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夕食を食べ終わり、片付けは私と佳純さんがさせてもらった。私が洗って佳純さんがすすいでいった。花咲君はすすぎが終った食器を布巾で拭こうとしたけど、佳純さんにそれなら先にお風呂に入れと台所から追い出されていた。
「ねえ藤山さん、もう一度聞くけど、本当にいいのね」
食器を洗い終わり、布巾で食器の水気をふき取っていたら、佳純さんが聞いてきた。
「えーと、猫の世話のことですか」
「それもあるけど、この家に住むことよ」
佳純さんの言葉に軽く首を傾けた。了承したから荷物を取りに、花咲君とアパートまで行ってきたのに。それとも、やはり見ず知らずの女を住まわせることが心配なのだろうか。
「私はすごくラッキーですけど」
「本当にほんとう?」
「はい。本当です」
真面目な顔で頷いたのに、佳純さんはまだ心配そうな顔をしていた。佳純さんが心配していることは何だろうと、私は考えた。
「あの、やはり住む場所は他に探しましょうか。猫のことは、通いで見させてもらうでいいですか」
私が出した結論は、佳純さんが危惧しているのは『花咲君に女性を近づけさせたくない』ということだった。それなら住むところは別に探して、通いで猫の面倒を見にくればいいだろう。
「あー、違うのよー」
佳純さんはもどかしそうに叫ぶように言った。そして一度唇をぎゅっと結ぶと、私の顔を見つめてきた。
「藤山さん、もし、何かがあっても、ちゃんと責任は取るからね。そこだけは私がちゃんとさせるから」
「はあ~」
何やら鬼気迫る迫力を醸し出した佳純さんに、意味が解らない私は気の抜けた返事をした。猫に何かがあったら、責任を取らないといけないのは私よね。と、首を軽く傾げた私に、佳純さんのため息が聞こえてきた。
「まあ、わかっていて頼んだんだから、無責任なことはしないと思うけど」
と、呟いている。その呟きが気になって、私は言ってみることにした。
「あの佳純さん、子猫たちの引き取り先でしたら、母の伝手を使えば見つかると思いますよ」
「えっ?」
佳純さんが間の抜けた声を出した。目をぱちぱちとして私のことを見てきた。
「ひと月は目が離せないですけど、ちょうど春休みになりますし、もう少し子猫たちと接触する時間を増やすことが出来ますよ」
というよりも、ここに住むのなら、しばらくはあの子たちのお世話のために、一緒の部屋で寝起きしちゃ駄目かな。目が明くかどうかの子猫の世話なんて、久しぶりだもの。
「うふっ・・・うふふっ・・・うふふふふふふ」
佳純さんが堪えきれないというように笑いだした。それでも口を押えて、笑いを堪えようとしているのが、ありありと判った。私と目が合うと、口を押えていない方の手をあげて、『ちょっと待って』というようなしぐさをした。
「いやだわ・・・ほんと・・・もったいないくらいだわ」
佳純さんは意味の分からない言葉をまた呟いてから、大きく息を吸って吐いてを繰り返した。そうして息を整えると、佳純さんはにっこりと笑った。
「ありがとう、藤山さん。そうね、私も伝手を使って貰い手を探してみるけど、見つからなかったら、お願いしようかしら」
「はい、任せてください」
そして、花咲君がお風呂を出たので、私に先にお風呂に入ってと佳純さんは言った。私は部屋に戻り、自分用のシャンプーとトリートメント、ボディーソープ、それと着替えを持ってからお風呂に行った。
お風呂には花咲君用だろう、男性用のシャンプーとトリートメント。佳純さん用だと思う、シャンプーとトリートメント。ボディーソープは共用みたいで一つだけだった。その隣に私の物も並べさせてもらった。
体を洗って湯船につかって手足を伸ばすと、ホウ~と息が漏れた。アパートのユニットバスは狭くて膝を抱えるようにして入っていたもの。冬はさすがに寒いからお湯を溜めて入ったけど、他の季節は基本シャワーしか浴びていなかった。午前に入った時にも思ったけど、手足を伸ばすことができるお風呂って最高よね。
タオルで体に着いた水滴を拭って、手早く服を身につけた。この後、22時に子猫にミルクをあげるのは私と花咲君の仕事だ。佳純さんは明日の午前にはこの家を出て、転勤先へと向かうことになっている。その前に友人から預かった猫を引き渡すそうだ。なので、佳純さんは早々に休むと言っていた。
私がリビングに顔を出すと、佳純さんがすぐにお風呂へと向かった。
「藤山さん、何か飲む?」
花咲君が台所のほうから顔を出しながら言った。けど、私のことを見て、慌てた様にそばに来た。
「ダメじゃん、藤山さん。髪の毛はちゃんと乾かさないと。もう、ほら~」
そう言って、肩にかけていたタオルを取ると、頭に被せてワシャワシャと拭いてきた。私は彼の手をつかむと言った。
「自分でやるから」
「いや、どう見ても藤山さんは半乾きでやめるだろう。姉貴が浴室にはいったら、ドライヤーを持ってくるから、ちゃんと乾かそうな」
「いや、だから、自分でやるってば」
「ダメだって。藤山さんはさ、意外とずぼらだよね。というか、自分のことに構わなすぎでしょ。たまに直しきれなくて、寝癖のままキャンパスに来てたよね」




