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詰みor詰み!

あー、シンプルに詰んだわ。


脳内で私は静かに悟りを開きかけていた。

やっぱり私みたいな筋金入りの陰キャには、陽キャの華々しい学園生活なんて送れっこなかったのだ!


「あ、あのっ……!」


ガタっと大きな音を教室に響かせて私は椅子から立ち上がる。その瞬間、私の目の前で楽しそうに雑談していた、クラスのカースト上位に君臨する陽キャの女の子2人がこちらを振り返った。


「なぁーに?」

「どうかしたの……?」


その表情は、一様に「怪訝」の二文字で埋め尽くされている。いや、正確には「え、なにこの生き物? 急に動いたんだけど」的な、変なものを見る目つきだった。


うぅ、胃が、胃がキリキリと音を立てて悲鳴を上げている。


向けられた2対(×2)の美しい瞳から放たれる視線が、精神的なとんがりを帯びた矢となって私の貧弱な精神をグサグサと貫いていく。


視線が怖い。皆が怖い。帰りたいよーーー泣


「ご、ごめんなさいぃぃ!!ち、ちょっとトイレに……あははは、は……」


喉の奥から絞り出した、悲鳴に近い謝罪の言葉を教室に残し、私は弾かれたように走り出した。


昼休憩のごった返しした廊下を走る。すれ違う見知らぬ同級生たちに「え、あの走ってるやつ何? 漏れそうなの?」と思われようが、いまはそんなことどうでもよかった。今の私は完全なるやけくそモードである。


オアシスを…!オデに救済のオアシスを!!

そうして脇目も振らずに廊下を爆走し目指すは校舎の奥深く、ジャングルみたく緑が生い茂る中庭だ。


4月も半ばを過ぎ、ぽかぽかと暖かい太陽の光が冷え切って満身創痍になった私の全身にじわぁっと染み渡っていく。


「はあ……こーゆーのでいいんだよ、こーゆーので……」


ゼェゼェと肩で息をしながら、中庭のさらに裏手、普段は人影のまったくない安楽の地へと滑り込む。

そこは、かつて教員用の喫煙スペースだった場所だ。


現在は敷地内全域が完全禁煙となったため、ただの過去の遺物として残されている。幸いにも取り壊されることもなく、プラスチック製の少し色褪せた長いす付きのテーブルがひっそりと佇んでいた。


一人で占有するには少し贅沢すぎる、数少ない私の聖域。


「ひとり、さいこぉー……!」


ふぅ、と長いすに背中を預け、青空を見上げる。


やっぱり、ぼっち・コミュ障・根暗という、陰キャ界の三重奏を生まれながらにコンプリートしてしまった私には、生粋の陽キャたちが繰り広げるキラキラした高校生活なんて無理だったのだ。


それを嫌というほど痛感させられた、入学から怒涛の2週間。


高校デビューという、人生最大とも言える劇的な環境の変化を全身に浴びたところで、人間の根っこにこびりついたドブ泥のような本質は、そう簡単に変わりはしないのだ。


それはまるで「うすいぬののふく」と「木の棒」しか持たないレベル1の勇者が、いきなりラスボスの魔王城に挑むようなもの。


無謀。

ただその一言に尽きる。


結局、そんな無謀な挑戦に敗れ去り、夜な夜なベッドの中で「どうして私はちゃんとできないの……」と自分を責め枕を涙で濡らす日々を繰り返すだけだった。



〇〇

私——伏見(ふしみ)あかねは、華々しいスタートダッシュに完全失敗した高校一年生である。


中学時代の私は、いかにして目立たず、いかにして気配を消すかに命を懸けていた。


話しかけられたら「あっ、はい」「あのぉー……」という消え入るような声での二大セリフに加えて首の上下運動とかいう人類の3大叡智(と私が勝手に呼んでいる)だけを武器に、学校という名の過酷な”戦場”に毎日出向いていたわけだが。


