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猫の・・・同居人  作者: 山之上 舞花
第二章 同居の前なのに
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8

花咲君にみっともない姿を見られていたのかと思うと、頬に熱が集まってきたようだ。たぶん顔は赤くなったことだろう。他人事みたいに考えながらも、なんとか花咲君からタオルを奪い返して、自分で髪の毛を拭きだした。


そんな私を横目に見て、花咲君はリビングから出て行った。程なくドライヤーとブラシを持って戻ってきた。


「それじゃあ、藤山さんはそこに座って」

「いや、待って。自分でやるから」

「まあまあ。俺ね、意外とうまいんだよ。だから、まかせなさ~い」


気がつくと一人掛けのソファーに座らされて、ドライヤーを髪にあてられていた。解せぬ? 私はそこまでぼんやりした人間ではないはずだ。


「藤山さんの髪ってさ、凄くフワフワしているよね。猫っ毛っていうのかな、細くて癖がある髪質なのはさ。ちゃんと乾かさないと、絡んだりするだろう。あ~あ、ほら、切れたあとがあるじゃん。女の子なんだからさ。ほんと、こんなでよく一人暮らしが出来ているよ。不思議だよねえ~」


頭の上から声が降ってくるけど、本気で不思議がってないよね。どうしてそうなるかに、心当たりがありそうだよね。きっとチェシャ猫のようにニヤニヤ笑っているんだよね。


でも、怖くて顔を上げることが出来ない。きっと私のあれこれを、友人の門倉(かどくら)さつき辺りに、聞いているのだろう。もし、そうなのなら、先ほどの料理に関する云々はバレているのだろう。


でも、さっきから花咲君の手つきが気持ちいいんだけど。本当に慣れているみたいだ。もしかして本当は美容師になりたかったとか?


「はい、おしまい。ちゃんと乾いたよ」


花咲君はそう言うと、ドライヤーとブラシ、タオルを持って行ってしまった。またすぐに戻ってきて、リビングの入口で聞いて来た。


「で、なんか飲む?」

「えーと、お水で」

「お水でいいの? 遠慮はいらないんだけど」

「そういうわけではないけど・・・」


顎に手をあてて花咲君は少し考えていた。そして視線を私に向けると言った。


「ちょっとこっちに来て」


そう言うと花咲君はさっさと台所に行ってしまった。私も後を追って台所に行った。花咲君は食器棚の横に置いてあるワゴンみたいな物のところで手招きをしている。


「ここにさ、コーヒーとか紅茶とか置いているんだ。下の段に未開封の物があるから、上の物が終ったらここから出して。砂糖と塩の買い置きも同じにここに置いてある。それから調味料は・・・」


と、花咲君は台所の中のものを説明してくれた。まな板や包丁、鍋の位置。母親がお菓子作りにはまっていたとかで、ケーキの型がいくつかあったりした。食器についても、今はこの家にいない家族の物は下の引き戸にしまってあるから、上にあるものはどれでも好きに使っていいそうだ。


「そういうことだからさ、遠慮はなしな。・・・で、何飲む?」

「えーと、じゃあ、コーヒーを」


副音声で『これから一緒に暮らすんだから』と聞こえた気がした。まあ、確かに2年は一緒の家で生活するのだ。遠慮するのはおかしいのかもしれない。


コーヒーと共にスティックの砂糖がはないものが出てきて、目を丸くしたら。


「ミルクはフレッシュと牛乳のどっちにする?」


と、冷蔵庫を覗きながら聞かれた。その様(さま)に口元に笑みが浮かんだ。答えない私に、花咲君が訝しそうな視線を向けてきた。


「なに? 藤山さん」

「いや・・・じゃあ牛乳で」


パックのままテーブルに置かれて、フフッと笑いが漏れた。


「何がおかしいのかな、藤山さん」


向かい側に座りながら花咲君が聞いてきた。


「ん~、大したことじゃないんだけど、なんかね、この砂糖や牛乳のかんじが、家にいるみたいだなって、思ったのよ」

「家にいるみたい? それって家ではやはり牛乳を入れていたってこと?」

「そうなんだけどさ、こういうのって家族みたいに気安いかんじじゃないとしないよね」

「家族・・・」


花咲君は驚いたような顔をした。これから一緒に暮らすとはいえ、まだお互いのことをよく知らないのに図々しい発言をしたなと、私は思った。急いでコーヒーを飲み干すと、流し台でサッと洗って水切り台に伏せておく。


「ええっと、図々しいことを言ってごめん。私、部屋に戻るね」


そう言うと私は台所を後にした。後ろから「あっ、藤山さん」と、花咲君の声が追いかけてきたけど、2階に上がって自分の部屋に逃げ込んだ。ベッドに腰かけると息を吐き出した。


まだ2日目。ううん。まだ何も始まっていないのに、何を考えているのだと思った。


居心地の良さをもう感じていて、それを口に出してしまった。あの花咲君の驚いた顔。自分の気の周らなさに嫌気がさしてくる。


花咲君はこれから一緒に暮らすことになるから、気を使ってくれていただけ(・・)のに。猫のお世話を頼むのだから、私が少しでも居心地が良くなるようにとしてくれているだけ(・・)なのに。本当なら女子との同居なんてしたくなかったはず(・・)よ。


うん。気をつけよう。花咲君は同居人。家主の家族で・・・いや、家主でいいか?


・・・とにかく、私が気を付けることは、調子に乗って図々しいことを考えないようにすることと、猫ちゃんたちのお世話を頑張ること。それと、花咲君の手を煩わせないようにしないと。


さつきもそうだけど、どうやら花咲君も私が生活不適合者みたいに思っている節があるんだよね。ほんとう、どうしてそう思うんだろうね?


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