50話 改装しよう
盗賊団『カエサル』は男性が生活を支配し、女性は性欲を解消させる道具にされていた。
家事をやる女性がいない為、生活は料理をしない、掃除はしない。
家具が無くて風呂はなく月に数度川で身体を洗うだけ、寝るのは雑魚寝。
台所、調理器具、掃除道具、風呂、ベッドなどの必要品がない。
それ以外にも欲しい物が何一つ足りていない。
だから整備が必要だった。
しかし王都に戻るまでおよそ2、3日。
その間に全て整備するのはいくらなんでも無理だ。
既に男性臭のする大部屋と女性部屋の洗浄は完了していて臭いも落とした。
後は埃だが洞窟だからそこまで神経質にする必要はないだろう。
そうなると次にやるべきことは必要最低限の設備。
でも何から手を付けるべきか……。
「何から手を付けたらいいと思う?」
「えっ、そこで私に振るのですか!?」
後ろからついて来ているフィルティアに質問したら驚かれた。
だって実際にここで生活するのはフィルティアだ。
王都に行ってから足りない物があっては困る。
暫くしてフィルティアは何か思いついたようだ。
ただなかなか口にしない。
「……そ、そうですね。……私としては……えっと……と、トイレが必要だと思います」
歯切れの悪い小声での提案は、トイレだった。
――――トイレか。
確かに必要不可欠。
特に女性には死活問題だろう。
しかし可愛い顔でまさか食事や身嗜みよりも先にくるとは思わなかった。
ちょっと気まずい雰囲気になるけど言ってることは間違っていない。
今思いつく中では一番に行うべきだ。
「よし、じゃあまずはトイレの常備から始めよう」
「言い出してなんですが、そんな簡単にできるものなんですか?」
「それはやってみないと分からない」
ただできないとも思っていない。
この洞窟の周囲には川があるからそれを上手く使えば何とかいくんじゃないかと思う。
「まずは設置する場所な」
家と違って上手く水を運んでこないと洞窟が崩落する恐れがある。
どこにでも設置できる訳ではないので、まずは設置する場所から決めないといけない。
場所としてはなるべく外の川に近い空間が望ましい。
「川ならこの洞窟の知覚に流れていますが、どうやって川と繋げるんですか? 近いと言っても結構な距離がありますよ。方向を保つのも難しいですし、道具もないですから数日が掛かりの作業になってしまうんじゃないかと思うのです」
「確かに普通でやったらそうかもしれない。でも多分大丈夫だ」
「?」
向こうの世界の知識と数多のスキル頼みでどうにかなると思う。
そういう訳でまずは川を探さないとだな。
千里眼を飛ばして洞窟の外にある川を発見する。
川の方向は歩いてきた方向か。
ブルータスの部屋近辺が一番近かった。
その中で手頃な空間は……あるな。
長細い空洞で使われていなかったみたいで物なども置かれていない。
「この小さな空間に作りますの?」
「小さい? もう少し大きな空間に作った方がいいか?」
確かにこの広さだと4人仕様にしかできない。
今後の事を考えればもっと大きい空間にする方がいいか?
「そうですね。この広さは私の使っていたよりも大分手狭で」
「よしっ、この部屋でいいな。作業に取り掛かろう」
「タスク様、無視しないで下さいっ!?」
だってフィルティアの使っていたのは王城にあるだだっ広い個室トイレだろ。
そんな広いトイレ使っているのは極一部の人達だけだ。
トイレは広すぎず狭すぎずの微妙なラインが丁度いい。
取り敢えず穴を作ろう。
出来れば洋式の方がいいけど今は便座は作れない。
和式のぼっとんトイレは目指す。
その最初の排水管だ。
細さは細めにしよう。
詰まったりして不便なら広げればいいし。
深さはあまり深すぎても逆に流れなくなるよな。
でも斜面にしないと水が流れないから皮の高低差を考えると浅すぎるのも駄目。
(取り敢えずこんなものか?)
それじゃあ、発動っ!!
