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83話 厄介な事案


「さて、聞いてきた話を話そう。みんなそのまま座ったままで構わないぞ」


 部屋にはエリティアを除く全員が神妙な面持ちで待っていた。

 俺が入ってきたのに反応して何人かが立ち上がろうとしたので制止をして気遣いから開けてくれたのだろう椅子へと座った。


「終戦当初の王都を知らない紅蓮の乙女の面々には王都の変化が分からないと思うのでまず言っておくと、王城の半壊と防壁まで一直線に伸びる倒壊は俺達が外出する前にはなかったものだ」


「その二つはタスクが外出中に起こった事件。冒険者ギルドの職員が言っていた勇者ユクスの逃亡の際にできた物なんだな?」


「その通りだ。それで勇者の行方については不明だそうだ」


「じゃあ勇者はまだこの近くにいるんですか」


 勇者が逃亡したと知ってからずっと真っ青な顔になっているラスクがまだ王都にいる可能性があると思ってあたりをキョロキョロ見回した。


「安心しろ、一度王都を出ている姿は目撃されている。王都に留まっている理由がない以上安全な場所を求めて外に出ていっているはずだ」


 王都にあるものというと聖剣(すでに手に入れている)、魔王ブローの首(外出中)、勇者パーティーのエリティア(右に同じく)ぐらいのものだ。

 それにリンスは連れていくのに誘っていた。

 もし王都に戻る気でいたのなら態々誘ったりはしないだろう。


 他の者達も勇者ユクスが王都に留まっているとは考えていない様でどこに行ったのかを思考していた。


 そんな勇者の行方について話をしている中、一人だけ全く別の事を考えている者がいた。


 はぐれスライム討伐で優勝したスティアだ。

 彼女は深刻そうな場の雰囲気に疑問を持っていた。


「あの、その前に聞いておきたいんですけど、前に聞いた話だと勇者はそんなに強くない印象だったと思うんです。今の師匠なら勝てるんじゃないですか?」


 魔王ブローに攻めいった時の勇者は疲労があったとはいえエリティアに敗北している、

 魔族を倒しながら進んでいたのでレベルが上がっていたとしても精々レベル360程だ。

 その程度であれば今のエリティアなら瞬殺も出来ると思う。


「それがグロウリーの所為でそんな簡単な事態ではなくなっているんだ」


 問題なのはグロウリーの行ったエネルギーステロイドによるレベル上げでユクスは聖剣を使ったとはいえグロウリーを一撃で殺しているという点だ。


 グロウリーも馬鹿ではない。

 エネルギーステロイドは死のリスクがあるもののレベルを急激に上昇させる劇薬。

 勇者の危険性が増すことを考慮していた。


 ……してたよな。流石にそれすら考えずに使ったって事はないよな?


