表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/74

新たなる大地へ

「準備は出来た?」

「勿論です!」

「よし。じゃあ行こうか」

「はい!」


 そして、こっそりと部屋から出て様子を窺いつつ、そろりそろりと移動して行く。

 今回はどこにも誰にも知らせてないから、ちゃんと置手紙を用意したのだ。

 

 索敵魔法を最小限に掛けつつ、様子を窺いながら進んで行くヴィーの後に着いて行き、そしてリドルに跨った。


「捕縛!」

「ぎゃあああっ!」

「ちっ、勘付かれたか」

「何処へ行こうとしてるんですかねえ、家の放蕩両親はっ!」

「あちゃー」

「ティーラ」


 魔力除去のあのお馴染の網で包み取られたヴィーと私は、溜息を吐き出した。


「えへ、ちょっと二人でラブラブな旅に出ようかなって」

「ラブラブ結構ですが、ちゃんと言ってから出て欲しいのですがね?」

「だって、言ったら大袈裟になるだろう?」

「当然じゃないですかっ!国王陛下からも、くれぐれもよく見張っておいて欲しいって言われてるんですから」

「酷いな、兄上」


 くそ、何でバレタかなあ?と思いながら、網から出されるのを待ったんだけど。


「いちる。抜け駆けは許さないよ?」

「ははは、出し抜けるならどんどんやりますが何か?」


 リクト隊長にそう答えつつ、溜息を吐き出したティーラにやっと網から出して貰った。


「それで?今度はどちらへ?」

「ちょっと、ヨウグ連山へ」

「天辺に行ってみたら竜がいるかもって思って」


 ね?と言いながらヴィーと見つめ合い。


『防御結界!』

『浮遊!』


 息の合ったコンビネーションで防御壁を張った後、空に浮かび上がった。


「あ、コラ待てっ!」

「いちるっ!」

「ヒュウ、行くぞっ!」

「はいっ!」


 どうやら既に準備をしていたらしいリクト隊長とヒュウがリドルに跨り、そのまま空を駆ける私達を追って来る。

 それを見下ろし目を真ん丸にしてしまい、仕方なくコルディックを超えてから下に降りた。


「ったく、行くなら連れて行けよなあ」

「いや、待て待て。何でヒュウが」

「いいだろ別に。それに、俺だって第一隊まで上がれたんだし、リクトさんが許可してくれたし」

「俺はほら、エルヴィエント様至上主義だからね」

「……いや、でも」

「まあいいんじゃないかな?けど、防寒具は持って来た?」

「ルガーの雑貨屋で、同じ物を揃えました」

「ちっ、お前、後付けたのか?」

「まあね。気付かれなかったんだからいいだろ?」

「あー、くそ、油断した!」


 ちくしょう、割と本気で悔しいぜ。


「だからヒュウを連れて行く事になったんだよ、いちる」

「くそっ」

「何だよ、俺が行ったら駄目なのかよ」

「だって、いつ戻って来るか解らないんだぜ?」

「だから一緒に行くんだろうが。お前莫迦だろ」

「うるせえ黙れっ!ったく、生意気になりやがって!」

「そりゃあいちるの弟なんだから仕方が無いよねえ」

「リクト隊長も止めて下さいよ」

「やだよ。それに、ヒュウは戦力になる」


 ああくそ。

 