当然、そんな綱渡りの生活に、すぐ限界が訪れた。


別に一匹狼のクールな一匹狼キャラを気取りたかったわけでもないし、周りから「あの子は孤高の存在だから……」とおひとり様扱いされたかったわけでもない。

ただ、普通に友達を作って、普通に笑い合いたかった。


だというのに、世界は容赦なく残酷だ。


私は中学入学からわずか3日で完全に孤立し、絵に描いたようなぼっちロードをまっしぐらに突き進むことになったのだから。


そんな、暗闇の底で膝を抱えていた私に、中学1年の秋、救いの手を差し伸べてくれたグループがあった。

当時の私には、彼女たちの差し伸べてくれた白くて綺麗な手が、まるで暗闇を照らす救世主の光のように、本当に眩しく見えたのだ。


ようやく私にも春が来たんだ。そう歓喜した私は、中学校生活が半年を過ぎる頃には、彼女たちの輪に加えてもらい、4人グループの一員として居場所を確保していた。


———だが。


いま思えば、それが悪夢の始まりだったのかもしれない。

彼女たちの機嫌を損ねないために、休み時間になれば「あかね、購買で炭酸ジュース買ってきて」「学食の限定プリン、並んで取ってきてよ」という言葉に従い、自分の財布から金を出し、パシリ同然の役割をこなした。


宿題の提出期限が迫れば、徹夜で書き上げた私のノートを差し出し、「答え丸写しさせてー」という彼女たちに差し出す。


正直、心の奥底では「これっておかしくないかな……」という嫌な予感が渦巻いていた。


けれど、ノートを返してもらう時、あるいはジュースを渡した時、3人が私に「ありがとう、あかねちゃん! 本当に助かるー!」って、満面の笑みで言ってくれるたびに、私は自分の胸の痛みに蓋をした。


「きっと、これでよかったんだ」「みんなの役に立てているなら……私、このグループに居ていいんだ」って、そうやって無理やり自分を納得させていた。


あの時の私は「うまくやれている」と、本気で。正真正銘の本気で信じ込んでいたのだ。


———そのハリボテの虚像が音も立てずに崩れ去ったのは、1個上の先輩たちが高校受験を控えた冬の日の夜、スマホの画面に表示された一件のメッセージだった。


『てかさ、あの奴隷、最近オンボロ雑巾みたいじゃね? ウケるんだけどwww』


グループLINEのトーク画面に投下されたその一文。


———メッセージの送信が取り消されました。


送る場所を間違ったのか、それはすぐ消されたけど。

画面を見た瞬間、指先が急速に冷たくなっていくのがわかった。

それが誰のことを指しているのか、考えるまでもなかったから。

心臓が警報のように激しく鳴り響き、冷や汗が背中を伝う。

と同時に、これまで彼女たちが私に向けてくれた、数々の温かい言葉が、歪んだ電子音となって脳内で呪いのように、何度も何度も、何度も何度も何度も何度も再生される。


「あかねちゃん、ジュース買ってきてー」

「代わりに食堂で買ってきてくんね? 並ぶのダルいし」

「あかねちゃん、本当にありがとう!」

「あ、ごめん、お金今ないから、また今度返すね(笑)」

「あかねちゃん」

「おい、あかね――」

「お前さ――」


あれ……?

そう言えば、3年間の会話の中で、彼女たち3人の誰かが、私の目を見て話してくれたことって、一度でもあったっけ……?


いつも彼女たちの視線は、スマホの画面か他の女の子たちを見ていた気がする。


私は、ただ都合にいい存在だった。

指示を出せばジュースが出てきて、宿題を代わりにやってくれる、人型のロボットに過ぎなかったのだ。


その事実を完全に理解した翌日から、私は学校に行けなくなった。

人の悪意が、怖くなったのだ。

見事な不登校児の完成である。


『こんな私が悪いんだよ。私がうまく立ち回れなかったからだ。みんなはただ、私に相応しい『奴隷』っていう立ち位置を優しく用意してくれた、心の広い善い人たちだったんだ……』


