少年の誘惑
ここで改めて自己紹介しよう。
私の名前は伊藤咲子。
職業は観光情報雑誌の記者。
そして、超霊感体質である。
6年前に他界した祖母は有名な霊媒師で
その名は全国に名を馳せていた。
母は祖母の特殊遺伝はなく
霊感とは全く無関係な存在であったが
孫にあたる私は
ばっちり祖母の特殊遺伝を引き継いでしまった。
しかし
霊媒師などという
怪しげな職業に就いてしまうと
完璧に婚期を逃してしまうと感じた私は
全く関係のない仕事に就職した。
だが
その思惑とは裏腹に
好きになった人に限って
厄介そうな背後霊が付いていて
自分では言うが容姿端麗なのに
32歳と結果的に婚期を逃してしまっている。
ちなみに祖母と結婚した祖父は
その昔、悪霊にとり憑かれているところを
祖母に助けてもらい、そのまま恩を感じて結婚したそうだ。
そして
観光情報雑誌の記者の私は
霊媒師に関する知識が全くなく
霊だけがすごく見える32歳になってしまった。
そして
今に至る。
こうした状況は
最初こそ多少驚いたりもするが
旅は何回も繰り返していて
浮幽霊など飽きるほど見てきた。
場数はすごい。
こんなときは無視に限る。
だが、今回は・・・
「ねぇって、おねーさんてば!
なんで無視すんの?
そっちが見えてんの分かってるよ」
少年は17歳くらいだろうか。
端整な顔立ちをしていて
ぶっちゃけすごくタイプの顔だった。
30歳を超えてから生身の男性に
相手にされなくなってることもあり
霊とはいえ多少揺らいでしまう。
「おねーさん見ない顔だから
初めてこの町に来たんじゃない?
俺、面白いところ知ってるんだよ」
面白いところ?
そんな子どもみたいな誘惑に
私が乗せられるとでも?
だいたい
この町のことなら
とっくにリサーチ済みだ。
「神隠し神社って知ってる?」
「神隠し?!」
・・・。
あーあ
反応しちゃったよ。
少年は嬉しそうに
「連れて行ってあげるよ!」
と笑った。