えのある紫色の長いポニーテールを見掛け、思わず彼女の名を呼ぶ。


「紫音! 」

「ん……あぁ、フェイトか。おはよう。そちらの人は……? 」

「イクセル・ガルブライトですマドモアゼル。貴女のお名前は? 」

「おや……大胆な人だな。長船紫音だ。よろしく、イクセル」


 振り向いた紫音を見るなりイクセルは彼女の目の前で跪き、精一杯の美男子オーラを放ちながら彼女を見上げた。しかし紫音は臆する事なくイクセルに笑みを向け、手を離すとフェイトの隣へと並び始める。


「おめぇも全然変わってねえじゃねえか……」

「なんだとテメェ? 可愛い女の子がいたらエスコートしてやるのが男の役目じゃねえかアァん? つーかお前なんでそんな可愛い子ちゃんと先に知り合ってんだァ? 」

「おいおい落ち着けよイクセル、紫音引いてるぞ」

「はは、感情が豊かな人なんだな」


 二人は紫音を加え、しばらく歩き続ける事約10分。赤いレンガで組み上げられた巨大な建物が3人の視界に映った。黒い正門の向こう側には体育館や幾つもの校舎が立ち並び、いよいよ自分たちは新天地に足を踏み入れた事を実感する。三人の他にも多くの生徒たちが正門へと向かっている光景に感化され、彼らも再び歩みを進めた。


「そういや二人は、どこの学科に配属されるのか知ってるかい? 」

「私は特務科と聞いているな」

「あ、俺も一緒だ。もしかしてイクセルもか?」

「おっ、なら安心だ。いやあ、フェイト君たちがいて安心したよ」

「あと他に3人いるとも聞いている。どうやら特務科は他と比べてクラスの人数自体が少ないみたいだな」


 彼らが在籍する事になるヴァルメール都立士官学校には、政府軍に入隊する為の基礎を学ぶ普通科、魔導核(コア)の加工製品・兵器を研究・開発する工学科、戦場に赴き兵士たちを治療・看護する医療科、魔法兵としての素質を磨く魔術科、そしてフレイピオス政府軍特殊作戦行動組織"特務行動隊"への入隊ルートが確立されている特務科の合計5学科の進路が存在している。フィルから直接推薦を受けたフェイトも二人と同じく特務科に在籍することとなっていた。


「入学式は体育館でやるみたいだな。席も自由だし、どうせなら一緒のとこ座ろうぜ」

「そうだな。そろそろ始まるみたいだ、急ごう」


 紫音の言葉と共に3人はすぐ傍の体育館へと足を踏み入れると、そこには学証である獅子が剣と盾を手にしている刺繍の入った深紅の垂れ幕がまず目に入り、舞台の上には焦げ茶色の壇が設けられている。また、入学生や教師陣の座る席はソファのように柔らかいクッションをあつらえており、3人は横に並ぶ形で腰を落ち着けた。荷物を席の下に置いて待つこと数分、入学者全員が揃い、いよいよ入学式が始まる。ざわめき声が静まったころ、儀礼服に身を包んだ本学校の校長、ディニエル=ガラドミアが姿を現した。


「本日付けで我が学び舎に入学する事になった入学生諸君。ようこそ、ヴァルメール都立士官学校へ。己の技術を極め、その力を示したいと思う者、傷ついた人を自らの手で救いたい、守りたいと願う者、様々な思いを胸に皆は今この場にいる事を私は知っています」

「エルさん……! 」


 壇上に立ったエルの姿を目の当たりにし、思わずフェイトは彼女の名前を呟く。隣にいたイクセルから訝し気な視線を向けられるが、彼はエルの話に耳を傾けた。


「4年前、この国では咎の断罪、大樹の大戦、人魔戦争と数多くの紛争、戦争が起こり、多くの血が流れました。その大きな壁、無数の屍を乗り越え、今我々はこの地を踏みしめられています。そして今。私たちが得る事ができた恒久の平和を維持する為、我々は君たち若い世代の力を必要としています。私たちは諸君を歓迎します」


 その言葉と共に、一斉に席から拍手が上がる。入学式のアナウンスが次の壇上に上がる人間を告げ、再び静寂に包まれた。次に壇上に上がったのは長い銀髪を靡かせながら濃紺のスーツを身に着け、気品を纏う男性――ゼルギウス・ボラット・リヒトシュテインである。彼が姿を現した瞬間、他の席から感嘆の声が上がる。彼はこの魔導連邦フレイピオスを統率する大統領であり、その艶やかな政治的手腕から理想的なリーダーとして賞賛されていた。


