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ただの子爵令嬢ですが、なぜか王子の恋愛相談役になりました  作者: はくまいキャベツ
第二章 ただの子爵令嬢ですが、なぜか王子の先生になりました

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 まず最初に言っておこう。

 ダリア・バッケンはただの子爵令嬢である。


 半月程前の事だった。ダリアは王子がメイドに振られるという、国家機密相当の現場を目撃してしまった。

 一時は命の危険さえ感じたが、王宮側の不手際と見做され、口外しない事を条件に念書を記名。ダリアはお咎めなく日常へ戻るーーはずだった。


 約束通り口外していないにも関わらず、ダリアは王城へ呼び出され、王子の恋慕の後始末という大役を任されてしまう。


 念書のせいで断れないダリアは現実主義の王子の側近、ブレーデン・ハノーヴァーと共に件のメイドの元へ向かい、無事にその任を果たした。


 ーーこれでもうお役御免だ。


 そう思っていたダリアだったが、この一件で王子であるジョシュアから絶大な信頼を得てしまう。その結果…


「文化も言葉も違う姫と仲良くなるにはどうしたらいいと思う?」


 新たな相談を受ける羽目になってしまったのである。


(どうしてこんな事に…)


 ダリアはそう思いながら、項垂れそうになるのを我慢する。


 なぜならここはいつもの談話室ではなく、王子の執務室。

 本や紙、ペンが並べられている机を挟んで、ダリアはジョシュアと向かい合って座っている。ジョシュアは期待に満ちた表情でダリアに言った。


「よろしくお願いします。“先生”」


 ジョシュアの言葉に、ダリアは何とか礼を返す事しか出来なかった。


 なぜダリアがこの様な状況になったのかというと、一週間前に遡る。ジョシュアから二度目の相談を受けた時の事だ。

 婚姻が決まった他国の姫と、どう仲を深めたらいいか。そう聞かれてダリアは困惑していた。


(今度は殿下の婚姻の仲介役…?もうこんなの前回と比にならないくらいの大役じゃない!)


 これは念書に書かれていた条件外の案件だ。だが真剣な眼差しをこちらに向けている王子を無碍にするなんて、それこそただの子爵令嬢が出来るわけがない。

 ダリアは一度咳払いをした後に言った。


「その、ご相談に先立ちまして…お相手の方とどうしたら仲を深められるのか、僭越ながら殿下の考えを先にお伺いしてもよろしいでしょうか」


 いくら何でも丸投げすぎる質問に、ダリアは恐縮しながらもジョシュアに問うた。さすがに何も考えていない訳ではあるまい、とダリアは願う。


 ただこの質問は無礼ととられる可能性もあった。

 ダリアは内心心配していたが、ジョシュアは難なく質問を受け止め、「俺の考えは…」と答え始めた。


「相手の国の文化と言葉を学ぼうと思ってる…そのままだけど」


 自信なさげではあるが、即答で返ってきたことにダリアはほっとした。


「はい、私もそれが一番良いかと思います」

「そうかな…すごく当たり前というか、誰でも思いつく事だと思うけど」

「思いつく事と実践する事はまた別かと。

 それに、もしお相手の方が逆にこちらの事を学んできてくれたら、どう思いますか?」

「それは…嬉しいな」

「はい。ですので殿下のお考えに間違いはありません」

「そうか」


 ジョシュアが安心した様に微笑む。


 人は相談と言いながら、ただ後押しして欲しいだけの事がよくある。

 前回の相談では想いを吐露させる事が最善だったが、今回は後押しする事が最善だった様だとダリアは確信した。


「ありがとう。君のおかげで自信がついた」

「滅相もございません」

「じゃあ、ぜひ君の家にお願いしよう」


 ジョシュアの言葉にダリアの動きが止まる。


(お願いする?何を?)


 困惑して言葉が出なくなったダリアにジョシュアが「ああ、大事な事を言うのを忘れていた」と言った。


「ブレーデンから聞いたんだけど、君の母君はリーズリー国出身だそうだね?」


 ジョシュアの口から発された国の名前で、ダリアは嫌な予感がした。


「ええ…そうですが」

「君もリーズリー語を話せるのかい?」

「はい…幼少期から母に教えてもらっていましたので」

「そうか!」


 ジョシュアの嬉しそうな表情を見て、ダリアは恐る恐る問うた。


「あの…殿下のお相手の方は…」

「リーズリー国第一王女。エマリエル・ヴァン・ダンジェ殿だ。君も知っているだろう?」

(ちょっと待って…まさかこの流れは)


 ダリアはジョシュアの後ろに立っているブレーデンの顔を見た。

 ブレーデンが薄く笑っている気がする。ダリアは静かに理解した。


(…やってくれたわね、この策士!)

(私は殿下に、君の母君がリーズリー国出身だと教えただけだ)


 そんな二人の静かな攻防が行われている事なんてつゆ知らず、ジョシュアは非常に和やかな顔をしながら言った。


「良かったら、俺にリーズリー語を教えてくれないかな」




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