Ep:102 身体
気が付くと僕は、真っ暗な空間に居た。段階が上がる時に来る場所…いや、僕の脳が認識しているだけかも知れない。
『我が力ノ覚醒ヲ進めヨウ…』
頭の中に声が響く。その瞬間、僕の体が熱くなる感覚に襲われた。
「あぐ…ッ!」
心臓の鼓動が早くなる…額に汗が滲む…苦しい…その時、今まで聞いた事の無い言葉が聞こえた。
『貴様の身体、借りルゾ…』
その瞬間、僕の意識は途切れた。
------------------------------------
王宮近くの屋敷の屋根に、二人の男が立って居る。一人は濃紺の髪を後ろで一本に結び肩まで伸ばした男、トイフェル=クレアシオン。もう一人は、白銀の髪をした左右で目の色の違う少年、ライト。
「第四段階は完了――ん…?」
トイフェルは呟くと同時に、ライトの異変に気付いた。ライトは俯き、その足まで伸びた痣が段々と顔の右半分を埋め尽くしてくる。右手の形が変形し、指先が赤黒い爪の様に鋭くなる。ライトはその手を上に向け、顔を上げた。
「これは…!?」
トイフェルは危機を感じながらも、嬉々として声を上げる。ライトの右の瞳は紅く輝き、その表情は悪意に満ちた笑みを浮かべていた。
「久しいナ…こノ子供の身体を使ウのハ…」
ライトの身体をした異形の者は、ライトの声の様でそうでは無い声で言う。
「我を呼び覚マす者ガ居るのは感付いテいタが…コうも早く外に出ラれるとハ…感謝するゾ、人間」
異形のライトは、一拍置いて続けた。
「死ネ」
それと同時にライトの姿が消える。そして、次の瞬間トイフェルの背後に現れた。トイフェルは一瞬で振り返ると同時に剣を抜き、その首に突き付けられる筈の爪を防ぐ。それを見てライトは更に若気る。
「ホゥ…?」
ライトは一度飛び退き、トイフェルとの間合いを開ける。
「あの時ハ子供の魔力切レの所為で暴れ足リなかったからナ…存分ニ楽シませてもらウぞ」
そう言うとライトは再び姿を消す。トイフェルは悉くライトの攻撃を防ぐ。流れが変わり、今度はトイフェルがライトに攻める。しかし、ライトは第二段階と第三段階の力でトイフェルの攻撃を全て躱す。
「古の魔王様には剣撃は通用しないですか…!」
そう言ってトイフェルは剣を突く。それはライトの喉元を狙った一撃だった。しかし、ライトは体を大きく反らし、略九十度まで曲げてそれを躱した。トイフェルは飛び退き、本来のライトが持っていた剣を屋根から蹴り上げ両手に剣を持つ。
「貴様ラ人間はこの力の事ヲこう呼んでいたナ、段階ト…ならバそれに則っテやろう。こレガ第四段階の力ダ…!」
ライトはそう言うと、右手をトイフェルに向けて突き出した。するとそこに魔力を集中させ、火属性の魔力を生み出した。ライトは生成した火球をトイフェルに向けて撃ち出す。
「魔法か…」
トイフェルは呟きながら火球を弾く。すると、ライトは次に水属性の魔力を生成した。
「何…?まさか…」
トイフェルの言葉を他所に、ライトは水球を放つ。トイフェルは火球と同じ様に弾き飛ばす。その奥で、ライトは更に風属性の魔力を生成する。小さな竜巻の様な風は、屋敷の屋根を抉り飛ばしながらトイフェルに近付いて行った。
「やはり予想は合っていそうだな…!事実上の時を統べる者」
トイフェルが呟くと、一瞬にしてトイフェルの位置が移動する。風は誰も居ない場所を抜けて行った。
「まだダ…」
ライトは呟く。その瞬間、トイフェルはある事に気付いた。トイフェルの周りに多数の屋根の破片が浮いていた。
「地属性…」
ライトの笑みと共に、その破片はトイフェルに向かって降り注いだ。




