第5章【第7話:陽炎のパレード】
第7話:陽炎のパレード
昼下がりのパークは、平日にもかかわらず多くの家族連れや観光客で賑わっていた。
カラフルなフロートが音楽に合わせてゆっくり進む「ドリーム・パレード」。
沿道には子どもたちが集まり、キャラクターたちに手を振っている。
ナオは巡回中、休憩時間が被ってパレードを見に出てきていたしおりと会い、一緒に観客の隅に紛れてその光景を眺めていた。
「仕事時間中にパレード見るのって、新鮮ですね」
しおりが眩しそうに目を細める。
その時だった。
「誰か……いる……?」
しおりが見る方向に目を向ける。
「おるな……」
パレードの最後尾、金色の馬車の上に立つマスコット。その隣、誰もいないはずの空間に、人影が見えた。
薄い日差しの中、その輪郭は陽炎のように揺らめいている。
ナオが瞬きをした次の瞬間には、影はもうそこに居なかった。
「……しおりにも見えたんか?」
「一瞬だけ……」
「助けなあかんな」
パレードが通り過ぎたあと、背後から柔らかな歌声が聞こえた。
振り返ると、そこには麦わら帽子をかぶった若い女性が立っていた。
観客ではない。衣装はパレードの衣装に似ているが、少し異なる。それにかなり色褪せていた。
彼女はナオと目が合うと、穏やかな笑みを浮かべ、沿道の子どもたちに向かって小さく手を振っていた。
その手は、日差しの中で透けて見えた。
温かい記憶が流れてくる。
──大勢の人から拍手や喝采を浴びている彼女の姿。
「なるほどな。忘れられへんかったんか」
──きっと、彼女もかつてこのパレードで踊っていたのだろう。
ナオはそう思った。
何かを伝えるように、彼女は口を動かした。
「まだパレードは終わってへん。ここにおる場合と違うんちゃうか?」
彼女の影が少し首をかしげる。
「いいの?」と問いかけているように思えた。
「俺なぁ、前まで責任者やった黒瀬の別人格みたいなもんやねん。だから、俺が黒瀬に変わって許したる。行ってきい」
次の瞬間、彼女の影はすぐに消えた。
少し先に進んでいたパレードのフロートを見ると、そこで彼女の影は、まるで踊るかのように揺れていた。
「一番綺麗やで」
その言葉が届いたのか、次の瞬間、彼女は陽炎のように空気へ溶けていった。
「ナオさん?」
しおりの声で我に返る。
「……また、一人助けれましたか」
「……助けられたのは、こっちかもしれへんなぁ」
小さくつぶやいたナオの横で、パレードの音楽はまだ軽やかに響き続けていた。