そうやって、頭から布団をかぶってひたすら自分に刃を向け、部屋に閉じこもる日々。


現実の人間関係から逃避し、一日中スマホの液晶画面をスクロールしては、SNSの他人の幸福そうな日常を見て心を満たそうとする。苦しい。苦しい苦しい。


そんな、中身のすっからかんな生活を繰り返していた、ある日のことだった。


偶然にも、タイムラインにあの3人がお洒落なカフェで遊んでいる写真が流れてきた。


そこには、流行りのパンケーキを前に、普通の女子中学生らしく顔をくしゃっとさせて心の底から楽しそうに笑う彼女たちの姿があった。


私を散々召使いのように利用しポイ捨てしたあの人たちは、今この瞬間も太陽の光の下で人生を謳歌している。


一方で私は、昼なお薄暗い部屋の隅っこで、埃っぽい毛布にくるまりながら、過ぎ去った過去の恨み言をブツブツと呟いている。


――どうして私は、あんなやつらに、自分のたった一度きりの人生を台無しにされなきゃいけないのだろう?


このまま部屋に閉じこもっていたら、私は一生、外の世界を恐れてビクビクしながら生きることになる。

何も成し遂げず、誰にも愛されず、ただ無機質にスマホの液晶画面をタップし続ける無機質なドール。

私にとってそれは死んだも同然だった。


そんな、そんな生活――。


「嫌に決まってるだろうがぁああああああああああああああああ!」


私は、薄暗い部屋の中で、大声を上げて立ち上がった。

心の中で、静かに、だが猛烈な勢いで復讐の炎がパチパチと音を立てて燃え盛るのを感じた。


まだ光は失っていない。

絶望で汚れた手を洗う。

朽ち果てた手は再生を知る。


復讐と言っても、あいつらの家に殴り込みに行くとか、そんな野蛮なことじゃない。

私にとって最大の復讐は、私があいつらよりも絶対に幸せになって、その一部を少しばかり彼女らに見せつけること。


絶対に可愛くなって、優しい本当の意味で対等に話せる女の子のグループに入って、放課後はクレープを食べたりカラオケに行ったりして。


背が高くてお洒落で優しいイケメンの彼氏を作って、夜遅くまで電話で恋バナとかしちゃったりして。

これぞアオハル!というお手本のような高校生活を、これでもかと謳歌してやるんだから!


そのためには、まず暗黒の中学時代を知る人間を、私の周囲から物理的に排除しなければならない。


選んだのは、学区内でもトップクラスの偏差値を誇る県立の超進学校。勉強嫌いな同級生たちとはまず被らない、まさに理想の進学先だった。


とはいえ、私の頭脳は中の下。合格できたのは、元塾講師の母による地獄の受験特訓のおかげである。数か月にわたる猛勉強の末、掲示板に自分の受験番号を見つけたときは、ボロカスに泣いた。


お母さん、ありがとう。私はついに、地獄の地元から脱出したのだ。

そして次は、陰キャの精神を陽キャのものにアップデートする番だった。


お手本となる陽キャが身近にいなかった私は、SNSで同じ高校に合格したらしい女子たちをフォローし、投稿を隅から隅まで分析。服装、前髪、言葉遣いに至るまで、徹底的に研究した。


野暮ったい眼鏡をコンタクトに変え、髪には縮毛矯正。

早口を矯正し、猫背を直す練習まで繰り返した。


かくして、涙ぐましい(のだろうか…)努力の末に、私は高校デビューというスタートラインに辿り着いたわけであるが。


やはり、人生という名のゲームは、難易度ハードモードに設定されていたことを、私は身をもって知ることになるのだ。


〇

「はあ……みんな、絶対に私のこと、心の中で笑ってたよね……」


昼休憩の中庭。

人気のない教員用喫煙スペースの長いすに寝転がりながら、私は虚空を見つめてため息を吐き出した。


入学してまだわずか2週間。

それっぽい雰囲気でなんとか滑り込んだカースト上位の女子グループの中で、私は早くも、目に見えない強烈な浮きを感じていたのだ。


会話のテンポが、速すぎる。


流行りのコスメや、他校の男子の噂話が飛び交う中、私はただ「へぇー! すごいね!」「あ、それ知ってるー!」と、引きつった笑顔で相槌を打つことしかできない。実に哀れである。