「これは一体どうなっているんですか?」
スキルを発動すると目に見えて変化が起こった。
目の前の地面が独りでに凹み、先が見えないほど深くまで穴が開いたのだ。
これにフィルティアが驚きの声を上げて説明を求めるが、もう少し待ってもらう。
全て収納したのを確認して吸い上げた物を吐き出した。
目の前には大量の土と鉱物が出現する。
そして少し間隔を空けて同じように穴を作っていく。
それを全部で四つ作った所でフィルティアの方を向くと無視され続けたフィルティアはご機嫌斜めになっていた。
「ちゃんと説明するから怒らないでくれ」
「怒ってはいません。ただ私は必要ないと思っただけです」
「これからやってもらう事があるから。それで今やったのはアイテムボックスっていう収納系スキルで範囲指定して土や鉱物を吸収したんだ」
「収納系っていうとアイテムポーチやバックの元になったスキルのことですね。こんな使い方が出来るなんて知りませんでした」
正確には食料保存系のスキルだからもしかしたら普通の収納系では出来ないかもしれない。
ただこれ言うと余計にややっこしくなるのでもし訂正する機会が訪れた時に言えばいいかとスルーした。
「俺もできるか半信半疑だったけど上手くいって良かったよ」
しかし予想外の事もある。
範囲指定した穴の大きさよりも明らかに大きな鉱物も混じっている。
つまり範囲指定している間にあった鉱物は必要な個所だけ収納するのではなくそのままの形でアイテムボックスに入るという事だ。
「これだと少し崩れないか不安だな」
「大丈夫です。この辺りは地盤が固い所為か過去数百年と全く山崩れが起こったという報告がない土地ですから」
「なんでそんな事を知っているんだ?」
「お姉さまと違って室内でいる時間が多かったのでそう言った情報を見る機会がありまして」
そんな事を一々調べているほど暇だったからか恥ずかしそうに言うフィルティア。
恥ずかしがる必要はない。
とてもいい情報を聞いた。
それなら多少の無理をしても大丈夫だろう。
「今ので縦の穴をあけた。次にこの穴を川に繋げていく」
まずさっきの要領で人一人が入れるスペースを作る。
「あのどうやってそこまで行くんですか?」
フィルティアの指摘通り、スペースを作っても穴が小さすぎて普通の方法ではそこまで行くのが無理だ。
(方法は二つある。……ここは気持ち悪くない方のがいいだろうな)
アイテムボックスに入っている小穴を通れる大きさの鉱物を一つ取り出すと少し見つめた後、穴の中に放り込む。
そして奥まで落ちきったのを確認した。
これで準備完了。
「それじゃあ行ってくる」
「え? どこに行くんですか!」
スキルを発動してフィルティアの前から消えた。
周りは暗いが成功だろう。
上を見ると僅かに穴が開いているのが確認でき、フィルティアの声も聞こえた。
「お~い!!」
「タスク様!? 穴の先にいらっしゃるんですか!?」
「そうだ。俺の代わりに石がそっちに行っただろ。それはそのままにしておいてくれ」
何をしたかというと先程投げた石と俺の位置を入れ替えるスキル【置換】を使用した。
これでいつでもフィルティアのいる部屋に行き来できる。
ここからは簡単だ。
川と繋がる様にアイテムボックスで地面を吸収し続ければいい。
(さて水源はどっち方向だ)
探知スキルで水源の方向を確認しながら突き進む。
ただいくらアイテムボックスでも数キロ離れた川まで繋げるまでの土を全て吸収なんてできない。
アイテムボックスが一杯になったらフィルティアのいる部屋に戻って排出しないといけない。
ここからは今期の作業である。
――――数時間後
「タスク様、水の音が聞こえます」
「ああ、無事流れたみたいだな」
あれから川の付近にまで穴を掘った。
しかしそのまま繋げると川の勢いで外壁を削ってしまう。
そこで先程土に混ざっていた鉱物で壁のコーティングをした。
壁の周りを堅くするだけなら【錬金術】を用いれば容易い。
「これで取り敢えずトイレとして使用できるだろ」
「もう十分だとですよ」
「いや、これだと色々と不便だしもっと改良を」
「ここまでして下されば問題ありません」
「そうだな。それじゃあトイレは終わりにして次は……」
「その前に、エリー姉様が作業中に来られてタスク様に伝言を頼まれました。『これが終わっても休みも取らずにそのまま別の作業に入るでしょうからその前に食事にするように伝えて』と言われてます」
……エリティアにすべて見透かされているな。
「どうしますか?」
「確かに捕まっていた人達には食事を与えたけど肝心の俺達は何も食べていなかったな。フィルティアもお腹が減ってるだろう?」
「私は途中でゼリーを頂いていますので(く~)……」
凛っとした顔がどんどんと真っ赤に染まっていく。
(はは、お腹は正直だな)
この音を聞いて尚も作業を続ける気はない。
エリティアの元に一旦戻ることにした。
【置換】
対象と配置を入れ替える。対象は事前に登録が必要。