91話 事後処理
勇者ユクスとの死闘から一月が経過した。
戦いが終わった後、戦いの傷を癒したりといった休息はあったが、王都に戻ってすぐに逃走した勇者を殺した事を大々的に発表をした。
その影響で王都に住む魔族は安堵ではなく悲しみの方が強く、酒に逃げる魔族が急増し、いつも以上に爛れた生活を送る様になり、警備や門番などがストライキを起こすという勇者ロスを引き起こした。
更に報告を聞いた各都市の幹部魔族が申し合わせたように王都に集合して詳細の説明を求められた。
内容はまず勇者ユクスが本当に死んだのかの確認。
幹部魔族も勇者の死亡は嫌な報告だったらしく誤報を期待していたようだが、ボロボロになっているユクスの死体と取られた聖剣エクスカリバーを提示する事ですぐに認めることになった。
まぁ、偽の報告をする必要性がないから街の魔族のように生き消沈にはならなかった。(一人ウォーガルの号泣などは省く)
幹部魔族が気にしているのはグロウリーが死んだことで空白となった幹部魔族総括の地位と管理者のいなくなった王都の管理担当は誰がやるのかという事だ。
幹部魔族総括は誰もが尽きたくない職業だ。
幹部魔族達のリーダーと言えば聞こえはいいが、幹部魔族は皆一癖も二癖もある魔族ばかりで総括だからと命令に素直に聞いたりしない。
やっていることを一言でまとめると魔王のパシリである。
グロウリーが魔王ブローにいいように使われているのも見てきたし、自分自身が言う事を聞いてなかったのも自覚しているので幹部魔族達は誰一人立候補しなかった。
お互いにお互いを褒め合いどうにか相手に面倒ごとを押し付け合うという不毛な争いが続き、最終的に争いごとになる前に止めに入って保留を言う羽目になった。
逆に王都の管理担当の方は立候補者が続出した。
幹部魔族の人数は管理都市の数と同じ余っている幹部魔族はいない為、必然的に管理を任される者は二つの都市を管理する。
管理都市が増えるのは単純に自分の勢力を増強できることと同じだ。
こちらはこちらで貶し合いの応酬になったが、こちらも激化する前に王都の管理は自ら行うと宣言して沈下した。
こうして勇者死亡で起きた難所を越えた。
その後もユクスの壊した冒険者ギルドの再建や大雑把な仕事でまとめられていなかった王都の資料の整理などの面倒ごとが波のように押し寄せて来たけど助っ人の御蔭で問題発覚前よりも格段に都合よくなった。
そんなこんなで一ヵ月経った。
「スティア、次は右三個目」
「了解しました、師匠」
「まだ倒せないのぉ~」
「腕が痺れてきた」
「このっ!」
俺達はユクスと激しい戦闘を行った岩場に来ていた。
別にユクスとの戦いが関係している訳ではない。
ちょうど、たまたま、偶然にもこの岩場が紅蓮の乙女の面々にとっての適切な狩場となっていただけだ。
はぐれスライムは速度が速くて紅蓮の乙女では討伐難易度が高過ぎて効率が悪い。
1時間で1~3体しか倒せないのではレアモンスターの時と変わらない。
他のレベル上げが必要だった。
そこで選ばれたのが、”ストーンスライム”
はぐれスライム同様大量経験値を獲得できる魔物だ。
はぐれスライムとの違いは特化した身体能力でストーンスライムは速度の代わりに防御力が著しく強化されたスライムである。
それが何故紅蓮の乙女に適切かというとストーンスライムはまずその形態の所為で逃げられないし、攻撃もしてこない。
その上、防御が高くても最低攻撃ダメージの1は入る様で必要回数叩けば勝てる。
つまり絶対に倒せる魔物だ。
ただし問題もあり、獲得できる経験値量ははぐれスライムよりも少なく、見つけるのが非常に困難だという事だ。
「タスク様、次の居場所教えてください」
「すぐ隣の石もストーンスライムだよ」
でも俺には探索能力がある。
幾ら石と見分けがつかなくても探索結果にはしっかりと魔物の反応が返ってくるので探すのは容易なのだ。
これでみんなに指示を出して、その指示にいるであろうストーンスライムをひたすらに叩いて倒していけばいいだけの簡単なレベル上げが完成する。
紅蓮の乙女に方法を伝えると子供でも出来るレベル上げを自分達がしないといけないという事に対して痛くプライドが傷ついていたようだが、はぐれスライムを狩れないのだから仕方がないだろう。
「タスク様、手が痺れてきました」
「なんだ。また無理にダメージを通そうとしたのか?」
「えへへ、で、でもさっきよりも威力は高くなっているんですよ。あいつ等が硬すぎるのが可笑しいんです」
「分かった、分かった。回復魔法をかけるから手を出して」
「はぁ~い」
出された手にヒールを掛けると痺れが収まった。
「ありがとうございます。お蔭で痛みが解けました」
「どういたしまして。なんでそこで腕を組むのかな?」
「サービスです。サービス」
それとあの死闘後から紅蓮の乙女の俺への態度が変化した。
少なからずユクスに勝って尊敬され足りなんて事あるかな、と期待していた。
20代の美人な女性陣に頼られるのが嫌な男はいないだろう。
その期待は実ってみんなから慕われるようになった。
だがどういう訳か、予想以上に抱き付かれたり、腕を組まれたりといった勘違いしそうなスキンシップが増えたのだ。
このリア充死ねと思うだろうが、晴れて本当に恋人同士になったエリティアの前でやられると嬉しいよりもエリティアに愛想尽かされないか不安になる。
ようやくエリティアにお互い好きあっているのを確認して改めての初夜(紅蓮の乙女王都組にはバレている)を済ませたばかりで他の女と密着するのはどうかと思う。
エリティア本人が気にしていない、と言っていたが、やっぱり自分の恋人に他の女がくっつくのは嫌だろう。
少なくとも逆の立場だったら俺は嫌だ。
何が何でもエリティアから引き離すだろうし、できなければ男を殺してしまおうとすら考えそうだ。
「そんな事していると団長達から更に離されるわよ」
「とかいってスティアもしたいんでしょ」
「なっ!? 馬鹿、師匠にそんな事思ってなど……」
そう言いつつ顔を赤くしてこちらをちらちらと見るスティア。
(……モテ期なのか!? 初カノが出来た瞬間にモテ期到来って神様はいないのかっ!? いや、いるけど会ったけど)
初めて来たモテ期のタイミングに文句をつけながら組まれた腕を渋々引き離した。
「スティアの言う通り、今はストーンスライムを狩る事が大事だ。二人とも作業に戻ってくれ」
「やっぱりこれって作業なんですね」
「まぁ、戦いではないわよね」
抵抗することなくすぐに離れてくれたけどストーンスライムに向かう二人の足取りはとても重い。
スライム相手に攻撃が通らないのと倒すまで攻撃し続けないといけない作業の繰り返しがきついようだった。
それでもこの方法は確実に彼女達を強くしている。
(もう少ししたらエリティア達の手伝いもさせられるな)
変わったのは魔王陣営の情勢だけではない。
着実にタスクの仲間達も力を付けて行っていた。




