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はるまげ☆どーたー  作者: 葵・悠陽
グリモワール第1巻
16/33

断章・ほのか日記(5月28日)

5月28日(月)曇りのち雨


どうしよう、パパが作るご飯が美味しい。

今日の朝食は豆乳のクラムチャウダー風スープパスタだったんだけど

パパ、本当に素人なの?

「この時代の一人暮らしの男の人ならこのくらいは簡単だよ~」

なんて言っていたけれど、普通に信じられないかな。

よっぽど食材がいいのか、パパがすごいのか。

確かに私が以前旅していた時代だとここまで食生活が豊かじゃなかったから

食材が腕を補ってくれているっていうのは理解できるんだけど。

明日は日本のソウルフード、「うどん」を食べさせてくれるって言ってた。

小麦粉麺の食べ物だそうだ。

小麦粉と言えばパンしか浮かばないわたしって、やっぱ役立たず感がすごい。

うぅ、このままだとパパに胃袋握られそう。

パパはわたしの餌なのにっ!



今日は雨が降るというのでお留守番するか聞かれたけど付いていく。

お家にいてもまだ何もできないし、パパの本を読むのもいいけど

それよりも調べものをしたい。

もばいる、というものの使い方を教わりたいんだ。

休憩時間に教えてもらって、お勉強するつもり。


パパのお仕事が始まってからしばらくして雨が降ってきた。


パパの機嫌があまり良くない。

嫌なお客さんが沢山いたから、みたい。

でも怒りというよりは、不快な感じなのかな?


ジワリとにじみ出る瘴気がとても美味しくてぞくぞくするけど

帰り道までがまんがまん。

パパの背中にくっついて自転車に乗りながら、たっぷりいただく予定。


ふふふ、楽しみだなぁ。


パパが休憩中に、私の日記を見て「何書いてるんだ?」って

尋ねてきたけれど、私は笑って「パパのお仕事の様子!」と答えた。

嘘は言ってないけれどパパは複雑そうな顔。


「うーん、娘に仕事の査察されてるみたいだなぁ、仕事参観?」


とかよくわからないことを言っていた。


パパに機嫌が良くないみたいだけど、嫌なお客さんでもいたの?と聞いてみた。


「ほのかに気を使われちゃうかぁ」


そんな風に苦笑いしていたパパ。

罪悪感を感じているのか、ジワリと瘴気が。

ダメよほのか!今は我慢!

ここはおとなしくいい子で話を聞くことに徹する。


「ん~、立体駐車場のスロープでな?

3人組の若者がタバコ吸ってたんだわ。

で『喫煙所はあちらにありますんで吸うならそちらでお願いします』って

案内したんだけどさ。

そしたら一人は動いたんだけど、他の二人が動かない。

時間的にも車が結構通るから、危ないんで話するなら別の場所で

してくれないかって声かけたんだよ」


「ふんふん」


「そしたらさぁ『警備員如きが命令すんな!何の権限があるんだ!』

『ほかの連中も歩いてんだろうが!俺達にばっかり言うんじゃねえ!』と

関西弁でまくしたててきてなぁ~」


「えっと、パパは命令したの?」


「危ないから降りた方がいいんじゃね?って提案しただけよ?」


「……それが何で命令って話になってるの?

パパの言い方が悪かったの?」


意味が分からなかったのでそう尋ねたんだけど


「言われたこと自体が気に入らなかったんだろうねぇ。

最近のガキは無駄に小賢しい知識ばかり増やしてるからさ?