その場にいるだけで逃げ出したくなるような居心地の悪さを感じ、ついに耐えきれなくなって、脱獄を図る囚人よろしく教室から逃亡してきたのだ。


「はぁ…」


自然とため息が出てくる。教室にいると少し憂鬱だ。

でも、この中庭の裏手にいる間だけは、その重苦しい思考の呪縛から解放される。


入学して2週間。自力で見つけ出した、この学校で唯一のお気に入りスポット。


ここに身を置いていると、お日様はあんなに大きくて、世界はこんなに広いのに、私はなんてちっぽけな砂粒みたいなことで悩んでいるんだろう、と思えてくるから、自然とは不思議なものだ。


「あー、今日も平和だな。お天道様、いつもこんな日陰者に光を分けてくださり、本当にありがとうございますぅ……」


ありがたく太陽の温かさをあおいで目を細めていた、まさにその矢先のことだった―――。


「――ボクと付き合ってくれ」


(………!?)


静寂を切り裂くようにすぐ近くから、少し声の高いこわばった男の人の声が響いてきた。


ん……?

こ、こここ、告白ぅぅぅーーー!?


いや確かにこの場所は、校舎の死角になっていて人通りが皆無だから人目を避けて真剣な愛を告白するには、これ以上ないうってつけのロケーションではあるけれど。


よりによって私の唯一の平穏な聖域を、こんなピンク色の甘ったるいイベントで汚しやがって……!


くそぅ、けしからん! 実にけしからんぞ!

誰だ、私の昼休憩を邪魔する不届き者は!


気配を殺し、忍者のように喫煙スペースを囲む板塀の隙間から、声のするほうを覗くとこちらに背を向けて一人の男子生徒が立っていた。


その背丈はスラリと高く、肩幅もがっしりとしていて、制服の着こなしからしてただ者ではない。

あの特徴的なツーブロックの髪型、そして少し日に焼けた引き締まった横顔。

あ、あれは……確か、3年生のバスケ部の先輩だ!

名前は……確か、一ノ瀬先輩、だったっけ。


イケメンで、文武両道。

テストでは常に一位をかっさらい、試合では大活躍。

女子生徒からの人気は凄まじく、休憩時間には絶えず女の子たちに囲まれているという。


出たよ、本物の、生粋の超一等陽キャだ!

眩しい、まぶしすぎる!


ダメだ、ぶん殴るなんてとんでもない。むしろ、彼が放つ陽キャ特有の青春キラキラビームでこちらがやられてしまいそう…!


そんな雲の上の存在が、今まさに、ここで告白しているのだ。


となると、その告白の相手である女の子の方もきっと学年で一番可愛いと言われるような、一軍カーストのトップに君臨する美少女に違いない。


「ごめんなさい。今は、そういうの興味なくって……」


涼やかに響くその声に、私は思わず息を呑んだ。

さ、桜凪(さくらなぎ)さんっ……!?


この、澄み切った高原のせせらぎのように透き通っているのに、どこか他者を寄せ付けない、氷壁のように冷たい声。


カースト上位の三大美少女に属する一人、桜凪由奈さんに間違いなかった。

ってことは告白相手は桜凪さん!???

これは学校の大スクープなんじゃないか…?

私はさらに身を乗り出し、息を殺して2人の様子を観察する。


「僕たち家族みたいなものじゃないか」

「ごめんなさい、無理です」


先輩の食い下がりを桜凪さんは一瞬の猶予も与えず、スパッと一刀両断した。

隙間から見える彼女は、特徴的な常盤色の美しい髪を揺らし、髪にはトレードマークであるサクラの花飾りをつけている。


緑色の髪に、かわいい髪飾り。

やっぱり本物の桜凪さんだ。


それにしても、先輩は普段モテすぎて断られ慣れていないせいか、執念深く食い下がっている。非常にしつこい。往生際が悪いぞ、先輩。


……というか、ちょっと待って。

私、今、とんでもない状況に陥ってない?