「入学生諸君。君たちがこの場に来てくれたことを心より感謝する。私はゼルギウス・ボラット・リヒトシュテイン。君たちも知っている通り、この国の政治を任されている大統領だ。君たちの晴れ舞台に立ち会えたこと、私はとても誇りに思う。この学校で君たちが己の才を磨き、いずれはこの国の治安を保つ優秀な人材に育つことを期待している。以上だ」


 短めに話を切り上げ、ゼルギウスは僅かばかり口角を吊り上げると壇上を後にする。その際、フェイトと彼の視線が一度だけ交わったような感覚を覚え、僅かばかり背筋を伸ばした。


『最後は、入学生代表からのスピーチです。レイフォス・フォン・アルフェイン君、壇上へ』

「はい」


 フェイト達の座る席から三つほど離れた席からゼルギウスと同じような美しい銀髪を携える青年が立ち上がる。その風貌はまさに美少年の一言に尽き、大人びた印象と端正な顔立ちが周囲の生徒たちの視線を集めた。背中にまで伸びた長い銀髪を結っており、彼が一歩歩みを進める度体育館の照明に銀髪が照らされ、淡い煌きを放つ。


「入学生代表、レイフォス・フォン・アルフェインです。本日は我々のような若輩者の為にこのような盛大な式を開いてくださり感謝申し上げます。先ほど校長からのお言葉にありました通り、我々は様々な思いを胸にこの地に足を踏み入れました」

「……あの者、只者ではないな」


 あの紫音が思わずそんな言葉を口にするものだから、フェイトは驚いたような表情を見せつつ壇上に立つレイフォスの言葉に耳を傾けた。


「……この学校に在籍されている先輩方、教官方のご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い致します。入学生代表、レイフォス・フォン・アルフェイン」


 そうしたところで、レイフォスのスピーチが終わり盛大な拍手と共に彼が席に戻っていく光景をフェイトはただ見つめている。同期の人間にあそこまで立派な佇まいを見せる男がいるのか、そんな想いに耽りながら入学式が終わりを告げるアナウンスと共に3人は席から立ち上がった。やがて入学生の波が体育館の出口へと一斉に向かい、その波に3人は合わせるように体育館を後にする。


「さて、こっからが本題だな。僕たちの他に誰が来るか楽しみだなぁ~」

「呑気なもんだなイクセル」

「何だよフェイト君、緊張してんのか? 」

「あぁ、めちゃくちゃ緊張してさっきから喉が渇いてしょうがない」

「そんな自信ありげに言う事じゃないと思うんだけど」

「あはは、そんなに緊張する事はないぞフェイト。まあでも、不安になる気持ち分からなくもないかな」


 学校に足を踏み入れた際に職員から受け取ったキャンパス内の地図にフェイトは視線を落とす。どうやら特務科の教室はここからすぐ近くのシュリオン校舎にあるようで、直ぐに三人は目的地の建物へとたどり着くことが出来た。フェイトは自分に宛がわれた下駄箱にブーツを入れ、真新しいスニーカーに履き替えると、紫音とイクセルと連れて階段を上がる。高級そうなカーペットが敷かれた階段を上がった先には、荘厳な雰囲気を漂わせる長い廊下が広がっていた。その雰囲気に耐えられなかったのか、フェイトは更に身体を強張らせる。


「随分と派手な校舎だな。なんだか落ち着かないよ」

「あ、あはは……紫音も? 俺なんかさっきから汗止まんねえ……」

「緊張しすぎだって」


廊下の壁に立てかけられた特務科1組の教室への道先が記された看板に導かれるまま、ようやく三人は1日の大半を過ごす事になる教室へとたどり着いた。フェイトは深く息を吐いてから教室の引き戸に手をかけ、緊張のあまり思いっきり扉を開けてしまう。既に教室には二人ほど席についている男女がおり、彼らからの視線が一気にフェイトに向いた。


「あ、あっ、ご、ごめん」

「…………別に」

「来たか」


一番奥側に座っていた群青色の長い髪を靡かせる少女はフェイトの反応には目もくれず、気だるそうに窓の外へ視線を戻す。だが、もう一人の青年の方は教室に入ってきた三人を見るなり笑みを浮かべながら歩み寄ってきた。教室には机が6つしかなく、この場にいる彼らが特務科1組の全生徒であることを示していた。