確かにね、警備員には『どけ』と命令する権限はないんだよ。

『どいてくれませんか?』ってお願いするまでが限界。

で、受け手側はさ?さも『命令された』かのような受け止め方をして

警備にケチ付けること自体は出来るわけ。

今回はそのパターンだねぇ」


そう言ってパパは苦笑いする。

パパ曰く、こんなのはまだ可愛い方らしい。


こんなこともあったそうだ。


中国人の団体客が買い物をして、出てきたはいいけれど出口付近でうろうろ。

国道に面しているから危ないなあと声をかけたら、添乗員という案内人が

「何故ここにはタクシーが来ない!お前たちは中国人を馬鹿にしているのか!」

といきなりすごい剣幕で怒鳴ってきたんだって。

パパは「呼ばないと来ませんよ」と答えたんだけど、

「何故呼ばない!買い物をしたんだから呼ぶのは当然だ!」と

ガミガミ嫌味を言われたそうだ。

わたしなら即座に灰にしちゃうけど、パパは電話して呼んであげたという。


他にもこんなことがあったそうだ。


飲み物を箱で買ったお客様がよたよた歩いていたので

パパは「足元お気をつけてお進みください」って声かけたんだって。

その人が歩いてるところが、凸凹してて転びやすいから

声をかけたそうなんだけど、その人は転んで、飲み物の箱が潰れちゃった。

そしたら、「何故こんなに凸凹なんだ、直しとけよ!」と怒鳴られて、

転んだのはお前のせいだから新品と交換しろと、

飲み物の箱ごと交換させられたそうだ。

わたしなら即座に灰にしちゃうけど、

パパは店員さん呼んで対応してもらったそうだ。


「ほかにも色々あるよ?」


パパは笑ってそんなことを言うけど、なんでそんな風に笑っていられるかが

わたしには理解できない。

だから聞いてみたんだ。


「パパは、そんな嫌な思いしてなんでお仕事続けるの?

お金いっぱいあるんだし、嫌な思いするくらいなら楽しちゃえばいいのに」


そう、お金はいっぱいあるんだ。

私がパパを養ってあげられるくらい沢山ある。

だけど、パパは受け取ってくれない。

使えない、ってもらってくれない。

色々な所に目をつけられたって、私が全部焼いちゃうから。

パパは私が護ってあげるのに、そう思ったんだ。


だけど、パパの答えはちょっと違った。

なんて言うか、反応に困る答えだった。


「………あのなぁ、ほのか。

俺も楽できるなら楽したいんだけどさぁ?

今、そういう生活になると間違いなく酷いことになるんだよ、体調が」


「……え?」


「ほら、俺って見ての通り結構がたいがでかいだろう?

ぱっと見で100㎏くらいありそうだねぇ、相撲かラグビーしてた?って

『必ず』聞かれるんだけどな?

どっこい体重、120㎏あるんだわ」


「え、ええええ!?」


「子供の頃は谷あいの街に住んでてさ、自転車で動いてたから

足の筋肉が洒落になってなくてな?

水泳とかで水に浮こうとするとさ、下半身だけ沈むんだ。

とにかく見た目よりはるかに重いんだよね」


「そ、それが体調とどう関係あるの?」


何かすごく困る話を聞かされる予感を感じながら尋ねると


「仕事しなくなると家でごろごろするだろう?」


「うん」


「一気に太る」


「!?」


「で、同時に足腰が弱くなるから、まず膝と腰が壊れる。

次に、生活習慣病…糖尿病とか高血圧とか、

そういう面倒な病気が次々に発症し始める」


「ご、ゴロゴロしなければいいんじゃない!?

運動するとか!」


「あのなぁ?

この年のおっさんが体調維持するためにダイエットするとする。

一日どの程度の時間がそれに費やされると思うよ?」


そんなの知るわけがないよ!?


「聞いて驚け、基礎体力がある人ならともかく、

俺みたいに運動ろくにしてない人は最低でも3時間前後は必要だ」


思ったより短い、と思ったところにパパはたたみかけてくる。


「これはあくまで純粋な運動時間な?

柔軟とかの準備運動に30分、軽く流しで1時間、ガチでそのあと1時間、

整理体操なんかで30分、っていう大雑把な時間割。

自宅周りでランニングとかウォーキングを習慣にしてる人なら

もう少し時間も短くなるかもしれないけれど、俺くらいのガタイになると

自分の体重で関節系を壊す可能性が高いから下手な運動は逆効果。

だらけて体重増やしたならなお危険度は上がる、分かるだろう?」


「う、うん」


「そうなると、必然的に無理のない運動を継続的に行う必要が出てくるし、

場合によってはそういうののプロの協力を借りなきゃいけなくなる。

医者とかトレーナーとかな?

そうなれば経費も掛かるし、出向く時間やらでさらに時間も余計に取られる。

もちろんシャワーや風呂の時間も別途でかかる。

それらを加味して考えると、まぁ4~5時間くらいは毎日『運動』に

時間と金を奪われる計算になるんだよねぇ」


「あぅぅ…」


「ところがどっこい、仕事をしてると嫌な思いすることもあるけど、

金は入ってくるし最低限運動にもなるし?

……何より社会から孤立せずに済むんだよね」


だから辛いし面倒でも仕事は止める気が無いんだ、とパパは笑う。


そりゃあパパが病気になったら私も嫌だし?

超おデブなパパのお嫁さんはちょっと辛い、かも。


そんな感じで何となく言いくるめられちゃった気がしないでもないんだけど、

最後にパパが言ってた『社会から孤立せずに済む』という言葉は

何か、妙に心に残った。


やっぱり人間は難しいって思った。







次の断章は5日の12時予定です。

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