84話 勇者の所在
今回は短いです。
王都から脱走した勇者の捜索。
エリカーサ王国全土を対象にたった一人の人間を見つけ出さないとならない。
それも探索方法は【千里眼】と『覗き見鳥の瞳』だけ。
見つけるには数日は最低でも掛かると思っていた。
「見つけたわよ」
それが覗き見鳥の瞳の使用一巡目にエリティアの声とともに終了した。
最初は全員冗談だろと反応が薄かったが、エリティアが本当だから見なさいよとしきりに言うので見たら本当にいたのだ。
「一体どこで見つけたんだ」
鏡に映った映像を覗き込むとユクスはどうやらどこかの町にいるようであった。
町と言えばユクスの故郷であるベレーネ町を思い浮かぶ。
勇者と言っても人間である。
故郷の母が心配で、又は魔族から解放されたはいいけど一人で心細いので故郷を目指して逃げるという可能性はあった。
当然、真っ先に調べた。
しかしその時はいなかった。
あとになってきたのか?
そう思ったがどうやら違うらしい。
「この町ってベレーネじゃないですね。確かペニスト町という町ですね」
同じ鏡を見ていたグラマンティアが町の名前まで言い当てた。
どうやら言った事のある場所のようだが、俺には同じ町にしか見えない。
それにペニスト町と勇者の接点が全く覚えがないんだが。
取り敢えず本当に発見できたのだとみんなに伝えて鏡の前に集まってもらった。
それでユクスは一体何をやっているんだ。
どの町にいるのか確かめるべく町の全貌を見る為に一旦視界からユクスが外れてしまったのでユクスを探す。
まずは人が米粒程の大きさまで拡大していた画面を個人が認識できるまで縮小させる。
それによって町に残っている住人の生活が見て取れた。
「ここも似たようなものか」
然程規模の大きな町でもないのに住人には洩れなく奴隷の首輪が着けられている。
ユクスが倒したようで魔族は死体しかいないが、首輪を解除することのできない勇者では住人を本当の意味で解放することは出来ない。
グラマンティア達は数日前までの自分達を思い出して目を逸らした。
「さて、どこにいるのやら。さっき見たとき防具を身に付けていたみたいだから見分けやすいと思うけど」
そこから先程までいた場所を中心に重点的に探すが、
「勇者の奴どこに行ったんだ?」
「家の中にいるんじゃないですか?」
「冒険者ギルドや民宿は覗いたけどいなかったぞ」
「なら他人の家に入ってるとか」
他人の家に勝手に上がるなんて非常識な事、と思ったが、勇者って結構勝手に人の家に入っていたなと思い出して家の中にまで視界が映るようにした。
覗き見鳥の瞳には壁や床をすり抜けられるだけでなく暗闇、逆光、煙などの視界を遮るものを無効化する力がある。
そのため、常に視界はクリアだ。
何件目かの家の中に入るとようやく当たりを見つけた。
ユクス本人ではないが、先程までユクスが着ていた鎧がかけ立ててあるのを発見した。
「この先に居るのか」
周りにもようやく見つかったと知らせると視点を奥へ移した。
中では一糸まとわぬ男が一人、たくさんの女の上に乗っていた。
一体何が起こっているのか悟った瞬間、俺はウルカの視界を手で塞いでいた。
同じタイミングでエリティアもオルガの視界を塞いだ。
目を突然隠されたウルカは何が起こっているのか理解できなくて戸惑っているが、今ここで手を離すわけにはいかない。
「エリティア、オルガを連れてきてくれ」
「分かったわ」
その場に居る全員がその方がいいと僅かに抵抗する二人を強制的に退出させた。
「……」
戻ってきて改めて鏡に映った光景を見て頭を押さえる。
他の面々も何と言えばいいのか分からず困った顔をするか、顔を赤らめて鏡から目を逸らす者しかいなかった。
「――――これが勇者の本性よ。人類がこんな状況なのになんてことしてるのよ」
「そうですよね。まさしく女の敵です」
「さっさと殺すべき。出ないとどんどん不幸な女が増える」
これが魔族に反撃する第一歩だったらいいけどこの映像と今までの事を考えると……。
「エリティア、どうしてこの町にユクスがいると思ったんだ?」
「ユクスが持っている情報と解放された時の状況からの推察だけど仲間が近くにいないから可愛い娘の多い場所に行って女を助けようと考えたと思って冒険に行っている間に一番反応の良かった町を見たらいたってだけよ」
やっぱりエリティアもそう思うんだな。
負けた連合軍や今後の生活を考えずに自分の欲求に従っているだけなよ。
「勇者の行動が可笑しいのは今に始まった事じゃない。見つかったのなら監視を続けておくからみんなは休んでくれ」
王都到着早々の騒動でみんな休めていないので取りあえず休んでから勇者の対処を考えようと解散を促す。
みんなも疲れている身体を早く休ませたかったので玉座の間から出ていった。