覚醒の勇者は覚醒する
「おはようございます、旦那様」
メイドは僕に向かってそう言った。
「だれ?」
いや、誰なのかは予想がつく。
僕が買った奴隷の少女だ。
だけど、だけれども・・・
彼女であるという確信が持てない。
身長が僕より高くなっている。
彼女は僕よりも頭一つ低かった。
二つの綺麗な目が僕を見ている。
彼女の目は大きな傷があった。目も見えなかったはずだ。
それに何といっても・・・
そのメイド服は一体なんだ?
「私はあなたの元奴隷でございます」
「えっと・・・」
「旦那様の予想通り私はあなた様の奴隷でございます。私は旦那様のスキル【覚醒補助】により覚醒しました。それにより肉体は強化されたため身長が伸び、全身の損傷は完全に修復されました。ちなみに、この服は旦那様の趣向に沿うように魔王城で入手しました」
僕が疑問に思っていることに対して、即座に回答してきた。
何で僕の考えていることが分かったんだ?
ああ、こいつなんか疑問に思うことがあんだろうな。
みたいな表情をしていたかもしれないが、具体的に何を疑問に思っているのかは判別できるわけがない。
・・・ちょっと待て。
今、魔王城って言わなかった?
「魔王は討伐いたしました。ここに来る前に魔王の首は王城、正確には王の枕元と王女の枕元に半分ずつ魔王を討伐したという内容の手紙を添えて置いてまいりました」
口に出す前に答えてくれたことはもういい。
魔王を討伐?
一晩で?
もしかして
「もちろん私が単独で討伐いたしました。配下たちも殲滅済みです」
ついていけない。
もう何が何だか?
っていうか、なんで魔王の首を王様と王女様の枕元に置いてきた?
「私の大切な旦那様を無下に放り出したからです。ですが、おかげで旦那様と出会うことができたので首だけは切らないでおきました。もし、気に食わないようでしたら今すぐにでも・・・」
「やめてあげて」
僕が咄嗟に思ったことにさえ明瞭に気付ける彼女のことだ。
覚醒の影響で僕の頭の中が見えるのかもしれない。
もう考えるのはやめよう。
とはいえ、終わったのか。
何が何だかよくわからないまま召喚されて、何が何だかわからないままだけど終わったのか。
けれど僕はどうすればいい?
できることならば帰りた
「ご安心ください。私の空間操作で旦那様は元の世界へ戻ることができます」
帰れるらしい。
そうか、帰れるのか。
「君はこれからどうするんだい?」
「旦那様が許すのであれば、私は旦那様のお傍に・・・」
「是非僕のそばにいてください」
「!?・・・ありがとうございます」
彼女はそう言って頭を下げた。
さてと、さっそくだけど帰ろうかな。
これからのことはあっちで考えればいいし。
「それじゃあ元の世界かえろうか」
「かしこまりました」
ブオン
僕の目の前の空間が揺らぐ。
ピシッ
揺らいだ空間にヒビが入り、段々と大きく開いていく。
空間が裂けた先には・・・
見たことのない部屋があった。
何だろう。
いやに豪華な場所だな。
あれは一体?
「あの~メイドさん?」
「何でしょう」
「あれはどこ?」
「魔王城最上階、魔王の寝室でございます。ここは現在誰にも邪魔をされない場所ですので」
・・・今魔王城って言ったか?
何でそんな所へ?
ゴトリ
彼女の足元に何かが落ちた。
何だろう。
「あっ」
彼女の足元には男性の下半身にぶら下がっているシンボルをかたどったモノが落ちていた。
「おっと」
彼女は何事もなかったかのようにそれを拾い上げた。
「い、今のは?」
「旦那様を『覚醒』させるための道具でございます」
「いやいや、あれは男に使うものではないでしょ」
「問題ありません。男性にも下半身に突っ込む穴がございますので」
「怖いよ!?君は僕の何を覚醒させようとしているの!?」
「いろいろでございます」
ヤバい
僕の貞操がピンチだ。
童貞を失う前に、処女を失ってしまう。
「ご安心ください、優しく致します」
彼女はそう言うと僕の体をひょいと持ち上げてお姫様抱っこをした。
「では、参りましょう」
そう言って彼女は僕を魔王の寝室へと連れ去った。