第5章【第6話:星降るレイルウェイ】
第6話:星降るレイルウェイ
パークを一周する観光列車「スターライト・エクスプレス」は、夕方からが本番だ。
窓の外には観覧車の光や、湖面に映るイルミネーションが流れていく。
この日、たまたま同じ時間に仕事を終えたナオとしおりは、軽く園内を歩いてから列車に乗ることにした。
「夜の景色、まだ見たことなかったんです」
しおりがそう言って微笑む。
二人が列車に乗ると、すでに先客がいた。
制服姿の女子高生が、一人でベンチに座っている。
膝の上には二人分のパンフレットと、折り畳まれた切符が二枚。
彼女は空いた隣の席に視線を向け、何かを待っているようだった。
列車がゆっくり走り出すと、しおりがぽつりとつぶやく。
「……この列車、ちょっとした噂があったんです」
「噂?」
「前に同じ職場だった人が、この列車に乗った時の話。制服の女の子が、ずっと隣の空席を見て微笑んでたって」
ナオは少女をそっと見やった。
肩までの髪が揺れ、目元には淡い笑み。だが、頬はどこか寂しげに見えた。
少女は窓の外を見つめ、イルミネーションの光を指先でなぞるような仕草をした。
「……一緒に、もう一度来たかっただけなんだ」
その声は、車輪の音に混じって耳に届く。
「でも、あの人……もう来られないから」
──たぶん、この子は。
恋人とパークに来た帰り道、事故で命を落とした。
記憶の残像が、この列車に残り続けているのだろう。
ナオが静かに立ち上がり、彼女に近づく。
「その人、きっと今も、君の隣に座ってる」
ナオが静かに告げると、少女は目を見開き、そして小さく笑った。
列車がホームに近づくと、彼女の姿はふっと薄れ、パンフレットと二枚の切符だけが座席に残された。
降車後、しおりが言う。
「……さっきの子に何て言ったんですか?」
「いや。大したこと言うてへん……でも、きっと間違いないことや」
ナオの言葉に、しおりはわずかに目を丸くして、それから微笑んだ。
夜景の向こうで、観覧車の光が星のように瞬いていた。
その光は、ふたりの距離を、ほんの少しだけ近づけた。




