サーラの料理…
ごめんなさい。ただひたすらに、ごめんなさい。
俺達は揃って食堂に入り、テーブルの上に乗ったモノを見て……思考が止まる。
サーラは食堂に入って来た俺たちが、揃って固まる様子を見て小首を傾げている。
しばらく様子を窺っていたが、相変わらず固まったまま動かない俺たちに焦れたのか、少し心配そうな様子で声を掛けてくる。
「ちょ、ちょっと…アンタ達一体どうしちゃったのよ?」
それでも反応を示さない俺達に、だんだん怒りを覚えたのか、テーブルをバンッ!と叩く。
俺達はハッと正気を取り戻すと、
「あ、あぁ…いや、何でもないんだ。あはは…狩りでちょっと疲れたのかなぁ…なぁラバート!」
「う、うむ…まぁ初めての狩りなのだし、仕方なかろう…うん」
「あ、あぁ…まぁそうなっても仕方ない事だろうな…」
しどろもどろになりながらも俺達はなんとか答える。
「そぅ?…まぁ、マサトにとっては初めての狩りだものね。あんまり無理はしちゃダメよ?さて、そういうことなら…尚更沢山食べて体力を戻さなきゃね♪」
そう言って、俺達に背中を向けテーブルの上のモノに歩み寄っていく。
くそ!!自爆った…。
俺は直ぐにラバートとヒューイに助けを求める視線を送るが、2人共俺に視線を合わせずに、俺に向けて1度合掌をするとそそくさと席に着く。
自分達は食べる必要が無い事に思い当たったらしい…。くそ…いつか覚えてろ。
ラバート達が席に着いたのにも関わらず、入口の所に立ち尽くす俺にサーラが訝しむ様に首を傾げる。
もう諦めるしかないらしい…俺は大人しく席に着くとテーブルの上にあるモノに視線をやる。
目の前にはデビルボアの丸焼き…もとい、炭の塊。
果物は綺麗に皮が剥かれ…むしろ、芯しか残っていない。
キノコは新鮮な…土が着いた生のままだった。
一つ深呼吸をしてサーラに笑顔を向けて言ってやる。
「と、とても美味しそうだね…。あ、ありがとうサーラ」
俺は最後まで笑顔で言えただろうか…ラバートとヒューイに目をやると、うんうん頷いてくれた。
2人の目元に涙が幻視出来たのは俺だけではないだろう…。
サーラは俺達のそんな様子に目も向けず、両手で頬を挟みクネクネと身悶えながら
「まぁね、私に掛かればこんなものよ♪全然大したことじゃないわ♪」
大事なんだが…と思いつつ心の中で涙を流す。
金輪際、サーラに料理を任せるのは止めよう…俺は固く決意した。
「じゃあ、切り分けてあげるわね♪」
ひとしきり照れた後、満足げにそう告げてナイフで切り分けていく。
どう見てもサバイバルナイフにしか見えないそれで、切り分けられたデビルボアの肉を俺の皿に盛り付けてくれる。
内臓部分は焼く前にキチンと取り除かれているようだ。そこだけは安心できた。
俺は震える手を必死に押さえてフォークを使い、取り分けられた肉を一口食べてみる。
案の定、ジャリッとした…。ただ、中までは焦げ付いていないようで、肉本来の美味しさも感じられた。
良かった…これなら何とか言える。
「うん、(中の方の肉は)とっても美味しいよ。ありがとうサーラ」
「気にしないで♪まだまだあるからどんどん食べなさい」
俺は表面の炭を出来る限り削りながら黙々と肉を食べる。
思ったよりも炭の部分が多かった為、一頭分の丸焼きを全て平らげることが出来た。
さて、問題は…キノコだ。流石に土が着いた状態のキノコを生で食えるわけがない…。
ただ、期待の目を俺に向けるサーラにそれを告げるのは、余りに恐ろしい…。
俺は必死に生き残る術を必死に考える。
そして…遂に、気付く。
口内に極小の闇をイメージする。
(『闇箱』)
俺はキノコにフォークを刺し口に運ぶ。
歯でフォークを挟みゆっくりと引き抜きキノコとフォークを分離させる。
すると、イメージ通りにキノコが闇箱に収納された。
収納したことを誤魔化すようにモグモグと口を動かし、唾をひとつ飲み込む。
「うん、新鮮なキノコはやっぱり美味しいね」
そう告げると、同様の手順で次々キノコを消化していく。
全て消化する頃には魔法による疲労と、やりきった達成感で満足げにぐったりしてしまった。
その様子を美味しくて満足したと捉えたのかサーラが上機嫌で声を掛けてくる。
「ふふ、お粗末様♪デザートの果物が残ってるけど、どうする?」
「あ、あぁ…もう少し食休みしてから食べるよ」
さーらはそれを聞いて、満足気に一つ頷く。
「じゃあ、空いたお皿を片付けてくるわね♪」
と上機嫌で、食堂を後にする。
サーラが出て行くのを見送ると、ヒューイとラバートが俺の傍に寄ってくる。
(一体、どうやって食べたのだ!?肉は炭を削っていたから理解出来る。だが、流石にあのキノコに関してはさっぱり分からん!!)
昼間、厨房に話が聞こえていた事を考慮したのだろう…ラバートが小声で問い詰めてくる。
ヒューイも気になっていたらしく、うんうんと頷く。
(小声で詠唱して、口の中に闇箱を展開したんだ。フォークごと消すわけにいかないから、歯でフォークを挟んで、フォークだけ抜き出していたんだよ)
「馬鹿な!?」
余りに驚いたのかラバートが思わず普通の声で叫んでしまっていた。
(おい!声を抑えろ…俺はまだ死にたくない!)
(あ、あぁ…すまん。しかし、本当にマサトの規格外ぶりには驚かされる…)
ヒューイも同意するように頷く。
(まだ死にたくなかったからな…正直魔法の使い過ぎで疲れた…。今日の座学は休まないか?)
(ふむ、まぁ…あれでは仕方なかろう。マサトの漢気に免じて休みにしておこう)
(助かる。サーラには初めての狩りで疲れたから、って事で説明しよう)
(まぁ、それしかなかろう…)
そんな事を話し合っていると、サーラが食堂に戻ってくる。
「あら?アンタ達、皆で集まってどうしたの?」
俺達が1ヵ所に集まっているのを疑問に感じたらしく、サーラが質問してくる。
「何、初めての狩りで予想以上に疲れていたようでな。今日の座学は無しにして、ゆっくり休むようにと話をしていたのだ」
「あぁ…無理をしても仕方あるまい?」
「あら、そうなの?まぁ、そうね。今日はゆっくり休みなさい」
ラバートとヒューイがサーラに答えると、納得したのか俺に向き直り気遣う様にそう告げる。
「あぁ、そうさせてもらうよ。サーラ悪いな、デザートの果物残しちまった」
「そんなの、良いのよ」
何とかサーラの機嫌を損ねずに夕食を終えることが出来た俺は、ホッと一息つくと食堂を出て自室に向かった。
自室に着くと、俺は思わずベッドに倒れこんでしまう。
魔法を目一杯使ったせいでもあるだろうが、サーラとのやり取りで疲れ切ってしまったからなぁ…
まさか、あんな展開になるとは…明日からも作るとか言い出さないだろうな……
俺、近い内に死ぬかもしれないな…
ベッドで仰向けになりながらそんな事を考えているうちに、そのまま眠りにつくのであった。
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