Ep:96 王座
王様が敵だと分かり戦ってから数週間が経った。今だに王様の居場所は分かっていないらしい。一部の人以外には、王様は長期の出張で外国に行っていると伝わっている。
「早く陛下が見つかる事を祈るしかないな…」
ダギル大尉は呟いた。
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「チェックメイト!また俺の勝ちっすね」
「またか…」
そう呟き、ヘルツはクロウヴに銀貨を投げて渡す。
「あざっす!(この人負けず嫌いだから助かるぜ~)」
クロウヴは飄々と笑いながら銀貨を掴み取る。
「それより、Kがヘマしたって聞きましたけど、あれって本当すか?」
「本当だ。自ら自分の事を話すなど言語道断…主が気付いていなければやられていた…」
「マジすか…一対多だったとしても、相手も強くなってきてますね…」
「挙句子供は第三段階だ…主の時間停止が無ければ間に合っていなかった」
「確か、子供の周りにもう一人増えたんすよね?赤い奴」
そう聞きながら、クロウヴは自分の黒い駒を動かす。馬の首から上の様な形をした駒を前に進める。
「あぁ、元々リッターで仲間だった奴だ。アードラーが死んだ今、あの子供の心配をして銀鷲に移ったらしい」
ヘルツは答え、クロウヴがついさっき動かした馬の駒を、最も量が多い小さな駒で取る。
「あ…!そうきたか…」
クロウヴはそう呟きながら、他の駒を動かす。
「それで、団長としての仕事はどうなんすか?Kを守るっていう騎士団長の仕事は」
「何ら問題はない。私がハーツ=カルトだという事も、知られている様子は皆無。否…ハーツ=カルトが敵だという事は気付いているかも知れないが…」
ヘルツは、そのフードから出ている髪を触りながら言う。
「流石っすね…俺なんて、学校教師一人自分の下に着けるので精一杯っすよ」
「Jの事か?」
「そうです。そろそろ送り込んだ方が良いっすか?」
「そういう事は主に聞け。チェックだ」
「なっ…!?いつの間に…!」
驚きつつもクロウヴは自分の駒を動かす。
「何て、これでチェックっすね」
クロウヴは、たった一手でヘルツのチェックを無効化し、逆にヘルツの王に王手をかけた。
「ま、参った…」
そう言ってヘルツは再びクロウヴに銀貨を渡した。
「毎度、ありがとうございま~す」
クロウヴは、ヘルツを煽る様に言った。
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とある屋敷の一室。トイフェルは椅子に座り、葡萄酒を飲みながら目の前に居る銀の長髪の男に向かって言う。
「わざわざ私が取り次いで君を王に仕立て上げたと言うのに、その座を棒に振るなんて…何を考えている…?」
トイフェルは、細い目の先に見える紅い瞳を男の紫色の眼に向ける。
「申し訳ございません…!次こそは――」
「次こそは、何て言葉は信用できない。そもそも、この状況で次があっても意味が無いだろう?」
「お、仰る通りです…」
銀の髪に紫の瞳の男ファイント=ケーニヒは、まるで蛇に睨まれた蛙の様に怖気付く。
「私は、君の様に人を見下し、驕り高ぶり、プライドの高い者が王にふさわしいと思ったのだが…どうやら私は間違っていた様だ」
「そんな…!もう一度…もう一度機会を下されば…!」
トイフェルはその言葉に少しの間黙る。
「分かった、もう一度機会を与えよう。その一度で必ず王座にしがみつけ。もしもその手を王座から離したのであれば、私は君を切り捨てる。良いね?」
「分かりました…」
ファイントはそう呟くと、トイフェルの居る部屋から出て行こうとする。
「そうそう、一つ言い忘れていた。暫くはこの屋敷を好きに使うと良い。少しは体を休ませたまえ」
「分かりました」
ファイントは、今度こそ部屋から出て行った。
「さてと…もうすぐ辿り着くかな…?ライト君…」
トイフェルは、虚空に向かって呟いた。