「君たちもこのクラスなんだな。さっき入学式で話したから知っていると思うが、レイフォス・フォン・アルフェインだ。これからよろしく」

「お、おう! 俺はフェイト・エクスヴェルン! よろしくな! 」

「イクセル・ガルブライト。よろしく色男」

「長船紫音だ。さっきのスピーチ、見事だったぞ」


そんな言葉を交わしながら3人はレイフォスに招かれるまま各々の席に着き、荷物を机の下に置く。フェイトは紫音と隣の席に腰掛けるが、対するイクセルはもう一人のクラスメイトである気だるげな少女の隣に座ると、彼女に声をかけた。


「初めまして、麗しい御人。僕の名はイクセル・ガルブライト。貴女のような可憐で美しい方とクラスを共にできるとは光栄です」

「……は? 何アンタ、もしかして入学早々ナンパしてんの? 」

「ナンパだなんてとんでもない! 僕はついつい美しい人を目にすると声をかけてしまうんですよ」

「……ちょっと、フェイトって言ったっけ? この馬鹿と知り合いならどうにかしてよ」

「すまん……こいつの女好きは俺でどうにかできるもんじゃないんだ……」


少女――シエル・ビアステッドは深くため息をつきながら寝そべらせていた上半身を起き上がらせると、ものすごく嫌な表情を浮かべながらイクセルに振り向く。


「シエル。シエル・ビアステッド。まあクラスが同じだから一応名前だけ言っとくけど、関わりあうつもりはないから。特にアンタ」

「やった! やったぞフェイト君! 苦節19年、ついに女の子から返事が返ってきた! 」

「いやどう聞いても否定されてるだろ……耳の医者行って来いよ……」

「な、なかなか強烈な第一印象だな……」


フェイトとレイフォスが苦笑いを浮かべながらイクセルに反応を示した。対するシエルは「頭お花畑もいいとこね」と吐き捨てて再び机に寝そべり、紫音に至ってはその光景がツボに入ったのか、顔を真っ赤にさせながら笑いを押し殺している。そんな中、教室の外から大きな一つの足音が聞こえ、室内にいた彼らの視線は再び教室の扉に集中した。


「やぁぁぁっと見つけたァッ‼ 」


そんな言葉が聞こえたかと思うと、教室の扉が再度騒音をかきならしながら勢いよく開く。襟元くらいまで伸ばされた金糸のような髪色に、活発そうな表情を浮かべた少女が教室に入ってきた。既に彼女は学校指定の制服を着崩しており、スカートの下には太ももまで覆う黒いスパッツを履いている。そんな彼女は辺りを見回しながらフェイトの隣に座っていたレイフォスを見つけると、満面の笑みを浮かべながら彼に飛びついた。


「レイちゃん‼ ひっさしぶり~‼ 」

「どわぁっ⁉ 」


勢いのある突進――タックルと言うべきか――で少女に飛びつかれたレイフォスは座っていた体勢からそのまま押し倒され、横にいたフェイトごと倒れ込む。


「リゼット! いきなりタックルかます奴があるか! このアホ! 」

「あっひっどーい! 久しぶりに会った幼馴染にアホはないんじゃないの! 」

「あ、あの……レイフォス……ま、まずは俺の上からどいてくれ……」

「っ! す、すまん! 大丈夫か⁉ 」

「あわわわわ……ご、ごめんね⁉ 大丈夫⁉ 」


レイフォスが即座にフェイトの上から飛びのくと差し出された彼の手を握って立ち上がり、フェイトは揺らいでいた視界を直すため頭を左右に振った。フェイトは近づいてきたリゼットに視線を向けつつ、彼女の手を差し出す。


「しっかしすげえ登場の仕方だな。思わず寝ちまうとこだった……。俺はフェイト。フェイト・エクスヴェルンだ」

「ほんとごめんね~……」


少女――リゼット・バーンスタインは申し訳なさそうにフェイトの手を握り、彼に謝罪の意を示した。どうやら彼女とレイフォスは旧知の仲らしく、お互い仲睦まじく口論を繰り広げている。随分と騒がしくなりそうだな、と内心安堵しつつもフェイトは自分の席に戻ると、今度は靴底が一定のリズムを奏でる軽快な足音が聞こえ、急いで乱れた席を直すレイフォスとリゼットと手伝いつつ、教室の扉に視線を戻した。やがて靴音は扉の前で止まり、ゆっくりと扉は開かれる。そこには、フェイトが良く知る男が立っていた。

 

「やあ、揃っているね。今日からこの特務科1組の専属教官を勤める、フィランダー・カミエールだ。みんな、よろしくね」

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