主婦と少年
「神隠しにあってよかったのかもしれないわ」
その言葉は
うっかり漏らしてしまったようなセリフだった。
聞き込みが
馬鹿らしく思えて
そろそろやめようとしていたころだった。
地元のスーパーの
袋を提げた2人組の主婦がいたので
彼女たちを最後にするつもりだったのだ。
すると
そのうちの1人から
先程の言葉が漏れた。
「ちょっと、
よしなさいよ、そんなこと言うの」
1人が
怪訝そうな顔をして制止した。
しかし
その制止を振り払うかのように
「どういうことなんですか?」
私は
言葉の意味が知りたくて
ついつい荒い口調で聞いてしまった。
その危機迫った口ぶりに
2人は戸惑ったように顔を見合わせた。
隣では
蒼くんも固唾を飲んで
この状況を見守っている。
私は
語気を先程より柔らかくして
「すみませんが、
教えていただきませんか?」
と頼んでみた。
すると
困った顔をしながら主婦の1人が
「あのー、
私が言ったって言わないでよ」
と人差し指を口に当てる仕草をする。
「はい、もちろんです」
「私の友達の友達がね
1人目の神隠しにあったお母さんなの。
なんていうかね、言いづらいんだけど・・・」
「なんですか?」
「虐待されてたらしいわ」
「どうしてそんなことが・・・」
「小さな町だけど児童福祉課もちゃんとあってね
そこの係委員の松田さんていう人が
子どもの腕に不自然なアザがあったの見付けたんだって」
「なるほど。
それで、神隠しにあってよかったのかも、てことですか」
「そうよ。
誰にも言っちゃダメよ」
「どう思う?」
蒼くんは
私の隣でふよふよ浮きながら聞いた。
「そんなの決まってるわ。
他の2人も調べましょう」