これ、完全に校内最大のビッグカップル不成立の瞬間を至近距離で盗み聞きしている状態だよね?


もし、ここで私の存在がバレたらどうなる?


一匹のドブネズミがあの陽キャ先輩の告白を垣間見ていたと噂されるかもしれない。

後ろめたい…。ますます学校が居たたまれない場所になってしまう。


ううっ。

考えただけでも胃がキリキリした。


一刻も早く風のように、あるいは煙のようにこの場から立ち去りたい。


というか、そもそも何なんだ。

クラスで居場所がなくて静寂を求めてここに来たのに、逃げ延びた先でさらに社会的存続の危機に瀕するなんて。

おいおいお前の人生どんだけ居場所がないんだよ、あかね。


神様、デバッグ作業を怠っていませんか。

もはや自分の薄幸な運命を憐れむことしかできない私は、せめて足音だけでも立てないように抜き足差し足で後退を始めようとした――その瞬間だった。


ペキッ。


「!!?」


乾燥した小枝を踏みつけた、とても小さく、しかし静まり返った空気の中ではあまりにも致命的な音が、中庭に響き渡った。


「「……」」


時が、止まった。

ゆっくりとスローモーションのように、二つの真っ黒でそれでいて深淵のように暗い瞳が、板塀の隙間へと向けられた。

鋭い眼光が、私の額のあたりを正確にめった刺しにする。


「あ……」


(え……今、コンマ2秒くらい、確実に目が合ったよね!?)


あー、終わった。

私の、短い高校生活。いや、16年の短い生涯そのものが、今ここで静かに幕を閉じたのだ。


隙間から覗く桜凪さんの瞳はまるで獲物の値定めをする肉食獣のように、じっとりと、そして執拗に私を舐め回していた。


私のメンタルはすでにスプーンでぐちゃぐちゃにかき混ぜられたお豆腐さんのように、原形を留めないほどに崩壊している。ほんまにおわった。


私を見つめたって、何も面白いものなんて出てきませんよ! 貧弱な内臓と、少しの脂肪が詰まっているだけですから!おいしくないよ!!!


「伏見さん。ちょっと、こちらに来てもらっても構わないかしら?」


静寂を破ったのは、桜凪さんの、あまりにも落ち着いたトーンの声だった。


「あっ、はい……」


超・展・開。


それは小学校の学芸会で木の枝としてただ突っ立っていた私に、演出家の気まぐれで突如として主役用のスポットライトが当てられたような、恐ろしくて奇妙な感覚だった。


広大な海に浮かぶ大船の前では草舟は抵抗の一つさえままならないように、桜凪さんの前では、私――伏見あかねは、無力以外の何物でもなかった。


とりあえず借りてきた猫のようにおとなしく、余計な波風を立てないように彼女の元へとトボトボと歩を進める。


道中すれ違った一ノ瀬先輩から凄まじい視線で睨まれたような気がしたが、もはやどうでもよかった。あと、フローラルな良い匂いがしたよ。ぐへへへw(変態)


桜凪さんの隣、わずか数十センチの距離に立って、体感時間はすでに数十分。


張り詰めた沈黙の中、彼女は突如として、私の制服の腕に、自分の細くて柔らかな腕をぎゅっと絡めてきた。むにゅっと変な感触がしたが今はそれどころではなかった。


―――なぜなら。


腕を組んできた少女、桜凪さんは目の前で唖然としている先輩に向かってとんでもない爆弾発言を平然と言い放ったのだから。


「私、この子と付き合ってるの。だからあなたとは付き合えないわ」

「「………?」」


一瞬の沈黙。そして――。


「「はぁああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!?」」


この場にいた2人の人間が同じく発狂に近い声を上げた。


―――この時の私には、これが桜凪さんとの馴れ初めだとは1ミリも思わなかっただろうに。

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