「いいんじゃないかな?」

「え?」

「ヒュウも、色んな世界を見たいんだろう?」

「はい!」

「うん、じゃあ一緒に行こうか」

「え、ヴィー?」

「諦めろ。エルヴィエント様が許可したんだから」

「……マジかよ」


 そして、本気で着いて来るのか、戻れなくてもいいのかとヒュウに問い掛け、覚悟して来たと答えられ。


「ヒュウ、よろしく頼むよ」

「はい!頑張ります!」


 そう答えるヒュウに、本当にいいのかなあと思いながら眺めた後。


「まあいいか。確かに、この先は何があるか解らないですからねえ」

「そうだね。全く未知の世界だし?」


 そして、コルディックからフィズエラ辺境伯の所に入り、一度剣技を鍛え直して貰った。フィズエラ辺境伯は相変わらずで、やっぱり剣神の名を冠されるだけはある。


「まあ、お前らなら大丈夫だとは思うけどよ、やっぱ指導係は必要だと思うんだよな」

「指導係?」

「ああ。旅の間もサボらねえようにと思ってな、声掛けといたわ」

「……え?」


 そして、フィズエラ辺境伯が「入れ」と声を掛けると、ラント団長が部屋に入って来た。


「指導係。旅の間にもっと鍛えて貰うと良い」

「ラント……」

「エルヴィエント様。今度こそ共に行かせて下さい」

「けど、いいの?」

「はい。黒騎士団は、国王陛下とコルディック公爵の許可の元、団長の交代があり次の団長はオーランに決定しました」


 うわ。

 今すんげえ嫌そうな顔をしたオーラン先輩が浮かんだわ。


「お供させて下さい、エルヴィエント様」

「……ありがとう、ラント」


 そして、これまた同じ装備を用意していると言うラント団長は、ニヤリと笑いながらお見通しだと言われてもう一度悔しがった。


「まだまだだな、いちる?」

「くそ。絶対強くなって帰って来ますからっ!」

「おう、楽しみにしてるぜ」


 フィズエラ辺境伯に軽く流され、また悔しい思いをしつつ。

 ヨウグ連山へと続く森へと入った。

 

 この辺りにはヨルガが生息しているので、索敵魔法を使いながら慎重に進んで行く。


「そろそろ、気温が下がって来たね」

「どれくらい進んだのでしょう?」

「そうだなあ、たぶん、最初の麓の辺りかな?」

「え、まだそれだけですか?」

「そうだね。まあ、慎重に進んでるし」


 野宿をする為の焚火に当たりながらそんな話しをし、防寒具を身に付けて行く。

 体温を保ちながら動きやすくするために、何度も作り直して貰って、やっと完成した防寒具だ。ルガーの雑貨屋の親子には、物凄いお世話になったと思う。


「これは凄いな?」

「でしょ?ルガーの雑貨屋で何度も試作品を作って貰って、やっと完成した一品です」

「なるほど。あの店はいちるの作り出したものを良く売っているな?」

「まあ、昔っから世話になってたので」


 王都にあるルガーの雑貨屋は、色んな物をあの親子が創り出し、そうしてオリジナルの商品を売る店だから、面白い物が揃ってるんだよねえ。


「あ、もっと寒くなったらこっからフードを出して、こう被って口元をこれで覆うんです」

「ほう?」


 防寒具の説明をしつつ、皆でそれを身に付けそして、焚火の傍で眠りに付いた。

 一応、ヨルガは火の明るさも嫌がるので、火を絶やさなきゃ近寄っては来ない。


 翌日、早朝から動き出し、朝食を摂ってから出発する。

 進んで行くとどんどん気温が下がるって言うね。もう本当に寒いですよ、ええ。

 