 グロウリーのレベルは四ケタを超えている。

 単純な強さで比較すると下位の魔王よりも強い。

 グロウリーを一撃で倒すには聖属性にスキル、防御なしの条件で計算したとしても勇者のレベルが最低でも600は超える必要があった。


 しかしエネルギーステロイドでレベルアップしてもそこまでのレベルには届かなかったはずだ。なのに倒したとなると考えられることは、


「奴はたぶん経験値上昇のスキルをこの1年で習得していた。そう考えればレベルの辻褄は合う」


「それにグロウリーや逃走中に倒した魔族の分も経験値を得ているわ」


「ああ、レベルは俺達と同じか、それ以上になっている可能性もある。甘く見積もって同レベルだったとしても勇者としての素質は本物だ。身体能力は間違いなく奴の方が高い」


 グロウリーの所為でこれまで積み上げてきたレベルに一気に追いつかれたことになる。


 コツコツ積み上げてきた努力に裏技で追いつかれるのってすごくムカつくよね。


「だから勇者をもう一度捕らえるなんて言う考えは捨てて置け」


「あの、この際勇者は無視するのは駄目なんですか。あんなのでも魔族を倒す存在としては使えますし、態々対応する必要もない気がするんですが」


 どんなに性格に難があっても勇者は魔族を討伐するのは間違いないので勇者の事は無視をして魔族に倒されるまで放置してしまう。

 一見いい意見に思う。

 勇者が死ぬまで俺たちにとっても敵な魔族を倒してくれるし、こちらに被害はない。

 同様の事を盗賊にも行っている。


「駄目だ」


「なぜですか?」


「まず第一に今の俺は魔王ブローの変わり身をしている。勇者が逃げ出したとなれば対処しないのは不味いだろう」


 既に被害も出ている以上最低限の落とし前を付けなくては引くことは出来ない。

 そして引けないのならもう倒すしかない。


「次にメリットとなる魔族の討伐だが正直に言って大変迷惑だ」


 魔族を倒してくれるのはいい。

 敵が減ってくるのは大歓迎だ。

 しかし無暗矢鱈に倒されるのは困る。


「これはまだ話していなかったが、魔王ブローの軍勢は一枚岩ではない。それぞれの思惑と勢力がバランスを保って成り立っている。魔王に絶対忠義を捧げているものの方が稀で場合によっては魔王の寝首をかこうとする者の方が多い。グロウリーは変態だが魔王ブローに忠誠を捧げていた側の魔族だったから今回の件で勢力バランスは大きく悪い方に傾いてしまっている。だからこれ以上、勇者に魔族を無暗矢鱈に倒されては今後に多大な影響を与えられるんだ」


 専属奴隷を所有している魔族の討伐もそのパワーバランスを考慮して行う予定だったし、最初に狙う幹部魔族は一番厄介なシュリアン・ガーだったが、奴は益があるうちは味方をするスタンスなので倒してしまうと更に反乱分子を勢いづかせてしまう為、既に中止せざる負えなくなっている。


「そしてこれが一番の理由だが、勇者を放置してもし生き残った場合はどうするつもりだ」


 可能性は物凄く低いが、魔族を倒しつくしても勇者が生き残れてしまったら勇者のレベルは上位魔王と同等かそれ以上になるのは間違いない。

 魔族を魔族領土に追い返して人間領を取り返した後、たぶん奴は前の勇者たちの様に魔族領にまで攻め込むような事はせずに新たな勇者による勇者の為の勇者が全ての国を作る。

 酒場とかで国王になりたいとかしょっちゅう言っていたから間違いない。


「勇者が王様……なにそれ魔族統治より最悪じゃない」


「絶対に避けないと駄目ね」


「そんなに酷いんですか?」


「あなた勇者がどんな人間か知らないの?」


 殺人、強奪、略奪を隠れてやっていたような奴が絶対権力を持つことになるんだぞ。

 最強暴君君臨と言っても過言ではない。


 勇者ユクスの事をよく知る紅蓮の乙女の面々も力と地位と権力を持った姿を想像して理解を示してくれた。

 知らないオルガとウルカも分からないながら何となく嫌な事なのだと察することは出来たようだ。

 場の雰囲気が勇者を放置してはいけないという意思に固まった所でエリティアが話を戻すように声を掛けた。


「それでこれからどうするのよ」


「勿論勇者ユクスの捜索だ。出来るだけ早く見つけて対処したい」


「でもどうやって探すんですか? 言っては何ですけど私達は自由に動けませんよ」


「俺は【千里眼】で探す。みんなには"覗き見鳥の瞳"を使ってもらう。あれなら室内でも探す事が出来る」


 それでも探索できる手段は二つだけしかない。

 エリカーサ王国内にいると仮定しても城にいるアリを探すようなものと言っていい。


「それって困難すぎませんか」


「そうです。なにか探す目処がないといくら何でも厳しいですよ」


「あなたたち、いい加減にしなさい」


 言われて当然の事だと甘んじて受けようと思った反論の途中でグラマンティアが叱咤した。


「泣き言を言ってもいいのは言えるだけの事をした人だけといつも言っているでしょう。それに今の私達の主はタスク様です。私達はその命令がどれだけ困難だろうと従うのみです。違いますか」


「「はいっ!」」


 紅蓮の乙女は仕事主義の縦社会だと記載されていたけど流石に無理難題は反論すべきだ、と思ったがそれを言ってしまうと折角庇ってくれたグラマンティアに悪いので何も言えなかった。


「それじゃあ操作方法を教えるから玉座の間に移動しようか」





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