82話 驚愕の事実
視界には相変わらず壮大で豪華な城が飛び込んできた。
周囲を壁で囲い、60平方kmの土地に900本もの主柱が建てられて作られたエリカーサ王国の誇る王城。
その中央には100mはありそうな巨大なファサードがかかっている。
国王が勇者資金を横領して再建した王城なだけにとても豪華な外観だ。
しかし今は左前方が半壊していた。
外壁が崩れて吹き飛んだ部屋の半分が外に剥き出しになっている。
俺はそんな王城に目をくれる事無く城内へと入っていった。
城内へと入ると帰宅の報告があったのだろう。
多くの魔族の姿がある。
すぐにでも状況を聞きたいという気持ちを抑えつつ、魔族達の前へと進む。
「お帰りなさいませ、魔王様」
先頭で出迎えたのは幹部魔族のグロウリーではなくその直近のパラグスだった。
グロウリーはどうした? という言葉が再び出そうになるのをぐっと堪えた。
それも含めて報告してくれる事だろう。
「魔王様、今回の件は……」
「待て。その話は玉座の間にて聞こう。それよりも俺は兎も角今回の戦利品は長旅で疲れている。先に彼女らを部屋へ送るのが先だ」
こちらが我慢しているのに話そうとするパラグスを止めると、パラグスも人間のいる前で話す話ではなかったと口を噤んだ。
「エリティアは同席させる。お前の方も報告に必要な者だけを同席させろ」
「畏まりました」
俺が進むとエリティア達が右側に、パラグス達が左側に移動してついてきた。
玉座の間に着くころにはグラマンティア達は寝室で休めせて、魔族も留まった。
寝室に入ったグラマンティア達を邪な目で見ていたので手を出すなと釘を指しておく。
そうして玉座の間にまでついてきたのはパラグス含めて三体だけであった。
玉座に座ってようやくずっと質問したかったことをぶつけた。
「ではまず街で俺が聞いた情報の真偽から聞かせてくれ。勇者ユクスが逃げ出したというのは本当か?」
「間違いありません。牢獄に姿はなく、勇者ユクスの姿を見た魔族が多数おります」
「勇者の生存及び行方は掴めているのか」
「いえ、王都から逃走後、その足取りが掴めておりません。ですが討伐の報告がない以上生きていることは間違いないかと」
「そうか。グロウリーを連れて来い。慈悲として弁解だけは聞いてやるとな」
「……残念ながらグロウリー様は亡くなられました」
「何だとっ!?」
「勇者によって殺されました。遺体も確認済みです」
思わず腰を浮かせてしまう程、その報告は驚愕すべきものだった。
幹部魔族総括グロウリーは変態だが、その肩書に見合うだけの強さを持っている。
対して勇者は一年前からレベルが上がっていない。
当時の上位魔族にも勝てない実力のままだ。
決してあの屑勇者が勝てる魔族ではない。
「どういった経緯でそうなったのか聞きたい。情報は収集してあるんだろうな?」
自分の知っている範囲からの推察では勇者ユクスの逃走は不可能にしか思えず、パラグスに状況説明を求めた。
「終わっております。生き残った魔族とこちらに控えている牢獄番と武器庫番の証言を元に現場検証をしてほぼ確実です」
「前置きはいいから話せ」
そう言った後、パラグスは外出中の出来事について話した。
外出後、グロウリーは予想通りユクスの調教をしていた。
女体化計画を抜きにしてもグロウリーがユクスに何もしないでいる事なんてあり得ないのでそのい事自体には問題なかった。
問題なのはその内容だ。
グロウリーは勇者ユクスに劇薬の使用を行っていた。
魔族の間ではエネルギーステロイドと呼ばれる強制的にレベルを上げる凶薬である。
レベルが上がる薬というと聞こえはいいが、数週間身動きできなくなる上に身体にはとてつもない痛みを伴い、適合しなければ死亡する事もある代物だ。
それで死んでくれればよかったが、勇者ユクスはそれに耐えきった。
その後、身体強化したユクスにグロウリーはエクスカリバーを尻にぶっ刺したそうだ。
……あぁ、うん。色々とおかしいよね。
思わず頭を抱えたくなったよ。
え、なに? どうしてここで聖剣の名前が出てくるのかな!?
あれは宝物庫の武器庫にちゃんと保管していたよね?
宝物庫の中にあるの俺はちゃんと確認したよ。
あの聖剣には魔族への特効と聖属性の付与効果がついている。
聖属性はほぼ全魔族の苦手属性なので言うなればあの剣は効果抜群×4にする魔族にとっては天敵みたいな剣をなのだ。
そんな超危険な代物をなんで弱点の魔族が持ち出すんだよ。
よりにもよって勇者の元にっ!!
それもユクスの尻にぶっ刺したって……馬鹿なの!? 馬鹿でしょ!? 馬鹿だよね!?
体調の優れない勇者にネギの代わりに聖剣を刺すと言っていた?
いやそんなこと聞いてないから。
その場に居た者はみんな死んだので確証はないというが、勇者の尻に刺したのは間違いないんだろう。
そうなるとその尻に刺したことで勇者が聖剣を所持したことになったんだろうな。
で、リンスが話していた閃光の柱っていうのが、尻にぶっ刺した聖剣に技なのだろう。
エネルギーステロイドの強化で強力になった勇者の一撃をグロウリーは油断していた上に直撃で食らい死んだと…………しょうもなっ!?
自業自得という事すら言いたくない程無様な最期だ。
全て自分が死ぬためにやったと言っても納得できるレベルだよ。
こんな死に方をした奴が魔王ブローの幹部魔族総括だったのだと思うと……。
牢獄を脱獄したユクスは街を破壊して王都外に逃走。
後を追った魔族は返ってこない事から勇者に殺されたと判断し、行方不明になっている。
何をしてくれているんだよ、という激情と同時にグロウリーに勇者を与えたという判断が間違っていたのではないかという後悔の念が浮かぶ。
「つまり勇者が国外逃亡している可能性も、まだこの王都にいる可能性もあるんだな」
「その通りです。勝手に行って申し訳ありませんが、他の幹部魔族の方々の元には事情を伝えた部下を向かわせました」
「緊急事態だ。しかし報告を聞いて勇者欲しさに出陣する奴が出そうだな」
「そう言った方がいるかもしれないと、勇者は見つけ次第魔王様に報告後、幹部魔族と選ばれた上位魔族で集団包囲するようにとも伝えました」
いい案だが、それを聞く幹部魔族が何体いる事か。
「とにかくまずは勇者の行方を捜せ。それと王都へ戻って来ることを考えて防御を固めろ。俺も独自に探してみよう」
パラグスはそう言うと立ち上がって退出していった。
話す機会はなかったが、思ったよりも真面そうなので王都の警備の方は大丈夫だろう。
「……なんでこんなことになったんだ」
玉座の間から魔族が居なくなると俺は元の姿に戻って天を仰いだ。