「これは、ちょっと舐めてたかもしれない」

「寒いな」

「無理しないようにしましょう。一旦退却する事も念頭に」

「そうだね」


 そして、寒い中野宿をする事を想定して作って貰ったテントで、暖を取りながら眠りに付き。また早朝に出発しては寒いと言いながら北上して行った。

 リドルの様子を見るに、どうやらリドルは平気らしく随分歩いてくれる。


「本当に凄いな、お前は」

『ぬううう』


 鬣を撫でれば相変わらずな返事を貰いつつ、テントに入った。

 一応、リドル用のテントも作って貰ったので、中に入って寝ろよと声を掛けている。


「さすがにヨウグ連山は寒いですね」

「そうだね。ここまで気温が低いと思わなかった」


 昼間、晴れ渡っている内に先に進もうと言って、どんどん山を登り、谷を越えて行く。

 その内、雪が深くなり過ぎてリドルが動けなくなって来て、さてどうしようかと頭を捻ると、リクト隊長が笑いながら魔石を取り出した。


「浮遊の魔石だよ」

「おお。さすがリクト隊長」

「まあねえ。この間あったら便利だなって思ってたからね」


 そして、浮遊の魔石を小袋に入れて渡され、それを額の角に付けるよう言われ。

 大人しく額にそれが付けられるのを待つリドルが可愛い。


「おし」

「着けたら魔力を流し込めよー」


 そして、魔力を流し込めば、リドルが浮き上がる。

 それ程高く浮き上がる訳ではなく、今までより二メートル弱位浮き上がった事で、随分歩きやすくなったようだ。


「うおおお、これはいいですね」

「だろう?感謝しろよ?」

「してやってもいい!」

「落ちろ、落ちてしまえ!」

「何すんだコラ!止めろ!」


 蹴落とそうとするリクト隊長とそんな言い争いをした後、行くよとヴィーに言われ、はあいと後に続いた。

 山の影であまり日が差さなくなり、随分気温も低くなり。


「ううううう、寒い、寒い、寒い」

「うるさい」

「ここ、駆け抜けましょうよ、一気に行きましょう!」

「……うん、そうだね、そうしようか」


 そして、一度空に浮いてから魔石の魔力を解き、そのまま駆け抜けていく。

 丁度山と山の合間だったその場所は薄暗く、雪の吹き溜まりがあるようで、迂闊に下を移動しなくて良かったかもしれない。


「あ……」

「これは、また凄いね」

「海が、凍ってる……」


 駆け抜けて行った先やっと山を抜けるらしく、雪景色の向こうに海が見えたのだ。

 凍り付いた波があり、その向うに穏やかな海が見えていた。


「すげえ……」


 海岸線は全てが凍り付いていて、ヨウグ連山の影で太陽の光が遮られている。

 そして、僅かな日照時間に氷が動いて軋む音を立てながら、再びゆっくりと凍り付いて行った。


「ふおおおおお。これは凄い!」

「そうだね。素晴らしい物が見れたよ」

「俺、無理矢理ついて来て良かった……」


 ヒュウのそんな言葉に皆で笑ってしまう。

 炎の魔法で雪と氷を融かした所にテントを張り、そこで一日中海を眺めていたのだ。

 焚き火の炎を絶やさないようにしながら眺め続け、リドルの身体を温めさせ、雪を鍋に入れてそれを融かして皆でスープを飲みながら。


「あ。今気付きましたけど、この中で料理が得意な人っていますかね?」

「え、お前相変わらず出来ねえのかよ」

「よし、ヒュウお前飯係りな。マズかったらぶっ飛ばすから」

「何それ、何で俺が」

「デケエ口叩いた自分を呪え。ギルニット隊長並みなら許す」

「ええっ!?ギルニット隊長って、料理上手いじゃんか!」

「そうなんだよ、この間の旅の時は率先して作ってくれたんだよね」

「美味しかったよね」

「そうだねえ、ギルは味付けにこだわり持ってたし」

「あー、くそ、料理の腕を見てから連れてくれば良かった」

「うるさいな、作ればいいんだろう?」


 そして、次の料理はヒュウが作る事になり。

 海の見学を終えた私達は、その場を後にしてさっさと移動する事になった。山裾が海にまで広がっていて、凍り付いた海の上をリドルで駆け抜けていく。それもまた初めての経験で楽しくて、そして怖くて一気に駆け抜けた。


「うおおおおおお、陸ですよ、ヴィー!」

「やっぱり、モルト河の向こうにあるよねえ、大陸」

「やだどうしよう、また夢の生物が出てきたら!」

「いちる、家には人外生物がいるだろう?」

「ああ、二匹、いや、三匹います」

「ん?」

「いちる、それは褒め言葉として受け取っておくよ」

「ちょ、ちょっと待て、三匹って、後一匹は誰の事だ?」


 ラント団長のその言葉に思わず笑い声を上げた。


「ラント団長、人外生物の二匹って誰の事です?」

「いや、それは、」

「ラント。俺も誰の事だか気になる」

「俺も気になるなあ、誰の事かなあ、ラント?」


 そして、人外生物に詰め寄られた人外生物は、必死な顔で逃げて行った。

 それを楽しそうに追った人外生物その二は、「あははー、待て待てえええ」なんて、まるでどこかの少女漫画のようにも見える。


「楽しそうだね、いちる?」


 そして、人外生物筆頭にそう言われた私は、「凄く楽しいですよ、ヴィー」と答えた。

 

 山の影が薄くなり、随分日が当たるようになった辺りで、暖を取る為にテントを張ってスープを作らせる。

 凍り付いた野菜が丸々入ったそのスープは、まあ、食えなくはないと言う評価だけれども。それでも、乾肉だけの黒騎士スープよりはマシである。


「さて。こっちの大陸には何がいるかなあ?」

「今度はエルフ希望!」

「えるふ?」

「妖精さんです。あ、愛でる事が出来るもふもふも希望しますっ!」


 そう言いながら、新たな大地へ一歩を踏み出した。



続!生活のススメ(異世界の場合) 完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